ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.37  紅銀のデュアリズム

 サーゼクス・グレモリーと魔剣聖ヴィシュナ。魔力攻撃を得意とするサーゼクスと、剣による近接を得意とするヴィシュナでは、戦闘スタイルはまるで異なるが、実力においては拮抗しているといっていいだろう。

 接近戦ではサーゼクスはヴィシュナに遠く及びはしないが、逆に魔力戦ではヴィシュナはサーゼクスの足元にも及ばない。魔力の才はからっきしのヴィシュナは、代わりに魔法を幾つか修得してはいるものの、それは全て補助用のもの。自分と同格の敵との戦闘で使えるレベルにはないのだ。

 ただ魔力勝負はさっぱりのヴィシュナだが、別に遠距離戦闘が出来ないというわけではない。邪剣のオーラを飛ばすなり、飛ぶ斬撃を放つなり、ヴィシュナには剣士らしい遠距離攻撃の術がある。だがやはり剣士の本分は接近して敵を斬り屠ること。遠距離戦でサーゼクスに分があるのは疑いようがないだろう。

 戦いの内容が近づこうとするヴィシュナと距離をとるサーゼクスという形になったのは必然であり、それ故に先の一騎打ちでは互いにとって得手でも不得手でもない中距離で、激しく戦いを繰り広げたわけだ。

 もう一度だけ言おう。サーゼクスとヴィシュナの実力は拮抗している。

 

――――だからこそ形勢は圧倒的にサーゼクスが不利だった。

 

 轟雷のようなヴィシュナの剣戟の嵐に、サーゼクスは防戦一方で反撃の糸口をつかめない。

 何度も言うようだがサーゼクスとヴィシュナの実力は拮抗していて、ほぼ互角である。もしも互いに万全であれば、サーゼクスがこうも押されることはなかっただろう。

 しかし実力が『互角』ということは、条件が一方にとって不利ならば、そちらに天秤が傾くということだ。

 如何に『超越者』といえど体力と魔力は無限ではない。眠らずに活動し続けることなんて出来ないし、魔力を使い過ぎれば枯渇することもある。

 ヴィシュナとの戦いとニシリナとの激戦。この二つの戦いでサーゼクスは既にかなり消耗していた。対してヴィシュナは『フェニックスの涙』で、完全ではないまでもダメージを回復している。この差は非常に大きかった。

 サーゼクスは苦渋を滲ませながら、闘志だけは失わずに猛攻を凌いでいく。どうにか持ち堪えられているが、このまま続けてもじり貧だ。そろそろ挽回していかなければならないだろう。残りの魔力に気を払いながら、サーゼクスは反撃のチャンスを伺う。

 

『邪剣・釈迦飛輪』

 

『ちぃ……っ!』

 

 消滅魔力の防壁を食い破り、ブーメランのように飛んできた邪剣を躱す。しかしヴィシュナの攻撃はそれだけで終わりはしない。雷光染みた勢いで飛来した邪剣、それを回避したサーゼクスに、猛虎を思わせる構えでヴィシュナが襲い掛かってきた。

 剣士であるヴィシュナが剣を投げつけるという戦法は、当然ながら最大の武器たる剣を失うというリスクを孕んでいる。だがリスクをリスクとしないほど、ヴィシュナは五体を武器とする武術にも精通していた。

 この勢い、引き離すことは不可能。瞬時に判断したサーゼクスは、消滅魔力を甲冑として纏ってヴィシュナを迎え撃つ。

 

『ハッ――――ッ!』

 

 槍の貫通力を備えた貫手が繰り出される。蒼き闘気を滲ませたそれは、魔槍そのものの破壊力を有しているだろう。

 サーゼクスは腕を十字にクロスさせて貫手を受け止める。

 

『ぐ、ぅ……ッ!』

 

 両腕に痺れるほどの激痛が伝わった。鎧がなければ、腕など容易く貫通して、心臓を破壊していたと確信できる威力である。だがサーゼクスの『鎧』はしっかり役目を果たしてくれていた。痛みはしたが、ダメージは微々たるものである。戦闘に支障はない。

