砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。   作:ぽよぽよ太郎

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第3話

 

 

 

         +++

 

 

 砕蜂(ソイフォン)とともに少し修練をしていると、いつの間にか日が落ちてしまっていた。砕蜂がせっせこ攻撃してくるのをあしらいつつ拙い部分をその都度指摘していたのだが、やはり物覚えは良かった。白打に関しては本当に良いものを持っていると思う。なにより、汗に濡れる姿は本当に可愛かった。

 

 その後は屋敷の縁側でぐうたらしていると、裏廷隊伝令部の者がやってきた。

 

 「――龍蜂(ロンフォン)様、軍団長閣下からの伝令です。例の(ホロウ)が出現。至急、現場に向かわれるように、と」

 

 一応俺も貴族で、隠密機動の中でも席官クラス。だから敬語を使われているんだけど、正直むず痒いものがある。

 俺は彼の言葉に頷いて、現場へと向かった。もちろん、すでに装備は整えている。隠密機動の真っ黒な装束を身にまとい、斬魄刀を腰に刺した状態だ。頭巾は被っていない。あれを被るとモブ臭が半端じゃないんだよな。いや、俺なんてモブみたいなもんなんだけどさ。

 

 ……どうやら俺は、自身の死亡フラグを前にしても緊張はしていないみたいだ。

 

 そのことに安堵しつつも、瞬歩で現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 「――ここ……だよな」

 

 夜一さんから聞いた場所に着き、俺は隠形で隠れる。周囲は木々に囲まれていて、ここだけぽっかりと空き地になっていた。この場所から等間隔の位置で複数の霊圧を感じることから、今夜も各地で(ホロウ)が出現しているようだ。

 

 こうしてその中心部に来たのはいいが、隊士たちが消息を絶つような原因は見当たらない。もしくは、まだ出現していないのだろう。

 仕方なく隠形を解いて、周囲の警戒を強める。消息を絶ったということは、なにかしら敵性を持つものにやられたと見て間違いない。そしてそれは、おそらく――(ホロウ)だ。

 

 だが、見た限りでは(ホロウ)の気配はなかった。手練れの隊士たちがやられたのなら、不意打ち、もしくは純粋に強い(ホロウ)が現れたと見て間違いないだろう。さて、今回のはどっちだ。

 

 改めて周囲を見ようとした瞬間――

 

 「……ッ!!!」

 

 ゾクリ、と何かを感じ、俺は後方へと飛び退いた。そして、先ほどまで俺の立っていた場所が轟音とともに土煙に包まれる。

 この気配は(ホロウ)だ。それも、かなり強力な。

 

 土煙がはれると、そこにはやはり(ホロウ)が立っていた。頭から黒い外套のようなものを被っていて、仮面は鼻の部分が尖っている。それは、霊術院の教科書にすら載っている有名な(ホロウ)だ。

 

 「大虚(メノスグランデ)……だと……?」

 

 見た目は大虚(メノスグランデ)最下級大虚(ギリアン)に類似していた。だが、その(ホロウ)は人と同じくらいの大きさしかなく、身体つきも人間っぽい。不自然じゃない長さの手足が生えていて、まるで人間が黒い外套を着て仮面をかぶっているようにも見えた。

 

 どうやら、俺の知っている(ホロウ)とはいろいろと違うみたいだ。

 

 「……くそ、なんだこの霊圧は!?」

 

 こいつからは、最下級大虚(ギリアン)の霊圧を小さく凝縮されたような迫力を感じた。

 隊務として(ホロウ)へと斥候、戦闘などは何度もこなしてきた。だが、ここまで強大な霊圧を感じたことはなかった。否、強大な霊圧は感じるが、意識しないとそれが霧散してしまうような、不思議な感覚があるのだ。これでは、離れている場合は霊圧すらも感じることはできないだろう。

 

 それにそもそも、攻撃されるまで霊圧どころか気配すら感じなかったのだ。

 

 「――気配を……()()()()()()……?」

 

 これじゃあまるで、後に現世の魂葬実習で出てきたあの(ホロウ)のような……。

 

 「――まさか……っ!」

 

 ――これは、藍染の実験体なのか……!?

