ハイスクールD×D 内戦地帯のクリムゾン・デビル   作:出張L

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Life.5  童貞たちの狂宴

 その日の夜、サーゼクスとラインは二人で夜の街へ繰り出していた。

 夜の街へ繰り出すと聞けば、なにやら如何わしい店に行くような雰囲気がある。

 戦争などの極限状態に置かれると性的欲求が旺盛になるのは、人間も悪魔も同じなわけでルシファードには『そういう店』もかなり存在していた。男性の心のオアシスでもある『そういう店』では、日夜サキュバスの皆様が営業に励んでいる。

 欲望と背徳にかけては並ぶ者なしの悪魔、それも特に『そういったこと』を専門とする淫魔の経営する店だ。どのような客の性癖にも完璧に対応してくれるため、男にとっては天国よりも天国な場所といえるだろう。数百年前だかに冥界を訪れた人間が『ユートピアはここにあったのだ……』と血の涙を流して叫んだのは有名な話である。

 さて。散々悪魔社会の夜の街について語りはしたが、別にサーゼクスは後輩を引き連れて『そういう店』へと行った訳ではない。

 サーゼクスもラインも男。そういうことに対する興味も一入ではあるのだが、どうにも踏ん切りがつかず未だに一歩を踏み出せないのだ。

 人間社会にも悪魔社会にも夜の街が存在するのと同じように、そういう店に行きたくても周囲の目が気になり、中々行けない者はいるということである。

 初めてのキス、初めての結婚、初めてのエロ本購入。種族問わず〝初めて〟というのは甘美であると同時におっかないものなのだ。

 では『そういう店』に行ったわけでないのならば、どういう店に行ったかというと…………なんのことはない。極普通の酒場だった。

 ただそこはサーゼクスにとってはただの酒場ではない。

 サーゼクスは若いが冥界にとっては英雄。それもルシファードの司令官でもある。そのため酒場などに下手に赴けば、それだけで大騒ぎになりかねない。故に酒場についても慎重に選ぶ必要があった。

 サーゼクスの入った極普通のなんてことはない酒場。しかしその酒場のオヤジはサーゼクスとは顔見知りであり、更にサーゼクスに借金をしている身分ともなれば、個室を融通させることなどは実に容易いことだ。

 酒場の店主は借金の返済を待ってもらえ、サーゼクスは後輩と二人でゆっくりと飲むことができる。双方にとって利のあるギブアンドテイクの関係というわけである。

 

「ライン。今日は私の奢りだ。幾らでも飲むといい」

 

「まじっすか! ありがとうございます! 実は俺、一度でもいいから意識が消し飛ぶほど飲みたかったんっすよね~。うちは金持ちの癖してケチだから、遊ぶお金なんて全然くれないし。おまけに給料の半分は貯金だとか言って奪われるし……」

 

「そういえばダンタリオン卿は倹約家で有名だったな」

 

「ありゃもう病気っすよ。仮にも七十二柱の名家だっていうのに使用人一人雇わないし、野菜は自分の農地で栽培したものしか食べないし」

 

「いいじゃないか、健康的で。家庭菜園のようなものだろう」

 

「一か月の昼食の半分は猫あんまだし」

 

「味の好みは人其々さ」

 

「あと同じ服を五百年以上使い続けてるんっすよ」

 

「……そ、それは凄まじいな」

 

 悪魔の寿命は一万年だが、悪魔の服も一万年長持ちするわけではない。サーゼクスの実家のグレモリー家も物は大事にする方であるが、流石に五百年間も同じ服を着続けることはないだろう。

 質素倹約もここまでくると執念めいたものすら感じる。

 

「まぁだから三大勢力の戦争でも軍勢の派遣とかケチりまくって、今でもそこそこの戦力とか財産が残ってるんっすけどね。あんまりにケチ過ぎるもんで、四大魔王様の心象は最悪だったらしいっすけど。なんでも当時の魔王様に資金援助を求められたのを断ったとか」

 

「ダンタリオン家が真っ先に反魔王派になるわけだ」

 

 先輩後輩だけあってサーゼクスとラインの会話は和やかに続く。

 ちなみにセラフォルーはいない。なんでも実家に二言三言ほど連絡があるそうで、今は転移魔方陣を使って一時的に帰省している。本当に連絡があるだけだそうなので、今日中には戻ってくるはずだ。