 お返しとばかりにサーゼクスは、ヴィシュナに渾身の前蹴りを喰らわす。蹴り飛ばされたヴィシュナに、紅の刃が殺到し消滅の毒を送り込んだ。

 あのニシリナ・レヴィアタンが絶叫したほどの激痛。それにヴィシュナはまるで堪えることなく、サーゼクスに逆襲の一撃を放ってきた。

 凝縮された闘気の塊が命中し、サーゼクスは柱に叩き付けられる。

 

『流石……やるっ』

 

 サーゼクスと違って、鎧など纏っていないヴィシュナには直にダメージがいったはずだ。だというのにヴィシュナは顔色一つ変えはしない。

 痛みを感じていない、なんてことはないだろう。ヴィシュナはしっかり苦痛を味わっているのだ。だというのに一切表情にも出さず、動きも乱さないのは、決して根性や精神力のみによるものではない。精神力や根性にも限度がある。どれだけ根性があろうと痛いものは痛いのだ。

 それを完全に耐えきれているのは一重に慣れだ。痛みを味わい慣れているからこそ、痛みを耐えることができる。ありとあらゆる苦痛を味わってきたヴィシュナは、痛みというものに耐性ができているのだ。

 だからどんな苦痛を味わおうと止まることはない。命を奪うか、意識を奪うかするまでヴィシュナは半永久的に戦い続けることが可能だ。

 こればかりは経験値の差がある。ヴィシュナと同じ真似はサーゼクスには出来ない。しかしヴィシュナがサーゼクスに出来ないことをやるのならば、サーゼクスはヴィシュナの出来ないことをやってやればいい。

 機械以上に精密無比な緻密なコントロールこそがサーゼクスの本領。サーゼクスの思念を受けて自在に飛び回る『魔弾』が三十個周囲に展開した。

 

『ゆけ、魔弾たち!』

 

 高速で動く魔弾が、囲い込むようにヴィシュナへ襲い掛かる。

 上下左右へと激しく動く二つの眼球。ヴィシュナは空間全体を把握しながら、サーゼクスが魔弾に思念を飛ばしたように、チャクラムとなって飛び回る邪剣へ指示を送った。

 

『舞え、飛輪』

 

 ヴィシュナと共に冥府魔道を歩み、無限の返り血を浴びたことで邪剣へと変貌した大剣。それはもうヴィシュナにとっては肉体の一部、魂の欠片にも等しい。思念を送ることで遠隔操作することなど造作もないことだった。

 方向転換した邪剣が回転を強めながら、ヴィシュナを襲おうとした魔弾を逆に襲っていく。魔弾の一角を崩し、突破口を開いたヴィシュナは強烈な踏み込みで包囲網を脱出する。

 そしてその勢いのままにサーゼクスへ突進してきた。

 

『まだまだ……!』

 

 剣を持っていないとはいえ、徒手空拳でもヴィシュナの近接戦闘力はサーゼクスのそれを凌駕する。接近させる訳にはいかない。

 再び魔弾を生成すると、それをヴィシュナへと飛ばす。だがヴィシュナは最小限の動きで魔弾を回避していき、その速度が衰えることはなかった。みるみるうちにサーゼクスとの距離を詰めていく。

 

『どうした? 魔弾のキレが鈍っているぞ』

 

『っ!』

 

 図星をつかれたサーゼクスは、苦肉の策として消滅魔力を全力解放して巨大な障壁を展開した。

 闘気で全身を覆ったヴィシュナの突撃が、一撃で障壁に皹を入れる。しかし壊れることはなかった。ヴィシュナをもってしても異形殺しの邪剣抜きに、サーゼクスの全力の障壁を易々と破壊することは出来ない。

 障壁で稼げる時間など微々たるものであるが、サーゼクスにとってはそれだけで十分。ヴィシュナが足止めを喰らっている間に、十分距離を離した。

 そして意識を集中させて、肉体の底から魔力を引き出していく。

 恐らくヴィシュナは障壁を破るため、邪剣を手元に戻してくるだろう。そこを狙う。

 

『こんなもので!』

 

 サーゼクスの予想通りとなった。邪剣を回収したヴィシュナは、その一斬をもってあっさりと障壁を打ち破る。

 障壁が破られサーゼクスとヴィシュナの間を遮るものが消え去る瞬間、それを待っていた。ヴィシュナが剣を振り下ろしたタイミングで、消滅魔力の槍軍が一斉掃射される。

 一撃一撃が百の軍勢を消し飛ばす破壊力を内包した槍だ。ヴィシュナといえど喰らえば一溜まりもないだろう。……というのは余りにも楽観的過ぎる考えだった。

 

