コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~ 作:あーさぁ
時刻は正午を少し回ったところ、ようやく退屈な授業が一段落したカイトは自席へ座りながら伸びを一つ。教科書や筆記用具を鞄へ収めていると、クラスメイト達が弁当を片手に外へ出ていくのが見える。
当たり前だがアッシュフォード学園に在籍する生徒は弁当持参組と学食組に別れ、各々が好きな場所で昼食を摂る。特に制約も何もない。そもそも昼食を食べない者も居るし、それこそどこで、何を、どうやって食べようが本人達の自由だ。
ただ、学食へ行くのは貴族が多く、市民出身に多いのが弁当持参という傾向にあるのは確かだ。で、カイトはどうかと言うと、貴族にしては珍しく弁当持参組。
「さて、と──」
机上を片付け終わったカイトは、鞄から小さな手提げ袋を取り出した。その中には、彼が登校前に作った弁当が入っている。
直近に起きたシンジュク事変とスザク奪還事件が原因でブリタニア軍も警戒を強めている、そのためレジスタンス活動は自粛中。おかげさまで、カイトやカレンは規則正しい日々を送れていた。
弁当を作れるのもそういった事情があるのだが、実のところ彼自身も料理を楽しんでいる節があるのは秘密だ。今日のメニューはサンドイッチと肉団子、ポテトサラダ、卵焼き、そしてタコさんウィンナーという群雄割拠。ちなみに、カレンにも同じ中身の弁当を渡してある。
(──さて、今日はどこで食べよっかな)
手提げ袋を片手に立ち上がる、教室で弁当を広げる気はないらしい。一緒に昼食を食べる友人が居ないわけではない、彼にもそれなりに人付き合いはある。ただ、学園での彼はシュタットフェルトを名乗る貴族であり、それなりに顔が整っている。
つまりは──
「カイトくーん、お弁当なら一緒にどうかな?」
「カイト君、今日こそ一緒に食べよーッ!!」
「シュタットフェルト君、今日は逃がさないわよ?」
こういうことである。
彼が立ち上がるや否や、教室の至る所から彼を呼ぶ声が上がってくる。主に女生徒から。
あまり目立ちたくないカイトは、それなりに平たい人付き合いを心掛けている。悪く言えば八方美人。そのため女性関係は浅く広い付き合いを心掛けていたのに、何故かクラスメイトだけでなく、隣のクラスからも突撃されてくるようになっていたのが彼は不思議でならない。
あまりにも不思議だったので、生徒会長に聞いてみたこともある。すると彼女いわく、「貴族っぽくない気さくで妹思いなオタク系むっつりイケメン紳士」という噂が飛び交っているそうな。どう聞いても、バカにされているようにしか聞こえないぞ?
まぁ、アレだ。人間やっぱり顔だよ顔(投げやり)。貴族っぽくない、気さくという辺りはカイトの人柄だ、それは良い。
格好良い男がパソコン大好き、妹大好きなら、パソコンが得意な妹思い系兄貴。どこぞの馬の骨が同じ趣味なら、真性オタクな犯罪者予備軍扱い。第一印象、見た目というのは大事(確信)。顔は諦めろ。
とまぁ、そういうワケで彼自身も望まぬままに、"貴族っぽくない気さくで妹思いなオタク系むっつりイケメン紳士"という嬉しくもない二つ名を与えられ、一部の女生徒に狙われ続けるという状況にあった。
そんな時、カイトが使う"いつもの手"は──
「ごめーん、妹に呼ばれてるから、また今度ねー」
妹をダシに逃げる、だ。これに限る。
まぁ戻ってきたら友人にシスコン呼ばわりされたり茶化されるのだが、妹であるカレンは病弱なお嬢様として学園では有名人。過保護な兄、というイメージが定着している彼が誘いを断る理由としては、十分な信憑性である。
だいたい、どうせ彼が妹好きという噂はすでに広まりつつある。そこへ"毎日、一緒に飯を食べている"という噂が立ったところでダメージはない。むしろ彼としてはバッチコイである。
カレンの方はどうか? さぁ、どうだろう(目逸らし)。
さっさと教室を後にするカイトは、どこへ行こうかと考える。候補としては中庭、または屋上といったところか。などと考えを巡らせていた時、ふと眼下に目を向けると見知った顔を見付けた。
(お、ルルーシュだ──)
ベンチに腰掛けてノートパソコンのキーボードを叩くルルーシュ、何をやっているのかは分からないが、とりあえず声を掛けてみようとカイトは窓から身を乗り出す。
しかし、いきなりルルーシュが立ち上がった。
