ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.30  宵闇の密告者

「セラフォルーの容態はどうだ?」

 

 サーゼクスの目の前にあるベッドには、魔王派の奇襲により負傷したセラフォルー・シトリーが寝かされていた。

 ここは悪魔のための悪魔による治療室。各種薬品の代わりに、特殊な魔法薬がずらりと並び、ベッドには薄く紫色の光を放つ魔方陣がある。そして魔方陣の中心に寝かされているセラフォルーの寝顔には、具合の悪さがありありと浮かんでいた。

 

「あまり芳しいとは言えませんね。幸い命に別状はありませんが、立って歩けるようになるには最低でも二週間はかかるでしょう。戦線復帰となると一か月はかかるかと」

 

「そんなにかね?」

 

 医者の言葉にサーゼクスは目を見張った。

 不死身のフェニックス程ではないにしても、上級悪魔となれば人間とは比べものにならないほどの生命力をもっている。確かにセラフォルーの傷はかなりのものだが、サーゼクスの知る彼女ならば一週間もあれば元通りに回復できるはずだ。

 だが医者はそんなサーゼクスの考えを否定するかのように首を横に振る。

 

「これが単なる傷なら、フェニックスの涙を使えば、一瞬で全快させることは可能です。ただ彼女の体を蝕んでいるのは強力な異形殺しの呪い。恐らく魔剣聖ヴィシュナによるものでしょう。

 異形殺しの邪剣によって傷つけられた傷は、フェニックスの涙を始めとした一切の回復効果を受け付けません。セラフォルー様ご自身の生命力による自然回復を待つしか……」

 

「ではこの魔方陣は?」

 

「中にいる者の生命力を促進させるためのものです。回復用のものではありません」

 

「……そうか。私が不甲斐ないばかりにっ!」

 

 サーゼクスは苛立ちをぶつけるように壁を叩く。こんな八つ当たりをしても意味のないことくらい知っているが、そうでもしなければ溢れだす怒りを抑えていられなかった。

 大切な後輩だったライン・ダンタリオン、魔王派を裏切って子供を守ろうとしたグレイフィア・ルキフグス、そしてセラフォルー。

 自分の大切な人達が揃いも揃って魔剣聖の毒牙にかかってしまった。

 これまで戦場で魔剣聖と対峙したことはこれまで何度もあった。なのにいつもいつも『周囲の環境に影響』だのと言い訳をつけ『真の姿』を解放してこなかった。もしも『超越者』としての本領を発揮していれば、ヴィシュナを討ち取ることが出来て、今日という日を迎えることもなかったかもしれないというのに。

 ヴィシュナへの怒り以上に、自分への不甲斐なさでサーゼクスは己を滅び去りたい気分だった。

 しかしサーゼクスには反魔王派の『英雄』としての務めがある。それ以上に果たすべき夢がある。自分の夢はもはや自分だけのものではない。こんな夢に命を懸けてくれた全ての想いが、サーゼクス・グレモリーの両肩には載っているのだ。

 ならばこんな所で立ち止まっていることはできない。

 サーゼクスは眠るセラフォルーに別れを告げると、反魔王派反攻軍の本営へと向かった。

 

「セラフォルーの具合はどうだった?」

 

 本営に入るなり一切の無駄を省いた鋭い声がサーゼクスを出迎える。

 こんな声を出したのが生粋の怠け者であるファルビウムだと知れば、彼の普段を知る者は仰天するだろう。しかし彼の普段と非常時、両方の顔を知るサーゼクスに驚きはない。

 冥界最高の戦術家・戦略家とまで謳われた名将ファルビウム。彼の将軍としての顔を見るのは、実に五年ぶりのことだった。それだけ事態は切迫しているということなのだろう。

 

「命に別状はない。ただ戦線復帰するには一か月はかかると」

 

「そうか。命に別状はなく、この戦いには参加できない。ああそれさえ分かれば十分だよ。ありがとう」

 

 友人であるセラフォルーの容態に、ファルビウムは冷たく言い捨てる。

 長年の友人に対して、その態度は冷酷なのではないか――――と言いはしなかった。何故ならばここにいるのはセラフォルーの友人のファルビウムではなく、ルシファード奪還の任を帯びた反攻作戦総司令官ファルビウム・グラシャラボラスなのだから。

 それに長い付き合いのサーゼクスには、ファルビウムがセラフォルーを傷つけた者への怒りを、必死に抑え込んでいるのが一目で分かった。その証拠にファルビウムの肩はほんの微かに震えていた。

 ファルビウムに近付くと、自然と彼の前のテーブルに視線が止まる。テーブルの上にあるものを見たサーゼクスは、疑問からファルビウムに問いかけた。

 

「なにをしているんだい?」

 

「見ての通りだよ。戦略はもう構築したから、戦術を築き上げているんだ。戦争は負けないようにっていうのが僕のポリシーだけど、今度ばかりは絶対に勝たなければならないからね」

 