『邪剣・六道阿頼耶』

 

 百の軍勢を消し飛ばす、百の槍軍。それが見えざる神速の刃によって悉く叩き落されていく。

 たった一振りの剣をもって、百の軍勢に挑む。それは正しく神話英雄譚にて語られる英雄そのもの。天使・堕天使・悪魔を粛清することを大義とするヴィシュナ。或は彼の姿は、三大勢力とまるでなんの縁もない『人間』の目には英雄として映るのだろうか。サーゼクスはふとそんな感傷を抱いた。

 ヴィシュナの剣速は遅くなることなく、それどころか速度を増していき、遂に迫りきた槍全てを迎撃してしまう。

 

(不味い!?)

 

 槍軍の一斉掃射を行ったことで、サーゼクスには大技を繰り出した後の反動が伸し掛かっている。一刻も早く反動から回復して、防御をとらなければ……即ち死。

 それはヴィシュナも理解しているのか、槍軍を迎撃し終えて直ぐにヴィシュナが必殺剣を披露する。

 

『邪剣・真空輪袈裟』

 

 紅の世界を真っ二つに両断して飛ぶ凶つ風。結界、空間、異形、神。森羅万象全てを一刀両断する斬撃が放たれた。

 

『うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 迫りくる『死』を前に、サーゼクスは文字通り全魔力を防御へ集中させた。

 紅の魔力が『異形殺し』の斬撃を堰き止める。しかしそれも数瞬のこと。凶つ風は紅の防波堤を突き破り、サーゼクス・グレモリーを切り裂いた。

 

『がっ……!』

 

 消滅魔力の全身鎧は、剣に触れた途端に粉々になった。

 傷口から流れ込む異形殺しの呪い。異形にとっての猛毒が、サーゼクスの魂まで犯し尽さんと全身全経を巡っていく。サーゼクスは自身の生命力を総動員して、毒の進行を抑え込んだ。

 

『ハァ……ハァ…………くっ』

 

 どうにか消滅魔力で体内の呪いを『消す』ことに成功する。

 消滅魔力の鎧があったお蔭で九死に一生を得た。あれが威力を削っていてくれなければ、毒を抑えきれずに戦闘不能になっていたところである。

 とはいえ不味い状況なことに変わりはない。戦闘が始まってからサーゼクスが与えた有効打はゼロだ。逆にサーゼクスはかなりの一撃を貰ってしまった。

 加えて言えば残り魔力も心許ない。ニシリナとの戦いで些か以上に魔力を使い過ぎた。このままの勢いで五分も戦えば、魔力が枯渇してアウトである。

 

『どうした、もう終わりか?』

 

 余裕風を吹かしているつもりなのか、ヴィシュナはサーゼクスを見下ろしたまま襲ってこない。敵が来ないのならば好都合だ。その間に気を整え、荒れた魔力の波を整えることに集中する。

 こんなにも『真の姿』で戦い続けたのは初めての経験だ。そのせいか巨岩のような疲労感が背中に伸し掛かってきている。少しでも気を抜けば、今にも通常の悪魔の姿へと戻ってしまいそうだ。

 絶体絶命の危機とはこの瞬間のことをいうのだろう。このまま続けても勝ち目がないのならば、一か八かギャンブルに打って出るのも一つの手だ。

 

(幸い……最大最強の一撃を放つだけの魔力はぎりぎり残っている)

 

 最大最強の滅びの魔力によって、一撃でヴィシュナを撃滅する。それは現状サーゼクスが考えうる唯一の『勝ち目』であった。

 尤もそれは正真正銘の大博打である。こんな状態で最大最強の一撃を放てば、文字通りサーゼクスは全力を使い切って魔力を枯渇させる。そうなればもう戦うことは出来ない。

 つまり最大最強の一撃を放ってヴィシュナを倒し切ることが出来なければ、その時点でサーゼクス・グレモリーの敗北が確定するのだ。

 

(私に、出来るのか……? 彼を一撃で倒し切ることが……)

 

 サーゼクスの『必殺技』はその名の通り必殺だ。直撃すれば例え神仏だろうと天龍だろうと一撃で消し去る自信はある。相手がヴィシュナでも『直撃』すれば一撃で屠ることは可能だろう。

