コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~   作:あーさぁ

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Phase5

 

「──何なんだ、お前はッ!!」

 

 拘束衣の女の子を背負いながら、俺は"この娘"と一緒に学生も連れて来たのを後悔し始めていた。ホント、放っておけばよかったと思ってる。

 なにせ口を開けばテロリストがどーの、巻き込まれただの、耳障りなコトこの上ない。ただ一つだけ、コイツに好感を抱けるところがあるとしたら──

 

「日本人、さ」

 

「馬鹿を言うな、そんな見た目で日本人なわけがないだろう。お前は俺と同じブリタニア人、違うか?」

 

 エリア11の人々、つまりは日本人を"イレヴン"と呼ばないことくらいだな。どっちかって言うとブリタニア人は日本人をイレヴンと呼ぶのが一般的だ、なのに、この学生君は今の今まで一度も日本人をイレヴンと呼ばなかった。うん、それだけ。

 アテもなく地下鉄をウロつくこと十数分、ようやく見知った通りに出てこれて俺は内心ホッとしていた。少し後ろを歩く学生がうるさいけど、ようやく地上へ出れると思えればテンションも無意識のうちに上がるってもんだ。

 

「おい、答えろ、テロリストめ──」

 

「──カイトだ」

 

「─────は?」

 

「紅月カイト、それが俺の名前」

 

 普通は名乗らないんだけど、日本人をイレヴン呼ばわりしないブリタニア人ってのが珍しくて、ついつい名乗っちまった。

 

「──なるほど。ハーフ、というわけか」

 

 んー、やっぱり、そう思うよねぇ。けど残念ながら、俺を生んだ男と女は生粋のブリタニア人なんだよね。紅月を名乗ってるのは、ただブリタニアの性名を言いたくないって自己満足に過ぎない。

 まぁ、でも、いい具合に勘違いしてくれて助かった。さっきまでのヒステリーは息を潜め、少し冷静になってくれたようだ。ただ学生は鼻を鳴らして、まったく俺と視線を交わそうとはしないけど。

 

「──ルルーシュだ」

 

「────ん?」

 

「ルルーシュ=ランペルージ、俺の名だ」

 

 ああ、なるほど。状況が状況だったしパニックになるのは仕方ないけど、いざ冷静になってみたら凄く恥ずかしかった──ってとこかな?

 

「おい、聞こえているぞ──」

 

「おっと、失礼──」

 

 失敗失敗、どうも心の声が漏れてたみたいだ。

 いかにもな仏頂面を浮かべるルルーシュを尻目に、出口へ繋がる階段へ足を掛けた。たしか、ここを登ったとこに集会所があった記憶がある。

 今の時間だと、もしかしたら集会の最中かもしれないな。

 

──その矢先、階段を登りきった先から

 

──誰かの悲鳴と、銃声が聞こえた

 

「──────ッ!!」

 

 身を屈めた俺は、後ろのルルーシュへ静かにするよう促す。そして背負っていた女の子を下ろすと、ゆっくり、音を立てぬようにしながら地上を覗き見る。

 

「────ッ──」

 

 その光景は、凄惨の一言に尽きる。

 床へ転がっているのは、かつて人間だったもの。外観からして日本人、ざっくり見渡すと老若男女問わず、何人もの人々が折り重なるように倒れており──それで築き上げられた死体の山が、視界に飛び込んできた。

 数瞬後に察知したのは、血と硝煙の臭い。そして──

 

「どうだ?」

 

「イレヴンしか居ないようです」

 

 出入口付近へ陣取っている一団、さっき地下で名誉ブリタニア人を撃ち、ルルーシュ達へ銃口を向けた指揮官と部下らしき軍人達の存在。

 

(やりやがったな、あのクソ共──ッ!!)

