ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル 作:出張L
「兄貴が査問界にかけられるってどういうことっすか!?」
サーゼクスが首都リリスから送られてきた書状について皆に伝えると、真っ先にライン・ダンタリオンが叫んだ。
だが一番大きなリアクションをしたというのがラインというだけで、会議場に集まった他の者達も皆驚いた顔をしている。いや唯一人セラフォルーだけは、驚きながらも冷静にこの一大事を受け止めていた。
普段の言動から魔力だけでお頭は弱いと勘違いされがちだが、セラフォルーには冷静沈着な参謀役としての側面もあるのだ。常に落ち着いているようでいて内側に激情を溜めこんでいるサーゼクスを、いざという時に冷静さで助けてくれたのは一度や二度ではない。
「やっぱり首都リリスが奇襲を受けた責任を?」
「ああ。書状にはそう書かれていたよ。最終的に魔王派との休戦にOKを出したのは私だからね」
「そんな! あれは単に自分で決定してなにかあったら不味いからって、兄貴に決定権を押し付けただけじゃないっすか! そりゃ兄貴に責任が皆無とは言いませんけど、兄貴一人に押し付けるのなんて間違ってるっす!」
ラインの言う通りだ。会談の全権を委ねられたと言えば聞こえは良いが、実際には万が一の保険として契約書にサインする役割を押し付けられただけである。
そもそも休戦に浮かれて首都リリスの警戒を薄くしたのは、ジャマリア・バルバトスを筆頭とした幹部達だ。責任を追及するというのならば、彼等の責を咎めないのは不公平だろう。しかし別に反魔王派の首脳陣は公平性のために、サーゼクスに責任を追及してきたわけではない。
「これはそういう問題じゃないのよ、ラインちゃん」
「セラフォルーさん、どういうことっすか?」
「仮にも首都リリスがあれだけの大損害を受けたんだもの。最低でも誰か一人は責任をとらなきゃ大王家が納得しないわ。だから元々大王家にあんまり好かれていなくて、しかも旧体制に好意的じゃないサーゼクスちゃんを、この機会に失脚させようとしているの。
責任をサーゼクスちゃん一人に押し付けることができて、戦後の憂いも排除できて一石二鳥。リリスにいるおじさま達の考えはこんなところかしら」
「なっ!? そ、そんな……そんなことで……? 兄貴は最前線で命懸けで戦ってきたのに、なんでその頑張りをリリスにいる人達は分からないんっすか!?」
「最前線に一度も来たことがないからよ」
「っ!」
反魔王派の幹部に名を連ねる程だ。ジャマリア・バルバトスを始め全員が上級悪魔でも上位クラスの魔力の持ち主である。
だが彼等が実際に最前線に出てきて、その魔力を振るったことは一度としてない。常に安全な場所に身を置いて、指示をするだけだ。
彼等が魔力を使う場面など、それこそ下級・中級悪魔などに自分の力を示威する時くらいだろう。
どれほど強力な魔力の持ち主でも、本物の戦場を一度も見たことがなく〝戦い〟の事が分かる筈がない。幹部の多くが自己保身ばかり優秀なのも、磨く能力がそれくらいしかなかったからだろう。折角の才能をこうも無駄にするとは、豚に真珠とはこのことだ。
サーゼクスは嘆息しながらも先を続ける。
「ライン、君が私を弁護してくれるのは嬉しいが、私も反魔王派の一員として総司令官の決定に逆らうわけにはいかない」
「け、けど!」
「それにグレイフィアとヴィシュナをみすみす逃してしまったのは、言い訳のしようもない私の失態だよ。もっと二人に注意を払っておくべきだった。そうすれば首都リリスを守ることは出来ずとも、二人を捕縛することは出来ていたかもしれない。
会談のことだってそうだ。上層部から休戦を受けるようある種の圧力はあったが、それだって私が断固としてNOを貫けば拒否できただろう。
全責任は私にある、と言うほど私はお人好しではないが、責任の一端は確かに私にもあるのだよ」
「だ、だったら俺も査問会に出席するっす! そうなれば罰を受けるのが二人になって、兄貴の罰も半分で済むっすよ!」
「ははははははははははははははははははは! 君はユニークだな、本当に」
後輩からの真っ直ぐな好意に、こんな状況だというのにサーゼクスは大笑いしてしまう。
これまで上司には恵まれなかった自分だが、友人と後輩には恵まれているのだろう。こんな後輩をもてた自分は幸せものだ。
だからこそ後輩に責任の片割れを押し付けるなんてことは出来ない。そもそも査問会にラインを連れていったところで、門前払いされるのがオチだろう。だがラインの好意は純粋に嬉しかった。
「責任をとるのはトップにいる者の務めだよ。ライン、私を自分の責任を部下に押し付ける情けない男にしないでくれ」
「あ、兄貴。でも……」
「大丈夫だ。これでも私はグレモリー家の跡取り息子だからね。ただでさえ戦争で純血の上級悪魔が激減しているんだ。これ以上、七十二柱をお家断絶するようなことは彼等もしないだろう」
