コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~ 作:あーさぁ
重厚な装甲を構える戦車から機銃が火を噴く度に人々の悲鳴が響き、罪の無い人々から流れた血がシンジュクゲットーの大地を赤く染めていく。そして、また装甲車は違う標的を見出だした。
逃げ惑う人々へ、その銃口を向ける──
──その瞬間、地面が爆ぜた
──土煙の中から飛び出してきたのは、スラッシュハーケン
ワイヤーで繋がった鋭い先端は弧を描き、大気を切り裂き飛翔する。その標的は、装甲車。姿なき敵からの奇襲に装甲車は反応できていない、申し訳程度に機銃を発射し応戦しているが効果は期待できないだろう。応戦虚しく無慈悲に叩き込まれるスラッシュハーケン、その衝撃で装甲車は大破爆散。
『やってくれたな、ブリタニア──ッ!!』
射出したスラッシュハーケンが土煙の中へと戻っていき、代わりに現れたのは薄赤のカラーリングが施された片腕のグラスゴー。カレンが駆るナイトメアだ。
彼女はカイトと別れた後、突如として始まった日本人虐殺を捨て置くことができず、狙われている身でありながらも装甲車やヘリを局所的に叩いていた。
しかし倒せども倒せども減らない敵と、自身の力及ばず虐殺されていく日本人を見て彼女は悲しみと怒りを募らせている。
『────ッ──ッ!?』
そんな内情のカレンは自分が破壊した装甲車を一瞥することもなく、奇襲に備えて身を隠そうとグラスゴーを反転させた。それと同時に、コックピット内で接敵を知らせるアラートが鳴り響く。
──視覚外からの強襲
──飛び出してきたのは2機のサザーランドだ
──手にするアサルトライフルは
──カレンが乗るグラスゴーを狙っている
『──────ッ!!』
振り返ることもなく、直感のみを頼りにカレンはグラスゴーを走らせる。ランドスピナーから砂塵を巻き上げ、崩れた瓦礫の間を縫うようにしてその場からの離脱を試みた。
背後で廃墟もとなった建物や瓦礫の山へ、サザーランドが放ったアサルトライフルの弾丸が大穴を穿っていく。直撃しなかったのは、カレンの勘と天性のナイトメア操縦技術の賜物だろう。
(──ぁ──ど、どうしよう──ッ!!)
アラートが鳴ったことで接敵に気付けたのは行幸だったが、ディスプレイに目を向けたせいでアラートとは別の由々しき事実にも気付いてしまった。
それは、エネルギー残量が枯渇しつつあるという事態。残量を示す目盛りはすでにレッドゾーンへと突入しており、彼女の感覚では稼働限界までは約三十分といったところ。
「あと30分──ッ!!」
コックピット内のカレンは、焦りを募らせる。エネルギー残量の件はもちろん、いまだ背後からはサザーランド2機に追走されている。建物や瓦礫などの遮蔽物が無くなれば、あっという間に撃墜される恐れもある、いわば四面楚歌、絶体絶命という状況。
この現状を打破する手立てはなく、ただ焦燥感のみがカレンを支配していく。いっそのこと、玉砕覚悟で反撃に出ようかと彼女が考えた時──
『──西口だ──ッ!!』
「────え?」
コンソール部分へ張り付けておいた通信機から、聞き覚えのない誰かの声が聞こえた。声質から察するに男性のようだが、いくら思い出そうとしても彼女には声の主が誰であるのか分からない。
『線路を利用して西口方面に移動しろ──』
「だ、誰だッ!? どうしてこのコードを知っているッ!?」
『誰でもいい、勝ちたければ私を信じろ──』
「──ッ──勝つ?」
あまりにも怪しい、カレンの胸中は不信感と疑念でいっぱいだ。しかし通信機から聞こえた言葉、"勝ちたければ"という単語が彼女を突き動かした。グラスゴーの進路を線路が見える陸橋の方向へ取り、ナイトメアを跳躍させ線路上へと着地させた。あとはランドスピナーを車輪代わりにレールへと乗せれば、それに沿ってグラスゴーが疾走し始める。