 

 これは、虐殺だ。

 軍人ならまだしも、手に掛けられたのは民間人。しかも歳も性別も年齢も関係ない、文字通りの皆殺し。あまりの怒りに飛び出してしまいそうだったが、ふと誰かが俺の肩を掴んでくる感触で我に返ることができた。

 

「───────」

 

 俺に制止を掛けたのは、今まで背負っていた女の子だ。ふと顔を横へやると、すぐ近くに女の子の顔があった。それこそキスするくらいの距離で。

 少しだけ、良い匂いがした。たまに風呂から上がってきたカレンがシャンプーの匂い振り撒いてたけど、それとはちょっと違う気がするな。

 なんて、今はそれどころじゃないだろ。

 

(アイツ等にバレないうちに、ここから離れなきゃな)

 

 背後のルルーシュへ振り返り、顎で来た道を示す。すると彼は俺の"戻れ"というジェスチャーを理解してくれたらしい、頷いた後、踵を返そうとした──

 

──その時

 

──場違いな電子音が、どこからともなく鳴り響いた

 

「───────ッ!!」

 

 驚いた様子のルルーシュがポケットへ手を突っ込むと電子音は止み、再び静寂が訪れた。けど、代わりに聞こえたのは野太い声。

 

「そこへ隠れているのは誰だ、姿を見せろ──さもなくば──」

 

 声質と喋り方から察するに、あの指揮官だ。俺達へ出てくるように命令しながらも、小さく撃鉄を上げる音が漏れてくる。あの野郎、出たと同時に撃つ気だろ。

 

(どうする、引き返してもいいけど女の子を担いだまま、しかもルルーシュまで居る状態じゃ逃げ切れるわけがない。かと言って出れば、間違いなくハチの巣だ──どうすればッ!?)

 

 その時、指揮官とは違う、別の誰かの声を聞いた。

 

『終わりたくないのだな、お前達も──』

 

「────え?」

 

 透き通るような声だった、初めて聞いたはずなのに、どこか安らぎを与えてくれるような、心地良い女性の声。

 この場に居る女性は、一人だけだ。

 俺が背負っていた女の子は、俺が呆けていた間に背中から降りていった。そして、俺とルルーシュの間へ入り、俺達の腕を掴んでくる。

 

──その瞬間、俺の視界が歪む

 

 わけもわからず、俺は驚くだけだ。さっきまで階段に居たのに、今の俺は自分がどこへ立っているのかすら分からない。目まぐるしく変わっていく景色、それは、きっと俺が見ているものじゃない。

 どこかの国の出来事、誰かが抱いた激しい感情、繁栄と滅亡を繰り返す文明、何もかもが俺の知らないモノ。それがイメージなんだと気付いたのは、再び聞こえた女の子の言葉。

 

『どうやらお前達には、生きるための理由があるらしい──』

 

 明滅する視界の中で、ようやく俺が知っている光景を見た。それは、俺とナオトの兄貴とカレンが初めて話をした時の記憶。

 そこからは、まるでコマ送りの映像を見ているようだった。三人で学校へ行く光景、三人で遊ぶ光景、三人で寝る光景。

 

(ああ、そうだ──)

 

 女の子の言う通りだ、俺には生きるための理由がある。

 俺は約束した、あの人達と生きていくことを。

 俺は誓った、家族を守ると。

 俺は願った、大事な妹の幸せを。

 

『力があれば生きられるか? これは契約、力をあげる代わりに私の願いを一つだけ、叶えてもらう。契約すれば、お前達は人の世に生きながら人とは違う理で生きることになる。異なる摂理、異なる時間、異なる命。王の力は、お前達を孤独にする。その覚悟があるのなら──』

 

 何を言ってるのか、どういう意味があるのか、どんな誓約があるのか、その言葉だけじゃ分からない。けれど、彼女が望む何かを代償に力が手に入る。

 

(この状況を、打破できるのなら──)

 

 なら、始めから答えは一つだ。

 俺は一度だけ目を閉じ、大事な妹の笑顔を思い出す。

 ああ、そうだ、俺はカレンの幸せを望む。ほかには何も要らない、両親も、金も、名誉も。ただただ、カレンが笑っているのを横で見ていたいだけだ。もう絶対に、泣かせたくないんだ。

 目を開き、何もない虚空へと、答えを出した。

 

「分かった、結ぼう、その契約──ッ!!」

 

 瞬間、俺の視界が開く。すると、そこは、さっきの変なイメージを見る直前の、薄暗い部屋の一角で口を開ける階段。

 まだ少し眩暈がする、さっきのは現実なのか?