 けれどそれはあくまで『直撃』すればの話。ヴィシュナが必殺技を棒立ちして受けてくれるはずがないし、当然ヴィシュナはサーゼクスの攻撃に対して迎撃をしてくるはずである。その迎撃で『必殺』に届かないほどに威力が減衰させられれば、それでもう終わりなのだ。必殺を放ってしまえば、サーゼクスに次などないのだから。

 軽い消滅魔力を飛ばす程度の力は残るかもしれないが、言うまでもなくそんなものヴィシュナ相手ではなんの役にも立ちはしない。

 

『戦意が折れたか、闘志が折れたか、それとも思考の最中なのか。どちらにせよ待つのも飽きた。来ないのならば、こちらから』

 

『……!』

 

 ヴィシュナが剣を振るうと、斬撃は鎌鼬となって飛んだ。これまでの怒涛の必殺の応酬と比べれば、生易しい威力であるが、消耗しきって少しでも魔力を温存しておきたいサーゼクスには厄介な攻撃だ。

 威力は低くとも速度は十分。回避するのが難しいとなれば、やはり魔力で相殺するしかない。

 しかしサーゼクスが紅の魔力で蒼い闘気を相殺しようとした刹那。麗しい銀色の髪を靡かせ、殲滅姫と謳われた悪魔が戦いに割って入った。

 

『――――!』

 

 驚く暇も声を上げる時間もない、本当に一瞬の出来事だった。グレイフィア・ルキフグスは蒼い闘気を、自らの白銀の魔力をもって相殺する。

 

『――――ほう』

 

 ヴィシュナがどこか弾んだ声を零して、嘗ての同朋たるグレイフィアを見る。そして何を思ったのか、ヴィシュナは剣を降ろした。

 一方で当のグレイフィアは、ヴィシュナが剣を下ろしたことを確認もせず、すたすたとサーゼクスに近付いてくる。

 消耗しているがサーゼクスは『真の姿』を解放している状態だ。近づくだけでも危険なのだが、グレイフィアはそんなのまるでお構いなしだ。

 何が何だか分からないが、本能が危険を察知する。事情はさっぱりだが、今のグレイフィアが怒っているのだけは分かった。

 無表情ではあるが、瞳には隠しても隠し切れない怒りのオーラが爛々と光っている。

 

『ぐ、グレイフィア……? これは私とヴィシュナの一騎打ちで――――い、痛い痛い痛い! ひたひよ、グレイフィア』

 

 グレイフィアがサーゼクスの頬を思いっきり引っ張り上げた。これまで受けた痛みとはまるでベクトルの異なる痛みに、サーゼクスは涙目さえ浮かべて抵抗する。

 しかしグレイフィアは徹底して容赦がなかった。頬を輪ゴムのように引っ張りながら、母・ヴェネラナ・グレモリーを想起させる剣幕で口を開く。

 

「周囲の記憶を魔力で読み込んで、大まかな事情は分かったわ。貴方達二人がニシリナ様を倒すのに共闘したことも、そして冥界の未来をかけて戦っていることも」

 

『そ、その通りだとも。だからこうして一騎打ちを……あ、いたたたたたたたっ!』

 

「消耗しきった貴方じゃ『フェニックスの涙』で回復したヴィシュナ相手に勝機は薄い。だったらどうして助けを借りようとしないの? 私が貴方の近くにいるのに……』

 

『え、いやそれは……』

 

「男と男のタイマン勝負、大いに結構です。私もこれがプライベートな決闘なら口を挟みはしないわ。けどこれは冥界の命運をかけた勝負、貴方一人の問題じゃないのよ」

 

『し、しかしヴィシュナに私が魔王に相応しいと証明しなければ』

 

「貴方には冥界を改革する夢があるのでしょう? だったら意固地にならないで、例え恥をかいても助けを求めなさい。一人では不可能なことでも、二人いれば可能かもしれないのだから。“四大〟魔王とはそういうものでしょう?」

 

『――――!』

 

 サーゼクスの頭にかかっていた靄が晴れていく。

 嗚呼、本当にグレイフィアの言う通りだ。反論の余地がまるでない。

 一人でやれることには限界がある。サーゼクスの夢である『改革』だって一人の力では出来ない。セラフォルー、アジュカ、ファルビウム……。夢に賛同してくれた皆の助けがあって初めて、壮大な未来図は実現可能となるのだ。

