ガノタの野望 ~地球独立戦争記~    作:スクナ法師

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13ターン目 プレゼンテーション

 

アメリカのとある一室に集まる人々が居た。

 

年代も様々なら服装も様々で高級スーツを隙無く着こなす者、アメリカの各軍の制服を着る者。

 

しかし集まった人々に共通するものがある。

 

それはどの顔も険しい顔を浮かべているという事だ…

 

 

「…今回は大統領に踊らされたようだ」

 

「計画の全てを把握され証拠も掴まれました…」

 

発せられた言葉にその場に居る者の表情が更に険しくなる。

 

「今しばらくはおとなしくする他あるまい」

 

「例の男は?」

 

「今は手を出すな。 企業の多くは奴の持つ技術を欲している。 彼らの機嫌を損ねて波風を立てれば後々に響く。 時が来るまで待て、時が来れば…」

 

「その時には大統領も…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界がBETAとの戦いに明け暮れる中、日本帝国の経済都市であり京都からの首都の移転が決まっている東京は、何時もと変わらない日常を送っていた。

 

賑やかな街には着飾った人々が行き交い、商店の売り子たちは声を張り上げて客寄せをする。 

 

そんな平穏な日常…

 

だが人々は気づいている。 BETAの足音が迫っていることに…

 

それを表に出さないのは恐怖に負けない為なのか、それとも恐怖を忘れる為なのか…

 

 

「と~おきょっ♪」

 

「うるさい、黙れ。 …窓から離れやがって下さい准将」

 

 

そんな東京の街中を一台の黒塗りの車が警護を受けながら走っていた。

 

豪奢な内装の車内で歌を歌いながら、車の窓に張り付いて東京の街並みを楽しむ元地方都市出身者にして現スペースコロニー在住のシンジ。

 

そしてその護衛役として車に同乗しているノイマン中尉は、柔らかなシートの上で苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

 

 

 

ウキウキと観光気分のおのぼりさんと、不機嫌な青年を乗せた車はやがて政財界御用達のホテルへと辿り着き、高貴さが漂う玄関で止まった。

 

 

玄関口には支配人を始めとした従業員達が整列して征夷大将軍御紹介の客人を出迎えるが、車から出てきたシンジを見て一瞬固まる。 もちろん出迎えられたシンジもまた、その威容に車から降りて固まっている。

 

今まで数多の要人を迎えてきたが、車から出てきた人物は威厳や貫禄、高貴さを感じられず何処の国のものとも分からない軍服らしき物を着て、煌武院殿下から紹介のあった人物とは思えなかった。

 

 

「藤枝様ですね? ようこそお越し下さいました。 私(わたくし)、当ホテルの支配人をしております沖田と申します。 どうぞお見知りおきを」

 

そんな中、流石は海千山千の老舗ホテルを統括する支配人は直ぐに気を取り直して上品な微笑を浮かべると一礼し、シンジとノイマンを迎え入れる。

 

そして支配人の挨拶に一拍の間を置いて条件反射的に一礼する従業員一同も流石はプロと言ったところか。

 

 

先ほどまでの浮かれ気分はどこへやら、VIP待遇で迎えられて恐縮するシンジは優雅な所作で支配人に案内されて会合や会議等に使用されるホテルの一室へと通される。

 

 

防音・防諜対策の為か重厚な造りの扉を支配人が開けると、そこにはスーツ姿と軍服を着た日米の人々が巨大な円卓の席に着き来訪者を待ちかねていた。

 

 

 

 

日本側の参列者の一人、榊総理大臣はこの会談を要請した人物が室内に入るのを静かに見つめた。

 

 

癖のある長めの黒髪を揺らしながら、へこへこと参加者に愛想を振りまきながら締りの無い笑顔で入室する威厳や威風などという言葉と全く縁が無さそうな若者…

 

しかし、この場に集まった政財軍の要人達の注目を集める人物。 上座に座るエデン大統領と悠陽殿下に丁寧に一礼すると彼は向き合うように下座に着席した。

 

 

「全員集まりましたな… それでは始めましょう。 本日、皆様にお集まり頂いたのは 藤枝准将からの日米への協力要請があるという事ですが… 准将?」

 

榊の言葉にシンジは静かに席を立ち、参列者を見回すと一礼して口を開く。

 

「はい。 皆様、お忙しいところこうしてお集まり頂きありがとうございます。 本日、皆様をお呼びした理由はロンデニオンの地上での活動拠点の建設にご協力頂きたく思いまして…」

 

その言葉に室内は一斉にざわつき始める。

 

シンジはそのざわつきを無視して話を進めた。

 

