ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.28  時よ止まれ、お前は美しい

 皆殺しという殺戮の暴風によって、魔王派の勢力圏に呑み込まれたルシファード。四大魔王時代の冥界の中心地は、今や死んだように静まっていた。

 戦争に従事していた兵隊も、陽気な酒場の主人も、売春宿の女郎も、ここを占領した魔王派の悪魔たちの姿すらない。無人の廃墟、というフレーズが実に似合っている。

 だが人っ子一人いないように見える都市の中に、たった四人だけ人影があった。いや一人が気絶して拘束されていることを考慮するのならば、三人と言った方が良いかもしれない。

 ニシリナ・レヴィアタンと魔剣聖ヴィシュナ。そして赤龍帝ラヴィリ・グラズノフ。二人の悪魔と一人の人間はルシファードの中心部、巨塔アポカルスの麓へと来ていた。気絶したグレイフィアを引きずりながら。

 二人を先導していたニシリナは、四大魔王像の前で立ち止まると、しっかりと戦火に巻き込まれず残っているソレを見ると喜悦に顔を歪ませる。

 

「フフフ。あったわぁ」

 

 ニシリナの視線が注がれているのは四大魔王像、より正確には魔王たちの掲げている『実』だ。残念ながら『生命の実』の方は戦いの余波で消し飛んでいたが『知恵の実』の方は無事である。

 両方残っていなかったのは惜しいが、特に大きな問題ではない。形こそ違えど二つの『実』が宿す機能は全く同じ。一つでも無事ならば『計画』を実行する上で支障はない。

 ニシリナが四大魔王像へ手を掲げると、その身に流れる『魔王の血』に反応して、アスモデウスとベルゼブブの『実』が吸い寄せられてくる。そして二等分された『実』は、ニシリナの手元でくっついて完全なる『知恵の実』に成った。

 

「これで『鍵』と『頭脳』は私のものに。お母様も草葉の陰で喜んでくれるかしらねぇ」

 

 完全となった知恵の実がニシリナの体に吸い込まれていく。『実』が完全にニシリナに取り込まれると、巨塔アポカルスが微かに発光し始めた。

 自分の母に言われた通りの現象が起きたことに、ニシリナは満足気に笑みを深める。

 

「三大勢力の争いに終止符をうつため、四大魔王がその叡智を結集して作り上げ、そして終ぞ完遂することのなかった恐るべき計画。夢幻へ手を伸ばした野心の具現、黙示録の巨塔アポカルス。

 四大魔王が死に三大勢力の戦いすら停戦し漸く――――悪魔が夢幻を総べる日が訪れた。千年遅れのD×Dを、千年早い最後の審判を始めましょう。遍く敵を滅ぼし尽し、世界を我が物とするために」

 

 ニシリナが魔力を放出すると、それに呼応するかの如くアポカルスは光を強めていく。巨塔の光は天を貫くように伸び、空を覆う雲は恐れるように光に道を空けた。

 今宵、冥界の中心地にて。黙示録が語られる。

 

「…………」

 

 ヴィシュナは冥い瞳でその光を見据え、

 

「悪魔もよくやるもんだ」

 

 今代の赤龍帝は特に興味なさげに巨塔を見上げた。

 

『これは、まさか――――悪魔はアレを我が物にしようというのか? 馬鹿な、そんなことは不可能だ……。俺達にすら手古摺る連中が、アレを総べるなど……』

 

 天へと昇る光に気付くものがあったのか。神器に封じられた天龍、ドライグが声を零す。

 それを聞いてニシリナは満面の笑みで振り返った。

 

「そんな有様になっても天龍は天龍といったところかしらねぇ。そちらの宿主さんでも気付いていないのに、初見で四大魔王の『野心』の中身に気付くなんて」

 

『っ! では貴様等、やはり!』

 

「……おい、ドライグ。宿主を置いて話をするな。俺にはさっぱりだぞ」

 

 自らの神器だけが状況を理解していて、自分だけ蚊帳の外に置かれていることにラヴィリは不快感を露わにした。

 ドライグは一瞬言うべきかどうか躊躇しているようだったが、ラヴィリの眼光に根負けして語り出す。

 

