砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。   作:ぽよぽよ太郎

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第4話

 

 

 

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 隠密機動第一分隊“刑軍”。

 隠密機動の中でもエリートとされるそこは、実力が全てだ。護廷十三隊では家の格である程度の融通が利く場合はある。だが、隠密機動はそうはいかない。死神の処刑から(ホロウ)への斥候など、実力がなければ務まらない隊務ばかり。

 その中でも、上位席官クラスになるには始解の習得が必須だった。そしてもちろん、(フォン)家の8代目当主を引き継いだ俺にはそれが求められた。

 

 知識として生まれた時から始解については知っていた。だが、知っているのと実践するのでは雲泥の差がある。

 隠密機動に入隊してから、修練時には毎回斬魄刀の名前を聞こうと努力してきた。だが、なかなか上手くいかずに半ば諦めてすらいたのだ。

 

 そんなある日、いつも通り斥候任務を受け現地に向かい、(ホロウ)に奇襲を受けた。隠密機動に入隊して、少ししてからのことだ。

 油断していたんだと思う。入隊当初から同期の誰よりも強く、白打に関してはその時点で父さんをも凌いでいた。そのこともあって、どこか本気じゃなかった気がする。

 

 そして、そんな俺をあざ笑うかのように、その(ホロウ)には白打が全く通用しなかった。にわか仕込みの斬術、鬼道も通用せず。なすすべなく追い詰められ、足に怪我を負うことで逃げることすらできなくなった。

 

 ――ああ、俺はここで死ぬのか。

 

 漠然と、そう感じた。

 死亡フラグとはなんの関係もないところで、あっけなく。死の間際になって慢心に気がつくとはな。生まれたばかりの時の覚悟を忘れた報いなのかもしれない。

 

 ――だが、最後まで諦めてたまるか!

 

 動かない足を引きづりつつ、覚悟を決めて攻勢に出ようとする。せめて一太刀、傷跡を残してやる、と。

 

 その時――

 

 ――全く、情けないわね。

 

 そんな声とともに、視界が暗転した。

 

 

 

 

 次に目を覚ますと、見知らぬ場所に立っていた。暗闇に包まれた真っ暗な世界。遠くには稲光が見え、腹の底に響く雷の音が聞こえる。

 

 そして、俺の少し先には建物が見える。宮殿のような、城のような。なんというか、場違いな雰囲気だ。

 

 ――ここはいったい、どこなんだ?

 

 「ここは、アンタの精神世界よ」

 

 俺がぼんやりと考えていると、不意に声が聞こえた。前を向くと、いつの間にか少女が立っていた。少女は黄色いぴっちりとしたドレスを着ていて、頭部には角が生えている。身長はだいたい160センチくらいか。髪は黄色くサイドテールになっていて、肩に掛かる程度の長さがある。胸は……うん、ギリギリある。

 

 「――ってことは、キミは俺の斬魄刀……でいいのかな?」

 

 「……不本意ながら、そうね」

 

 少女はつっけんどんな態度で答える。その声音には怒気が含まれていて、キツめに吊り上がった瞳も俺を睨んでいる。

 確かに、今までの俺を見てきたのなら怒るのも無理はないだろう。今まで斬魄刀の名前を聞こうとはしてきたが、こうして精神世界に入れたことはなかった。その理由は、今ならわかる。

 

 「……で、目は覚めたのかしら?」

 

 「……ああ」

 

 今での俺には、覚悟が足りなかった。いずれ来る死に対して、中途半端に構えていた。生まれた当初に抱いた覚悟を蔑ろにして。

 そんな状態で、斬魄刀が力を貸してくれるわけがない。むしろ、斬魄刀の意思を踏みにじっているとも言えるだろう。

 

 「今まで……済まなかったな。もう、大丈夫だ」

 

