砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。   作:ぽよぽよ太郎

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第5話

 

 

 

         +++

 

 

 先の実験体と同形態の(ホロウ)が五体。消耗した今の龍蜂(ロンフォン)には荷が重いだろう。逃げようにも、先ほどと同じ力を持っているのならば逃げ切れるわけはなかった。

 

 「――それでは……」

 

 ――彼は死ぬだろう。

 

 藍染から龍蜂(ロンフォン)の現状を聞かされ、東仙は戸惑う。藍染の口ぶりから彼に生き残って欲しそうにも感じたのだ。

 

 そうにも関わらず、藍染は昨夜の死神を利用し作った(ホロウ)を五体も(けしか)けている。満身創痍の龍蜂をさらに追い詰めるかのように。

 

 もちろん、龍蜂を殺さないことに東仙は反対だった。今回のことで何かに気がついたかもしれないし、これからさらに成長するならば脅威になりかねない。龍蜂がこの危機を脱することで生じる不都合が多々あるのだ。そして、このまま行けば、その懸念はなくなるだろう。

 

 だが、東仙は主である藍染の考えが読めないことが、不安だった。

 

 「……彼はまだ、力を隠している」

 

 不意に、藍染が呟く。視線はモニターから外していないが、東仙の戸惑いを感じたようだ。

 

 龍蜂は五体の実験体と渡り合っているが、ぶつかるたびに傷が増えて行っているようだ。藍染の言葉を聞くかぎり、東仙には力を隠しているようにはとても見えなかった。

 

 「迷っているようだね、彼は。おそらく何者かが観察していることに気がついているんだろう」

 

 「……っ! そんなっ……!?」

 

 藍染の言葉に東仙は驚く。万全を期して実験を行っているため、自分たちの暗躍は誰にも気取られていないはず。藍染の斬魄刀の能力も相まり、露呈することはないはずなのだ。

 

 「いや、誰かはまではわかってないんだろうね。ただ、観察している者に手の内を晒したくないようだ」

 

 藍染はそう言うと、興味深そうに顎に手を当てた。

 

 おそらく、今回の実験は始めから彼が目的だったのだろう。藍染は事前に四十六室に手を回して隊長、副隊長格の出動を制限し、その他実力者も軒並み動けないようにしていた。そして、(ホロウ)への斥候は二番隊の仕事。龍蜂が出てくるのも時間の問題だったといえる。

 

 いくら実験体が強いとはいえ、卍解を始め隊長格には敵わない。逆に言えば、東仙はただの隊士になら実験体が負けるとは思っていなかった。

 

 だからこそ東仙には四十六室への手回しの意図がわからなかったが、それが今理解できた。そして認めたくなかったが、この実験を通して藍染は龍蜂のことを相応に評価しているようでもあった。

 

 「――でも、これで奥の手も出さざるを得ない」

 

 モニターでは、ボロボロになった龍蜂が実験体の腕で貫かれたところだった。彼は全力で実験体を蹴り飛ばすが、脇腹からは血が漏れ苦悶の表情を浮かべている。

 

 それを見た藍染は、満足そうにそう言った。

 

 東仙は藍染の表情を伺うことはできない。だが、その背中からは言いようのない悪寒を感じた。

 

 

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 深夜。夜一は隊長室の中を、落ち着かない様子でウロウロしていた。

 脳裏に浮かぶのは、(フォン)家の8代目当主である龍蜂。生意気な部下であり、気のおけない友人でもあった。

 現在は何かと戦っているんだろう。先ほどから彼の霊圧の高まりを感じていた。

 

 夜一と龍蜂の出会いは、龍蜂の隠密機動入隊後すぐのことだ。やけに白打の強い新人隊士がいると聞いて、その稽古中ちょっかいを出したことが始まりだった。

 どれが龍蜂かわからなかった夜一は次々に新人たちを薙ぎ倒していって、最後に残ったのが龍蜂だった。当時からすでに白打最強と言われていたこともあり、手加減はしていたとはいえそんな自分に肉薄した龍蜂に興味を抱いたのだ。

 

