ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.15  赤龍帝

 聖書の神とやらの作り上げた『神器』は、所有者の精神が強ければ強いほど、使いこなせば使いこなすほどに能力を上昇させていく。

 光線を放つ神器を磨き上げていけば光線の威力や速度が上がるだろうし、誰かを回復させる神器ならば回復力や速度が上がるという具合に。

 だがそういった通常のパワーアップとは別に、神器には『|禁手《バランス・ブレイカー』』と呼ばれるものがある。

 所有者の想いが極限を超えた時、所有者の願いが世界の流れを凌駕するほどに強くなった時、神器は禁忌の領域へと――――禁手へと至るのだ。

 禁手の多くは元々の神器の力を格段に上昇させたものだが、所有者が異常な精神性や成長性を見せている場合などは、別物といっていい力を発現させる亜種禁手に目覚めることもある。

 とはいえ世界の『流れ』に逆らうほどの願いなど、常人が持てる筈がない。

 人類史には強固な意志力と行動力で『世界を変えた』英雄豪傑達が存在するが、神器所有者全員に英雄の如き意思を求めるのは酷というものだろう。

 よって『禁手』というのは神器所有者の間でさえ、荒唐無稽な幻想として実在を疑われている一種のお伽噺のようなものだった。

 なのにどうして『禁手』の存在についてこうも偉そうに語れるのかと問われれば、ラヴィリ・グラズノフが実際に『禁手』に目覚めているからに他ならない。

 

「――――禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 籠手にある宝玉からドライグの声が発せられると、左腕の籠手にある赤が炸裂する。炸裂した赤は眩い光となって体全体を包み込みこんでいき、やがてそれは赤い全身鎧となった。

 これが『赤龍帝の籠手』の禁手たる『赤龍帝の鎧』である。『赤龍帝の籠手』は10秒ごとに自身の力を倍加させていく能力だが、禁手化したことにより一瞬で力を限界までブーストすることが可能となった。

 神をも滅ぼすとされた『神滅具』の〝禁手〟としては相応しい規格外っぷりだろう。

 全身の隅々にまで行き渡る『天龍』の力。ラヴィリ・グラズノフが生まれながらにもつ膨大な魔法力が、赤い龍の力によって爆発的に膨れ上がるのを感じた。

 禁手となっただけでこれである。限界まで力を倍加させていけばどんなことになるのか、限界までの倍加をやったことのないラヴィリには分からないことだった。

 

「にしても当たり前のことだが悪魔だらけだな」

 

 ラヴィリ・グラズノフは周囲の景色を睥睨する。右を見ても左を見ても悪魔ばかりだ。

 人っ子はラヴィリ一人しかいない。

 

『それはそうだろう。なにせここは悪魔の首都なわけだからな。悪魔の首都に天使が住んでいたら、そちらの方が奇妙だ』

 

「ああ、まったくだ」

 

 ドライグの言う通りなのではあるが、こうして悪魔だらけの場所に人間である自分が一人いるというのは、やはり言い表せぬ孤独感を感じる――――訳はなかった。

 ここが冥界の首都だろうと、バッキンガム宮殿の中だろうと、治安最悪のスラム街だろうと自分のやることは変わらない。金を貰って、その分の仕事をする。それだけだ。

 

「さて。仕事を始めるとしよう。雇い主ばかり仕事をさせて、金を払い惜しまれるのも面倒だ」

 

 既に魔王派の奇襲部隊は首都リリスに攻撃を仕掛けている。

 魔王派の幹部達は自分達こそが冥界の支配者であると示したいのか、自分達の魔力を存分に振るっていた。相手が下級・中級悪魔だろうと、戦闘要員ではない市民だろうと、女子供だろうとお構いなしである。

 休戦ということでお祭りムードだった首都リリスは、一転して阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 だがそれほど珍しい光景という訳でもない。

 上の世界、人間界の戦争でもよくあることだ。虐殺などというものは。

 奇襲組に選ばれているのが気位の高い上級悪魔が殆どのせいで、強姦のような行為が行われていない分、もしかすると人間界の虐殺よりマシかもしれない。

 

「――――Развертывание(魔方陣展開)

 

 ラヴィリの背後に無数の魔方陣が出現する。火、水、風、土、雷、氷、光、闇。魔方陣には其々異なる属性が宿っていて、一つとして同じものはない。

 魔法の術式の一つである精霊魔法、その全属性がここに結集していた。しかもその全ての構築式がこれ以上ないほどに完璧ときている。

 本来一つ属性を極めるのにも相応の時間のかかる精霊魔法を、全属性同等レベルに極めるなど『偉業』とすらいっていい成果だ。そんな『偉業』を成し遂げた人間が、傭兵などに身を窶していると知れば、多くの魔術師たちは嘆き悲しむことになるだろう。