 だが、彼女のおかげで気が付くことができた。本当に死ぬんだ。このままだと、あっけなく。それを許容なんて、できるわけがない。

 俺はこの世界でやりたいことが、たくさんある。そして、そのためには強くならなければならない。今よりも、ずっと。

 

 彼女は俺を暫く睨むと、ふぅと小さくため息をついた。

 

 「――全く。アタシがここまでしてあげたんだから、死んだら許さないわよ」

 

 そう言って彼女は薄く笑う。その笑顔は、とても魅力的だった。

 

 「アタシの名前は――」

 

 その後、彼女の力もありその任務は切り抜けられた。威力不足により白打が無効化されたが、彼女の前で意味をなさなかったのだ。

 

 そしてそれ以後、俺は今まで以上に修練に明け暮れた。白打はもちろん、鬼道、歩法、斬術もとことん突き詰め、来るべき時に備えた。

 

 

 

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 ――それが、その来るべき時は、今だ!

 

 「――“鳴神(なるかみ)”!!」

 

 俺の言葉とともに、斬魄刀の形状が変化した。左手を添えた部分から黒く細い刀身に変わり、蒼い電気を纏う。刀身は90センチ。柄を含めると1メートルを超える。

 

 斬魄刀“鳴神”。雷を纏った、俺の斬魄刀だ。鳴神はパチパチと電気を散らし、その存在を主張する。

 

 俺は鳴神を構えて、ブラックを睨みつける。雷吼炮は少し効いたのか、ブラックは人間らしく腕をさすっていた。咄嗟に腕でガードしたのだろう。

 

 だが――

 

 「これは、防げるかな……!」

 

 俺は鳴神を振りかぶり、ブラックに突っ込んだ。確かにブラックの身体は硬い。白打や鬼道、封印状態の斬魄刀でも傷すらもつけられなかった。だからこそ、この一撃も防ごうとするだろう。

 

 それが、()()()

 

 今までよりも鋭く、そして強く踏み込んで、一閃。

 

 ブラックは右腕を眼前に構え、防御の形をとった。左手は握り締められていて、カウンターを狙っていることがわかる。だが、俺はそれを気にせず鳴神を振り切った。

 

 「――ギィィィィッッッ!!!」

 

 ブラックの叫び声から一瞬遅れて、ボトリとブラックの右腕が地面に落ちる。ギリギリ仮面に当たらないように避けたようだが、戦闘が始まって初めてこいつの焦った様子が見れた。

 

 「――俺の鳴神の能力は単純さ」

 

 俺はそう言いつつ、再びブラックに斬りかかった。数度の打ち合いでブラックには数多の傷が付くが、それでも致命傷までには至らない。防戦一方ではあるが、ブラックの(ホロウ)らしからぬ技量に俺は内心驚く。

 

 ジリ貧になると判断したのか、ブラックは大きく下がろうとした。だが、今の俺は()()()()()()()()

 

 「雷を纏った刀身は、すべてを切り裂く」

 

 ブラックの背後へ瞬歩で移動し、全力で霊力を注いだ鳴神を縦に振り抜いた。ブラックは振り向き反撃しようとするが、遅すぎる。

 

 「ギィ……ィ……ッ!」

 

 鳴神の一刀で仮面ごとブラックを両断し、ブラックは苦しげなうめき声を残して消え去った。驚くほど、あっけなく。

 

 「――これで終わり、か……」

 

 途端に、身体から力が抜けた。鳴神は燃費が悪い。未だに使いこなせていないからなのだが、どうしても霊力を多く消費する。あの鳴神(ツンデレ娘)を従順にするのは、まだしばらくかかりそうだった。

 

 だがそれでも、乗り越えたのだ。自身の死という、大きすぎる壁を。

 

 「はあ……女の子に膝枕されたい……」

 

 疲れでだるくなった身体を地面に横たえ、俺は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「――面白い……」

 

 先ほどまでの戦闘を見て、藍染は薄く笑った。視線に映るのは、自身の造った(ホロウ)を倒した、隠密機動の青年。彼はモニターの向こうで、地面に横たわっている。

 

