コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~ 作:あーさぁ
『ねぇ、ホントに大丈夫──?』
通信機から聞こえてくるのは、少し弱々しいカレンの声。その声音を聞いたカイトは徹夜で作られた偽物のクロヴィス専用車の運転席で苦笑を浮かべた。
ゼロから聞いた作戦の全容、核心部分には触れなかったものの大まかな計画はカイト、そしてカレンと扇にも伝えられていた。彼等へ与えられた指示は"合図"でクロヴィス専用車の荷台へ設置した"お立ち台"の幕を焼却、指を鳴らしたら毒ガス装置を御披露目。もし二度目の"合図"があれば前進。それ以降は口頭で指示を出す。以上。
役割分担はゼロによって決められ、偽クロヴィス専用車の運転はカイト、脱出補助には扇、脱出用トレーラーの運転はカレンへ任せた。
なんとも漠然とした計画だが、すでに計画は始まっている。クロヴィス暗殺の容疑者、枢木スザクの移送は始まっているのだから。
「大丈夫だって、危ないと思ったらすぐに逃げるさ」
運転席でキーを回し、偽クロヴィス専用車を起動させる。ツギハギにツギハギを重ねた車内は乱雑、配線や計器も剥き出しの状態。しかし、動かすことはできる。そして荷台へ設置した偽物の毒ガス装置も、正常に動くことは確認済みだ。
カイトが偽クロヴィス専用車のアクセルを踏むと、ゆっくりとした動作で前進し始めた。移送のためか車は1台たりとも通らない。悠然と、大きな道路の中心へとハンドルを切る。
『──────うん』
いつになく弱々しい語気のカレンの声は、車のエンジンで掻き消えてしまいそうな程。そして、それ以降は何も聞こえなくなった。通信機の先でカレンは二人の無事を祈っているのだろうか、そんなことを考えているうちに数分ほどが経過する。
その時、ふと遠くから大きな罵声が聞こえるのに気付く。人殺し、クロヴィスを返せ、と呪詛のように聞こえる怒りの声。それは、ブリタニア軍が進行しているはずの大通りへとカイトが運転する偽クロヴィス専用車が侵入した途端、一変してざわめきへと変わっていく。
「ま、どう考えても不自然だもんなぁ──」
空にはブリタニア軍のものであろう軍用ヘリが飛んでいる、不審車に間違いないはずなのだが一向に攻撃してくる気配はない。
(──いきなり撃ってくんなよ?)
カイトの心配も、どうやら杞憂に終わったようだ。特に攻撃されることなく、ただひたすらに道路を逆走していく偽クロヴィス専用車。
そうこうしているうちに、進路前方に大きな影が見えた。それは停車する大型のトレーラーと、トレーラーを囲うように布陣するナイトメア部隊。遠目ではあったが、そのトレーラーには誰かが縛り付けられているのが確認できる。
(あれか。よし、あとは出来るだけ近くに──)
見物客からざわめきが聞こえるなか、カイトはアクセルを一定に保ち少しずつトレーラーとの距離を積めていく。周囲の視線を感じながら、死の恐怖とプレッシャーが彼の額から汗を垂らす。
(この辺りが限界、か──?)
運転席からの目測で、だいたい数十メートルといった辺りでブレーキを踏み偽クロヴィス専用車を停車させる。ここまで来れば、とカイトは判断したが、果たして──
『出てこい、御輌車を汚す不届き者が──ッ!!』
マイクを通して、先頭のサザーランドへ乗る軍人が吼えた。遠目でも、カイトは声と風貌で彼が何者なのか察することができた。テレビでクロヴィス死去と枢木スザクの軍事法廷移送を宣伝した張本人、純潔派の筆頭、ジェレミア=ゴットバルトだ。
声を掛けてくる辺り、いきなり攻撃されるという心配はなくなった。ルルーシュの言葉を借りるならば、第一条件はクリアといったところ。
──その時、天井から靴音が聞こえた
("合図"だ──)
運転席へ座るカイトが、配線に隠れていたスイッチを跳ね上げた。
──瞬間、車上へ掛けられたブリタニア国旗へ火が灯る
──発火は足元から
──しかし、それは徐々に燃え広がることはなかった
──火が灯った瞬間、まるで幕が上がるように
──火は炎となり、ブリタニア国旗を下方から消し去った
──そして奥から現れたのは、仮面を被る黒衣の者