 しかしそんなものはラヴィリにとって限りなくどうでもいいことだ。

 ラヴィリにとっての魔法は、剣士の剣や小説家のペンと同じ。金を稼ぐのに必要な道具に過ぎない。

 ここでラヴィリがただの『魔法使い』ならば、魔方陣の魔力を一斉解放して終わりだろう。それでも一つの区画を吹っ飛ばすのは簡単だが、ラヴィリは『赤龍帝』である。

 悪魔は『赤龍帝』である自分を雇ったのだから、赤龍帝としての力を尽くすのが礼儀というものだろう。

 

「ドライグ」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 Boostの掛け声と共に『赤龍帝の鎧』に倍加のエネルギーが溜まっていく。そして、

 

Передача(受け取れ)

 

『Transfer!』

 

 エネルギーが程よく溜まった段階で、そのエネルギーをそっくりそのまま魔方陣へと『譲渡』した。

 ラヴィリの背後に展開されていた魔方陣が、内包していた魔法力を爆発的に上昇させていく。荷車の車輪ほどのサイズだった魔方陣は、今や小さな公園ほどのサイズまで化けている。

 

Стреляй(放て)

 

 その莫大な力をラヴィリは無感情な一言と共に解放した。

 天災が具現化する。全属性を内包した巨柱の如き魔法の一斉発射は、都市区画ごと数多の悪魔の命を無慈悲に奪い去っていった。

 この一連の魔法攻撃だけで軽く百体以上の悪魔を殺したとは思うが、ラヴィリの仕事は魔王派の作戦を成功させること。この場面では首都リリスに徹底的な打撃を与えることこそが、ラヴィリ・グラズノフのすべきことだ。

 別に勤労意欲に目覚めた訳ではないが、今後悪魔がお得意様になる可能性も考慮して、普段以上に働いておくことにした。

 といってもラヴィリが特に激しく動くことはなかった。首都リリスの中心へとのんびりと歩いていったラヴィリは、そこで立ち止まると適当に魔法を連射する。

 ラヴィリ・グラズノフを中心に、首都リリスに殺戮の暴風雨が発生した。

 高度な魔法力で制御された魔法は、魔王派の奇襲部隊を巻き込むことなく、的確に反魔王派の命だけを奪っていく。

 ラヴィリはそこから一歩も動かず、ひたすら魔法を放ち続ける。

 これならば魔法力を消費することを除けば、余計な疲労を味わわずに済む。

 ラヴィリは金のために労力を尽くすことを厭うほど億劫な性格ではないが、楽できるところは楽しようとするのが人間というものだろう。

 

「奴を討ち取れ! このままでは被害が増える一方だ!」

 

「ったく! なんなんだよ、あの野郎は。魔王派にあんな化け物がいやがったのか!?」

 

『相棒。悪魔が二体ほどこっちに来るぞ。上級悪魔でもそこそこ上のクラスだ』

 

 ドライグが警告を発すると、ラヴィリは曖昧に頷いた。

 落ち着いたドライグの口調が示す通り、たかが上級悪魔二体の接近などラヴィリにとって危機でもなんでもない。

 極めれば神と魔王をも殺すのが神滅具だというのならば、相手が神と魔王であろうとラヴィリにとっては敵ではないのだから。

 

исчезают(消え失せろ)

 

 振り返ることもなくラヴィリの展開している『砲門』の一部が、二体の上級悪魔へ照準する。

 それで十分だった。あっさりと二体の上級悪魔は魔法の大津波に巻き込まれ跡形もなく消滅する。

 断末魔の悲鳴は上がらなかった。そんな暇すら与えない瞬殺である。

 

「にしても酷いことを言うものだ。お前たちのような悪魔相手にならまだしも、人を化け物呼ばわりなんてするものじゃない。俺は指の先から髪の毛の一本に至るまで純粋な人間だというのに。強いて常人と違う点をあげるなら、左腕に龍がいるだけだ」

 

『左腕に俺がいるだけで十分化け物と呼ばれるに値すると思うがな。それにしてもこうして悪魔達のど真ん中で戦っていると、白いのとやり合った時を思い出す。尤もあの時には天使と堕天使もいたがな』

 

「そういえば三大勢力が戦争しているど真ん中で『白い龍』と大喧嘩したんだったか。一文の得にもならんのに御苦労なものだ」

 

『金持ち喧嘩せず、と言うだろう? ドラゴンの俺は金とは無縁に生きてきたからな。喧嘩するのは仕方ない。喧嘩の原因がなんだったかは忘たがな』

 

「自分がその様になった原因を忘れるなど呑気なもんだな、ドライグ。その呑気さが羨ましい」

 

『ドラゴンなんてそういう生き物さ。神経質なドラゴンがいない訳じゃないが、まぁ少数派だな。おっとまた新手だぞ』

 