 「彼は一体……?」

 

 東仙は自身が忠誠を誓う相手である藍染に問う。大虚(メノスグランデ)を改造した(ホロウ)。それが先ほどまで龍蜂(ロンフォン)が戦っていた相手だ。もちろんそう単純なものではない。素体には死神だって使っていた。だからこそ、実験には結構な時間がかかっていて、ノウハウが溜まるまでは相当な労力と根気が必要だった。

 

 そんな(ホロウ)を、隊長、副隊長でもない一隊士が撃破したのだ。気にならないほうがおかしいだろう。

 

 「ああ、彼の家は特別なんだよ」

 

 藍染は部下である東仙にそう言い、説明を始める。

 

 「下級貴族(フォン)家。彼はそこの8代目当主なんだ」

 

 藍染の話では、蜂家は護廷十三隊が発足した当初に二番隊隊長を務めた男の家だとのこと。彼は相当な猛者だったようで、“総隊長”山本元柳斎重國の盟友でもあった。

 そして彼の死後、彼の家系では稀に濃い血を継いだ者が現れ、才覚を発揮するのだそうだ。

 

 「それが、彼だと……?」

 

 東仙の言葉に、藍染は頷く。

 

 「少なくとも、彼の四人の兄や幼い妹よりは才能があると思うよ」

 

 「ならば、排除を……」

 

 「いや、それはいい」

 

 脅威は事前に排除するべきだと考えた東仙。だが、部屋を出て行こうとした東仙を藍染が止める。

 

 「彼らにも出てもらおう。もしそれで生き残ったのなら――」

 

 藍染は再び笑みを浮かべた。

 

 ――それもまた、面白いかもしれないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し休んだことで、だいぶ身体は楽になった。霊力の回復が早いのが俺の特徴でもあるのだが、それにしても鳴神の燃費の悪さはどうにかしたかった。

 

 ……鳴神とは今度じっくり話し合おう。色々な意味で。彼女の扱いが未熟なままでは、これ以上の相手と戦った時に厳しい。

 

 まあとにかく、藍染は出てこないみたいなのは助かった。彼が出てきたら、その時点で詰んでいただろう。

 

 「……さて、そろそろ――」

 

 帰ろうか、と身体を起こしたが、その瞬間、嫌な予感がよぎった。

 

 「……っ!」

 

 すぐさま立ち上がり、周囲を見渡す。先ほど倒したブラックのような、嫌な圧力を感じたのだ。それも、複数……っ!

 

 俺の予感通り、周囲一帯から空間が割れるような音がした。

 そしてそこから、5体の(ホロウ)が出てくる。奇しくもそれは、昨夜ここに送られた先遣隊の数の同等だ。だが、それだけならまだ良い。通常の(ホロウ)なら5体程度は問題ですらないのだ。

 

 問題だったのは、そいつらの姿だ。

 

 「――何……だと……?」

 

 新たに現れたのは、あれだけ手こずったブラックと同形態の(ホロウ)が5体。

 

 

 

 明確な死の足音が、近付いてきた。

 

 

 

 

 

 




 
OSR値上昇行動
「過去回想」「背後を取る」
「能力の説明」「敵の撃破」
「第三者視点から下される高評価」

カウンターOSRがなかったことで、始解先行発動によるOSR上昇値に変動はなし。
だが、補充したOSR値を、
「――何……だと……?」
で台無しにするという痛恨のミス。
状況は一気に不利に。


〜〜以下、予告〜〜

お願い、死なないで龍蜂(ロンフォン)
アンタが今ここで倒れたら、夜一さんや砕蜂(ソイフォン)との約束はどうなっちゃうの?
OSR値はまだ残ってる。ここを耐えれば、ブラックに勝てるんだから!

次回「龍蜂(ロンフォン) 死す」

デュエルスタンバイ!

※この予告は、本編とは一切関係がございません。
 

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