周囲で息を呑む様子が伝わってくる、しかし、それも当然と言える。今は亡きクロヴィスの専用車が突如として乱入し、国を象徴する国旗が燃え、その向こうから黒に染まる衣服を纏う仮面が現れたのだから。
「私は、ゼロ──」
車上で名乗るゼロ、その言葉が周囲へ浸透していくのを感じる。しかし、周囲からの忌避の視線は逸れることなく、前方のナイトメアを駆る軍人達の敵意は薄れない。
「もういいだろう、ゼロ。君のショータイムはおしまいだッ!!」
それどころか先頭のジェレミアは不適に微笑み、いつの間にか手にしていた銃の引き金を引いた。
──パンッ、と小気味良い音が辺りへ響く
それと同時に、空中へ輸送機により運ばれていた都合4体のサザーランドが空から降ってきた。それ等は、ゼロとカイトが乗る偽クロヴィス専用車を瞬く間に取り囲んだ。
まさに、絶対絶命。逃げ場などない。周囲を取り囲むナイトメア、サザーランドの手にはすでにアサルトライフルが握られている。下手な動きを見せれば、すぐさま銃口から弾丸が発射されるであろうことは明白。
「さぁ、まずはその仮面を外してもらおうか──」
一気に優勢を得たジェレミアは、すでに上機嫌だ。目の前でゼロと名乗った黒衣の者、その顔を隠す仮面を取り素顔を見せろと要求してきたのは余裕の現れ。
──しかし
ゼロの手が仮面へと伸びる、が──
──それは余裕ではない、驕りだ
その腕は仮面を通りすぎ、高らかに掲げられる。
そして打ち鳴らされる指。
(───ッ───ッ!!)
銃を発砲した時とは違う、パチンッ、という軽やかな響きがカイトの耳を打つ。その瞬間、なかば条件反射でカイトはハンドルの脇にあったレバーを思いっきり引いた。
そのレバーは、偽クロヴィス専用車の荷台を開放するためのもの。開放とは言っても、ハッチを開けるような機構ではない。ただ単純に、ハリボテでしかない一部の外身をパージするだけ。
「───なにィ──ッ!?」
ジェレミアは、突如として現れた"ソレ"に驚愕の声を漏らす。
──荷台のハリボテが崩れ落ち
──中から現れたのは、機械の塊
──そう、彼等には
──ブリタニア軍には"毒ガス装置"に見える
──"ガラクタで作られた機械の塊"
「ジェレミア卿、あれは──ッ!!」
トレーラーの後ろ側へ陣取っていた女軍人が吠える。
(そうだよ、ジェレミア。中身を見ていないお前にとっては、こいつは毒ガスのカプセル──)
やはり、一部を除いたブリタニア軍は毒ガス装置だと思っていたカプセルの中身を知らなかったようだ。これが"偽物"であると、彼等は分からない。分かりようはずがない。
故にジェレミアも、ゼロの思惑通りに誤解した。見物客として集まっている市民を、その自覚なく人質に取ったという"嘘"を信じた。
だがジェレミアは、"嘘"を信じながらも抵抗の意思を示す。驚愕と戦慄に表情を歪めながらも手にした銃を、ゼロへと向ける。
「撃ってみるか? 分かるはずだ、お前なら──」
「分かった、要求は──?」
銃を下ろしジェレミアは問い掛けてくる、が、大人しく従うとはゼロも思っていない。だからこそ下手に出る必要は皆無であり、堂々と言い放ってやればいい。あとは、"爆弾"と"疑惑の種"を下すだけでいい。
「交換だ。こいつと、枢木スザクを」
「笑止ッ!! この男はクロヴィス殿下を殺めた大逆の徒、引き渡せるわけがない──ッ!!」
「違うな、間違っているぞジェレミア。犯人はそいつじゃない──クロヴィスを殺したのは、この私だ──ッ!!」
この事実が、"爆弾"。
クロヴィス暗殺の犯人は自分だと名乗り出れば状況が動く、少なくとも大人しく要求を呑むはずはない。ナイトメアを使って武力を行使すると言うのも予測済みだ、だからこそ必要になる次の手は──
「イレヴン一匹で、尊いブリタニア人の命が大勢救えるんだ。悪くない取り引きだと思うがな──?」
「こ、此奴は狂っているッ!! 殿下の御輌車を偽装し、愚弄した罪、購うがいいッ!!」
「いいのか? 公表するぞ、"オレンジ"を──」
この"意味のない単語"が、"疑惑の種"。
オレンジという単語に意味など不要、ただ少しばかり時間が稼げればいい。ナイトメアを使われれば、成す術もないゼロ達は間違いなく敗北してしまうのだから。
