砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。 作:ぽよぽよ太郎
回想としておいおい書くかも(書かないフラグ)
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喜助の隊長就任から九年が経った。その間あったことといえば、まあ、いろいろだ。
中でも個人的に一番嬉しかったことが砕蜂が第五席の席官に就任したことだ。俺や夜一さんとよく修行するようになってから、砕蜂はすごい速度で成長していた。水を吸うスポンジのようとはこのことかと、妹の成長を嬉しく思っていた矢先のことだった。「砕蜂を席官に推薦しておいた」と夜一さんに言われたのは。
二番隊――もとい隠密機動は実力主義だ。危険な任務が多く、それに比例して死者も多い。そのため、隊士を纏める部隊長は強くなければならないのだ。そういうことで、席官の就任にはある条件があった。志望する席官と対決し、勝利すること。志望する席官よりも上位の者から推薦を受けること。この二つだ。つまりは前任者よりも強くなければならない、ということだ。
副隊長、隊長の二つの役職に関しては二番隊だけの問題ではないため別だが、席官になった者は誰しもが通ってきた道だ。しかし……しかしだ! いざ妹である砕蜂がそれを行うとなると、酷く不安になってしまったものだ。
とまぁくだくだと言ったが、結果は圧勝。砕蜂は前任の第五席を軽く倒して、そのまま就任と相成った。……正直もう忘れかけているのだが、この時期の砕蜂は別に席官だったとかは明記されていなかった気がする。それなのにこうして席官になれたということは、おそらくこの世界線の砕蜂のほうが早いペースで強くなっているのだろう。身内びいきかもしれないが、そう思いたい。これから厳しい戦いが待っているのだ。少しでも腕を上げて、安全に立ち回ってもらいたいものだ。
そうこうと考えながら、俺は日の沈んだ瀞霊廷を歩いていた。仕事の合間の散歩のようなものだ。普段滅多に仕事を中断したりなどしなくなっていたのだが、今日だけは別だった。気になることもあり、イマイチ仕事が手につかなかったのだ。
そんな俺を近くで見ていたからか、夜一さんも「気分転換にでも行ってくると良い」と快く送り出してくれた。……いや、実際は一緒に散歩に出ようとしていたのを椅子に縛り付け、書類の山をこなすよう厳命した形だな。ただでさえ
うん、たまには一人でぼんやりと歩くというのも良いな。実に良い気分転換になる。
そうこうしているうちに、人の気配を感じた。職業病なのか一瞬だけ身構えそうになるが、それが見知った人物のものであることに気が付き、静かに警戒を解く。この九年で索敵の技術も相当に上達したのだが、同時に警戒心も首をもたげてしまっていた。
「――おや? 龍蜂くんじゃないか。珍しいねえ、一人だなんて」
そうして近付く気配を感じつつふらふらとしていると、少し驚いたようにそう声をかけられた。振り向くと、そこにいたのは八番隊隊長の京楽春水。京楽さんはいつものように女物の羽織を着て、どこか気だるげな様子だ。口調こそ驚いているものの、俺と同じく気配には気付いていたのだろう。彼の後ろには同隊の副隊長であるメガネの少女、矢胴丸リサも立っている。不思議そうに辺りを見回す様子を見ると、彼女も夜一さんがいないことに驚いているみたいだな。
「どうもです、京楽さん。リサも久しぶり。ただまあ、別にいつも夜一さんと一緒なわけじゃないっすよ」
俺はそう言って苦笑する。
「いやまあ、それはわかってるんだけどさ。なんとなく、二人セットなイメージがあったんだよね」
「せやせや、ウチもそんなイメージ持ってたわ。アンタと夜一隊長、なんや爛れた関係やっちゅうしなあ」
おいリサ。否定はしないけど、爛れた関係っていうのはやめろ、頼むから。からかうような声音でそう言う京楽さんたちに、俺は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
つうか、本当に爛れた関係って周知されているわけじゃないよな……?
