ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.22  原初の大王

 サーゼクスに全責任を押し付けるための査問会は唐突に終わりを迎える。

 切っ掛けは係官がジャマリア・バルバトスへ届けた一通の手紙だった。それを見た途端、ジャマリアは顔面を蒼白にさせて、査問の終了と解散を告げたのである。

 一体全体なにがどうなっているのか分からないが、このまま着席し続けても仕方ない。サーゼクスは疑問を抱きながらも部屋を出る。

 するとそこにサーゼクス・グレモリーが解放された理由の『解答』であろう人物がいた。

 

「直に顔を会わせるのは大体三年ぶり程かね。サーゼクス殿」

 

「あ、貴方は……ゼクラム様!」

 

 大王家初代当主ゼクラム・バアル。悪魔創生の時代より冥界を見てきた原初の大王が、護衛もつけず一人でサーゼクスを待っていた。

 反魔王派の事実上頂点に君臨している大物が、一介の上級悪魔に過ぎない自分を待っていたことに驚愕するが、同時に納得もする。

 ジャマリア・バルバトスの権威の強さは、彼が反魔王派の総司令官という不相応なポストについていることからも相当のものだ。そのジャマリアを従わせられる者がいるとすれば、それはジャマリアを超える権威を持つ者である。例えば目の前にいる大王のような。

 原初の大王ゼクラム・バアル。彼ならばジャマリアに命じて、サーゼクスを査問から解放させるなど造作もないことだ。となると恐らくジャマリアが見た手紙の執筆者はゼクラムだったのだろう。道理であの傲慢なジャマリアが顔を真っ青にする訳である。暴力を頼りにする者が、より強い暴力に敗れるのと同じ。家柄を誇る者は、自分より上の家柄には弱いものなのだ。

 

「御久しぶりでございます、ゼクラム様。ゼクラム様が査問会を……?」

 

「君の友人のファルビウム殿に事情を説明されてね。やれやれ、私はとうの昔に隠居した身だというのに、これでは碌に田舎暮らしも出来んよ」

 

「申し訳ございません。私如きのためにゼクラム様の御手を煩わせてしまい」

 

「サーゼクス殿が謝ることではない。責任をとるべきは君一人に責任を押し付けようとしたバルバトスの小僧共だろう。うちの現当主はバアルの血を引く有能な悪魔などと嘯いていたが、魔力の高さがリーダーの器とイコールではないという子供でも分かる理屈を理解しておらん。

 そもそもバアルの血を継いでいて、尚且つリーダーの器を持つ悪魔ならば別にいるだろうに」

 

 そう言ってゼクラム・バアルの紫色の双眸が、サーゼクスを真っ直ぐに捉えた。

 サーゼクスの母、ヴェネラナ・グレモリーはバアル家の出身である。よってサーゼクスの体に流れる血の半分は大王家のもの。そしてサーゼクスにとって、ゼクラム・バアルは、遠い祖先に当たる悪魔でもあった。

 

「いえ。私はまだ若輩者で未熟……リーダーなど今は分不相応というものでしょう」

 

「ふふふふ。今は、かね?」

 

「はい。いずれは冥界を背負って立つほどの悪魔になりたいと思います」

 

「ほう」

 

 キッパリと断言すると、ゼクラムが興味深げな視線を送る。

 ゼクラム・バアルは悪魔創生から現在の内乱に至るまで、全ての歴史を俯瞰し観察してきた観測者だ。その脳髄には1万年にも及ぶ悪魔の歴史が詰まっている。

 そんなゼクラム・バアルに見据えられていると、自分の心の奥深くまで丸裸にされているような錯覚を覚えた。

 この緊張感とプレッシャー。まるで背中に星が伸し掛かっているかのようだ。

 しかしサーゼクスは決して視線をゼクラムから外さなかった。

 

「ふ、はははははははははははははははは!」

 

 やがて威圧を解くと、ゼクラムは何が可笑しいのか大声で笑い始めた。

 

「成程。歳は若いが見事。君のような者がバアル家の当主であれば、私ものんびりと隠居生活が出来るのだがね。儘ならないものだよ。

 多少無理をしてでも現当主はヴェネラナにして、婿養子としてグレモリー卿を貰うべきだったかな? そうしていれば大王家は君を手に入れられていたものを、随分と惜しいことをしたものだ」

 

「……」

 

 考えてみればゼクラムの言う通りだ。これまでグレモリーである自分になんの疑問も抱いてこなかったサーゼクスだが、もしも運命の歯車が狂えば自分はバアルの次期当主として生を受けていたのかもしれないのである。

 とはいえ例え人生をやり直す機会があったとしても、自分はグレモリーとして生まれることを選ぶだろう。

 優しい父と厳しい母親。愛すべき領民たち。友と後輩。自分がグレモリー家次期当主として手にしたもの、それらは決して大王家の威光に劣るものでないとサーゼクスは信じている。

 

「ふむ、サーゼクス殿」

 

「はい」

 

「――将来、魔王でもやってみたらどうかね?」

 

「――――!」

 

 魔王になれ、と言われたのはこれで二度目だ。しかもそれを言ったのは原初の大王たるゼクラム・バアル。

 大王家の頂点から『魔王になればどうか?』などと言われ、さしものサーゼクスも顔を強張らせる。どうにもゼクラムの心が読めなかった。

 

「お戯れを。魔王の血を引かぬ者が魔王になることは出来ません」

 

「ふふ、心では『戯れ』などと思っていないだろうに。君はどうやら悪魔社会を『改革』するつもりのようだが、一介の上級悪魔という立場ではそれは出来ぬことだ。

 人間も、天使も、堕天使も、悪魔といえど変わらない。夢を成すには『力』がいる。力がなければ夢を現実にすることは出来ん。力といっても種類は多いが、ここでいう力とは『権力』だな」

