ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.32  紅の超越者

 ルシファードを囲むように展開している魔王派の軍勢。そしてルシファードを奪還しにきた反魔王派の軍勢。両軍はルシファード南の地点で対峙した。

 冥界の風を全身に感じながら、サーゼクス・グレモリーは魔王派の軍勢を睥睨する。

 守るに優れたルシファードに籠城せず、態々全軍を出撃させたところに、なんとしてもルシファードに邪魔者を入れてなるものかというニシリナの意思をありありと感じられた。

 ファルビウムという名将を総大将に据えた此度のルシファード奪還作戦であるが、実のところ反魔王派の勝利条件は旧都を奪還することではない。いやエルアナ・ロノウェの齎した情報により、そうではなくなったと言い換えるべきか。

 ニシリナ・レヴィアタンの企てている恐るべき計画。グレードレッドの力を我が物することで、三界を支配しようという野望。

 計画が最悪の形で成就してしまえば、もはやどうすることもできない。

 サーゼクスは『超越者』に数えられる一人ではあるし、その力を解放すれば世界でも十指に入る強者と渡り合う自信がある。しかしそのサーゼクスをもってしても『無限』と『夢幻』は届かぬ頂きなのだ。次元が違うといってもいい。

 情けない事だが断言していいくらいだ。自分含め全悪魔の総力を結集させようと、グレードレッドを倒すことは出来ないだろう。

 故に反魔王派の勝利条件とは、どのような犠牲を払おうともニシリナの計画を阻止すること。

 とはいえニシリナの『計画』について知っているのは、エルアナを除けばサーゼクスとファルビウムだけだ。他の者には一切話していない。どうせ話しても信じてはくれないだろうし、信じたところで恐れ慄き士気を低下させるだけ。下手すれば反魔王派から離反者を招きかねない。ならば最初から話さない方が良いというファルビウムの判断だった。

 

「内乱の終結が優先という理由で、ルシファードにあった四大魔王様の遺産の調査を後回しにしたのは失敗だったな」

 

 研究は門外漢の自分は兎も角、アジュカであれば『アポカルス』の機能についても事前に詳細を掴めていただろうに。そうしていれば『アポカルス』を破壊し、ニシリナの計画を未然に防ぐことも出来たはずだ。

 

「今更後悔しても遅いよ。それよりも君は計画の阻止に全身全霊を費やしてくれ。グレードレッドが出てきたら、もう戦術・戦略が通じる話じゃなくなるからね」

 

「承知している」

 

 サーゼクスの目に、あの時の光景が蘇ってくる。

 

『お嬢様をどうか、助けて頂きたい……ッ!』

 

 エルアナ・ロノウェが情報と共にサーゼクス達に嘆願した魂を懸けるほどの願い。それは命よりも大切な自分の主人を救うことだった。

 反魔王派としても『生け贄』とされつつあるグレイフィアを救うことは、ニシリナの計画阻止にも繋がること。反魔王派として彼女の嘆願を聞き入れない理由はなかった。

 

「良いものだな、ファルビウム。感情と義務の向かう先が同じというのは。迷う必要がない」

 

 反魔王派の英雄としてではなく、サーゼクス・グレモリーという個人の魂もグレイフィアを救いたいと叫んでいる。自分の語った夢に真剣に向き合ってくれた彼女を。誇りのため家の宿命を捨てて、魔王派を裏切ってくれた彼女を。そして幼き日に一度だけ見て、それから憧れ続けてきた女性を。

 こんなにも真っ直ぐな気持ちで戦場に赴けるのは久しぶりのことだった。

 

「そうかい。だったら行き先は分かってるね?」

 

「ああ、目的地目指して真っ直ぐ突撃、そうだろう?」

 

「やれやれ。戦術性の欠片もない個人の力量頼りの力押しなんて優雅じゃないけど、これが一番楽ができるパターンなんだから仕方ない。冥界の未来を頼んだよ、サーゼクス。グレードレッドの力を背景とした三界統一なんて、そんな面倒臭いことは御免だからね」

 

「任されたよ――――征ってくる」

 

 反魔王派の軍勢より離れると、サーゼクスは一人で魔王派の軍勢へ歩き出す。そしてある程度進んだところで足を止め、ルシファード中心部に聳える巨塔を見据える。

 振り返ってみれば反魔王派の面々が、壮絶な顔付きで戦いの火蓋が落とされる時を待っていた。此度の反攻軍の中には首都リリスやルシファードの奇襲で親兄弟、友人を失った者も数多く従軍している。彼等の覚悟と決意は並大抵のものではないだろう。同朋同士で戦うことの虚しさに厭戦気分となっていた反魔王派はそこにはいなかった。

