砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。 作:ぽよぽよ太郎
第19話です。
面倒だという意見が多かったので、評価の最低文字数を0に変更しました。
50に設定中はいろいろと厳しいご意見も多かったですが、大変参考になりました。
今後評価してくださる方々も、簡単な感想でも良いので書いて頂けると嬉しいです。
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「――火急である!」
隊長たちが集まった一番隊隊舎の会議場に、総隊長の一喝が響いた。その一喝は会議室の外に隠れている俺やリサさえも身が竦むほどであり、総隊長の憤りにも似た感情がこれでもかとぶつけられてきた。
護廷十三隊という組織に誇りを持っている総隊長からしてみれば、今回の事件でその一角を崩されたことは想定外であり、またその誇りを汚したこの事件はなんとしてでも解決しなければならないものになったようだ。総隊長は続く言葉で九番隊の現状や待機陣営からの報告などを話し、対策までもを言い切った。
――隊長格を五名選抜し、直ちに現地へと向かわせる。
総隊長の判断は、原作と変わらなかった。確かに単なる一事件であるのならば、隊長格五人というのは過剰戦力とも言える陣容といえるだろう。だが、事件の真実を知る俺としては心許なく思える。というよりも、この場合はいくら戦力を掻き集めてもどうにもならないのだ。術中に嵌っていないとしても、
「席官だけやなく、
俺の傍らでは、リサが信じられないといった様子で呟いている。彼女の気持ちもわからなくもない。拳西や白を擁する九番隊は席官の面々も実力者が揃っているし、隊長副隊長である拳西や白も相当に手強いのだ。それが一夜で壊滅したというのは、信じがたいことだろう。
その後は原作通りに進んだ。遅れてきた喜助が志願するが一蹴され、反論しようとした喜助を夜一さんが一喝。その後、鬼道衆もそれに加わるよう言われたところで、京楽さんがリサをメンバーに加えるように言った形だ。
「――頼める?」
「当たり前!」
「じゃ、よろしく」
立ち上がってそう力強く返したリサは、俺のほうを見る。その視線は、アンタはどうするのかと聞いてきていた。その視線に言葉を返そうとしたところで、鋭い声がそれを遮る。
「――
「あ、あはは……ばれてたんすね」
総隊長のその言葉に苦笑いをしつつ、俺も立ち上がる。リサはそんな俺を見て仕方ないといった風に肩をすくめると、準備のためかすぐに走り去っていった。
「全く……矢胴丸リサといいお主といい、気が付かぬわけがないであろうが」
呆れた様子で総隊長はそう言うと、続けて俺への指令を口にした。
「お主を除いた警邏隊には瀞霊廷内の警邏を強化させよ。賊の侵入を絶対に許してはならぬ」
「……了解っす」
俺はとりあえずそう返し、夜一さんのほうを見る。夜一さんも先ほどの喜助の様子を見ていたからか、この人選にどこか釈然としないような、憮然とした表情をしていた。もちろん、喜助も同様だ。
だが、それを気にする総隊長ではない。
「それでは鳳橋楼十郎、平子真子、愛川羅武、有昭田鉢玄、矢胴丸リサ、以上の五名を以て、魂魄消失案件の始末特務部隊とする!」
有無を言わせぬ総隊長のその言葉で、緊急会議は解散となった。
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「それでのう、龍蜂。なにか言いたいことはあるかのぅ?」
会議が終わった後、俺は夜一さんから隊舎の一室で詰問を受けていた。縛ったまま放置してきたこともそうだが、リサとともに会議を盗み聞きしにきていたことをだ。道中は気難しい顔をしていたのだが、今は少し元気になったみたいだ。
なお、日が暮れるまで方々に指示を出していて夜一さんを放置していたため、少し機嫌も悪そうだった。仕事をしただけのはずなのに、理不尽だ。
「全く、少し目を離したらどこぞの女をひっかけてきおって……」
「いや、どこぞの女もなにもリサは俺と同じで護廷の副隊長じゃないっすか……。ていうか、面識もあるはずだし……」
