11ターン目
負けていても不思議ではなかった…
勝ったのは運とガンダムの性能のお陰。
あの最後の一撃… ガンダムは瑞鶴の、紅蓮大将の動きを学習して格闘戦における効率的な動きを覚え実績した。
ガンダムに搭載されている教育型コンピューターは戦えば戦う程に、相手が強ければ強いほどに急速に成長するシロモノだ。
あの短時間で学習して反映させるとんでもない性能のソフトと、その動きを可能とする高スペックを誇る機体(ハード)。
本当にガンダムは凄い… それに比べて俺は…
「はあ…」
「勝ったのに辛気臭い奴だな、准将?」
勝ちはしました… けれどそれはガンダムの性能のお陰であって、旧式の瑞鶴で自分の磨き上げた腕で戦った紅蓮さんから、模擬戦後に褒められて恥ずかしさで死にそうなんです。 欝なんですおやっさん。
「面倒臭い奴だな… そんなんで明日のアメリカさんとの模擬戦は大丈夫なのか?」
「その為にこうしてやっているんですよ。 これで負けたら紅蓮大将に申し訳ありませんから… あっ、そのアブソーバーは硬めのやつに交換してください。 その方が反応が上がりますから」
先の一戦で学習したガンダムは、一皮剥けたようにその動きを変えた。 隙の無い洗練された動きを得たソフトは、より高度な要求をハードに課す。
今までのセッティングでも問題は無いのだが、より早く正確に動く上限が上がったのでそれに合わせて再調整をしているのだ。
二日続けての調整作業に整備兵の皆も疲れを顔に滲ませている。 MSの整備、調整が出来るように成ったといってもまだ日が浅いのでいつも以上に神経を使っているからだ。
心の中で苦労を掛ける事を整備兵に詫びつつ、早く作業を終わらせようと集中する…
日本帝国主催で行われる日米ロンの交流の宴は、主役の一人を連日欠きながらも表向きは和やかに行われていた。
日米の要人達はロンデニオンに派遣されお披露目に参加している自国の兵士達に接触し。 情報を得ようと酒を勧め、利権を掴む為に自分の所の人員を潜り込ませられないかと笑顔で語りかけていた。
アメリカ軍に籍を置きながらロンデニオン管理官の代理として宴に参加するクリスティーナ・アンダーソン大尉は、昨夜と同じようにシンジへの接触を試みるアメリカ企業の重役の頼みをやんわりと受け流しつつ、人の波が途絶えたのを確認すると静かに壁際の目立たぬ場所へと避難した。
途中で調達したソフトドリンクで慣れぬ民間企業への対応で乾いてしまった喉を湿らせて一息をつくと、少しだけ顔を俯かせてガンダムの調整作業に追われるシンジに対する恨み言を内心でこぼす。
シンジへの恨み言が3つめに差し掛かったとき、彼女は自分に射した人影で誰かが前に立っている事に気づき伏せていた視線を上げて影の主を確認する。
「閣下…!」
自分の目の前に立つのが、アメリカ全軍の最高責任者であるジョージ・エデン大統領である事に驚き、直ぐに姿勢を正して敬礼を送るクリス。
「ああ、楽にして… 久しぶりだねクリスティーナ大尉? 楽しんでいるかな?」
「…はい。 お久しぶりです閣下… 」
優しげに向けられたエデンの視線を複雑な表情で逸らすクリス。 それに気づいたエデンも少しだけ悲しそうに表情を曇らせる。
「ジョンと君には苦労を掛けるてすまないと思っている。 ロンデニオンでの任務はどうだい? フジエダ准将とは上手くやっていけそうかな?」
心を落ち着かせたクリスはエデンを正面から見据えると何時もより硬質な感じの表情を見せた。
「お心遣い有難うございます閣下。 訓練は順調に進んでおりますし、准将は良い方なので交流には問題ありません」
「…そうか。 うん、ご苦労大尉。 これからも祖国への献身に期待する」
「はっ! ありがとうございます。 ご期待に沿えるようにベストを尽くします!」
クリスの肩を軽く叩き、寂しげな表情で少し肩を落としながら彼女に背を向けるエデン。
その背中に一瞬何かを言いよどむクリス。 意を決したクリスは賑やかな宴の喧騒に消えそうなほどに小さな声でエデンの背中に向けて言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい。 今はまだ… 」
