ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.21  魔王派の侵略

 結論からいえばファルビウムは間に合わなかった。ファルビウム配下のアンドリスがルシファードに到着したのは、事が起きる五分前だったのだから。

 たった五分ではさしものセラフォルーも碌な対策もとれず、ここにルシファードの城門は破られた。

 今宵、108の邪悪を斬り屠り、666の獣を灰塵と化し、999の魔物を滅した鬼神が顕現する。

 四大魔王を象った像をも震え上がらせるほどの威圧。解放された邪気の奔流。

 ルシファードに地獄の訪れを告げる、邪剣の咆哮が轟いた。

 

「なっ! この気配は――――魔剣聖!?」

 

 ルシファードで誰よりもソレに気付いたのはセラフォルー・シトリーだった。

 超越者たるサーゼクス・グレモリーが『真の姿』を解放した時と同規模の力の奔流が、ルシファードを覆うほどに発生している。

 これほどの力を発生させることが可能なのは魔王派に一人しかいない。即ち魔剣聖ヴィシュナが攻めてきたのだ。

 ヴィシュナの襲来に気付いたセラフォルーが対応に出るよりも早く、紅蓮の業火が爆ぜる。

 引き裂かれた大地が悲鳴をあげた。四大魔王が構築した防護術式が一瞬で消滅する。

 ほんの刹那。遠見の魔力を使いセラフォルーは目撃した。ルシファードの中心にて邪剣を掲げた蒼い鬼神の姿を。

 しかしセラフォルーがその姿を見続けることはなかった。それは鬼神が直ぐに〝悪魔〟の姿に戻ったからでもあるし、そんなことをしている余裕がなくなったからでもある。

 魔剣聖ヴィシュナの襲来は前哨。防御術式が壊滅し無防備になったルシファードに、魔王派の精鋭が殺到してきたのだ。

 

「魔蒼騎士団の連中に……団長のイザロ・フォロカルもいる! それにグレイフィア・ルキフグスに魔王の血族達! 魔王派の総戦力じゃないか!? なんでこんないきなり!? 大規模な作戦の後だから暫く派手に動かないんじゃなかったんっすか!?」

 

 サーゼクス・グレモリーの『実力』を知るからこそ、ライン・ダンタリオンは並大抵のことでは動じない。そのラインが我を失うほどに叫んだ。

 無理もない。それだけ押し寄せてきた魔王派は最悪な災厄だったのである。

 

(どうするの? 今のルシファードにサーゼクスちゃんはいない。いるのは私と……ラインちゃんだけ。これだけじゃ)

 

 サーゼクスさえいればどうにかなった。サーゼクスが魔剣聖を抑えているうちに、自分とラインが他の者を相手取り、時間を稼いでいるうちに首都リリスなりに援軍を求める。そうすれば魔王派の総力とも互角に戦えるだろう。

 しかしながら肝心のサーゼクスは遠くリリスにあり、しかも査問会中ときている。これではサーゼクスの助けは期待できず、魔剣聖を抑える者がいない。

 これではセラフォルーとラインが奮闘しようと、魔剣聖によって他が蹂躙されるだけだ。

 せめてもう一人の『超越者』であるアジュカがいればどうにかなるのだが、生憎と彼は遠い人間界におり助力はあてに出来ない。

 セラフォルーは幾通りもの作戦を同時にたてて、その全ての思考で同じ結論に到達した。

 勝てない。どう足掻こうと魔王派を撃退することは不可能だ。

 

「ラインちゃん」

 

「あ、姐さん?」

 

 三秒にも満たぬ思考の後、結論に至ったセラフォルーはいつになく真剣な眼差しでラインに声を掛けた。

 

「ラインちゃんは全市民を転移魔方陣へ誘導して。市民の撤退完了後に全軍も転移魔方陣で反魔王勢力圏深くまで撤退。魔王派が転移妨害の結界を張ってしまったら、もう逃げることも出来なくなるわ。だからそうなる前に早く」

 

 そう言いながら遠見の魔力を行使するセラフォルーの視界には、攻め込んできた魔王派が民間人をも問答無用で攻撃する光景が映し出されていた。

 絶対零度に冷え切った双眸に、ラインは圧倒されながらもルシファードを守る将の一人として言葉を返した。

 

「姐さんはどうするんっすか?」

 

「私は代理とはいえルシファードを守る司令官だもの。皆が撤退するまで最後まで戦うわ」

 

 ラインは何か言いたそうに口を開きかけたが、それを吐き出すことはなく呑み込んだ。

 時間がない。防御術式の残滓がまだ少しばかり活きているため、未だ転移妨害の結界が張られていないが、それとてどれだけ保つかは分からない。

 故にそうなる前に全市民を撤退させる必要があった。

 

「了解っす。……ご武運を」

 

「ラインちゃんもね」

 