 

〝一人では神に及ばずとも、四人が結束すれば神をも倒す〟

 

 四大魔王像に込められた意味を思い出す。

 もしもサーゼクス・グレモリーが偉大なる四大魔王の後継者として『新しい魔王』となるのであれば、決して自分一人の力を頼みとしてはいけないのだ。

 

『すまない、グレイフィア。ありがとう、お蔭で目が覚めたよ。ついでに一つお願いがあるのだが、いいだろうか?』

 

「なにかしら?」

 

『私と一緒に戦って欲しい。出来れば――――これからずっと。私が夢を果たした後も、私の隣で歩いてくれないだろうか』

 

 告白の言葉は自然と口から溢れてきた。いきなりのことにグレイフィアはキョトンとしていたが、やがて薄く微笑んで差し出された手を握る。

 

「条件があるわ」

 

『なんだい? 私に出来る事ならなんでもしよう』

 

「ヴィシュナを倒して、冥界の危機を救って。私と一緒に」

 

『俄然、やる気が湧いてきたよ』

 

 紅の超越者と銀の殲滅姫はここに肩を並べ、蒼い鬼神と対峙する。

 グレイフィアに握られた手から、彼女の白雪のような魔力が送られてきた。他人の魔力だというのに、それは自分のものと同じように全身に染みわたって肉体を活性化させる。今ならば誰が相手だろうと負ける気がしなかった。

 

『女の力を借りて、勝利を望むか。サーゼクス・グレモリー』

 

『私が目指すのは最強無敵の超越者ではない。皆を導き、皆と歩む魔王だ』

 

『―――――良い答えだ。ならば、こちらも相応の業をもって相手しよう』

 

 或は彼はサーゼクスがグレイフィアに助けを求めることを待っていたのかもしれない。微かに、ヴィシュナの口元が綻んだように見えた。

 ヴィシュナの全闘気が邪剣へと集まり、邪剣の邪気も最大限に増幅されていく。清廉なる闘気と邪悪なオーラは反発しながらも融合していき、蒼黒いエネルギーが異形殺しを覆いこんだ。

 途方もないエネルギーの奔流に、ヴィシュナの周囲に暴風が吹き荒れる。これよりヴィシュナが繰り出すは、魔剣聖の辿り着いた邪剣の極地。ヴィシュナの全生涯が宿った至高の一斬だ。

 ならばサーゼクスとグレイフィアがとる選択肢は一つ。全魔力を注ぎ込んだ最大級の必殺をもってしか、ヴィシュナの奥義を破る術はない。

 グレイフィアから送られてくる魔力を、サーゼクスは己のものに変換していく。紅の消滅のオーラに、徐々に銀色が混ざっていった。

 先に動いたのはヴィシュナ。

 

『最終邪剣・無間滅戒』

 

 全闘気と全邪気の一斉解放。蒼黒いオーラは究極の斬撃となって、サーゼクスとグレイフィアを呑み込まんと迫る。

 流石は魔剣聖の奥義。無限ならぬ無間の力とは恐れ入る。こんなものを喰らえば『聖書の神』だろうと二天龍であろうと死は免れない。或は無限と夢幻にも届き得る最大最強の業だった。だが、

 

「遍く照らせ紅銀の光明(シルバリオ・クリムゾン・ブレイカー)」

 

 紅と銀色の混ざり合った閃光が、死の濁流へと真っ直ぐ向かっていく。

 蒼黒い無間と、紅銀の閃光。最大最強の一撃が、余波で周囲の柱を薙ぎ飛ばしながら激しく拮抗する。

 

――――最後にもう一度だけ言おう。

 

 サーゼクスとヴィシュナの実力は拮抗している。ならばたった一人で戦ったヴィシュナと、隣にグレイフィアのいたサーゼクスの差は絶対的だった。

 万物を呑み込む濁流を、万物を貫く閃光が消し飛ばす。紅銀の閃光はそのままヴィシュナへと迫った。

 果たして自分の命を奪わんと疾駆する閃光に、なにを見たというのか。

 

『――Nice fight(良い戦いだった)

 

 朗らかに笑い心からの賞賛を、自分を倒した二人の悪魔へ送る。

 紅銀がその体を射抜いたのはその直ぐ後のことだった。

 

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