 とはいえ仮にセラフォルーが帰省せずとも、サーゼクスが彼女を誘うことはなかっただろう。これは決して仲間外れにしたいわけではなく、男には男同士で会話したいことがあるものなのだ。

 

「なぁ、ライン。ライン・ダンタリオン。実はだ。私は今日、とんでもない体験をした」

 

「と、とんでもない体験?」

 

 後輩と雑談に興じるというのも楽しいが、このまま続けていたら本題を切り出す前に閉店時間になってしまいそうだ。

 なので話が一段落してから、サーゼクスは真剣そのものの目で切り出す。

 

「魔王級の兄貴がそんな深刻になるほどの体験って、まさか魔剣聖絡みっすか?」

 

「違う。まったくの無関係というわけではないが、彼と直接的に繋がるものではない」

 

「魔剣聖じゃないとなると、銀髪の殲滅姫(プリンセス・オブ・ディバウア)っすかね」

 

「そうだ」

 

 ラインが銀髪の殲滅姫――――グレイフィア・ルキフグスの異名を出すと、サーゼクスは首を縦に振って肯定した。

 魔王派の双璧の名は反魔王派にも恐怖と畏敬と共に知れ渡っている。ラインが緊張し唾を呑み込む音が、外の喧騒とは切り離された密室ではよく聞こえた。

 

「セラフォルーがグレイフィアと魔蒼騎士団の一団の奇襲を受け、私がその援軍として駆け付けたことは君も知っての通りだ。だがその時に――――」

 

「そ、その時に?」

 

「胸を、見てしまったんだよ」

 

「………………――――――は?」

 

 ライン・ダンタリオンが硬直する。エジプトの古代神官文字を目にした、幕府のサムライのように理解不能といった眼差しを向けた。

 しかし思考停止していたラインも、次第にサーゼクスの言葉を咀嚼していく。徐々にだが唖然とした表情に驚きが濃くなっていった。

 そして驚きの色が唖然を塗り潰した瞬間、ラインの絶叫が響き渡った。

 

「え、えええええええええええええ! ま、ままままままままままままじっすか!?」

 

「真剣と書いてマジだ」

 

「胸ってあの胸ですよね! 胸の内とかいうオチじゃなくて!」

 

「間違いなくあの胸だ」

 

「ぼ、ボインっすか!?」

 

「そう、ボインだ! 寧ろボインボインだ」

 

「ボインボイン!?」

 

「俗な呼び方をするならばおっぱいだ」

 

「イエス、オッパイ!」

 

「幼女は?」

 

「ノータッチ!」

 

 がしっと固く握手をする。

 やはり後輩というのは素晴らしい。語らずともお互いの言わんとしたことを通じ合うことができるのだから。

 サーゼクスが後輩の持つ無限の可能性に感動していると、ラインが何処からともなく伊達眼鏡を取り出していた。

 口調は貴族らしからぬ所はあるが、顔立ちは中々に整っているラインである。こうして眼鏡をかけると政府に仕える高級官僚のようであった。

 尤も隠しても隠し切れぬピンク色の欲望が、それを台無しにしているわけだが。

 

「詳しく話を聞きましょうか。どういう経緯であのグレイフィア・ルキフグスのお……おっぱいを見たというのですか? 内乱前は数々の社交界で貴公子の誘いを受けながらも、その悉くを断ってきたという鉄壁の姫君の胸を! 鉄壁に隠されたたわわな双丘を!」

 

「勘違いしているようだから一つだけ訂正しよう。私は意図的に彼女の胸を見ようとしたわけではない。彼女と交戦した際に肉弾戦となってね。その戦いの余波で彼女の戦闘服が破け――――まぁそういうわけさ。

 要するに彼女の胸を見てしまったのは、要するに偶発的な事故なのだよ。私は悪くない」

 

「つまりはラッキースケベと?」

 

「ああ。きっと私は今日が人生で一番幸運な日なのだろう。理想郷ならぬ理想胸を目の当たりにしたのだから」

 

「くっ! どうして俺は兄貴に着いていかなかったんだッ! ライン・ダンタリオン、生涯の不覚……!」

 

 飲んだ酒を吐き出すような勢いで、ラインが屈辱に身を震わせる。サーゼクスは優しげな微笑みを浮かべてポンと肩に手を置いた。

 

「ドンマイ」

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!」

 

