ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.17  墓穴

 首都リリスが魔王派の大規模な奇襲攻撃に合ったという報が、ルシファードに届いたのは既に事が終わった後だった。

 命からがらにリリスからの脱出を果たした兵士の報告を聞くと、さしものサーゼクスも顔面を蒼白にさせて、持っていたペンを落としてしまった。

 

「本当、かね……? それは……?」

 

 震える唇で問いかける。叶うのなら性質の悪い冗談であって欲しい。そんなサーゼクスの都合の良い思いは当然ながら叶うことはなかった。

 兵士は無念を滲ませながら「はい」と絞り出す。

 

「間違いございません。我々が休戦を祝う祭りを開いていたのを嘲笑うように、奴らは……魔王派は襲ってきたのです……! 強力な転移妨害と念話妨害のせいで救援を求めることもできず、ただ連中にやられるばかりで……っ!

 私の友人達も私の目の前で奴等の手にかかりましたっ! 私だけがどうにか脱出して援軍を要請しようと……しかしもう連中は退却した後…………友人達になんといって詫びればいいか」

 

「自分を責めるな。君はこうして私の下まで来てくれた。自分の義務を果たしたのだ。誇っていい。――――ライン」

 

「はいっす!」

 

「彼を休ませてあげてくれ。私は、グレイフィアの部屋へ行く」

 

「了解したっす」

 

 事ここに至りサーゼクスにも魔王派の立てた計略の全貌が見えてきていた。

 魔王派による休戦の申し入れも、グレイフィアとヴィシュナという双璧をルシファードへ派遣したのも、全ては反魔王派を油断させるための罠。その油断をついて首都リリスに大規模な奇襲を慣行することこそが、魔王派の真の目的だったのだろう。

 このことを双璧であるグレイフィアとヴィシュナが知らされていない筈がない。

 

(となると恐らくは――――)

 

「あ、サーゼクス様」

 

 グレイフィアのため用意した部屋に着くと、サーゼクスの考えの正しさを裏付けるように、彼女の部屋の前には兵士達が立ち惚けていた。

 

「どうしたのかね?」

 

「はっ! それが内部から強力な封印が施されておりまして、我々の魔力では如何ともできず」

 

「分かった。下がっていたまえ」

 

 サーゼクスは手に『滅びの魔力』を集めると、それをドアに叩き付けた。

 下級悪魔たちの魔力ではびくともしなかったドアも、サーゼクスの滅びの魔力を受けては耐えきれる道理はない。ドアは散り一つ残さず消滅した。

 消滅したドアからサーゼクスが部屋に入ると、そこにはもう誰も何もいない。完全に蛻の殻だった。

 

「やはり、か」

 

 グレイフィアとヴィシュナの役割が反魔王派を油断させるための囮ならば、魔王派の奇襲が始まってからも、ここに留まる理由はない。

 恐らく魔王派が本格的に動く前に、なんらかの方法を使って脱出したのだろう。

 

「サーゼクスちゃん」

 

 ヴィシュナの部屋を調べに行っていたセラフォルーが、いつもの陽気さの消え失せた深刻な顔で走ってくる。

 

「やっぱりヴィシュナちゃんの部屋は空っぽだったわ。そっちは?」

 

「同じさ」

 

 ここまで見事に騙されると、もはや怒りを通り越して脱力感が胸を巻く。

 平和的解決、話し合いと和平。魔王派の意図に気付かずに、そんなものを夢見た自分のなんと愚かなことか。揚々とグレイフィアに夢を語った己は、魔王派にとってさぞ滑稽に映ったことだろう。

 自分の話を興味深そうに、楽しそうに聞いていたグレイフィアも、内心ではサーゼクス・グレモリーを『馬鹿な男』と嘲笑っていたのかもしれない。

 そんなことを考えたサーゼクスの脳裏に、まるで諫言を入れるかのように、辛そうなグレイフィアの横顔が過ぎった。

 

(もしかしたら、あれは……)

 

 サーゼクスの話を聞いている間、グレイフィアは何度か何かに耐えるような顔をしていた。

 もしかしたらあれは具合が悪かっただとか、悪酔いしただとか、そんなことではなく、自分のしていることに後ろめたさを感じていたからなのかもしれない。

 こんな事をアジュカに言えば『お人好し過ぎる』と棘のある口調で言われるだろう。それでも自分の語る夢に、楽しそうに顔を綻ばせたグレイフィアが嘘ではないと信じたいと思うのは間違ったことなのだろうか。

 パンッと両頬を叩いて気を入れ直す。グレイフィアの事は一先ずは後で考えるとして、自分はルシファードの司令官としての務めを果たさねばならない。

 

「首都リリスへの応援部隊を組織する。魔王派は退却した後らしいが、救援活動を手伝うことはできるはずだ」

 

 魔王派が撤退したことで、リリスの転移妨害の結界も解除されているだろう。転移魔方陣によるジャンプも問題なく可能のはずだ。

 サーゼクスは完全に頭を切り替えると、素早く配下に指示を飛ばしていった。……自分に迫る魔手に気付かぬままに。

 

 

 

 魔王派による奇襲の翌日。首都リリスの会議場では、反魔王派幹部たちによる会議が行われていた。

 前線司令官であるサーゼクスや副司令官のセラフォルー、技術面における最高顧問たるアジュカ、総参謀長たるファルビウム。

 若き英雄四人は其々の事情で不在ではあるものの、それ以外の重鎮はほぼ全員が集まっているといっていい。ここにいる十五人が事実上反魔王派を動かしている首脳部といっても過言ではないだろう。