そんな感じにぷんすかといった風に唇を尖らせる夜一さんだが、それが空元気であることくらいはすぐにわかった。口調こそ明るいものの、その目にはどこか険があるのだ。いや、会議後の喜助の様子を見ていれば、それは仕方のないことなのかもしれない。憔悴した様子の喜助は、正直見ていられなかった。
「――気になりますか、喜助のこと?」
俺は思わず、そう口にしていた。
俺のその問いに、夜一さんはなにも答えない。だが、彼女の様子を見ていれば答えはすぐにわかる。空元気の笑顔はなりを潜め、滅多にしないような難しい顔になっていた。
「まあ、そうじゃな。……喜助の奴、先走らなければ良いがのう」
「なんやかんや言って、喜助は身内のためなら突っ走っちゃいますからね」
俺の言葉に、夜一さんは苦笑しつつも頷く。
隊長就任当初はどうなることかと思っていたのだが、この数年間でひよ里ともだいぶ打ち解けていたようだし、すでに身内といっても過言ではないだろう。そんなひよ里たちが危機に陥っている今、喜助がなんとしてでも動こうとするのは当然のことだ。
「――ともあれ、今の俺たちにできることは待つことだけっすね。朝になれば平子隊長たちも帰ってきますよ」
俺は何食わぬ顔でそう言うが、内心は自己嫌悪で押し潰されそうだった。原作の流れを大幅に変えないようにする。ただそれだけのために、数々の犠牲を黙認しているのだ。そんな内心を悟られないように、俺は努めて明るくそう口にした。そして、彼女から目を逸らしつつ続ける。
「それじゃあ、交代で仮眠でも取りますか。もう日も沈みますし、俺たちは朝までこのまま待機することになりそうっすからね」
「……そうじゃな」
とは言っても、俺たちの待機命令を始めとした残留組の行動は万が一への備えでしかなく、総隊長はあの特務部隊でこの事件を終わらせるつもりなのだ。それがわかっているからこそ、夜一さんもこうしてある程度の余裕を持てているんだろう。
「おぬしが先に寝ると良い。残念なことに、儂には書類が溜まっておるのでな」
夜一さんは仕方ないという風に笑うと、机に積まれた書類の山を指差す。その顔にはいつも通りの本気で嫌そうな表情が浮かんでいて、そんないつもの様子を見たことで、俺もいつもの調子に戻ることができた。
「それに関しては仕事を溜めてた夜一さんが悪いんすから、諦めてください」
「むぅ、おぬしが椅子なんぞに縛り付けるからじゃろうが」
いつものような他愛のない会話。それが今は、どうしようもなく愛おしく感じる。
「――やっぱ寝るのは勿体無い気がするんで、夜一さんの仕事が終わるまで待ってますよ」
「なんじゃ? 変な奴じゃの」
夜一さんはなんでもない風にそういうが、顔は嬉しそうににやけていた。そしてそのまま、意気揚々と書類に取り掛かる。
俺はそんな彼女の姿を見ながら、ただただ時間が過ぎるのを待った。
「――き、緊急連絡です!」
「「――っ!!」」
早朝、穏やかな時間は慌てたようなその声で崩れ去った。
重厚な鉄の扉の上部、そこにある緊急連絡用の小窓から聞こえた砕蜂のその声に、夜一さんは静かな声で尋ねた。
「……どうしたんじゃ、砕蜂?」
夜一さんのその口調からは、今回の事件の終わりを知らせるものであってくれと願うような、そんな雰囲気を感じた。本来ならば簡単に決着のつく事件だったのだが、夜一さんはなにかが起こるという予感を持っていたのかもしれない。
「魂魄消失案件に、し、進展が……」
そして夜一さんの懸念通り、返ってきた砕蜂の声には動揺のようなものが混じっていた。それに気が付いた夜一さんは、一気に表情を険しくする。やはり藍染は、
何も返さない夜一さんの態度を続きを促すものだと思ったのか、砕蜂は扉越しにそのまま言葉を続けようとした。だが、詳しい話を聞く前に場を整えるべきだろう。
「砕蜂。とりあえず、中に入ってくれ。報告はそれからだ」
俺はそう言いつつ立ち上がり、扉を開く。扉の向こうでは、砕蜂が片膝をついたままの状態で頭を伏せていた。
「ほら、報告は中で聞く」
俺の言葉に砕蜂は「はっ!」と元気良く返事をすると、急いで部屋の中へと入っていく。砕蜂とは隊務中は常にこうして上司と部下というふうに接しているのだが、その背伸びしているような様子はやはり微笑ましく思えた。