 それをどこか侘しく思いつつも、サーゼクスは再び前を見る。己の義務を果たす為、己の感情に従うため。サーゼクスは『真の姿』を解放する。

 

「ファルビウム!」

 

 サーゼクスが叫べば、分かっているとでも言うかのようにファルビウムが巨大な障壁を反魔王派の全面に出現させた。

 魔王級であるファルビウムによる障壁であれば、超越者の解放の『余波』程度では破れることはない。準備は全て整った。

 サーゼクスがこれまで『悪魔』という殻に閉じ込めてきた段違いの魔力。それを解き放っていく。

 発生する滅びの魔力がサーゼクスの体を紅色に染め上げていった。余りにも巨大なエネルギーの奔流に、大地そのものが耐え切れずに震動し始める。

 それはさながら天変地異の前触れだった。地面には皹が奔り、漏れ出す消滅のオーラが周囲にあるものを片っ端から消し去っていく。

 そして遂にサーゼクスの肉体が完全に紅に呑まれると、莫大な魔力が一気に爆ぜた。

 災厄が終われば、そこに現れたのは人型に浮かび上がる滅びのオーラ。遍く全てを消し去る滅びの化身。それが『超越者』サーゼクス・グレモリーの本性だった。

 人型に凝縮しきれなかった滅びの魔力が、サーゼクスの意思とは無関係に、まるで地面にぶちまけられた水のように広がっていく。

 広がる『滅びの魔力』はサーゼクスの周りにあるものを問答無用で無に還していくが、単なる漏れ出した余剰魔力では、ファルビウムの障壁までは滅ぼすことができず、反魔王派に被害はなかった。

 嘗ての魔王ルシファーの十倍以上の魔力を解き放ったサーゼクスに、それと対峙している魔王派は完全に慄いている。

 しかし容赦するつもりはない。というよりこの姿になった時点で、手加減は出来なくなってしまっている。今の自分に出来るのは『滅ぼす』ことだけだ。

 とはいえ彼等の大半はただ命令に従っているだけの下級・中級悪魔。無暗に殺戮するのは忍びない。よって、

 

『退け』

 

 犠牲は最小限に。溢れんばかりの消滅魔力を一方向へ集中、ルシファードへ至るルートにいる者だけを一切合財滅ぼし尽した。

 流れる血すら蒸発させ、開かれた血路。魔力を震わせて、サーゼクスは真っ直ぐそこへ飛び込んでいく。

 

「い、行かせるな!」

 

「奴を止めろ!」

 

 魔王派の将の命令に何百もの悪魔たちが、サーゼクスに向かってきた。サーゼクスはそれに対してなんの迎撃もしない。足を止めることなく、ひたすらに直進を続ける。

 それで十分だった。触らぬ神に祟りなし、という諺があるが今のサーゼクスはこれを体現していたといえるだろう。

 サーゼクスに近付いてきた悪魔達は、その瞬間になんら抵抗もできず消滅した。さながら太陽に近づきすぎて、蝋燭の翼を溶かしたイカロスのように。真の姿を解放したサーゼクスに〝近づく〟ことが出来るのは、最上級悪魔級以上の実力者だけだ。

 

「全員、下がれ! 私が相手をする……!」

 

 それを真っ先に理解した魔蒼騎士団の長、イザロ・フォロカルが愛剣を抜刀してサーゼクスに向かっていこうとする。

 サーゼクスも自分に〝近づける〟敵の出現に、意識をそちらに傾けた。だが、

 

――――手を出す必要はない。その男は私が相手をする。

 

 アポカルスより響いてきた声に、イザロ・フォロカルは攻撃を中止する。

 

「魔剣聖様? ………分かりました。どうかご武運を」

 

 無骨にして頑固で知られるイザロ・フォロカルも己の師の命には従順だった。魔王派屈指の実力者たるイザロ・フォロカルを素通りした時点で、もはやサーゼクスを遮る者はいなかった。

 サーゼクスは一人、ルシファード内部へと入る。虐殺により市民の消え失せた街並みは、不気味なほどに静かで完全に廃墟の様相を成していた。

 後方から多くの声が入り混じった雄叫びが届いてくる。サーゼクスがルシファードへ入ったことを確認して、ファルビウムも動いたのだろう。魔王派と反魔王派が正面より激突していた。

 そしてサーゼクスは声のした場所、アポカルスの麓へと降り立つ。

 

「やはり来たか、サーゼクス・グレモリー」

 

「……魔剣聖」

 

 片や異形殺しの邪剣を手に、片や万物を滅ぼす魔力を帯びて。

 紅の悪魔と蒼の悪魔は再び邂逅した。

 

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