「ああ、そうか」

 

 十人ほど徒党を組んでやって来た悪魔の一団を、炎の魔法で燃やし尽くす。腕利きの悪魔が一人、炎をぎりぎりで回避したので、その悪魔には風の魔法で追い打ちをかけて撃滅した。

 こうやって近づいて来る悪魔を次から次へと消し飛ばしていくと、まるでこれが何かのゲームのように思えてきた。

 

『まったく。相棒の戦い方は、見た目は派手なんだが、こうして神器に閉じ込められている身としちゃ退屈で仕方ない。固定砲台ばかりしてないで、ちょっとは動いたらどうだ? 太るぞ』

 

「動く必要があれば動く。必要がないから動かない。それだけだ」

 

 それにしても、だ。ラヴィリ・グラズノフはこうして魔王派の殺戮に手を貸しているわけだが、見方を変えると、この行いは実に英雄的ではないだろうか。

 ここは冥界を支配する悪魔達の根城で、自分は魔王を滅ぼす神器に選ばれた人間だ。そんな人間が悪魔相手に孤軍奮闘する様は、物語の勇者のようだと言えなくもないだろう。

 悪魔を憎み敵対する人間達は、ラヴィリの行いに喝采を送り、英雄と持て囃すかもしれない。

 といっても悪魔の依頼を受けて動いている時点で勇者としては失格だろうし、そもそも別に英雄になど興味はないのだが。

 

『相棒。また来たぞ、今度は一人だ』

 

「うん、どれどれ…………んっ?」

 

 これまで余裕綽々と佇んでいたラヴィリが、初めて表情を変化させる。

 新手としてやって来たのはたった一人だ。数としてはこれまでで一番の弱小といえる。しかしその新手は、これまで襲ってきた悪魔全員を合わせても及ばない魔力を放っていた。

 バアル家の特徴である『滅びの力』を纏った女性は、魔法の暴風雨を片っ端から消し飛ばしながらラヴィリに迫ってくる。

 

「やはり悪魔の本拠地だけあって楽に仕事させてはくれんか」

 

 本腰を入れて滅びの力を纏う悪魔の迎撃に当たろうとするラヴィリ。だがそんなラヴィリを邪魔するように、横合いから万物を焼く灼熱が飛来してきた。

 灼熱はラヴィリが常時展開している魔法障壁に阻まれたが、そのせいで女性悪魔の接近を許してしまった。

 女性悪魔はラヴィリの眼前に降り立つと、鋭い眼光を向けてくる。

 

「初めてみた時は目を疑ったわ。まさか赤龍帝が魔王派に加わっているなんて」

 

「バアル家の者か?」

 

「惜しいわね。今の私はグレモリーよ、赤龍帝」

 

 亜麻色の髪をした見た目十七、八歳ほどの女性は、隠し切れぬ怒りを発しながら、冷たい口調で言い放った。

 

「グレモリー? ああ、成程。反魔王派のエースのサーゼクスが『滅びの力』を宿しているわけだから、その母親はバアル家の出身ということか」

 

『気を付けろ、相棒。そこの悪魔の名はヴェネラナ・グレモリー。グレモリーに嫁ぐ前は〝亜麻髪の滅殺姫〟と恐れられたバアル家最強の女性悪魔だ。実力は魔王にも匹敵するぞ』

 

「魔王派の連中といい反魔王派といい……。悪魔は数が激減した分、質が跳ね上がったのか? 魔王級がこんなにほいほい現れたら、死んだ四大魔王も立つ瀬がないだろうに。

 それはさておきどう見ても一児の母には見えんぞ。どうなってる?」

 

『力のある悪魔なら魔力を使って外見年齢を好きに変えられる。あの悪魔は十八歳程度に外見を維持してるのだろう』

 

「そりゃ便利だ。ドライグ、本当に化け物っていうのはこういうのを言うんだ。始皇帝もこんな力と寿命があれば水銀中毒などならなかっただろうに。尤も羨ましいとは思わんが」

 

 ドライグと話していると、ヴェネラナの隣に炎の翼を生やした悪魔が並ぶ。魔力の波長からいって先程邪魔をしてきた悪魔だろう。

 

「ヴェネラナ様、及ばずながら助勢します」

 

「フェニックスの援護ほど頼もしいものはないわ。お願いするわね、ルヴァル」

 

 聖獣フェニックスと同じ名をもつ偉大なる七十二柱の第37位、フェニックス家。その能力は聖獣であるフェニックスと全く同じ。即ち不死身の再生力と万物を焼き払う炎の力。

 大王家最強の女性悪魔に、不死鳥の名をもつ悪魔。面倒な二人に絡まれてしまったものだ。

 ラヴィリは深く嘆息した。 

 

 

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