砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。   作:ぽよぽよ太郎

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第10話

 

 

 

 

         +++

 

 

 

 鋼鉄の扉を開けて、喜助を部屋へと招き入れる。来賓用に設置した向かい合わせのソファに座り、夜一さんには執務を続けさせた。あの人に関しては、仕事が溜まりすぎていて本当にやばいのだ。ちなみに俺は順調に仕事を片付けているため、夜一さんの仕事も手伝っていた。

 

 別段急ぐ話でもなかったため、俺と喜助は休憩がてらに軽く世間話をする。扉にノッカーをつけてくれだの、新しい研究のアイデア出しだの。

 

 「――それで、なんなのじゃ? ()()()()とは?」

 

 だが少しすると、夜一さんが俺の背からのそっと顔を出し喜助に尋ねた。夜一さんは執務机で書類を片付けているはず……なのにだ。

 

 「あ〜なんて言えばいいんスかねえ?」

 

 喜助は困ったように笑みを浮かべながら俺を見る。いや、俺も困っているんだけど。この人仕事してたはずだよな? 元からそのことについては教えるつもりではあったけど、今は今日の分の仕事をしてほしかった。

 

 「はぁ〜……。あー、これは転神体っていう、卍解習得を補助する霊具だ」

 

 だが、俺はそれを諦めて用途を夜一さんに説明することにした。多少は我慢したということは、少しは仕事を片付けたということだろう。夜一さんの仕事ぶりに関して、その点だけは信頼している。

 

 開発者である喜助が所々補足しつつも、その効果が効果だけに慎重に話をした。向き不向きがあるとはいえ、三日間で卍解を習得できるという可能性は魅力的だろう。原作でも最重要特殊霊具という扱いになっていたし、夜一さん――もとい、四楓院家の助力で機密にするのが最善だ。

 

 「――ということで、”具象化”できるのは一回こっきり。期間は三日間っスね。リスクに関してはさっき言った通りっス」

 

 いつの間にか俺から説明役をぶんどり、喜助は心底楽しそうにして説明を終えた。当初の考えや研究過程なども詳しく解説しながら。

 

 喜助の研究者っぷりは正直ヤバい。俺や夜一さんに何も言わず色々とやっているようだし、すでに崩玉に関してもある程度研究を終えているのかもしれない。それとなく尋ねてみたりもしたがはぐらかされるので、その点は諦めてもいた。

 

 ただ、こうして原作にも出てくるような霊具だったりは喜助に提案して研究、活用するようにしている。地力を上げておいて損はないからな。これからのことを考えると、卍解の有無は重要だった。卍解を持たない副隊長格なんてろくな活躍もできずに退場してしまう。いや、持っててもダメな奴だっているんけどさ。正直、ああはなりたくなかった。

 

 とまあそういうこともあり、俺と喜助はこの霊具を使って卍解の習得をすることを決めたのだ。

 

 「――ふむ、面白そうじゃな。儂も手伝うぞ!」

 

 一通りの説明を聴き終わった夜一さんは、心底楽しそうにそう言った。まあ予想通りだ。説明を聞いてる時からうずうずとしてたから、ある程度夜一さんのことを知っているなら予想できない方がおかしい。

 

 「まあボクはどっちでもいいんスけどねえ」

 

 喜助はそう言って俺を見る。確かに転神体を扱うには誰かが常に霊力を流していなくてはならない。その役目を夜一さんに任せようということだろう。

 

 「いや、俺も別にいいんだけど……」

 

 俺はそう言って、チラリと視線を向ける。夜一さんの執務机にある、大量の書類の山へと。

 

 「う……っ」

 

 夜一さんも俺の視線に気がつき、嫌そうに顔をしかめる。そう、夜一さんには大きな問題がある。書類仕事という問題が。

 この人はやろうと思えばサクサクと片づけられるのだ。だが、いつまで経っても真面目にやらずにこうしてどんどん仕事を溜めてしまう。まあそこも可愛いんだけどな。

 

 夜一さんは泣きそうな目で俺を見てくる。まるで捨て猫のような、無性に保護欲を掻き立てられる潤んだ瞳で。

 

 「はぁ……」

 

 ため息をひとつ。

 まあ、ここは妥協するしかないな。

 

 「……わかった」

 

 「なら――」

 

 「――でも!」

 