 

「死傷者は最低でも1500人以上。重軽傷者は数知れず。破壊された施設も多い。未確認情報だが赤龍帝が現れたという報告もある。未曽有の大損害ですな」

 

 反魔王派の幹部に名を連ねる上級悪魔が、報告書をテーブルに放りながら言う。

 1500人の死傷者。その殆どが市民層である下級・中級悪魔ではあるが、中には上級悪魔の死者もちらほらいる。出生率の著しく低い悪魔にとって人的資源を失うことは、物的資源を失うことよりも大きな損害だ。

 ここにいる全員がそれを認識できる程度の頭は持っているので、顔を暗くしない者は一人もいなかった。

 だがそれ以上に彼等が顔を暗くしているのには、もっと個人的で、俗物的な理由もあった。

 

「どうするのですか? これは明らかに内乱始まって以来の大敗ですぞ。この大敗に大王様が……ゼクラム殿が動かれでもしたら」

 

「我々全員の首が飛ぶことは覚悟せねばならんでしょうな」

 

「いや最悪の場合、我等のみならず我等の家まで取り潰しということにも……」

 

 こうして反魔王派を動かしている彼等だが、それはイコールでトップであるということには繋がらない。

 家柄もバラバラの反魔王派がこうして曲りなりにも纏まっているのは、頂点に大王家が――――より正しくは、ゼクラム・バアルという巨人がいるからに他ならないのだ。

 ゼクラム本人は『自分はとうに隠居している身だから』と後ろ盾に留まってはいるものの、ゼクラムが一度その気になれば、彼が首都リリスに独裁政権を樹立するのは然程難しいことではないだろう。そして今回の『大損害』は下手すればゼクラム・バアルが腰を上げかねないようなものだった。

 仮にゼクラム本人が動かずとも、この大損害ならば大王家が動くのは間違いない。そうなれば大王家側は確実に責任者の処分を求めてくる。

 

「……誰か一人が、犠牲になれば」

 

 ポツリ、と。会議場にいる誰かがそんな事を言う。

 責任問題を逃れるためにやることは人間も悪魔も然程変わりはしない。蜥蜴のしっぽ切り……いや悪魔的に言えばスケープ・ゴートの方が適当だろう。誰か一人に全責任を被せることで、自分達はそれから逃れる。

 となると問題は誰に責任を押し付けるかということなのだが、会議場にいる者の視線は自然と一番の上位者、反魔王派総司令官のジャマリア・バルバトスへと向けられた。

 これに激昂したのは当然ジャマリア・バルバトスである。

 

「なっ! 私に責任をとれというのか!?」

 

「ジャマリア殿は反魔王派の総司令。トップが責任をとるのは当たり前のことでは?」

 

「然様。そもそもジャマリア殿が魔王派の休戦を疑い、警戒を厳重にしていればこのような事も起こらなかったのですぞ」

 

「ふざけるなっ!」

 

 二人の指摘は正論ではあったが、内心は単に自分が責任をとるのが嫌なだけだったので、まるで言葉に力がなかった。

 そんな言葉でジャマリアが納得するはずもなく、顔を真っ赤にして立ち上がる。ジャマリアから立ち昇る怒りの魔力に、会議場にいる全員が怯んだ。

 ジャマリア・バルバトスは総司令官として有能とは言い難いが、内包する魔力は最上級のそれ。暴れたら会議場が吹き飛ぶだけでは済まない。

 

「我がバルバトス家は大王家とも血の繋がりがある上、魔王の血族とも幾度か交わったことのある名家! 貴様等如き木端貴族風情が、この私に責任を求めるだとッ! 身の程を弁えろ!!」

 

『………………』

 

 激昂するジャマリアに萎縮してしまった幹部達は一様に口を噤む。

 魔王と大王、二つの血が流れているだけあってジャマリアは強い。サーゼクスを筆頭とした四英雄ならまだしも、他の幹部達にジャマリアを抑える力はない。全員で挑んで勝てるか勝てないかといったところだろう。

 自己保身に長けた幹部達が、そんな命を懸けるような真似をするはずがなかった。

 

「ふんっ! それに責任を追及すべき者は他にもいるだろうに」

 

「というと?」

 

「サーゼクス・グレモリーだ」

 

『!』

 

「そもそもの話。この休戦を結んだのはサーゼクス・グレモリーだ。ならば此度の責任は全てサーゼクスにあるといっていいだろう。

 大王もバアル家の者でないにも拘らず『消滅の力』を受け継いだサーゼクスを苦々しく思っているからな。彼奴を査問にかけ処分すれば大王家も満足するだろう」

 

「それは良いお考えですな!」

 

 ジャマリアが言い終えると何人かの幹部はそれに追従する姿勢を示す。

 若いながら反魔王派の中心人物として名を馳せているサーゼクスは、戦後の冥界社会で権力を握ろうとしている幹部達にとって、自分の権勢を脅かしかねない男だ。ここで失脚させることが出来れば、大王派の追及を躱すこともできて一石二鳥である。

 バアル家最強の女性悪魔と畏怖されたヴェネラナ・グレモリーが、赤龍帝との戦いで重傷を負い治療中ということも彼等の背中を押す要因になった。

 目先の事しか考えられない幹部達はこぞってサーゼクスを査問にかけることに賛成していく。それがどれほど愚かな選択か気づかぬままに。

 

「決まりだな。サーゼクス・グレモリーをルシファードから呼び戻せ!」

 

 そして反魔王派の幹部達は、自ら破滅のトリガーを引いた。

 

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