 その一言が切欠となって、ラインの涙腺が決壊する。これまで摂取した水分が全て涙へと変換され、ラインの目より流れ落ちていく。まるでではなく、もはやそれは滝そのものだった。

 しかし転んでもただでは起きないのが童貞の童貞たる所以だ。ラインは瞳孔を開きながら詰め寄る。

 

「教えてください……銀髪の殲滅姫の…………ボインは、どのような代物でしたかっ?」

 

「悪魔の私がこんなことを言うのは妙な話であるし、亡き四大魔王様達に不敬かもしれない。だが敢えて言おう。神であると!」

 

「か、神っ!?」

 

 ライン・ダンタリオンが神託を受けたジャンヌ・ダルクのように感動に身を震わせた。

 

「そう、神さ。なにが神かと言うと説明が長くなるのだが、実のところ胸単体が神なんじゃあないんだ。胸のインパクトがあんまりにも衝撃的かつ鮮烈だったから、私は君に『胸を見た』と。ただそれだけ言ってしまったが、私が真に感動したのは胸だけじゃないのだよ。

 胸……そもそも男というのは女性の胸に興奮を覚える生き物だが、ただ大きければなんでも良いというわけじゃない。グレイフィア・ルキフグスの胸は巨乳であり美乳である至高のおっぱいだ。これは反論の余地などないし、異論を認めはしない。異論する者がいれば、寝る間も与えず説教するだろう。

 だがしかし。もしも彼女の至高の胸が、筋肉質のマッチョ男の胸板にあったとすれば、果たして我々男子はそれに興奮を覚えるだろうか? 否だ、断じて否だ。

 我々男性は至高の胸に感動するのではなく、至高の胸を持つ女性にこそ感動するのだよ。分かるかい? 悪魔という種族が、契約者たる人間がいなければ存在できないように、胸だけでは真の興奮を得ることはできないのさ。勿論、顔や体を隠して胸だけが露出された状態で、果たしてその胸の持ち主がどういう女性なのかを想像するというのも、これはこれで味があることなのであるが、そのことについて語りだしたら原稿用紙三百枚が埋まるので今は置いておこう。

 そしてここでもう一度、話をグレイフィア・ルキフグスへと戻そうではないか。

 私はグレモリー家の長男として断言する。グレイフィア・ルキフグスは美女だ。雪のように白い肌。細く長く、なのにムッチリとした色気を宿した足。クールな眼光で睨まれれば、その手の性癖の持ち主なら……いいや持ち主でなくともクラッときてしまうだろう。ぶっちゃけてしまうと私は決してMというわけではないのだが、不覚にも少しクラッとなった。

 しかも彼女が着ていたのはボディーラインを強調するような戦闘服だったから、抜群のプロポーションがこれでもかというくらい明確に伝わってきた。

 その戦闘服が破けているのだよ! 胸以外にも、生足のラインや! 肩の所が!

 露骨に尻が丸出しとかじゃないところがミソだ。チラリズムというものでね。丸出しもそれはそれで良いものだが、大事な部分が見えそうで見えないギリギリさに、我々男子のエロき精神が高ぶるのさ。

 で。そんな彼女の胸元が破けて胸が露わになってしまったわけだ。これだけでも私の目的した光景が、悪魔文明の文化遺産と言っても過言ではないことは理解できただろう?

 戦闘中の疲労でほんのりと汗ののった乳房。それがたゆんたゆん揺れるのだよ! 私の、この、目の前で!

 しかも服と一緒に裂けてしまったであろうブラが、さながら釣り糸のように垂れているというオマケつき! 破けた黒いブラジャーという背徳的でエロスな存在が、彼女の未だ男に踏み荒らされたことのないであろう純潔の白い肌をより強調し、その魅力は300倍だ! 人類誕生の感動ここにありさ!