 元々(フォン)家のことは知っていた。優秀な血統も()()()()()()()であり、隠密機動を本家分家問わずに代々支えてきた一族だ。衰退や不幸が重なり現在は本家も分家もなくなってしまったが、一族の実力は確かだった。

 

 そういうこともあり、龍蜂の出自を聞いた時は納得したものだ。同時に、(フォン)家の血を濃く継承したのが彼だということもわかった。

 

 そこからは、後に隠密機動へと入隊した喜助も巻き込んでよく行動をともにした。ともに遊び、ともに実力を高めあい、ともに過ごした。

 

 そして今では刑軍の中でもトップクラスの実力を持つに至り、このまま成長したのならば大前田副隊長の跡目にとの声もあるくらいだ。

 

 今までの日々を思い出し、夜一は小さく笑った。彼の言った通りに、机にはとっておきの酒が用意してある。

 

 「だから早う、帰ってこい」

 

 その酒を一瞥し、小さく呟く。

 

 「――っ……!?」

 

 だが、突如彼の霊圧が乱れ、薄くなる。何かがあったと考えるのが妥当だろう。致命的な傷を負った、などと。

 

 夜一は思わず、隊長室の扉を開いた。待機命令が出ているとはいえ、このままでは彼が死ぬだろう。咄嗟の行動であり、考える前に身体が動いた。

 

 だが、飛び出そうとした夜一の腕を掴む者がいた。

 

 「――離すのじゃ、喜助……」

 

 浦原喜助。夜一の幼馴染であり、弟のような存在だった。

 

 「だめっスよ、夜一サン。待機命令が出てるんスから」

 

 「じゃが……っ!」

 

 四十六室の決定は絶対。それに、隠密機動がこういう状況で私情を挟むのは御法度だ。それでも、それがわかっていても、喜助を睨んでしまう。

 

 「なので、ボクが行きます」

 

 だが、喜助は眠そうな顔で小さく笑った。

 

 「任せてください。これでもお二人に負けないくらい、強くなってるつもりなんスから」

 

 

 

 

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 ――クソッ……!

 

 俺は血の吹き出す脇腹を抑えつつ、膝をついた。一瞬の隙を突かれ、背後から一撃。本当に、情けない。

 

 おそらくこの戦闘は藍染に見られているのだろう。こいつらが実験体なんだとしたら、どこかでモニターしているはずだ。だからこそ、できる限り手の内は見せたくなかった。

 

 だが――

 

 「――出し惜しみして致命傷とか、笑えねえな……」

 

 込み上げてくる血を無理やり飲み込み、自嘲気味に笑う。口の中に鉄の味が広がり、ツンと鼻にきた。

 このままだとジリ貧。というよりも、血を流しすぎてろくに動けなくなるだろう。

 

 五体のブラックは油断なく俺を囲むように位置を取っている。どうやら、逃がしてくれる気はないようだ。

 

 ここを切り抜ける策は、もう一つしか残っていない。藍染に通用するとは思えないが、できるだけ手札は残しておきたかった。だが、それももう諦めるしかない。

 

 俺は懐から小さな紙包みを取り出す。それを開くと、中には親指の先ほどの黒い丸薬が一つ。俺はそれを口に放り込み、噛み砕いた。薬品特有の嫌な味がするが、気にせず咀嚼し飲み込む。

 俺と喜助で開発した霊力回復薬。結局はこれ以上の開発を断念したが、一定の効果があったため試作品をもらっておいたのだ。

 

 それにより消費した霊力を回復し、俺は無詠唱の赤火砲(しゃっかほう)で傷口を強引に焼く。手荒だが、こうしてでも血を止めないと動けそうになかった。

 

 肉の焦げた嫌な臭いを嗅ぎながら、俺は精神を集中させた。自身の身体に霊力を練り込み、背と両肩に高濃度に圧縮した鬼道を纏う、白打と鬼道を練り合わせた戦闘術。まだ未完成ながら俺の切り札であり、夜一さんとの修行の成果だ。

 

 「――”瞬閧(しゅんこう)”!」

 