「おい、これからどうすればいいッ!?」
無我夢中で仕方なく通信機から聞こえる声に従ったカレンは、背後のサザーランドを気にしながら声を張り上げる。
しかし、その問いは瞬時に返ってくることはなく、代わりに前方から汽笛が響く。音に反応し彼女が顔を上げるとグラスゴーが沿って進むレールを逆走してくる列車が見えた。
『私を信じたからには勝たせてやる、この上に飛び移れッ!!』
「分かった──ッ!!」
迫り来る列車、それをギリギリまで引き連れてからグラスゴーを跳躍させた。一度目の着地、そのまま止まることなく跳躍と着地を繰り返すこと数回。
『よし、そこで反転して待機。合図したら突っ込め──ッ!!』
「───ッ─」
言葉の通りカレンはグラスゴーの跳躍を止め列車の上で反転、サザーランドとの距離は数百メートルほど。遠目ではあるが、1台のサザーランドが列車を正面から片手で受け止めているのが確認できた。
『────今だ──ッ!!』
「────ッ!!」
通信機からの合図と同時に、カレンはグラスゴーを全速で発進させる。列車の天井部を疾走するグラスゴー、その行く手を阻むように飛び出してきたのは後続のサザーランド。
疾走する勢いそのまま一直線に迎撃しようと身構えたグラスゴー、しかしカレンの視界へ、サザーランドの横合いから飛び込んでくる何かが確認できた。
──それは、スラッシュハーケン
(────えッ!?)
この時、カレンは見た。グラスゴーを追って列車へ乗ろうと跳躍したサザーランドを、横合いから飛び出してきたスラッシュハーケンが弾き飛ばす光景を。
ワイヤー部分を目で追い射出された出所を見ると、見通しの良さそうな廃墟となったビルの一角であることが分かった。そこには、彼女を追走していた機体とは別のサザーランドの姿があった。
(なんでサザーランドが同士討ちを──ッ!?)
何故サザーランドが同士討ちを行っているのかは分からないが、それはまたとない好機。スラッシュハーケンで弾き飛んだサザーランドを歯牙にも掛けず、カレンは標的を残った1体のサザーランドへと切り替える。
途中、ビルの一角からアサルトライフルの火花が飛ぶ。その銃弾は後退しようとするサザーランドの脚部へと殺到し、片足を破砕した。
片足となった敵のサザーランドが膝を着き、アサルトライフルをビルへ陣取る別のサザーランドへ向けた、その時──
「うおぉぉぉぉぉ──ッ!!」
彼女の咆哮に呼応したグラスゴーは、一直線にサザーランドへと肉薄する。"アサルトライフルはこちらを向いていないから反撃が来ることはない"と予測したカレンは、防御を捨て全身全霊の一撃を込めようと残ったグラスゴーの右腕を大きく振りかぶった。
──瞬間、サザーランドのコックピットブロックが射出された
おそらく、グラスゴーの突貫を見たパイロットが脱出装置を作動させたのだろう。推進材を撒きながら飛び出したコックピットブロックが、遠く離れた場所でパラシュートを用いて降下していく。
その光景を眺めていたカレンだったが、ふと思い出したように荒廃したビルへと視線を向ける。すると、いまだその場に居たサザーランドは崩壊したビルからスラッシュハーケンを使い降下してきた。
(まさか、あの声は──)
カレンの予想では、そのサザーランドには通信機から聞こえた声の主が乗っているはずだった。しかし、広域スピーカーから聞こえた声は、彼女の予想外の人物のもの。
『大丈夫か、カレン──ッ!?』
『え、カイ兄──ッ!?』
グラスゴーの傍らまで近付いてきたサザーランドは停止し、片腕となったグラスゴーを支えるように寄り添ってきた。わずかな振動を感じたカレンは、いまだに信じられないといった様相。
『カイ兄、生きて、たんだ──』