 テーブルにはルシファード一帯の地図が広げられ、その上にチェスの『蒼い駒』と『紅の駒』が置かれている。

 駒の配置から察するに敵軍に見立てているのが『蒼い駒』で、自軍に見立てたのが『紅い駒』なのだろう。芸の細かいことに、紅のキングには『ファルビウム・グラシャラボラス』と金字で彫り込まれていた。他にもナイトやルークなどの駒には、反魔王派の歴戦の勇者の名前が彫り込まれていた。

 

(となると……蒼い駒にも)

 

 サーゼクスの予想通りだった。蒼い駒のナイト、ルーク、ビショップなどにはイザロ・フォロカルやシャルバ・ベルゼブブなどの名前が彫り込まれている。

 そして蒼の駒のキングはニシリナ・レヴィアタンで、クイーンは赤龍帝だった。だがクイーンには一度彫られたものを消した跡がある。恐らくそこには最初グレイフィアの名前が刻まれていたのだろう。

 

「セラフォルーが〝使えない〟となると、ちょっと戦術が変わってくるね。総司令官の僕が最前線に赴く訳にはいかないから……やっぱり赤龍帝が懸念事項になるかな」

 

 そう言ってファルビウムは盤面から紅のクイーンを抜いた。

 

(駒、か。……いや、何も言うまい)

 

 名将としての素顔を前面に出している時、ファルビウムは友人どころか自分すら一つの駒として扱うようになる。もしかすれば四大エースの中で最も冷酷かつ合理的なのはファルビウムなのかもしれない。

 

「ところでファルビウム、一ついいだろうか?」

 

「なんだい?」

 

「どうして駒の中に私と魔剣聖がいないんだい」

 

 そう、駒に彫られた名前には両軍の主要メンバーが揃っているというのに、サーゼクスとヴィシュナの名を彫った駒だけが存在しないのだ。

 

「君とヴィシュナ、それと人間界にいるアジュカは『駒』という役割には到底収まりきらないからね。君達の分はここさ」

 

 そう言ってファルビウムは紅の悪魔と蒼い鬼のミニチュアを盤面に置いた。

 ピクリ、とサーゼクスの眉が動く。周りにあるのがチェスの駒ばかりのせいで、二つのミニチュアは否応なく異物感を醸し出していた。

 悪魔でありながら、悪魔とは言えない力を持って生まれたサーゼクス・グレモリーを現すかのように。

 

「不快に感じたのなら謝るよ」

 

「いや、私が悪魔と言っていいのか分からない生き物なのは本当のことだ。気遣う必要はないさ。それより魔王派と戦う上で君は私をどう動かす。君が総司令官だ、私は君に従おう」

 

「うーん。特に難しく考えなくていいよ。『超越者』くらい強さが出鱈目ならば、無理して戦術に組み込むより自由に暴れ回ってくれた方が効果的だからね。

 けれど一つ念頭に置いて欲しいのは魔剣聖ヴィシュナだ。彼の『異形殺し』は僕達悪魔にとっては天敵。彼を抑えてくれたら、僕としては随分と楽ができるんだけれど」

 

「分かった、願ってもないことだ」

 

 脳裏にフラッシュバックする、殿となって一人でヴィシュナに挑みかかっていったラインの姿。ラインに致命傷を与えた者こそヴィシュナ。セラフォルーに傷を負わせたのもヴィシュナ。そしてグレイフィアを粛清しようとしたのもヴィシュナだ。

 この借りは必ず自分の手で叩き返す。そうしなければ煮え滾った腸は収まりがつかない。

 その時だった。

 

『反魔王派四英雄の一人、サーゼクス・グレモリー様。それと……ファルビウム・グラシャラボラス様ですね』

 

「誰だっ!」

 

 いきなり本営に響き渡った女の声に、サーゼクスとファルビウムは瞬時に身構える。

 だが声のした方向には何もない。影も形もなければ魔力も感じなかった。それでも戦場を潜り抜けたサーゼクスの第六感が、なにかがそこに存在することを感じ取っていた。

 

『失礼。今、神器を解除します』

 

 音もなく白いマントのようなものが現れ消え去る。するとそこからメイド服に身を包んだ女性が突然現れた。いや突然ではなく見えなかっただけで最初からそこにいたのだろう。

 そのメイドにサーゼクスは見覚えがあった。

 

「君は舞踏会でグレイフィアが連れていた……」

 

「はい。グレイフィア・ルキフグス様の専属メイドをしているエルアナ・ロノウェと申します。この度は全世界の危機と、身命を賭した嘆願を聞いて頂くために参りました」

 

 ファルビウムが視線を送って来る。エルアナは魔王派の所属ではなく、グレイフィア直属のメイド。信用して良い相手だろう。サーゼクスはファルビウムに頷いてみせ、余計な警戒を解かせた。

 

「全世界とは大きく出たね。話を聞こう、全世界の危機とはなんなのか。そして君が魂を懸けるほどの嘆願とはなんなのか」

 

「ありがとうございます。実は――――」

 

 そしてエルアナは話し始めた。偶然にも聞いてしまった、ニシリナの恐るべき計画のことを。

 

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