『ドラゴンが遥か昔から力の象徴として畏怖されてきたのは知っているだろう。だから天使・堕天使・悪魔……そして人間はあの手この手を使ってドラゴンの力を我が物にしようとしてきた』

 

「そんなことは知っている。俺もその一例だからな」

 

 時に龍の心臓を喰らうことで、その生命力を獲得し。

 時に龍の返り血を浴びることで、鋼の肉体を手に入れ。

 時に龍の生き血を剣に染み込ませ、その刃に呪いを帯びさせ。

 時に龍と交わることで、龍の血を宿した子を生み出し。

 北欧のシグルズ、ドイツのジークフリート、日本神話の須佐之男命、中華の劉邦。西洋問わず龍に縁の深い英雄は数多い。

 赤龍帝ドライグの魂を封じた『神器』を所有するラヴィリ・グラズノフも彼等と境遇としては同じだ。

 

『この巨塔もその一つだよ。さしずめ「龍の首輪」とでもいったところか。ドラゴンを呼び出し、ドラゴンを総べ、ドラゴンを操る忌々しい牙城。実に腹立たしい……ッ!』

 

 ドライグは怒気を滲ませてニシリナ・レヴィアタンとヴィシュナに殺意を向けた。

 ドラゴンは大抵が自由気ままで自分勝手で、それ以上に誇り高い生物である。その中でも天龍と称された最強最悪のドラゴンこそがウェルシュ・ドラゴン。ドラゴンの誇りを踏み躙るような代物を見て平然でいられる筈がない。

 だがドライグにとっては矜持を踏み躙られることでも、人間であるラヴィリにとっては他人事に過ぎない。特に関心した風もなく口を開く。

 

「それは御大層なものを作ったものだと、観客としては拍手の一つでもしたいところだが…………天使・堕天使を滅ぼすというのは大袈裟が過ぎるだろう」

 

「あら? どうしてぇ?」

 

「邪龍は粗方滅んでいるし、まだ現役で活躍していて力があるドラゴンといえば六大龍王の連中だろう。確かに龍王は魔王にも迫り得る強さを持っているが、逆に言えばそれが精々だ。

 天龍クラスならまだしも、龍王を一体二体味方に引き入れたところで戦争に勝てるとは思えん。精々戦局が多少有利になる程度だろう」

 

「龍王クラスならそうでしょうねぇ。けれどいつ私がコレを使って龍王如きを手に入れようなんて言ったの?」

 

「だが二天龍は二体揃って神器の中だし、他に力を持つドラゴンなんていないだろう。―――――いや、待て。確かその塔の名前……アポカルスとか言ったな? アポカルス……黙示録…………まさか、貴様等。グレードレッドを次元の狭間から引きずり出すつもりか!?」

 

 これまで大抵のことに無関心・無感動を貫いてきたラヴィリが、今度ばかりは驚愕を露わに叫ぶ。

 

「くすくす。大・正・解よぉ、赤龍帝。ちょっと遅かったわねぇ」

 

「……ジーザスッ!」

 

 この世界が生まれた瞬間より最強の座に在り続け、二天龍すら超える力をもつ無限の龍神オーフィス。そのオーフィスと同じ『次元の狭間』で生まれ、夢幻を司るとされる真なる赤龍神帝。それがグレードレッド、D×Dと謳われるドラゴンの中のドラゴンだ。

 無限の力をもつオーフェスに唯一対応できる夢幻だけあってその力は正に埒外。この世界に存在する神仏が束になって掛かったところで勝利することは出来ないほどだ。

 確かに夢幻の真龍を我が物とすることができれば、三大勢力の戦争に勝利することなど容易いことだろう。それどころか天界・人界・冥界の三界を征服することすら不可能ではない。だが、

 

「おいおい。悪魔は狂ったのか? グレードレッドなんて悪魔程度に操れるわけないだろう。俺達の規格が通じないからこその『規格外』なんだぜ」

 

「貴方の言う通りよ。悪魔の覇権を手に入れるため四大魔王が主導したD×D計画だったけれど、当然のように始動することはなかったわぁ。こうして巨塔だけ残して、私の母も他の魔王達も揃って死んじゃったしねぇ。