その場を去るエデンの背中は、こころなしか先ほどより軽く感じられていた…
地球に降りて四日目。
今日も良い天気で絶好の模擬戦日和です。
右手に突撃砲、左手にガンダムシールド。 背中には長刀を2本装備し、腰の後ろのラッチには予備弾装までつけてひざ立ちするガンダムを見上げながら首を回してコキコキと骨を鳴らす。
そしてガンダムの対面に仁王立ちするメイドインアメリカンな機体…
現アメリカ軍の主力戦術機であるF15・イーグルではない。
かといって旧式のF4・ファントムでもなく、各国で愛用されるF16・ファルコンや海軍機のF18・ホーネットでもない。
ましてF14・トムキャットなんてマニアックなモノでもない…
出てきたのは、黒いレーダー波吸収剤がペイントされてYF22とマーキングされている戦術機…
次期アメリカ軍主力戦術機の試作品だ。
おうふっ…
G弾推奨派はこちらを完全に潰す気です。
YF22の足元では強化装備姿の金髪オールバックなヤンキーさんが鋭い視線を此方に向けている。
友好度0ですね? わかります。
そういえば初日に大統領が言ってたっけ… G弾大好き派が今回の模擬戦に立候補してヤル気まんまんだって。
人間、そう簡単に自分の信じていたモノは変えられないよね~。 G弾に絡む利権とかも有りそうだし…
けど、試作機のYF22まで出す事はないでしょうG弾推奨派の皆さん。 まあガンダムも試作機だけど…
そうこうしていると、アメリカ陸軍の制服を着た男性に強化装備のヤンキーさんが此方へと近付いてくる。
「失礼します」
そう言って敬礼してくるのは、制服に大尉の階級章を付けた金髪のナイスガイ。 あっ、この人…
「アメリカ陸軍戦術第66機甲大隊所属のアルフレッド・ウォーケン大尉であります。 そしてこちらが…」
おお! ウォーケンさんだ! かっこいい! まだこの時期は少佐じゃないんだ。 んで、ウォーケンさんが目配せした人物は…
「同じく。 アメリカ陸軍第66機甲大隊所属の、セオドア・ノイマン中尉であります“閣下”」
閣下の部分にアクセントを含めつつ、少し不機嫌そうな表情で挑発的な視線を送ってくる中尉。 ちょっと感じ悪いよ…
「中尉! …部下が大変失礼を致しました閣下」
ウォーケンさんが中尉を諌めて慌てて謝罪し、ヤンキーさんは悪びれた様子も見せずに「申し訳ありませんでした」と謝罪。
その後にお互いの健闘を祈って握手をしてみたが、中尉の態度に何か引っ掛かるものを覚えた。
設置されたモニターに映る白い機体。 あの准将が乗るガンダムを見つめる。
「よう、斯衛の嬢ちゃん」
モニターを見ていた私の隣の椅子に、白い整備兵のツナギを着てサングラスを掛けた初老の男性が腰掛けてきた。
巌谷のおじさまの古い知り合いだというこの男性、後藤整備兵長は、今お邪魔している強襲揚陸艦ペガサスの整備班を束ねる人で、陣中見舞いに来た私たちを此処へ誘ってくれた。
こちらの方が外部カメラからの映像だけでなく、ガンダムのメインカメラの映像や機体コンディションの情報が詳しく見れるからと…
様々な機材が並ぶ左舷デッキ内。 物珍しさから辺りを観察していると、奥の方に奇妙なものが見える。
「戦車… 自走砲?」
衛士養成所の座学で得た知識を照らし合わせて謎の物体を照合してみるが、確定には至らない。
キャタピラの付いた巨大な車体の上に、四連装の砲身を束ねた手先を持つ腕らしきものが付いた上半身が乗り、頭部に当たる部分には透明のキャノピーらしきもの。 その左右両側に位置する肩部には、長大な砲身が前方へと伸びている。
私の視線に気付いて後ろを振り返った後藤さんは、「ああ」と頷いて視線を私に向けた。
「気になるか?」
「…はい」
ニヤリと笑う後藤さん。
「知りたいか?」
「よろしければ…」
「ダメだ」
ええー!?
「後藤さん。 うちの唯依ちゃんをからかわないで下さい」
その声に視線を向ければ苦笑してるおじさま… えっ、私からかわれたの?
