コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~ 作:あーさぁ
Phase1
──お前は、あいつ等のようになるな
俺に似た顔をした男と女、俗に言う父親と母親、そいつ等の口癖がソレだった。顔を合わせる度、ことあるごとに、毎日、毎日、晴れの日も雨の日も雪の日も同じ言を繰り返し聞かされた。
(ああ、虫酸が走る──)
俺こと"カイト=シュタットフェルト"は12歳の頃まで父親と母親から、それこそ耳が腐り落ちるんじゃないかと思うほどに"口癖"を聞かされた。
蔑みと侮蔑の言葉、それと共に奴等が向ける視線の行き先は、とある3人の姿。大人しそうな女性と、その子供達だ。俺と同じくらいの子供が二人。男の子が1人と、女の子が1人。
『──あの二人は、お前の異母兄妹だ』
子供だった俺の前に異母兄妹なんて理解できるはずがない、ただ唐突に兄妹だと言われた時は「あっ、そう」くらいにしか思わなかったのを覚えてる。
最初は遠くから眺めてるだけだった、けれど視界には必ず二人が居た。いや、俺が目で追ってしまっていたんだな。
自分の部屋の窓から庭を見下ろすと、新しく入ってきたメイドと親しげに話す兄と妹を見つけた。とても幸せそうで、楽しそうで、当時の俺には眩しく見えた。"あの中に入りたい"と思えるような、俺が感じたことのない"優しい時間"、その光景を眺めるのが当時の俺の日課だった。
あとで新しく入ってきたメイドは二人の母親だと聞いて納得した、「ああ、あれが本当の家族なんだ」と。ウチ(シュタットフェルト家)の"家族"とは何かもが違う、でも不思議と羨むとか嫉妬とか、そういう感情は出てこなかった。
たぶんその原因は、諦めていたからだろう。醜悪な心を隠して、何もないように装い、ただ金や名誉のために同じ家の中へ居るだけの父親(おとこ)と母親(おんな)。どちらも相手を見てないし、俺を見ていない。それが"俺の家族"なのだと。
(ああ、気持ち悪い──」
新しい同居人が増えてから数ヶ月が経った頃、相変わらず適当な理由を突き付けてメイドに罵声を浴びせる母親に嫌気が差した俺は庭先へと避難した。とばっちりを受けるのも嫌だったし、母親の醜い姿は視界に入れるのさえ煩わしかったからな。
しかし、それは行幸だったと言える。
「────ぁ」
庭先へと出てきた俺は、そこで兄妹と対面した。ボールを持っていたから、おそらく遊んでいたんだろう。そんな時に、俺が来てしまったワケだ。
もう二人の名前は他のメイドから聞いていた、兄がナオトで妹がカレン。
「あ、あの──」
怯えながらも、俺へと声をかけてくる兄(ナオト)。そして、その背中に隠れながらも俺を見つめてくる妹(カレン)。
「よかったら、いっしょに──」
ナオトから差し出されるボール、それを受け取った瞬間、俺の心に光が差し込んできたように感じた。俺は、この二人とは違うのだと諦めていた。それならそれで構わなかった、"本当の家族の形"を眺めているだけで満足しようとしていた。
「あ、あそぼ──」
──カレンから、手が差し伸べられた
その時の俺は、自分よりも年下の女の子から心配されるほどに酷い顔をしていたんだろうな。手を差し伸べてくれたカレンの表情は困ったような、それでいて俺を心配しているようだった。誰かを思っているからこそ現れる、素直で真っ直ぐな感情。
──俺は、その時
──少し躊躇いながら、手を取ったのを覚えている
───
───────
─────────────
「──ちょっとカイ兄、いつまで寝てんの?」
何かを叩く音と聞き慣れた声を聞き、俺は瞼を上げる。トラックのシートへ背中を預けて、少し眠ってしまっていたらしい。固くてゴツゴツしたシートだったけど、意外にも寝心地は良かった。良い夢を見ていた、ような気がする。
「──ん、──カレンか──?」
体を起こすと運転席に座る俺を外から覗き込み、ガラスをノックしてくる女の子、俺の大事な大事な妹、カレンの呆れ顔が見て取れた。その表情は、俺を非難してる。
(え、俺なにかしたっけ?)
まだ寝ボケてる頭をフル回転させて、今までの経緯を思い出してみる────あ、そういえば作戦前だったな。えーっと、たしか依頼のあったプログラミングの仕事をいくつか終わらせて、報酬が振り込まれたのを確認したところまでは覚えてる。ああ、つまりは溜まってた副業が片付いて安心したら眠気に襲われて、ということだな、うん。
つまり、傍目から見るとサボって寝てた、ように見えるわな。
「─────すまん、寝てた」
俺が考えてた間にカレンはトラックを回り込み、さっさと助手席に乗り込んできていた。わざとらしく盛大に溜め息を吐き捨てたカレンは苦笑らしきものを浮かべ、手にしていたペットボトルの一つを俺へ放ってくる。
「しっかりしてよね、もともとの計画だと3区の運転手は永田さんだったのに無理やり交代しようって言い出したのカイ兄なんだから──」
「ああ、分かってるよ──さて、皆の位置は、っと」
ペットボトルの中身で喉を潤しながらシートの脇へ放り投げていた端末を拾い上げた俺は、淡い光を放つディスプレイへと目を向ける。
そこへ映し出されているのはシンジュクゲットーの地図らしきもの、これはブリタニア市民サーバから拝借した地図を加工して位置情報把握用に改造したアプリケーション。
あらかじめメンバーには携帯電話を改造して作った発信器を渡してある、つまり──このディスプレイで所々に点滅してる赤い点は、俺達"扇グループ"メンバーの所在地ってこと。
「兄貴が計画した作戦だ、余程のことがない限り失敗するはずがない──そうだろ、カレン?」
「当たり前よ、この作戦は絶対に成功する──ううん、志半ばで死んでいったお兄ちゃんのためにも、絶対に成功させなきゃいけない」
「ああ、そうだな──」
長男であるナオト兄貴が秘密裏に手に入れた情報は、シンジュクゲットー付近のとあるエリアから科学兵器、おそらく毒ガス兵器が運び出されるって話。そしてテロリストである俺達が強奪する計画を立てたのが数週間前。
けど立案者であるナオトの兄貴は、もう居ない。
兄貴だけじゃない、もっと多くの仲間が死んでいった。
だからこそ、この作戦は俺達が引き継いがないといけない。そして、必ず成功させなければいけない。死んでいった皆のためにも、兄貴のためにも。
『こちら扇、目標を奪取した。玉城との合流地点へ向かう』
「──よし、始まったな」
「うん、行こう、カイ兄──ッ!!」
トランシーバーから聞こえる見知った声を聞くや否や、俺はキーを回しトラックのエンジンを起動させた。重々しい機械の駆動音が響く運転席で、俺はハンドルを握る手が武者震いで小刻みに揺れてたのを自覚した。
(やるぜ、兄貴、見ててくれよな──ッ!!)