全責任を押し付けられたとしても、受けることになるであろう罰は最悪でも実家での軟禁が精々のはずだ。永久封印や死刑はまず有り得ない。七十二柱直系の跡取りというのはそれだけ貴重なのだ。
そして死んでさえいなければ挽回は可能である。セラフォルー、アジュカ、ファルビウムは自分の味方でいてくれるだろうし、ラインもダンタリオン家の次男坊。七十二柱のうち四家が味方でいてくれれば、戦線復帰するのも難しくはない。
「大体ここで私が総司令の召喚を突っぱねれば、下手すれば反魔王派が真っ二つに割れてしまう。それだけは絶対に避けなければならないよ」
「そうね。サーゼクスちゃんはリリスのおじさま達には不人気でも、ルシファードの市民とか下級・中級悪魔の皆には大人気だし。サーゼクスちゃんがその気になったら……ううん、ならなくても『そういう』行動をするだけでクーデター騒ぎにまで発展しちゃう可能性は高いわね」
魔王派という強敵を前にした状況で、更に反魔王派を真っ二つに割るなど自殺行為もいいところだ。反魔王派全体のためにも、サーゼクスは不用意な行動をするわけにはいかないのである。
「というわけでセラフォルー。ここの守備は任せるよ。私が留守だと知れば魔王派が総攻撃を仕掛けてくるかもしれないから注意してくれ」
「分かってるわ。でも早く帰ってきてね」
「努力はする。それと人間界にいるアジュカとファルビウムが戻れば――――」
「こっちの守備に回れないか打診しておくんでしょ。うん、しっかり頼んでおく」
「ライン。君はセラフォルーを補佐してくれ」
「任されたっす! ライン・ダンタリオン、命懸けでセラフォルーさんをサポートするっす! 今だけはセラフォルーさんが新しい兄貴っすよ!」
「もう、ラインちゃん! そこはお姉さんでしょう!」
「す、すまねっす!」
ラインのボケに暗鬱とした空気が多少和らぐ。
魔王派も首都リリスへ奇襲したばかりで、いきなり大規模な作戦に出ることもないだろう。ルシファードの事は、この二人に任せておけば暫くは大丈夫だ。
二人に留守を頼んだサーゼクスは、転移魔方陣で首都リリスへ転移していった。
友人と後輩たちの温かい見送りに元気を貰いやって来た査問会ではあるが、いざ査問会議場の扉を目の前にすると気落ちするのは否めない。
ただここまで来て逃げても仕方ないので、サーゼクスは溜息を呑み込んで会議場へと入る。
そこには既にサーゼクス以外の役者は全員揃っていた。会議場の中心に置かれた座り心地の悪そうな椅子に、それをぐるりと囲んだ法壇。
法壇で雁首を揃えているのはジャマリア・バルバトスを筆頭とした反魔王派を仕切る幹部達。誰も彼も権勢欲と自己保身に塗り固まれた濁った眼をしている。
(これが反魔王派を動かしている者達、か)
彼等と出会ったのは初めてではないが、こういう場所で改めて目にすると、サーゼクスは落胆する気持ちを抑えることができなかった。
「ルシファード司令官、サーゼクス・グレモリー出頭致しました」
「そこへ座りたまえ」
ジャマリア・バルバトスは不作法に、会議場の中心に置かれた椅子に着席することを促した。サーゼクスは全くの無表情で返事をすると、そのまま着席する。
「さて、サーゼクス・グレモリー。これから査問会をするに当たって、我々は先ず君の問題意識を確認しようと思う。君はどうして自分がここへ呼ばれたのか心当たりはあるかね?」
「はい」
「宜しい。では言いたまえ」
「私は魔王派の真意に気付かず、彼等と休戦協定を結んだこと。そしてグレイフィア・ルキフグスとヴィシュナの両名を、むざむざルシファードから逃がしてしまったことであると考えております」
「結構。どうやら貴殿は自分の責任について認識しているようだな」
サーゼクスが連中の欲しがっている返答をすると、彼等は一人残らず厭らしい笑みを浮かべてみせた。
これでサーゼクス一人に責任を押し付けられて、自分達の地位は安泰――――そんなことでも考えているのだろう。
社交界でこういった連中とも交流していて良かった。そうでなければ今頃自分は嫌悪感を丸出しにしていたに違いない。
(こんな場面で彼女の事を思い出すのも変な話だが、グレイフィアの言っていたことは確かなのかもしれないな)
本気の本気で改革を成そうとするのならば、上層部に自分の意見を通すのではなく、自分自身が上層部になるしかない。
少なくともここにいる彼等が、自分達がたてた改革案を受け入れてくれるとは到底思わなかった。
(いや、まだ私はここにいる全員と碌に話していないのだ。決めつけるのは早計というもの。周りに合わせているだけで、改革案にも乗ってくれそうな人がいるかもしれん)
どうせならばこの査問会で彼等の為人を知っておくのも悪くはない。サーゼクスは淡い期待を抱きながら、査問会での応答に臨むこととした。
結局相手の本音を引き出すためサーゼクスが『正直』な対応を心掛けた査問会は伸びに伸び明日まで延長されることとなる。
だが伸び伸びた査問界とは裏腹に、サーゼクスの淡い期待が水泡と帰すのには一時間とかかることはなかった。