そこは地獄だった——
あったはずの建物は跡形もなく焼き尽き、平されたあたり—面は炎によって埋め尽くされていた。
そんな地獄に走る人影が一つ。
「だれかー! だれか生きてるやつはいないのか! 返事をしてくれ!」
その呼び声に応えるものなどもちろん誰もいない。この場に生は皆無。むしろこの地獄では生きている声の主の方が異質な存在である。
声の主は中性的な少年。その見てくれは中世の騎士のような鎧を派手に着飾っているという時代錯誤的なものだった。
少年は燃え盛る炎を気にもせず突っ切っていく。火は更なる繁栄を求め少年のマントに燃え移ろうとする。だが、達する手間で火はその行く手を阻まれたかのようにはじけ消えた。
「クソッ」
被害が比較的少ないところはすべて回った。生きていた人間はたった2人。
1人は下半身と正気を失っていた。近づいていった少年が死神に見えたのか絶叫と共に絶命した。
幼い外見だったもう一人には目立つ外傷は無かったが少年が腕に抱きよせると助けがきたことに安堵したのか微笑みながら、息絶えていった。おそらく死因は一酸化炭素中毒。
他は後者のように外傷の少ない物も中にはあるが、ほとんどは見るも無残な死骸ばかりであった。
炎は一向に止まる気配を見せない。それどころか激しさを増しているかのように見える。少年は目線を炎が広がる中心部—教会のあったはずの方角に向けた。
そこは既に焼き尽くされ、教会の姿形は見る影も無く炎は地獄の中でもひときわ高く燃え盛っていた。
そこに命など残っているはずがなかった。しかし、それでもなお人影はそちらに足を向ける。
視界がこれまでとは比にはならないほど狭まる。一瞬それにひるみながらも少年は足を止めない。
少年にはなにか考えや特殊な直感があった訳ではない。あるのはこの地獄にただ救済を求める心。だからその出合いは偶然でもありまた必然でもあった。
「あれは!?」
そこにいたのは1人の少女だった。さらけ出された華奢な体には埋め尽くされるほどの刻印と、火傷の跡。
視界を歪ますほどの炎は少女を覆い尽くしても少年の場合と同じように少女に達することはない。だが、その理屈は違う。少年は炎などで傷を負うはずのない存在であるのに対し少女は魔力によって守られていた。しかし、その少女自体は気を失っているように見えた。自動護壁の類か何なのかはともかく少女の命がこのまま永久に守り続けられるとは思えない状態。
だから、人影は、何も考えず、少女を助けた。人影にとって少女が何者であるかは関係のないことだった。少女が苦しそうだっただから助ける。それが人影の行動理念であった。
——こうして2人の運命の歯車は回り始めた。
初投稿作品になります。続くかどうかは保証しかねます。