 力をくれると言った女の子は、壁にもたれ掛かっている。また気を失ったのか、それとも狸寝入りかは分からない。

 ついでに言えば、状況はまったく変わっていない。相変わらず指揮官に命を狙われているし、前進も後退も出口のない袋小路でしかない。

 さて、どうするか、そう考えていると──

 

「ああ、いま出ていく──」

 

 ルルーシュが、そう言って俺の傍らを横切っていく。止めようとも思ったが、俺の傍らを通り過ぎる時に肩を叩かれた。「大丈夫だ、任せておけ」と、そう聞こえたような気がした。

 

「ほう、よく出る気になったな、命が惜しくないのか?」

 

 相変わらず下卑た笑みを浮かべる指揮官、しかしルルーシュは怯えている様子も、怖じ気づいている様子もない。左手で自身の顔半分を覆いながら、堂々と指揮官へ対峙してみせた。

 

「────どうした、撃たないのか?」

 

 ゆっくりと、それでいて確かに、ルルーシュが一歩だけ前に出た。銃を向けられているのは自分のはずなのに、あえて自分の身を晒すように。その行為は、誰がどう見ても自殺行為でしかない。

 なのに、指揮官は一向に引き金を引かない。いや、ルルーシュから漂う異様な雰囲気を、空気を、威圧を感じ硬直してしまっているようにも見える。

 

「──それとも、気付いたか? 撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだと──」

 

 その時、ルルーシュの顔を覆っていた左手が大きく掲げられる。

 

「ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアが命じる──」

 

 そして、告げられる。

 決して抗えぬ王の言葉、呪いの言葉。

 

「お前達は、死ね──ッ!!」

 

 何が起こっているのか、俺には分からない。ハッキリと聞こえた、相手へ向けて放たれた呪いの言葉。普通なら戯れ言と掃き捨て無視するであろう命令、昨日までの俺に向けて言われたとしても失笑で返すだろう。

 けど、今の俺には、その言葉を笑うことができない。もし、さっきのイメージを見たのが、女の子の言葉を聞いたのが、俺だけじゃなかったとしたら?

 

──ルルーシュも、力を得ていたとしたら?

 

 一秒、二秒、静寂が部屋へと充満していく。

 しかし突如として、その静寂が破られた。

 

「ク──ククッ──ヒャーッハッハッ!!」

 

 銃口はルルーシュから外れているけど、いきなり指揮官が堰を切ったように笑いだす。遠目でしか見えないから分からないけど、その瞳は、どこか妖しく赤い光を携えているように見えた。

 

──ああ、やっぱり

 

「イエス、ユア、ハイネス──ッ!!」

 

──ルルーシュも、力を得ていたんだな

 

 指揮官が手にしていた銃はルルーシュへと向けられ、いつしか外れ、そして今──指揮官自身の首筋へと押し当てられている。

 いとも簡単に、容易く、迷うことなく、指揮官は引き金を引いた。

 それを皮切りに、指揮官の背後へ控えていた部下達も同じように銃口を自分自身へと向け、一瞬の停滞なく引き金を絞っていく。

 

──小気味良い音が断続的に響く

 

──巻き散る鮮血

 

──倒れていくブリタニア軍人達

 

 そして最後に立っていたのは、ルルーシュだった。その一部始終を観客のように眺めていた俺は、無意識のうちに階段を上がり彼の背中を見つめていた。

 

──今日この日

 

──俺の中で、何かが変わっていくのを自覚した

 

 変わっていくのは世界か、それとも俺なのか?

 疑問には、誰も答えてくれない。

 そう、誰も──

 

 

~turn end~

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