 撤退の総指揮をラインに任せたセラフォルーは、魔王派が暴れ回る市内へと飛び出した。

 先ず目についたのは逃げ惑う市民を殺害する悪魔達。そして一人の悪魔が赤ん坊を抱いた女性を殺害しようとした所で、セラフォルー・シトリーの怒りは臨界を超えた。

 

「――――消えなさい」

 

 ぞっとするほど冷たい声と共に、氷の魔力がルシファードを駆け巡る。

 不吉なまでに白い冷気が、悪魔たちを次々に魂ごと凍てつかせていった。だが必滅の冷徹は、無辜の市民達には傷一つとして与えない。正確無比かつ残酷に敵味方を分別していく。

 やがてセラフォルーの半径500mに無数の氷像が出来上がる。セラフォルーは欠片の慈悲もなく魔力を弾けさせると、氷像は中身の魂ごとバラバラに爆散した。

 

「セラフォルー様!」

 

 そこへ遅れて配下の兵士達がやって来る。セラフォルーは素早く彼等に命じた。

 

「貴方達は市民の脱出を誘導して」

 

「は、はいっ!」

 

 サーゼクスとセラフォルーが直々に調練してきた兵士達の動きは機敏だった。この非常時にも取り乱すことはなく、混乱する市民達の避難誘導を行っていく。

 市民の非難は彼等に任せれば大丈夫だろう。だから自分は自分にしか出来ないことに専念するべきだ。

 

「あれはセラフォルー・シトリーぞ! 討ち取って手柄とせよ!」

 

「魔王の血族に逆らう反徒、裁きを受けるがいい」

 

 セラフォルーを見た魔王派に悪魔達が二十人掛かりで殺到してくる。

 彼等は実に愚かだったといえるだろう。一人相手に二十人掛かりで襲い掛かるなど。そんなものは――――まったくの自殺行為である。

 二十人では全然足りない。セラフォルー・シトリーをどうにかしたいのであれば、最低でもその百倍必要だった。

 相手が同じ悪魔ということで、戦場においてすら無用な殺生を控えてきたセラフォルー・シトリー。されどこの一戦においてセラフォルーからそのような温かみは失せていた。

 迫る二十人の悪魔たちを、セラフォルーは一瞬で氷漬けにして抹殺する。

 

「数が、多いわね」

 

 全身全経に魔力を染み込ませ、セラフォルーはルシファードの空を飛ぶ。そして目についた魔王派を目視すると同時に撃滅していく。

 魔王の血統に連なる上級悪魔だろうと、魔蒼騎士団の精鋭たちであろうと、セラフォルーにとっては塵芥同然の雑魚だった。

 鎧袖一触。

 抵抗もできない市民達を一方的に殺戮する魔王派は、セラフォルーの前でのみ立場を逆転させる。その獅子奮迅の戦いぶりに、魔王派は怯み、セラフォルーが近づくだけで逃げ出す有様となった。

 だがセラフォルーの圧倒的な蹂躙にも終わりが訪れる。

 セラフォルーの冷徹な殺意に立ち塞がったのは、やはり冷徹な殺意の持ち主だった。

 

「邪剣・真空輪袈裟」

 

 セラフォルーの凍結の魔力を空間ごと両断するは、万物を崩滅する蒼黒い斬撃だった。

 息を吐く間もない神速、常人であれば斬られたことすら気付かぬままに滅びを受け入れるであろう必殺。魔王にも迫ると噂されるセラフォルーは、それを寸前で察知する。

 あらゆる思考が脳髄を満たし、それら全てを一瞬で破棄した。セラフォルーは自身の生存本能に従うがままに、身を翻して全身全霊で斬撃を回避する。

 

「――――躱したか」

 

 自分の必殺を回避されながらも、特に悔しがることもなく言ったのは魔剣聖ヴィシュナ。超越者ではないのに超越者の如き力を振るう最大のイレギュラー。

 セラフォルーの瞳が緊張に細められた。

 

「レディにダンスの誘いをするなら、もっとエレガントにやらなきゃ駄目よ」

 

「前にも言っただろう。生まれが卑しいもので、そういう教育は受けていないと。――――次は外さん」

 

 ヴィシュナは変わらない。自身の属する魔王派の悪魔が、市民達を虐殺しようと。ヴィシュナの心はまるで揺れていなかった。

 こうして出会う場所を変えても、セラフォルーには魔剣聖の心の内を読むことはできない。だが一つだけ分かるのは、魔剣聖がここにこうして現れるまでに多くの市民を殺戮したということだ。

 ならばセラフォルーがするべき事も唯一つ。

 セラフォルーが氷の魔力を自身の掌に集める。ヴィシュナは異形殺しの邪剣を構えた。

 激突する両雄。ルシファードの空に――――蒼い魔力が爆ぜた。

 

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