「くっくっくっ。 すまん、嬢ちゃんを見てたらついな」
私を見て可笑しそうに笑う隣の人物に、思わず頬を膨らませる。
「悪かった悪かった。 詫びに面白いもんを見せてやる」
そう言いながらも笑みを隠さない後藤さんは、近くにいた整備兵の一人に声を掛けて見たことの無い形の薄い板状の携帯端末機を用意してもらい、それを立ち上げる。
「それは?」
おじさまが興味深げに携帯端末機を見やり、私も釣られるように見つめる。
「ああ。 ロンデニオン滞在者の一部に支給されている携帯端末機…、タブレットて言う名前だ。 …そらっ、左が模擬戦前のデータで右が模擬戦後の再調整したデータだ」
タブレットか… 良いな~。 …じゃなくて、そんなに簡単に機体の詳細なデータを部外者に…
「いいんですか、後藤さん? 大事なデータを…」
少し驚いた顔のおじ様。 訓練生の私でも機体情報の重要性は熟知している。
「あの、部外者の私たちが見るのは…」
「あん? 嬢ちゃんたちなら、うちの准将は気にしねぇよ。 どのみち公開される情報だしな」
「…唯依ちゃん。 折角だから見せてもらおう」
おじさま、目が輝いてますね… でも、ああは言っても私も気になっているし…
うん、拝見させて頂こう。
見せてもらった画面には、戦術機のスペックデータと同じ表示様式でガンダムのデータが…
「凄い… 前の状態でも機体反応と運動性が第三世代戦術機の不知火より遥かに上なのに、調整後の現状で反応速度が5%、動作効率が15%も向上してる」
「格闘戦の動作効率だけなら30%の向上。 紅蓮大将様々だな」
「…後藤さん。 見間違いでしょうか? ガンダムに複数のジェネレーターが配置されているような…」
…確かにおじさまの言うとおり、画面上には複数のジェネレーターの出力表示が
「見間違いじゃねえよ。 あの機体には核融合炉がメイン一基にサブが六基、計七基のジェネレーターが積んである」
「…戦術機サイズに七基も積めるほどに小型化された核融合。 出力も出鱈目だ。 何ですか? このトルクは? どうしてモーター駆動であのサイズに収まって、どうしてこの出力なんですか!?」
「それはフィールドモーターって言ってな……」
ああ… 楽しそうに話す後藤整備長とは逆に、おじさまの顔がどんどん引き攣っていく…
「やっぱ、速いなこいつ!」
モニター上を通り過ぎようとする突撃砲を両手に持った黒い影。 確かライバル機のYF23は黒い風、だっけ? あれは戦闘機の方か。
やる気満々で挑んだ米軍との模擬戦でYF22の時速900kmオーバーのスピードと優秀な電子戦装備に舌を巻きつつ、フットペダルを操作してすれ違いざまに正確に狙ってくる相手の36mm弾を避ける。
高性能なFCS(ファイアーコントロールシステム)も積んでるか、流石はアメリカの次期主力戦術機!
「ちっ! 何で当たらない!?」
「正確な射撃だ。 だからこそコンピュータには予測しやすい!」
ガンダムに搭載されているコンピューターがチート過ぎ。 パイロットの操作に合わせて最速、最適な動きで相手の攻撃を避わしてくれます。 賢いです! 凄いです! ガンダムです!!
お返しにとばかりに、背後に回ろうとしたYF22に36mmを振り向きざまにばら撒きます。
こちらの攻撃を予期できなかったのかバランスを崩し、機体を傾けながら危うい体勢で必死に避けるヤンキーさん。
「なんでこっちを補足できる!? このスピードで、おまけにレーダーにも映らないないはずだろ!?」
はっはっはっ。 この機体は基からレーダーの利かない状況下で戦う事を目的にした機体だ! アクティブで相手のセンサーも妨害しているようだが、その程度の出力ではどうって事無いわ!
こっちの光学センサーを始めとしたセンサー類の精度も此方の世界とは比較にならんくらいに高精度なのだ! レーダー波が使えなくてもMSならICBM弾頭すら撃ち落す事が可能!
MSすげー!
…スピードは戦術機が上だけどね。
演習場内の模擬戦だからまだやり易いけど、このスピードで戦場でやり合うのは骨が折れそうだ。
それにあの中尉… ノイマン中尉、良い腕だ。
射撃戦と格闘戦の違いがあるから紅蓮大将とは比べるのが難しいけど…
正直、昨日の模擬戦でのデータがなければ余裕が無いくらいの強さだ。
「紅蓮さんに感謝だな」
『ならば、勝って見せい』
は? 今の声は…?
「何をごちゃごちゃと!?」
「うおっと!?」
体勢を立て直したYF22が姿勢を低くし、左手を伸ばしてバランスを取るように匍匐飛行しながら右手に持った突撃砲で36mmを放つ。
俺の操縦に呼応してガンダムが上半身を反らし、銃弾を避わしてお返しに頭部バルカンをばら撒く。
「なんでそんな風に動け、うおっ!?」
「そっちもそのスピードでよく動くよ!」
いったん上空に退避して動きを止めるYF22。 ヤンキー中尉の気が一瞬だけ緩む気配が…
「飛べ! ガンダム!!」
両足のペダルを踏み込み、背部のランドセルと足裏に設置されたバーニアを全力で吹かしてガンダムを上空へと舞い上がらせる。
YF22目掛けて突貫し突撃砲を撃ちながら近づくが、残弾僅かの警告がメインモニター端に映り。 弾装交換の余裕が無いことを判断して弾切れと同時に突撃砲を相手に投げつける。
「空中戦も出来たのか! だが、こっちのスピードに付いて来れるか!? 顔付き!!」
「なめるな!」
後退しながらの回避運動で銃撃を避け、飛んできた突撃砲を左腕を振って弾くYF22。
これで回避行動でスピードを鈍らせ、左手に持った突撃砲は封じた。 あとは…
背中の長刀に右手を握らせてYF22に迫る。
最高速は向こうが上だが、加速性はこっちが上だ! 短距離なら追いつく!