 

 藍染とは数度だけ会ったことがあった。すでに5番隊の副隊長になっていて、人柄は極めて温厚。人望が厚く、護廷十三隊の死神からはよく信頼されている。俺だって、原作知識がなければその姿を信じてしまっただろう。

 

 だが、藍染だけは信用してはいけない。尸魂界(ソウルソサエティ)への謀反、破面(アランカル)での攻勢。百歩譲ってそれはまだ良い。いや、よくはないけど。ただ、将来的に雛森を始めとした女性たちを傷つけるのは頂けない。女の敵は俺の敵なのだ。

 

 ましてや、こうして俺の死亡フラグが藍染に関係しているっぽい。もし生き残れたら、今後はさらに警戒を強めるべきだろう。

 

 ……これが藍染の実験ならば、切り抜けたとしても命が危うい気がするけどな。

 

 「……だが、そんなことも言ってらんねえか」

 

 何もせずに死ぬのだけは勘弁だった。

 まだ出会っていない原作キャラだってたくさんいるし、なにより物語の続きも知りたかった。俺が知っているのは破面(アランカル)編まで。それ以降も、物語は続いていくはずだ。だからこそ、こんなとこで死んでたまるか。

 

 腰から斬魄刀を抜いて構える。あの(ホロウ)――ブラックとでも呼ぶか。ブラックはじっと俺を見たままで、動く気配はない。なら、こちらから仕掛けるまでだ……!

 

 「――破道の三十三”蒼火墜(そうかつい)”」

 

 詠唱破棄で唱えた蒼い炎が、ブラックへと放たれる。これで弱い(ホロウ)なら一撃で倒せる。そうじゃなくても、少しくらいの手傷は加えられるはず。

 

 そう思って放ったのだが……

 

 「おいおい、無傷かよ……」

 

 蒼火墜(そうかつい)を食らったブラックは無傷だった。文字通り、火傷すらもしていない。今の俺の技量では、最下級大虚(ギリアン)相手に鬼道ではダメージを与えられないみたいだな。だが、それも想定済み。

 それに、こいつだって(ホロウ)だ。仮面さえ破壊すりゃなんとかなるだろう。

 

 「おらぁッ!」

 

 そのまま瞬歩で距離を詰めて、斬魄刀で切りつける。斬術は得意というわけじゃないが、(ホロウ)相手には十分すぎるほど鍛えている。

 だが、ブラックは両手を顔の前で交差させ斬撃を防ぎ、同時に斬魄刀を振り払った。腕ごと両断する気で切りつけたのだが、予想以上に固く簡単に弾かれてしまったのだ。

 

 それでも、俺は弾かれた衝撃はそのままに後方宙返りの要領で回転し、左足でブラックの腕を蹴り上げる。そしてそのまま空中で身体を捻り、右足の踵でブラックを蹴り飛ばした。

 ブラックは吹き飛ばされ、数本の木をなぎ倒して止まった。

 

 仮面を狙って霊力を込めた蹴りを繰り出したのだが、それにしては手応えがなかった。

 

 「……くそ、やっぱり効いてねえか」

 

 案の定、ブラックは無傷で立ちあがった。やはり、ただの白打ではダメージを与えるのは難しいのかもしれない。

 ブラックは立ち上がると同時に、こちらへと向かってきた。俺もそれを迎え撃つ。ブラックは無手で攻撃を繰り出してくるが、その一撃一撃が重い。基本的にはその攻撃を避けつつも、避けきれないものは斬魄刀で防ぐ。だが、斬魄刀で防ぐ度に火花が散って、悲鳴を上げているようだった。

 

 俺も白打で応戦し何度も打ち合うが、お互いに決定打は出ない。否、俺がもし一撃でもブラックの攻撃を食らったら、それだけで勝負は決まってしまうだろう。それほどまでに、一撃の破壊力が違いすぎた。

 

 このままでは、ジリ貧だ。

 

 「散在する獣の骨――」

 

 俺はブラックと打ち合いつつ、詠唱を始める。

 

 「――尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる」

 

 そして、詠唱が終わると同時にブラックに手をかざす。

 

 「――破道の六十三”雷吼炮”!」

 

 俺の言葉とともに、巨大な雷がブラックを襲う。雷吼炮は俺の使える鬼道で一番威力の高いものだ。だが、これでも倒すことはできないだろう。

 近距離でそれを食らったブラックは、咆哮をあげつつ後退した。やはり、それほどダメージは通っていないようだ。それがわかっていたため、俺もブラックと同時に後退して距離をとった。

 

 「見せてやるぜ、俺の切り札……!」

 

 そして、斬魄刀(かのじょ)へと意識を向けた。刀身に左手を添えて、柄から刃先までをゆっくりなぞる。

 

 「紫電一閃(しでんいっせん)――」

 

 解号を、小さく呟く。

 

 「――”鳴神(なるかみ)”!!」

 

 

 

 




隠していた能力を出すことで、OSR値を上昇させました。
なお、敵にカウンターOSRをされた場合は著しくOSR値が減少します。

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