 喜ぶ夜一さんを手で制する。

 

 「喜助のほうは俺がやりますから、その間に仕事を片づけておいてください。それで、仕事が終わり次第俺の修行を手伝ってもらうって感じで」

 

 喜助の卍解習得を先に行い、俺はそれを手伝う。その間に夜一さんは溜まった仕事を消化してもらい、終わり次第俺の卍解習得を手伝って貰えばいいだろう。

 

 俺は喜助へと視線を向けると、苦笑しながらも頷いてくれた。

 

 「ぬぅ……」

 

 夜一さんは恨めしそうに俺を見てくるが、これだけは譲れない。この前なんて四楓院家のほうからも苦情がきたのだ。もっと仕事をさせろって。いろいろと滞っている書類が多いらしかった。

 ……これは大前田副長にも修行をつけてもらったほうが良いのだろうか? 擬似重唱とか覚えれば逃すこともなくなるだろうし。いや、でも捕まえても仕事をしなければ意味がないんだよな……。

 

 「……それじゃ、ボクもそろそろ仕事に戻りますよ」

 

 考え込む俺を尻目に、喜助はそう言って立ち上がった。転神体は休憩時間中に完成させたらしく、そのままの足でここに持ってきたのだとか。

 

 ……休憩ってなんだっけ?

 

 「あ、喜助。明日から三日間は非番にできるから、その間に喜助の修行をやろう」

 

 今溜まっている書類を片付ければ手が空くため、明日から時間は取れるのだ。休暇後はその間に溜まった結構な量の書類と戦うことになりそうだけど。

 喜助については休暇はいつでも取って大丈夫らしい。要領良く仕事をしていて、三日間抜けても問題ないとのことだ。

 

 「了解っス。よろしくお願いしますね」

 

 喜助は俺の言葉にそう言って、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。扉の閉まる重苦しい音が響き、部屋に再び静寂が訪れる。

 

 「さて、それじゃあさっさと片付けますか」

 

 自分にというよりも、いじけた夜一さんを元気付けるためにそう声を出す。たぶんこの人の場合、修行の件を仕事をサボる口実にしようとか考えてたんだろうけど。

 

 「うむ、悪くないの……」

 

 だが、横目で見た夜一さんはなにやら思案顔で頷きつつも、どこか嬉しそうにしている気がする。さっきまでは恨めしそうにしていたのにだ。本当、猫みたいに機嫌がコロコロと変わるんだよな、この人。

 

 「夜一さん、ニヤけてないで仕事早くやっちゃってください。決済待ちの書類いくつもあるんすから」

 

 苦笑しつつも、夜一さんにそう言う。

 

 俺のその言葉で、夜一さんは先ほどとは一転、げんなりとした表情に変わって嫌々書類を見始めた。

 

 砕蜂(ソイフォン)との仲直り(?)など考えることもまだまだたくさんあるのだが、こうして夜一さんと仕事をしているとなぜか落ち着ける自分がいる。夜一さんを弄りながら仕事をこなし、軽口を言い合う。たったそれだけだけど、それが良いのだ。夜一さんが、近くにいれば。

 

 ……これって、もしかして――

 

 「のう、龍蜂。そろそろ休憩にせんか?」

 

 口をヘの字に曲げてそう言う夜一さんを見て、自然と笑みが浮かぶ。そう、至極簡単なことだったのだ

 

 「な、なんじゃ、急に笑顔になって! そそそ、そんなことしてもダメじゃぞ! 儂は休憩したいんじゃ!」

 

 ――うん、あれだ。たぶん自分より下の人を見て気持ちが楽になるのと同じ感じだ。夜一さん、俺の上司のはずなんだけど。

 

 なにやらわたわたと慌てる夜一さんを見ながら、そんなことを考える。

 

 「今日中に三割終わらせれば、帰りになんか奢りますよ」

 

 いや、それだけじゃないのかもしれないけど。

 

 「む……いいじゃろう!」

 

 まあでも、なにはともあれ、こうした平和な毎日を今は楽しもう。

 

 

 

 なお、夜一さんの仕事の三割が終わったのは真夜中のことだった。

 今日中とはいかなかったが、夜一さんが拗ねそうになっていたので帰りは一杯だけお酒を奢った。機嫌が直っていたから、まあよしとしよう。

 

 

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