コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~   作:あーさぁ

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Phase22

 玉城との数秒にも満たない一戦を終えたカイトは、メンバー達から離れた場所へ腰掛けていた。本当は無駄に歩き回りたい気分だったが、それを許してくれない人が隣へ居る。

 

「ちょっと、聞いてるのカイ兄──?」

 

「─────あ、ああ」

 

 隣へ座り、傷付いたカイトの手をハンカチで拭うカレンである。

 

 ただ、非難する、怒っているという表情ではない。何と表現すればいはいのだろうか、怒りたいのに怒れない、または振り上げた拳をどこへ振り落とせばいいのか分からない、そんな表情。

 

「────悪いな、カレン」

 

「ううん、助けてもらえて嬉しかった。でも──」

 

 手の甲に滴る血を拭ったカレンは、ようやく血が止まったのを確認すると満足げに微笑んだ。しかし、いきなりジト目でカイトを見上げると、人差し指を彼の鼻先へと突き付けた。

 

「私はあの程度のパンチ、簡単に避わせてたんだからね。どっかの兄貴みたいに、ボコスカ殴られたりしないから──それだけは、勘違いしないでよね」

 

 実際カレンは玉城のパンチの軌道を予測し見切っていたし、避けるつもりだった。ただカイトの介入によって、そのタイミングを逸してしまっただけ。

 

「あー、そうでしょうね。さすが俺の妹様ですわー」

 

「うっわ、棒読み──ってコラ、やーめーろー」

 

 怪我を負っていない方の腕でカイトはカレンの頭を撫でる、というよりは髪を掻き乱しているだけに見えた。しかし、止めろとは言いながらもカレンの口元は綻んでいる。

 

「ん、ちょっと元気出た──先に戻っててくれカレン、俺は少し辺りを歩いてから戻るから」

 

 ひとしきりカレンの髪を乱し終えたカイトは、満足げに微笑み立ち上がった。彼が自分で言うように、調子が戻ってきたようだ。

 

 先ほどまでの危なげな気配は微塵も感じさせることのない、いつも通りの表情。柔らかく、それでいて何かを憂うような笑顔。

 

「────本当でしょうね?」

 

「ああ、大丈夫だ──」

 

 カレンから笑顔は消える、カイトの表情と"大丈夫"という言葉の真意を探っているのだろう。その反応は彼を心配するが故だが、そのうち彼女の眉根は無意識のうちに寄ってしまう。

 

 視線を絡める二人、そのまま数秒ほどは互いに沈黙を貫く。が、とうとうカレンは折れた。諦めの意思表示としてか、大きく溜め息を吐き出すと腰を上げる。

 

「分かった。早く戻ってきてよね──」

 

 ひらひらと手を振り踵を返すカレン、その背中を見送るカイトは微笑みを苦笑に変え歩き出した。彼は幼い頃からカレンを見続けてきた、だからこそ気付くことがある。

 

(相変わらず分かりやすいな、カレンは。強がりだって分かるぶん、俺としてはありがたかったんだけど──)

 

 細かいクセを見抜いたカイトは、カレンが強がっていることに気付いていた。その時の彼女の表情を思い出し、彼はククッ、と喉だけで笑いながら廃墟を歩く。

 

 途中、ふとカイトは誰かの気配を感じて顔を巡らせる。視線の先には崩れた舞台、瓦解した天井が大地へ突き刺さり、隆起が突き出し、かつての美しさは微塵も感じさせない荒廃した広場。

 

 一人、佇むのは黒の徒。

 

「ここに居たのか、ゼロ──」

 

「─────ああ」

 

 近付きながらカイトが声を掛けると、ゆっくりとした動作でゼロが振り返る。そこで、カイトは思い出した。たしかゼロは捕虜、スザクと一緒だったはず、と。

 

「あいつは?」

 

「────行ったよ」

 

 ゼロが顔を向けたのは、廃墟の壁に空いた大穴。

 

 仮面を通して聞こえた言葉には、どこか哀愁と悔恨、そしてかすかな怒りが見て取れた。そこから、カイトは察することができた。おそらくスザクは、自分の意思でここを去ったのだろう。

 

「ああ、フラれたわけね──次の機会に頑張るんだな」

 

「──言い方に悪意があるな。それに、次の機会とは?」

 

「他意はないよ。次ってのは文字通り、"次に会った時"のこと」

 

「今から裁かれに行く者に、次があると?」

 

「クロヴィス殺害事件は、真犯人が名乗り出た。軍事法廷じゃ、スザクを裁けないだろうね。だからこそ"力"を使わず、黙って行かせたんだろ?」

 

「──お前の察しの良さ、たまに忌々しく思うよ」

 

「褒め言葉として受け取っとく──」

 

 ゼロ、ルルーシュは自分が差し伸べた手をスザクが掴むものだと思っていた。しかし、そんなルルーシュの予想を裏切りスザクは相入れないとゼロの元を去った。

 

 スザクがルルーシュを拒んだのは自身の信念、そして自分が軍事法廷へ出頭しなかった時に起きるであろう暴動や名誉ブリタニア人への弾圧を予見したから。

 

 今回は自分の命よりも、知らない誰かを守ろうとする彼の思いに、ルルーシュの願いは阻まれた。

 

「お前とスザクは、どこか似ているな──」

 

 その時の会話を思い出してか、ゼロが呟いた。

 

「へぇ、どこが?」

 

 似ている、と聞いたカイトは興味津々。ゼロの傍らに立ち、その仮面を下から覗き込みながら問い掛ける。が、すぐに答えは返ってこない。仮面の顎の部分へ手を当て、何やら考え込むような仕草を見せた後、一言──

 

「─────────馬鹿なところかな?」

 

 と、呟いた。

 

「──────────は?」

 

 ルルーシュが見付けたカイトとスザクの共通点。それは自分という存在に、価値を見出ださないところだ。

 

 スザクは自分が裁かれるかもしれない軍事法廷へ、見ず知らずの他人のために向かった。

 

 カイトは自分の意思を殺し、能力も、才能も、存在意義も、それどころか命さえ妹のためならば迷いなく差し出すだろう。

 

 だからこそ、似ているとルルーシュは思った。しかし、その思いは胸中へ留める。もし言ってしまえば、間違いなく「お前も似てる」と返されるだろうから。

 

「──ケンカ売ってる?」

 

「お前ならば察してくれるかと思ったが?」

 

「──そこで意趣返しかよ」

 

 はぁ、とカイトが溜め息を吐き出すと、どちらからということもなく静かな笑い声が漏れる。

 

──全てが上手くいったわけではない

 

──しかし終わりではない

 

──まだ"次の機会"はある

 

──そう二人へ告げるかのように

 

──空へ浮かぶ月は優しい光を放っていた

 

 

 

~scene out~

 

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