 極め付きは私に胸を見られてしまった彼女の反応だよ。

 あの常にクールで氷のような美貌をもつグレイフィア・ルキフグスが、だ。羞恥心で頬を赤くして、慌てて胸を隠すのだよ。こう身を守るように、目元を潤ませ恥じらいながら。

 私はあの瞬間、宇宙誕生の衝撃を受けたね。もし感動で世界が滅びるならば、恐らくあの時、世界は滅亡していたことだろう。

 世の中に完璧なんてものはない。私はこれまでそう信じてきたが、それは誤りだった。

 完璧なものはある。確かに存在したのさ。

 胸の大きさ。

 胸の美しさ。

 破けた胸元。

 破けたブラ。

 チラリズム。

 胸を見られてから隠すまでの一連の流れ。

 普段のクールな態度と恥じらった顔のギャップ。

 彼女の胸を見たあの瞬間のシチュエーションは完璧だった。まるで天界の神が奇蹟を齎したかの如く。

 もしもアレが神の奇蹟だというのならば、私は悪魔でありながら神の信徒になることを迷いはしないだろう。

 危険な発言をしていることは理解している。こんなことを聞かれたら問題にもなりかねないだろう。

 防音の結界が張られているから、誰かに聞かれる可能性は皆無ではあるが、それでも危険なことに変わりはない。

 ただ理解して欲しいのは、それほどに神懸り的なものが、あのシチュエーションにはあったのだよ。

 私はあの時の光景を生涯忘れることはない。生涯に運命的な出会いが一度はあるというのならば、あれこそ正に運命との邂逅だった。

 故に私はグレモリー家の嫡男ではなく、一人の男性として彼女にこの言葉を捧げよう。

――――ジーク・ハイル・ビックおっぱい!!」

 

 長い、とてもながいサーゼクスの演説が終わる。欠伸一つ漏らさず、一言一句を神妙に傾聴していたラインの顔は感極まっていた。

 ライン・ダンタリオンは覚悟と欲望を秘めた瞳で口を開く。

 

 

「兄貴。俺、今から命懸けで『記憶共有』の魔法を覚えてきます。だから俺にも理想胸を拝ませて下さい」

 

 記憶共有。その名の通り脳に保存されている記憶を共有する魔法だ。これを使えばサーゼクスの見たグレイフィアの胸の光景を、ラインに渡すことも出来るだろう。

 ただし〝出来る〟と〝やる〟は似ているようで別問題なのだ。

 

「駄目だ」

 

「なっ!」

 

「すまないな。君は私にとって自慢の後輩だし、君の頼みなら出来る限りは応えてあげたいと思う。だがこればっかりは駄目だ」

 

「グレモリー家は情愛が深いんじゃなかったんっすか! お願いします、慈悲を!」

 

「……情愛が深いということはね。独占欲も強いということなんだ」

 

「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉお!! ならなんで俺に胸のことを教えたんですかぁぁああ! これじゃ生殺しじゃないっすか!」

 

「馬鹿者!」

 

「!?」

 

「他人の力で得た……もとい見た胸にどれほどの価値がある。君も真の戦士ならば、自分の力で胸を見る努力をするべきではないのかね?」

 

「!」

 

「君は私の自慢の後輩だ。君ならば必ず隠された理想胸を見ることができるはずだ。そのための努力ならば私も協力は惜しまない。ところで生殺しという単語、そこはかとなくエロい響きではないかね?」

 

「た、確かに!」

 

 一体全体ナニを生で殺すというのか。この言葉を生み出した人間と腹を割って話したいところだ。

 

「ってそんなことはどうでもいいんっすよ! こうなれば俺の妄想で奇跡ってやつを起こしてやりますよ!」

 

「なにをする気だ」

 

「ふふふ。ナニってこうするんっすよ!」

 

「なっ! これは――――!?」

 

 ダンタリオン家が得意とする魔力は幻想と幻影を紡ぐ技。その力の真価を、サーゼクスは目の当たりにすることとなった。

 ラインの魔力によって空間に投影されたのは、グレイフィア・ルキフグスの幻影。しかも先程のサーゼクスの言葉を聞いて、しっかりと戦闘服のあちらこちらが破け、顔も赤みを帯びている。

 どうだ、と言わんばかりにラインは胸を張る。しかしながらサーゼクスは首を横に振った。

 

「まだだな。まだ再現が甘い。これでは私の得た感動の十分の一も味わえやしないよ」

 

「な、なんですと!?」

 

「まず胸のあたりだ。彼女の胸はもっと、こう――――」

 

「ふむふむ。こんな感じっすか?」

 

「おおッ! うむ、これだよこれ。彼女の胸はこんな具合だ! あとはクビレをキュッと」

 

「じゃあ、ここをこうして」

 

 サーゼクスとラインはあーでもないこーでもないと、グレイフィアの幻影を作り直していく。

 童貞たちの狂宴は、それから三時間強――――店仕舞いになるまで続けられた。

 

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