 

「ですがゼクラム様。私は魔王の血を継いではいません」

 

「そんなことは関係ない。君も理解しているだろう? 首都リリスにあれほどの被害があったのだ。もはや魔王派との和平などは望めぬよ。断言して良いが、この内乱は一方の完全敗北か無条件降伏に近い形で終焉を迎えるはずだ。

 しかしそれでは冥界に『魔王』がいなくなってしまう。四大魔王の血族を魔王にするわけにはいかず、かといって大王家には大王としての責務があり『魔王』にはなれん。となれば方法は一つ、魔王に相応しい実力をもつ悪魔に、魔王の名を与え新たなる『四大魔王』とする」

 

「魔王を世襲制から実力制に変える、と?」

 

「それが妥当なところだろう。他に代案もないだろうからな」

 

 魔王の血を継ぐ悪魔が魔王を継承するのではなく、最も実力と名声のある悪魔が『魔王』となる。

 確かにこれならばサーゼクスが『魔王』になるのは夢物語ではない。いやサーゼクスの実力と名声を踏まえれば、もはや夢ですらないだろう。超越者に名を連ねるサーゼクスは、実力だけなら嘗ての四大魔王をも超えるのだから。

 自然とサーゼクスの拳に力が籠っていく。

 

「私のような枯れ木にも若者を焚き付けるくらいの力は残っていたらしい。俄然やる気になったようだな、サーゼクス殿」

 

「ゼクラム・バアル様。此度はまことにありがとうございます」

 

「さて。何について礼を言われたのか判断に迷うところだな」

 

「〝全て〟ですよ」

 

「それは上々。これからも君には期待しているよ。私は旧い時代の悪魔だ。今更になって新しい事を始めることは出来ん。新しきを始めるのは君達若者の役目であり、旧きを守るのが老人の務めなのだから」

 

 新しきを始めるのは若者の務め、その言葉をサーゼクスは胸に刻み付ける。

 ゼクラム・バアルは過去の存在だ。故に彼の言う通りゼクラムは旧き伝統を守ることしか出来ないのだろう。だからこそ自らが表舞台に立つことはなく、内乱についても若者たちに任せている。

 ならばサーゼクスたち『若者』がするべきことは、老人には出来ない改革を行うこと。時計の針を先へ進めることだ。いずれ自分達が『老人』となり『若者』にバトンを託すその日まで。

 

「ゼクラム様! 一大事にございます!」

 

 サーゼクスが決意を新たにしていると、大王家の紋章をつけた悪魔が慌てふためいて走って来る。

 

「なにがあった?」

 

「総攻撃です! 魔王派がルシファードに総攻撃を仕掛けてきました!」

 

「……!」

 

「そうか、想像以上に動きが早い。魔王レヴィアタン様のところの娘はそれなりに出来が良いようだ」

 

 反射的な行動だった。ルシファードの危機を聞いたサーゼクスは、ゼクラムに黙礼すると急いでその場から走り去る。

 魔王派による大規模な奇襲を受けた首都リリスは、防犯上の理由から周囲に転移妨害の結界が張られていた。転移してルシファードへ行くには、先ずは首都リリスを出る必要がある。

 

「待ちたまえ」

 

 サーゼクスが廊下の角を曲がる直前、背後から届くゼクラムの声。

 

「一つ言い忘れていたことがあった。もし今回のことを恩と感じてくれたのならば、私から一つだけ君に頼みたいことがある」

 

「……なんでしょう?」

 

 急いでルシファードに向かいたいサーゼクスだが、流石にゼクラム・バアルの頼みを聞かずに無視することはできない。

 体の向きはそのままに、首だけをゼクラムの方へ向けた。

 

「魔剣聖ヴィシュナ――――なんとしても奴を滅ぼして欲しい」

 

「……? 彼は敵のエースです。戦場で会えばそうしますが……」

 

「そうではない。絶対に殺して欲しいのだ。例え戦場であろうとなかろうと関係ない。奴が両手を挙げて反魔王派に降ると言っても、だ」

 

「理由をお尋ねしても? 彼が下級悪魔出身だからですか?」

 

「いいや、それは関係ない。あれがただの下級出身の英雄ならば、寧ろ彼の投降は歓迎するべきことだろう。下級・中級悪魔を従わせるのに、アレの境遇は良いプロパガンダになるからな。しかしあれはただの悪魔ではない。実力ではなく、中身が悪魔から外れ過ぎている。

 これまで万を超えるほどの悪魔を見てきたからこそ断言しよう。アレは悪魔にとっての癌細胞だ。生かしておけば、いずれ悪魔社会全てを――――いや三大勢力そのものを殺し尽すだろう」

 

「…………」

 

 ヴィシュナの目的は天使・堕天使を滅ぼすことと聞いている。なのにどうしてそれが悪魔社会まで滅ぼすことになるのか、それは分からない。

 ただゼクラム・バアルの目は真剣そのもので、とても出鱈目を言っている気配はなかった。

 

「どうだ、頼まれてくれるかね?」

 

 ゼクラム直々の頼み、サーゼクスはそれを。

 

「お断りします」

 

「ほう?」

 

「例え相手が誰であろうと、私は降伏する者を殺しはしません。それをすれば私に魔王になる資格を永久に失うことになる」

 

「ふ、ふふふふ。正解だよ、正にその通りだ。ならばもはや何も言うまい。私は奴が降伏せず、玉砕することを祈るとしよう」

 

 話は終わった。サーゼクスは首都リリスを飛び出すと、仲間たちのいるルシファードへと転移していく。

 胸に確固たる覚悟を宿したままに。

 

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