『ああ、何とかな──心配かけて、すまなかった』
『し、心配なんて──ッ──してないわよ馬鹿ッ!!』
『──えー、恥ずかしがらなくてもいいじゃんかよー』
カレンの怒鳴る声が線路上へ響く。しかし、その声は所々どもっており、涙声まで混じっている。それを皮切りに、周囲の状況に似つかわしくない賑やかな兄妹の会話がスピーカー越しに交わされ始めた。
「おーい、カレン──ッ!!」
だが、その会話は寄り添って並ぶグラスゴーとサザーランドへと駆け寄ってくる一団によって打ち切られた。彼等はカイト、カレンが所属するテロリストの仲間達だ。
『扇さん──?』
「ああ、そっちはカイトか、なんでサザーランドに乗ってるんだ?」
『ええ、そのことで扇さんに話があるんです。っていうか、話があると思います』
サザーランドから聞こえたカイトの声に反応したのは、一団の先頭を走ってきていた男性。彼は扇要、二人が所属するテロリストのリーダーである。カイトの言葉の意図が掴めなかった扇だが、手にする通信機からノイズが漏れてきたのに気付き眉根を寄せた。
『お前がリーダーか?』
「あ、ああ──」
『そこに止まっている列車の積荷をプレゼントしよう、勝つための道具だ──』
先ほどカレンへ指示を与えていた謎の声、彼が発した言葉に対し扇は訝しそうな表情を浮かべるものの、後ろに控えていた仲間達へ頷く。すると、カイトが乗るサザーランドが列車の扉を順に開けていく──
「ちょっと、これ──」
「う、嘘だろ──」
「すげぇ──」
列車の中には、四肢を折り畳まれた複数台のサザーランドが積まれていた。どれにも目立った損傷はなく五体満足、新品同様の整備状態。ほかにも弾薬や武器はもちろん、ナイトメアのエネルギーパックであるエナジーフィラーまで搭載されているという至れり尽くせりぶりだ。
『これを使って勝ちたくば、私の指揮下に入れ』
テロリスト達は歓喜の声を上げる。
ある者は我先にとサザーランドへ乗り込み、ある者は訝しそうにサザーランドを見上げ、ある者は呆然と立ち尽くしていた。
(こんなに、どうやって──?)
カレンは、不思議でならなかった。だが、それも当然だ。どのような手を使えば、これだけの数のナイトメアを、それに見合う武器と弾薬を確保できるのだろうか。
溢れてくる疑問に対する思考に没頭していたカレンだったが、それは通信機から聞こえた声によって遮られる。
『グラスゴーに居る女──』
『は、はい──ッ!!』
不意打ちで呼ばれたせいか、図らずもカレンは謎の声に対し敬語を使ってしまっていた。
『お前はそのままだ、その機体は陽動に向いている。エナジーフィラーは?』
『15分ほどなら──』
『ではニューパックにしておけ、10分後に次の指示を連絡する』
テキパキと指示を出していく謎の声は、その連絡を最後に通信を切った。あまりにも急な展開に頭がついていかないカレンだったが、最後に与えられた指示のことを思い出しハッとする。
(そうだ、今は考えてる場合じゃない──)
今は動くことが最優先、そう判断したカレンはエナジーフィラー格納部を開けコックピットから抜け出した。
その途中、同じように指示されたのだろう。カイトが操るサザーランドが、列車へ積まれていたエナジーフィラーを持ち上げる光景を見た。
カレンは言葉では心配してないと言ったが、それは嘘だった。彼女は兄と別れた後から、心配しっぱなしだった。だからこそ、こうやって再会できたことは飛び上がりそうなほどに嬉しかった。
けど、"今はそれどころじゃない"。
聞きたいことがある。
話したいことがある。
できることなら、今すぐにでも駆け寄りたい。しかしカレンは、唇を噛みしめ自制する。すべてはここから生きて出られた時、家に帰ってから、と心の中で誓いながら。
~scene out~