「――それで、例の事件に関して進捗は聞いてるかい?」
内心ドキドキしながらしばらく雑談をした後、京楽さんは真剣な表情へと切り替えてそう聞いてくる。
例の事件――現在六車拳西率いる九番隊が調査に当たっている、流魂街での変死事件のことだ。流魂街の住民が服だけを残して跡形もなく消えてしまうという事件で、その原因は一切不明。まるで生きたまま人の形を保てなくなって消滅したかのようなそれは、
――俺は、その犯人を知っている。これから起こる悲劇も知っている。だが、だからこそ、軽はずみには動けなかった。
その理由は至極単純。俺が藍染に警戒されているからだ。おそらく藍染は、俺が鏡花水月の術中にいないことも理解しているだろう。それなのに俺に接触してこない理由は謎だが、こちらも警戒するに越したことはない。
「事件に関しては、特にまだ報告がないっすね。一応総隊長から隠密機動は動かないように命令がきているので、せいぜいが見回りの強化だったり、裏廷隊を十全に配備することくらいしかできないんすよ」
考えてみれば、これも不自然といえば不自然なのだ。なぜ隠密機動ではなく、九番隊を調査に行かせるのか。隠密機動はその道のエキスパートだ。普段から危険の伴う任務を遂行し、事件を未然に防ぐこともしている。セオリー通りやるのなら、まず隠密機動を調査に行かせ、その上で適切な規模の増援として各隊を送り込むのが最善といえるだろう。
だが今回は、それを差し置いての九番隊の派遣。総隊長は理由を述べなかったが、長次郎さんもどこか釈然としない様子だった。となると、考えられることといえば一つしかない。総隊長ですら考慮さざるを得ない、そんな組織。四十六室の命令だけだ。
藍染がどの段階で四十六室にまで手を伸ばしたのかはわからないが、すでに四十六室はある程度藍染の影響下にいるとみて間違いないだろう。
「正直、気になってることがあってねえ。少しでも情報が欲しかったんだけど――」
京楽さんはそこで言葉を区切ると、俺の目を見据えた。
「――本当になにも、知らないのかい?」
「――っ……!?」
彼の目を見た瞬間、俺の背中がぞくりと震え、冷たいものが走った。普段のおちゃらけた態度とは全く別の、その怜悧な目が俺の双眸を射抜く。それは俺の中のなにかを見透かすようで、それを受けた俺は内心では酷く動揺してしまう。京楽さんの後ろに立つリサはこのプレッシャーを感じてはいないようだし、京楽さんの疑念の対象は俺で間違いないだろう。
だが、俺は生まれてからずっと隠密機動として成長してきた。だからこそ、内心はどうあれ、外面を取り繕うことなど容易い。俺はなに食わぬ顔で京楽さんへと答える。
「――やめてくださいよ、京楽さん。知ってることがあるんなら、こうしてやきもきしてないっすよ」
「そっか。いやあ、ごめんねえ。ついつい先走っちゃってさ」
苦笑しつつ笑う俺を見て、京楽さんも普段通りの態度に戻る。
「ま、なにかわかったことがあったら連絡でも――」
京楽さんがそう言ってリサとともに立ち去ろうとしたところで、けたたましい鐘の音が鳴った。
『――緊急招集! 緊急招集!』
「「「――っ!!」」」
その切羽詰まったような声音に驚きつつも、俺たち三人は顔を見合わせる。
『各隊隊長は即時一番隊舎に集合願います!』
「とりあえずボクは、一番隊舎に向かうとするよ。なにやら尋常じゃないみたいだからねえ」
京楽さんはそう言うと、俺たちの返事を待たずに瞬歩でその場を離れていった。
「うちらはどうする?」
リサがそう尋ねてくる。言葉こそ疑問系ではあるが、実際彼女はこの後の行動をすでに決めているようだ。
「リサは一番隊隊舎、行く気だろう?」
「バレとったか。まあ、当たり前やな。隠れとるもんほど見たくなるのが人の
ドヤ顔でそんなことを言いながら、リサは俺に意見を促してくる。一応、聞くだけ聞いてくれるみたいだ。
「はぁ……、俺も行くよ。この事件のことは気になってたし、動きがあったんならそれを知っておきたいからな」
「なら決まりや。ほな行くで」
隊長格のみが招集されるということはそれだけの異常事態だということだ。このタイミングということは、九番隊が壊滅したという報告や援軍の選抜などをするための会議なのだろう。原作に比べなにか変化がないか、それらを一応聞いて確かめておきたかった。
そういうことで俺はリサについて行くことを決め、二人で一番隊舎へと向かうことになった。