ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.31  黙示録の始まり

 巨塔アポカルスに刻み込まれているルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブの魔方陣。ニシリナは隠し切れぬ昂揚を露わに、自身の母たる魔王レヴィアタンの魔方陣に手を触れた。

 魔王レヴィアタンの『血』と体内にある『知恵の実』。この二つが鍵となって巨塔アポカルスは遂に起動の時を迎えた。

 巨塔がせり上がり地下へ続く扉と、異空間へと繋がるゲートが出現する。

 

「ヴィシュナ」

 

「もうこちらに向かっているところです。――――来ました」

 

 地下へ続く扉の前に現れる転移魔方陣。魔方陣はヴィシュナの魔力光たる蒼色に発光していき、ヴィシュナの屋敷に滞在していた客人をこの場に招きよせた。

 夜の闇よりも深い黒い髪と黒い瞳。そして内包しているのは計り知れない無限の力。無限の龍神オーフィスがルシファードに降臨した。

 

「我を呼んだということは、ヴィシュナの準備できた?」

 

「ええ、その通りよ。ごきげんよう、オーフィス。此方の準備は万端。後は貴方が無限を送り込めばD×D計画は完遂されるわぁ」

 

 ヴィシュナではなくニシリナがオーフィスの問いに応える。

 そう。オーフィスこそが、グレードレッドを支配するためニシリナが得た無限の動力源だ。グレードレッドの精神を総べるだけのエネルギーなど、例え冥界中の悪魔を贄としても足りはしないが、オーフィスの『無限』があればそれで事足りる。

 ニシリナはオーフィスの無限を用いて、グレードレッドを支配するために。

 オーフィスはグレードレッドを廃除し、故郷たる『次元の狭間』へ帰るために。

 そのために龍神は悪魔と手を結んだ。

 

「約束、忘れてない?」

 

「グレードレッドを使って目的を果たした後は、グレードレッドを廃除して貴方を次元の狭間へ戻す……勿論、覚えているわ。私も龍神を怒らせるなんて恐いもの」

 

 オーフィスの無限をもってすれば、アポカルスの力で精神を支配されたグレードレッドを倒すのは難しいことではないだろう。

 欲を言えばグレードレッドの力を永久的に我が物にしたいところだが、ニシリナも『無限』を敵に回すことの恐ろしさは理解している。オーフィスがその気になれば、三秒でルシファードを消し炭にすることすら出来るのだ。欲望は野望や夢を叶える原動力であるが、過ぎれば身を滅ぼすだけ。欲を出して龍神の逆鱗に触れることをするほど、ニシリナ・レヴィアタンという女は愚かではない。オーフィス相手には誠意のある対応を心掛けるべきだろう。

 ただし目的が果たすまでは、それこそ徹底的に使い潰すつもりでいるが。

 

「さ。オーフィス、貴女はこの扉から地下へ。そこに塔へエネルギーを送り込むための部屋があるわぁ」

 

 コクリと小さく頷くと、オーフィスはてくてく扉を潜っていく。

 一度だけヴィシュナの方へ振り向いたが、それもほんの一瞬のこと。直ぐにオーフィスは歩くのを再開し、やがて地下へ消えていった。

 待つこと数分。オーフィスが『部屋』に辿り着いたのだろう。アポカルスが無限のエネルギーを注ぎ込まれたことで、真っ黒に染まり激しく振動した。

 巨塔から放たれる光は闇のように黒く、紫天の空を貫く。

 ニシリナが試しに魔力弾をアポカリプスに叩き付けた。だが『無限』の防壁を得たアポカリプスは、あっさりと魔力弾を弾き返してしまう。恐らくヴィシュナの邪剣で叩き斬ろうとしても同様だろう。

 

「――――ふ、ふふふふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

 

 狂ったような笑い声は、空にまで響く。

 ニシリナは恍惚と歓喜の入り混じった表情で両手を大きく広げ、亡き四大魔王へ謳いあげた。

 

「見ていますか、四柱の魔王の方々! 貴方達の求めた力が今ここに! 今宵、夢幻は玉座を引き摺り下ろされ、我が下僕へ堕ちる! そして、私は――――」

 

 聖書の神も、四大魔王も、堕天使の総督も――――それどころかあらゆる神話体系の主神や悪神すら成し得たことのない偉業。天界・人界・冥界、三界の完全統一を成す。

 もはや四大魔王などは不要。絶対者たる魔王が四人も並び立つ必要などない。盟主であるルシファーなどは無用だ。

 これからは唯一人の魔王が神聖不可侵の『絶対者』として、三界に君臨する。

 

「ヴィシュナ」

 

「はっ」

 

「アポカリプスの機能を発動させて、グレードレッドを支配するにはまだ暫くの時間がかかるわ。私はそのための『儀式』を行わなければならない。彼女を使ってねぇ」

 

 眠らされているグレイフィアを抱きかかえながら、ニシリナは微笑みかける。

 

「だから何者かが儀式を邪魔しにきたら――――いえ、ここに近付いてきたら誰であろうと悉く排除しなさい」

 