 発動とともに上半身を包んでいた装束が弾け飛ぶ。一応鍛えてはいるため見栄えは悪くないと思うが、男の上半身の裸など需要はないだろう。瞬閧用に刑戦装束というものはあるのだが、着るのが恥ずかしかったのだ。あれは女の子が着てなんぼのもんだからな。

 

 身体の周囲で視覚化した霊力で、身体のあちこちから血が滲む。未だに制御ができないため、鬼道を炸裂させられるのは両掌のみ。しかもこうして肉体にダメージを与える諸刃の剣なのだ。

 

 瞬閧で戦える時間は少ない。だが、俺の持ち札では一番の破壊力を誇る技だ。だからこそ、短時間でこいつらを殲滅する――!

 

 俺を囲むブラックのうちの一体に、瞬歩で近付く。今までとは一線を画す速さに、ブラックはそれに反応できない。俺を見失ったブラックの後頭部に掌底を打ち、鬼道を炸裂させる。

 

 「――まずは一体ッ!」

 

 バラバラに消し飛んだブラックを一瞥し、次の標的へ。俺との距離を詰めてきた二体に、瞬歩で近付く。

 

 「――二体ッ、三体……ッ!」

 

 闇雲に腕を振り回すそいつらの攻撃を潜り抜け、両手で仮面部分に掌底を叩き込む。爆音とともにその二体も吹き飛び、その後ろからもう一体が近づいてくる。先ほどの二体との時間差での攻撃。それをしゃがんで避けて、左手で地面をつき右足で蹴り上げる。

 

 「――四体目ぇッ!」

 

 そして、落ちてきたそいつに掌底をぶつけ、鬼道を炸裂。仮面が消し飛び、そいつも消滅する。残された一体はまるで人間のように唖然とし動きを止めていた。俺を恐れるように、少しずつ後ずさっていく。

 

 「これで――」

 

 俺は最後の一体へと距離を詰める。そいつは俺を遠ざけようと腕を振るが、すでにそこからは攻撃の意思は感じられなかった。俺はその苦し紛れの攻撃を避けると、容赦なく顔面に掌底を叩き込む。

 

 「――最後だあぁぁぁっ……!!!」

 

 鬼道の炸裂とともに周囲に風が吹き荒れる。最後の一体は、背後の木々も巻き込んで跡形もなく消し飛んだ。

 

 ……どうやらこれで、すべての実験体を倒したみたいだ。

 

 警戒は解かないが、後続が出てくる予兆はない。

 

 「……ぐぁっ……!」

 

 不意に、身体中に激痛が走った。瞬閧の、なにより霊力回復薬の副作用だろう。霊力を無理矢理回復させることで、負荷のかかった体内の器官が甚大なダメージを負う。そのことも、開発を中止した要因なのだ。

 

 身体のうちが焼けるような痛みに、俺は思わず膝をついてしまう。流れる血に比例するように、少しづつ意識が薄れていく。倒れそうになる身体を支えるだけで精一杯だった。

 

 「くそ……。酒だけじゃ、割に合わねえって……」

 

 やはり、夜一さんの乳を揉ませてもらおう。そう決意を固めたところが、限界だった。俺はそのまま倒れこみ、意識を手放そうとした。

 

 だが、そこで何者かの気配を感じる。圧倒的な、それでいて冷たい気配。これは――()()()だ!

 

 「紫電一閃、”鳴神”――ッ!!!」

 

 痛む身体に鞭打って立ち上がり、鳴神を抜いて構える。睨みつけた先には予想通りの人物が立っていた。そして彼は、その手を斬魄刀の柄にかけている。

 

 「砕けろ――」

 

 聞こえるのは、斬魄刀の解号。俺は咄嗟に鳴神の能力を発動させた。

 

 「――”鏡花水月”」

 

 俺の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

 




致命傷を受けて追い詰められることでOSR値が上昇。
夜一の危機察知によりOSR値が上昇。
露出(男)によりOSR値が減少。
追い詰められてから真の切り札を出すことで、OSR値が大幅に上昇。

OSR値が足りないため、ヨン様とは戦闘に突入できず。


-選手コメント-

龍蜂「すまぬ」


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