「くっ! この!?」
「させるかー!」
右手を突き出し突撃砲でこちらを狙うがガンダムの左手のシールドでそれを弾き、長刀固定用のロックボルトの破砕音を響かせて長刀を唐竹に振り抜く。
「はやい!? くそ!」
相手も然る者で左手の突撃砲で長刀を受けようとするがそれを叩き折り黒い装甲に丸まった刃を叩き付け、
直前で模擬戦プログラムのセーフティーが入り、長刀は相手の装甲板のみを割って止まる。
「っ…」
「…中尉、いい腕だったよ」
撃墜判定を食らい、跳躍ユニットを吹かしながらゆっくりと地上へと降下していくYF22。 こちらもバーニアを吹かしながらガンダムを降下させる。
「…くそっ。 えっ、なんだと…!?」
中尉のやりきれない気持ちを感じた瞬間、通信機越しに彼の驚愕の声が響く。
見れば降下していたYF22が、右手の突撃砲の弾装交換をしている。
「コントロールを受け付けない!? …なんで実弾が装備されてんだ!?」
嫌な予感… 中尉ではない何者かの悪意をYF22の機体から感じる。
「ロックオンだと!? おい! 急いで逃げろ!!」
YF22が突撃砲の銃口をこちらへ向けるてくるのがスローモーションに見える。
「ちぃい!!」
慌てて操縦桿とフットペダルを操作してガンダムに回避行動を取らせるが、YF22も先ほど以上に急激に動きながらガンダムへと迫る。
「ぐっ、がぁ…」
中尉の苦悶の声。 中の人間を無視した急激な機動によるGが彼を苦しめているのだろう。
長引かせたら中尉の体が心配だ。 一気に決める!
「中尉! 少し荒っぽくなるが我慢しろ! すぐに出してやるからな!」
「くっ、あ… り、了解…」
ガンダムに盾を構えさせ、YF22に突撃させる。
背部と足裏のバーニアを全開で噴射させ、強烈なGを発生させながら真っ直ぐに突き進むガンダムに突撃砲を撃つYF22。
36mmの雨が盾に跳ね返り、乾いた金属音を激しく打ち鳴らす。 盾の影に隠れているので本体に着弾は無く、仮に直撃を食らってもガンダリウム製の装甲なら問題は無いはず。
硬い盾と装甲の防御力を信じて実弾の雨に襲われる恐怖を打ち払い、ガンダムを突っ込ませる。
ガンダムをYF22の懐に飛び込ませて再び盾で右手を振り押さえ、その頭部を右手で掴みそのまま力を込めさせる。
メキメキという金属が軋む音が聞こえそうなほどにメインモニターに映るガンダムの指は相手の頭部に食い込み、やがて頭部を完全に握りつぶした。
「これで目と耳は潰した。 あとは!」
続いてガンダムに、押さえていたYF22の右腕を掴ませて同じ要領で握り潰させる。 背部の武装ラックに予備の突撃砲は装備していないからこれでYF22に武器は無い。
戦術機の細い腕を握り潰し攻撃能力を奪ってほっとしたのも束の間、今度は警告音がコックピット内に響く。
「なんだ? しまった!?」
バーニアがフルスロットルでの連続使用で加熱してオーバーヒートを起こし、強制冷却の為に停止した。 推力を失い、YF22に寄り掛るガンダム。
第三世代戦術機の重量がおおよそ20t前後。 対してガンダムの重さは、その3倍の60t近い重量… いくら最新鋭の高出力エンジン跳躍ユニットを持ったYF22でも支えきれるものではない。
案の定、二機は掴み合ったままに降下していく。
半ば無意識の内にガンダムを操作し、機体が破損して不安定なYF22を支えさせ一緒に地面に着地させる。
足元の浮遊感が一転して着地の衝撃となり、フットペダルにかけた足がずれそうになる。 YF22の分も合わせた合計80t近い落下の衝撃を吸収してガンダムの各関節、ショックアブソーバーが軋みをあげるがサブウィンドウに表示された機体コンディションに異常は無し。 さすがガンダム、なんともないぜ!
「ふう… 中尉、無事か?」
「…無事です」
「そっか。 よかった…」
少しぐったりとした様な声で答える中尉に一安心。 さて、頭と武器を失って機体は大人しくなったようだが他に何が仕掛けられているかもしれない。 機体はこのまま放置して中尉だけ回収して帰るか。
…ん? そう言えば途中で紅蓮大将の声が聞えたような?