周囲の誰もが疑問符を浮かべる、それは言葉を向けられたジェレミアさえも同様。聞き覚えのない単語、その意味を人々は模索する。始めから、意味などないのに。
──その間隙を縫って、ゼロは靴を鳴らす
(オッケー、前進だな──)
"合図"を聞いたカイトは、アクセルを踏み込み偽クロヴィス専用車を前進させる。
「私が死んだら公開されることになっている、そうされたくなければ──」
「なんのことだ? 何を言っているッ!?」
ジェレミアの言葉に、ゼロは答えない。代わりに仮面の一部がスライドし、奥で光る瞳がジェレミアを射抜く。薄紫の瞳と、翼を広げたように見える赤く輝く紋章が。
「"私達を全力で見逃せ、そっちの男もだ──ッ!!"」
──放たれるは、抗えぬ命令
──例外なく全てを従える、絶対遵守の言葉
「フンッ、分かった。その男をくれてやれ」
「ジェレミア卿、今なんと──ッ!?」
「その男をくれてやれ──ッ!!」
ジェレミアの瞳に、赤い輝きが宿る。それは"力"によってゼロの、王であるルルーシュに従う証。自分の耳を疑いジェレミアへと問い掛ける女軍人、しかし再三に渡り繰り返されるあり得ない命令。
「くれてやれ、誰も手を出すな──ッ!!」
ジェレミアの不可解な命令を聞き、スザクが逃亡せぬよう控えていた軍人達に戸惑いが浮かぶ。しかし、ジェレミアは断固として譲らない。
そんな暴走を見るに見かねてか、傍らへ控えていた別の軍人が怒気を混じらせた非難の声をサザーランド越しにジェレミアへと投げ掛けた。
「どういうつもりだッ!? そんな計画は──ッ!!」
「キューエル卿、これは命令だ──ッ!!」
やはり、ジェレミアは聞く耳を持たない。
その鬼気迫る様相と命令は、部下達を動かした。支柱へと拘束されていたスザクは縄を解かれ、偽クロヴィス専用車から降りてきたゼロへ近付いていく。
(よし、あとは逃げるだけだ──ッ!!)
カイトもゼロと同じよう運転席から出て、相対する二人へと近付いていく。途中、見物客から上がる非難の声を聞き流しながら。
そして、ゼロの傍らへと到着したカイトは──
「時間だ、ゼロ──」
──タイムリミットを、宣言した
「では、話は後で──」
ゼロが懐から取り出したのは、棒状のスイッチ。言葉と共に先端部のボタンが押されると、その瞬間、偽クロヴィス専用車の荷台へ置いてあった毒ガス装置──いや、ただの機械の塊から着色ガスが噴出し始める。
「────ッ──」
ブリタニア軍人達の間に緊張が走る、が、その硬直による隙を突いてゼロはスザクを抱え、その勢いのままに道路から飛び降りていく。
後を追い、カイトも飛ぶ。その途中、盛大な銃声と機械同士が衝突する鈍い音を聞いた。
『ジェレミア卿ッ!? どうして──ッ!!』
『言ったはずだ、手を出すなと──ッ!!』
尻目に背後を見ると、2機のサザーランドが組み合っているのが分かった。どうやら"力"によって操られたジェレミアが、他の軍人が操るサザーランドを止めてくれたようだ。
しかし、振り返るのも一瞬。そのまま重力へ引かれ、落ちていくゼロ、スザク、カイトの三人。予想以上の速度で地面が近付いてくる、その時、横合いから何かが飛んできた。
それは、脱出のためにあらかじめ用意していたネット。
ふと見れば道路の真下、死角部分へ待機していた扇が操る工業用ナイトメアが見て取れた。当初の計画通り、上から降りてくる三人を受け止めるためのネットを射出してくれたらしい。
緩やかな衝撃、そして、一瞬の停滞。
見事にネットへ着地した三人は重力によるスピードを極限まで減らされ、そのまま待機していた脱出用トレーラーの荷台へと入っていく。
「──よ、っと」
「────ッ──」
「──車を出せッ!! 撤収だッ!!」
荷台へと足を着いたカイト、スザク、そしてゼロ。今か今かとトレーラーの運転席で待機していたカレンは、ゼロの言葉へ大きく返す。
「──了解ッ!!」
と。
同時に、トレーラーのタイヤが道路との摩擦により砂煙を巻き起こす。おそらく、いきなりフルスロットルを踏んだのだろう。その甲斐あってか、トレーラーは初速からトップスピードで彼方へ走り去っていく。
──パニックに陥った民衆達の悲鳴と
──"全力で"追跡を妨害するジェレミアの怒号を
──置き去りにして
~scene out~