彼が真っ直ぐ向かったのは、学園内では目立つ私服姿の人物。背格好と髪型を見るに、おそらく女性だろう。ルルーシュは女性の手を取り、二、三言の会話もそこそこに歩き出した。
(知り合い、か? でも、私服だったし──)
そこで、カイトは先日ルルーシュから聞いた話を思い出した。「女が目覚めた」という、彼の言葉を。ということは、先ほど見た私服姿の女性は、カイトもシンジュクゲットーで出逢った、あの女の子かもしれない。
どうせなら自分も話がしてみたい、そう思ったカイトは携帯電話を取り出しルルーシュへメールを送る。現場を見たと打った上で、先ほどの女性が誰で、どこへ行くのかを。すると、さして時間も掛からず返ってきたメールには「屋上」とだけ書かれていた。
「はいはい、行きますよっと──」
踵を返し階段へ向かう。屋上まで上がれる階段は一つだけ、見知った顔の生徒から向けられる挨拶へテキトーに返しつつ階段を駆け上がっていく。
そして、ついに到着。
屋上へと出ると、いかにも不機嫌そうなルルーシュと、鉄柵へすがる私服姿の女性が見えた。その二人へ歩み寄っていくカイトは、階段を駆け上がったことで乱れた息を整える。
「おや、お前は──」
カイトに気付くと女の子は鉄柵から身を離し、彼の周りをグルグル回りながら顔から爪先までを値踏みするように見つめてきた。
「えっと、俺はカイト。君は──」
「ああ、私はC.Cだ」
C.Cと名乗った女の子は、カイトの正面へ立つと意味深に微笑んだ。
「イニシャル?」
「──? いや、C.Cだ。それよりカイト、お前は気に入ったか、私があげた力、ギアスは?」
「──ッ──」
その言葉に、一瞬だがカイトの心臓が跳ねた。
「あ、ああ、えーっと──」
「カイトのギアスは未知数だ。触れるだけで機械の情報を読み取り、操作ができる、それぐらいしか分かっていないらしい」
しどろもどろなカイトを見かねてか、二人へ近付いてきたルルーシュが助け船を出した。何ができて、どのような制約があるのか分からない、理由はカイトが検証をサボっていたとしか言えないのだが。
「ほう、機械に対する情報の読み取りと操作か、心を読むギアスなどが発現したことはあるが、そのようなギアスは前例がないな──ふむ、人に対してはどうだ?」
「いや、人には試したことない。機械だけ」
「なるほど、情報読取と操作権限の剥奪、いや、対象に異常が見られないなら後者は剥奪というより代行。それだけ見れば情報と操作の共有、いわば"共有のギアス"と呼べるが──」
顎に手を当て思案するC.C、何を考えているのか表情から察することはできない。微動だにせず、完全に硬直してしまう彼女を尻目にルルーシュが溜め息を吐き出した。
「詳細については、追い追い分かることだ。それよりも、お前は俺達へ言うべきことがあるはずだ──契約とは何だ? お前の目的は? これからどうするつもりだ?」
しかし、ルルーシュの問い掛けをC.Cは無視。
見るからに不機嫌になっていくルルーシュを見て苦笑するカイト。彼は二人のやり取りを見て、先日からルルーシュが時おり不機嫌になる原因を察した。
聞いても答えない、そのくせ自分が気にしたことは聞いてくる。さらにはベッドを占領されたり、憎まれ口を叩く、そんな対応ばかりだとルルーシュから聞いていた。となれば、不満と怒りが溜まって当然。
「ああ、すまん、聞いてなかった」
「──────この魔女め」
さらにはトドメとばかりに、ようやく自分の隣へ立つルルーシュに気付いたと大嘘を吐き捨てるC.C。これは聞くだけ無駄だな、と察したカイトは諦めの意志表示か溜め息を一つ。
──しばらく二人を眺めていたカイトだったが
ルルーシュの睨み付ける攻撃。
しかしC.Cには効果はいまいちだ。
ルルーシュの理論攻撃。
C.Cには効かなかった。
これの繰り返し。進展のない、不毛な会話。とうとうカイトは二人から離れ鉄柵へと背を預け腰を下ろす。さらには持っていた手提げ袋から弁当を取り出し、自信作のタコさんウィンナーを一口。
ほんのり焼いたタコさんウィンナーが美味いこと美味いこと、さらには肉団子やポテトサラダも良い味が出せている。自信作と大手を振って言える出来映えの弁当に舌鼓を打ちつつ、目の前で繰り広げられる茶番を眺めながらカイトはボソッと呟いた。
「──メシがうまい」
と。
~scene out~