 だけどねぇ。この巨塔、システムだけは完成していたのよぉ。必要なものさえ揃えば、今すぐにでも起動できるくらい完璧にねぇ。尤もその必要なものを何一つ集められなかったから、四大魔王は失敗したわけだけど」

 

「必要なもの?」

 

「そ。必要となるのは三つ。先ず一つは魔王、または魔王に匹敵するほどの純血悪魔の魂を生け贄に捧げること」

 

 そう言ってニシリナは拘束されているグレイフィアを見下ろした。

 グレイフィアは名門ルキフグスの直系で血筋は申し分ない。それに実力も魔王級ときている。生け贄としての条件は揃っているといえるだろう。

 

「二つ目、これが最大にして最悪の無理難題。夢幻を支配しうるだけの無限のエネルギー。システムが完璧でも、それを稼働するには動力が必要ということ。

 つくづく無茶な話よねぇ。自分達の力じゃ戦争に勝てないから『夢幻』に手を伸ばしたのに、それを手に入れるには夢幻と同等の『無限』が必要になるのだから。

 でもそこはほら。私の大切な下僕のヴィシュナがしっかり『無限のエネルギー』を確保してくれたから、最大の問題はしっかりクリアされたわぁ」

 

『!』

 

 ラヴィリとドライグが揃って絶句する。無限のエネルギーを手に入れたとニシリナが言ったことにではない。ニシリナがまるで正気にそんな戯言を言ったことに驚いたのだ。

 夢幻を総べる無限の力など、そんなものオーフィス以外に持っている筈がない。だがオーフィスを引き入れるなど、それこそグレードレッドを操るにも等しい無理難題と言えた。

 かといってニシリナの表情に虚飾はない。だとすれば彼女は本当にオーフィスを手中に収めたとでもいうのか。

 ニシリナは驚くラヴィリとドライグには構わず先を続ける。

 

「そして最後の三つ目。それが――――二天龍の魂を封じた神器」

 

 ギョロリとニシリナの目線がラヴィリの左手へ注がれた。

 

「ッ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 反射的な行動だった。ラヴィリは瞬時に『禁手化』を行い、赤龍帝の全身鎧を装備する。

 

「同等の力では片方を支配することは出来ない。無限が夢幻を制するには、赤い龍の倍加を無限に与え、白い龍の半減を夢幻に与えなければならない」

 

 無限を倍加し、夢幻を半減する。それをもって無限は夢幻を凌駕し、悪魔は夢幻を総べることを可能とする。

 長年の封印が解けたことに歓喜するように、勢いよく白龍の光翼がニシリナの背より具現化した。ラヴィリもドライグもまさかの光景に唖然とする。

 

『…………道理でここ数世代の間、まるで白いのと会わん筈だ。まさか悪魔の手に落ちていたとはな……ッ! ニシリナ・レヴィアタン、どこまでドラゴンを虚仮にしてくれるッ!』

 

 ニシリナの背から現れたのは『白龍皇の光翼』。赤龍帝と対になる白龍皇アルビオンを封じ込めた神器だ。

 混じり気なしの純血悪魔のニシリナ・レヴィアタンが、生まれながらに『神器』を宿すことは有り得ない。だが例え人間ではない悪魔であっても、神器所有者から神器を抜き取れば、リスクはあるが後天的に神器を手に入れることは可能だ。

 ニシリナは今代の白龍皇から神器を抜き取って殺害し、それを我が物としたのだろう。

 

「貴方のアジトに成功報酬の金塊も送ったし、白龍皇の捜索もこれで果たしたわよねぇ。契約完了といったところかしらぁ」

 

 ラヴィリが魔王派に協力するにあたって、提示した報酬は『金塊』と『白龍皇の捜索』である。金塊は送られ、白龍皇は今正に正体を晒した。ならば確かに契約は完了している。

 

「だけど実のところ貴方を雇ったのは、赤龍帝という戦力を引き込むためじゃないの。夢幻を総べるには白龍皇だけじゃ足りない。赤と白が揃って初めて計画に必要なものが全て揃う。だから貴方の神器、私にちょうだい?」

 

 場違いなほど可愛らしくニシリナ・レヴィアタンは言い放った。

 

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