「魔王派の者でも、ですか?」

 

「当然じゃない。不確定要素は可能な限り消さないと。なんのためにルシファードの民間人を虐殺して掃除したと思っているのぉ? まさかさっきの戦闘で万全の力が発揮できないなんて言わないでよ。手持ちの『フェニックスの涙』は一つしかないんだからぁ」

 

「いえ。肉体は万全です。戦闘に支障はないでしょう」

 

「ならお願いね」

 

「御意」

 

 ヴィシュナは特に文句を言うこともなく恭しく傅いた。他の悪魔であればこうはいかなかっただろう。

 満足気に笑いニシリナはヴィシュナの頭に手を置く。まるで言いつけを守った子供を褒めるように。

 これまでもヴィシュナがニシリナの命に背いたことは一度もない。どんな理不尽な命令を与えようと、無理難題をふっかけようと、ヴィシュナはあっさりそれを成し遂げてしまった。

 今も昔も変わらない。魔剣聖ヴィシュナは、ニシリナにとって一番使えるお気に入りの『道具』だった。きっとこれからもヴィシュナは自分のお気に入りであり続けるだろう。傅いて下を向いたヴィシュナが、今どんな顔をしているのか一切知ろうともせず、ニシリナは勝手にそう信じきっていた。

 

「ふふふふ。安心しなさい。私が目的を果たしきった後は、これまで働いてくれた貴方にも相応の報いをしてあげるわぁ。シャルバやクルゼレイなんて小物にいいように使われてさぞ腹立たしかったでしょう? 私の作る世界では、ナンバーツーの椅子を用意してあげるわぁ」

 

「ありがたき幸せ」

 

 ヴィシュナは嬉しそうな声色で言うが、その顔はまったくの無表情だった。

 結局ニシリナは最後までヴィシュナの本心に気付かぬまま、最も重要な守護の任を彼に与えてしまう。

 これが自分以外の全てを『道具』と見做しているニシリナの弱点なのだろう。道具と見下すが故に、配下の真意を見抜くことが出来ない。道具は嘘を吐かないが、悪魔は嘘を吐く。その当たり前の違いがニシリナは分かっていないのだ。

 ゲートを潜りアポカリプスの中枢部――――異空間へと転移していくニシリナ。それを見送ったヴィシュナは、

 

「精々上手くやることだ。反魔王派をグレードレッドで壊滅させるまでは、お前に付き合ってやる」

 

 亜空間より邪剣を抜き放ち、そう言い捨てた。

 

 

 

 ゲートを潜り抜けたニシリナを待っていたのは、一面が血の色に染め上げられた魔界だった。

 宙を漂う空気も、頭上に浮かぶ空も全てが赤くて紅い。空気を吸い込むごとにニシリナ・レヴィアタンの魔性が疼く。邪気に対して耐性がない人間が、ここへ足を踏み入れれば、五秒も待たずに絶命することだろう。

 そして紅の世界の中心にそれはあった。

 紅のキャンパスにポツンと浮かび上がる黄金の装置。それを操作すると赤と白の台座が新たに出現した。

 ニシリナはラヴィリより抜き取った『赤龍帝』を赤い台座へ置く。すると赤い台座が発光し始めた。後は白い台座だが、ニシリナはそこで一旦手を止めて思考する。

 自分の内側にある『白龍皇』は強力な戦力となりうる。ヴィシュナのことを信用していないわけではないが、敵にはサーゼクス・グレモリーという『超越者』もいるのだ。万が一ヴィシュナが敗れた時のことを考えて、まだ暫くは残しておいた方が良いだろう。

 赤龍帝と白龍皇についてはこれでいい。後は真龍へ捧げる生け贄、グレイフィア・ルキフグスだ。金色の装置を再び操作して、紅の世界に銀色の十字架を出現させる。

 

「悪魔が覇権を握り礎となるんだもの。ルキフグスとしては名誉なことよねぇ。グレイフィア?」

 

 眠るグレイフィアの頬を撫でると、ニシリナは装置のボタンを押した。

 グレイフィアの体がふわりと浮かび上がる。銀色の十字架が生け贄の魂を吸い寄せているのだ。

 意識がない故に抵抗もできず、グレイフィアは十字架に磔にされた。悪魔の弱点である十字架に触れたことで、グレイフィアの顔が苦悶に歪む。十字架はグレイフィア・ルキフグスの悪魔の魂を縛り上げていき、完全に拘束した。

 魂をああも縛られては、もう魔力を練ることすら難しい。これなら意識が戻ったとしても独力で脱出することは不可能だ。

 

「生け贄が儀式の最中に逃げ出さないようにする仕掛けかしらぁ。流石は四大魔王様、色々考えてるのねぇ」

 

 感心しながらもニシリナは装置を動かしていく。

 オーフィスより流し込まれてくる無限のエネルギーが、アポカルスという『機械仕掛けの神』に真龍を手繰る力を与えていく。

 

「さぁ、黙示録を始めましょう」

 

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