兎にも角にも、砕蜂の報告を聞くために俺も扉を閉めて部屋へと戻る。中では夜一さんは執務机に座ったままで、砕蜂がその机の前で先ほどのように片膝をつき夜一さんへと報告をしていた。
「――ということで、今回の事件の下手人は十二番隊隊長の浦原喜助と断定。並びに、大鬼道長の
「……」
「また、一番隊隊舎内の会議場にて残存の隊長のみで隊首会を行うとのこと。その際も一応、隠密機動には厳戒体制を敷かせたままでいるように、とのお言葉です」
「……」
砕蜂のその報告に、夜一さんはなにも返さない。執務机で腕を組んだまま、じっと目を瞑っていた。砕蜂も自分で報告している内容が信じられないのか、なにも言わずに片膝をついたままだ。
俺は事前に予想はしていたため、彼女たちほど動揺はなかった。だがやはり、この報告を聞いたことでどうしても頭に浮かんでしまうことがある。
――別れ。
事件がどう着地しようと、今までのような日々は当分戻ってこないだろう。砕蜂の報告により事件の終わりが見えたことで、そのことを嫌でも確信させられた。三者がそれぞれ黙り込んでしまい、室内には重苦しい空気が漂う。そして、そのまま誰も口を開かずに時間が過ぎていった。
とりあえず俺は、そんな陰鬱とした気分を変えるためにお茶を淹れ、夜一さんの机へと置く。夜一さんは目で俺にお礼を言うと、ゆっくりとお茶を口に含んだ。喉を潤すことで、少しは頭の混乱も収まるだろう。
砕蜂にもお茶を出し、俺も自分で入れたお茶を飲む。砕蜂は緊張で相当喉が渇いていたのか、一息にお茶を飲み干して俺の持つお盆へと湯呑みを置いた。飲みやすいようぬるめに淹れたそれは、気持ちを切り替えるのには十分だったみたいだ。砕蜂も夜一さんも、頭を整理できたように見える。砕蜂は少し噎せてもいるが。
俺はお盆を応接用の机に置くと、そのままソファへと腰を下ろした。そして執務机に座る夜一さんを横目で見ながら、彼女が口を開くのを待つ。
夜一さんはしばらく無言でお茶を飲むと、ゆっくりと口を開いた。
「――砕蜂、報告は本当なんじゃな?」
夜一さんのその言葉に、砕蜂は静かに頷いた。そんな砕蜂を見て、夜一さんは再び目を瞑る。
「……わかった。すぐに隊首会に行く準備をせねばな。砕蜂は部屋の外でしばらく待っておれ」
そして目を開けると、夜一さんは砕蜂にそう指示を出して立ち上がった。砕蜂も同じく立ち上がると、一礼して扉へと足早に歩いていく。俺はそのまま砕蜂を見送り、彼女が外に出たのを確認して、夜一さんへと声をかけた。
「夜一さん、喜助のことっすけど――」
「――儂は大丈夫じゃ」
俺の言葉を遮るように答えた夜一さんは、普段通りにしか見えなかった。だが、それが逆に不自然に思える。喜助が犯人ということで決着がつこうとしている現状を、夜一さんが看過できるわけがないのだ。
「とりあえず、着替えるから後ろを向いておれ、龍蜂。隊首会に
夜一さんはそう言って装束を脱ごうと手をかけたので、俺は慌てて後ろを向いた。裸を見せ合った仲だとしても、こういった恥じらいというのは重要なことなのだ。そもそも俺も外に出ればいいのだが、そのことには触れないでおこう。
「――龍蜂。おぬしはこの事件、どう思っておるのじゃ?」
後ろを向いた俺に、夜一さんがそう尋ねてくる。咄嗟のことに俺が答えられないでいると、さらに質問が重なった。
「本当に喜助がやったと、そう思っておるか?」
なにか確信を持ったような、そんな声音にも聞こえるその言葉に、俺は言葉に詰まる。夜一さんのことだ。喜助がやったことなどあるわけないと確信しているはずだ。そして、俺の態度からも察したんだろう。俺が何かを知っている、と。
俺の考えを夜一さんに話すなら、今しかない。そう思った俺は、一息ついて口を開いた。
「……あいつは――」
否、口を開こうとしたところで、俺は背後に殺気を感じた。同時に、首を狙って繰り出された攻撃も感知する。確信に触れたその問いに、油断をしていたのかもしれない。それらを認識することこそできたが、防ぐ前に自分に到達するだろうということもわかった。
「――済まぬな、龍蜂」
凛と鳴る鈴のような声が、耳に響いた。