「候補地としましては、日本帝国領の琵琶湖の湖岸をお借りしたいのです。 そして、アメリカの方々には施設の設置の融資をお願いしたいのです。 生産設備や管理施設等は自前で作りますので、滑走路や格納保管庫の建設はそちらに任せたいなと。 拠点はこんな感じで…」

 

シンジは予め用意してもらっていた自分の席に設置されているプロジェクターに記録媒体を差込み、室内の一角に拠点の置かれた巨大モニターに青写真を映し出す。

 

日本帝国側の要人はそれを食い入るように見つめ、反対にアメリカ側の要人はシンジを見て言葉を発する。

 

 

「なぜ日本に? …失礼だが、我が国の方が拠点の設営には相応しいと思うのだが?」

 

アメリカの軍需産業の重鎮が発した言葉に、日本側の要人が眉を顰める。

 

「そうですね。 “BETA”相手なら地上で最もアメリカが安全でしょうね」

 

シンジの言葉に今度はエデンを除くアメリカ側の要人が眉を顰め、それを見た日本側の要人は溜飲を下げた。

 

先日の模擬戦の真相はこの場に居る皆が知っている。 関与はしていなくてもアメリカ側の人間が仕出かした事なので口を噤むしかない。

 

 

「土地も融資もこちらが無償で提供するとしてもアメリカ本土に設営はないかね?」

 

そんな中、アメリカ合衆国の大統領であるエデンはアメリカ側の代表として最大限の譲歩を見せるが…

 

「…残念ですが。 なにもこの前の一件だけで決めた訳ではないんですよ? 理由は幾つかあります」

 

譲歩を断られた事にさして気を悪くするでもなく、エデンは頷き続きを即す。

 

「日本の方々には申し訳ないのですが、今回の拠点設営はテストケースとしての役割の方が強いんです。 これが上手くいけば、別の場所にも拠点の設営をお願いしたい… 勿論、次の候補地としてアメリカを考えております」

 

「ふむ。 見返りは?」

 

「…提供予定の5隻の艦とは別にペガサス級を1隻と新鋭巡洋空母3隻、拠点で生産された兵器の優先的無償供与… では?」

 

「生産されるモノとは?」

 

「こちらを…」

 

シンジは持参した鞄から資料を取り出すと参列者に行き渡らせた。

 

「…61式戦車、これは先日見たモノだな。 ホバートラックも先日に… 兵員輸送や索敵機能、簡易指揮所の役割を果たす多目的戦闘車両だったな。  …ミデア。 フジエダ准将、この記載に間違いは?」

 

「ありません」

 

シンジの言葉に、その場に居た日米の軍人と兵器産業の人間は頭を抱えた。

 

 

アメリカの最新鋭輸送機のペイロードを軽く超える所か、二倍の160tを積載可能でオマケにVTOL機能まで付いているバケモノ輸送機…

 

これが真実なら戦場の後方はその在りようを大きく変え、現在輸送機を製作している企業は大打撃を受ける。

 

 

「あ~、フジエダ准将? この輸送機…ミデアはロンデニオンのみで製作されるので?」

 

軍需産業の代表者の一人が恐る恐る尋ねる。

 

彼の会社では輸送機を作って軍に納入していた。 光線種の登場で先細りする航空産業の中で唯一食い繋いでいる軍用輸送機部門。 こんなバケモノが出ては勝ち目が無い。

 

若干顔を引き攣らせる彼とは真逆に、のほほんとした表情でシンジは答える。

 

「いえ、ライセンス生産して下さる所があれば頼みたいんですけど。 必要なデータとか機材設備、資材とかは提供する用意があるんで、後は琵琶湖でも生産するので、組み立てだけでも手伝って頂けたら助かるんですけどね~」

 

ロンデニオンの生産システムは主に二種類の生産ラインがあり、一つは兵器生産を目的とした主力ライン、もう一つはその兵器の消耗品やロンデニオンコロニーの資材を生産するラインである。

 

生産に必要な資材が0なのと生産スピードに限界があるのは共通だが、前者はシンジが指示を出せば生産が行われ、後者は前者の生産状況に合わせて各種武器弾薬や、スペアーパーツ、燃料等が自動生産される仕組みと成っている。

 

ただし後者のラインもシンジの指示を受け付ける使用になっており、兵器丸ごとは生産できないがパーツ一式で生産は可能と成っているので、このパーツを使って現地の人間に造ってもらう事により、技術を吸収してもらおうという狙いがあった。

 

 

この言葉に男と他数名が色めきたち、思わずその場で名乗りを上げようとした。

 

このバケモノが市場に出れば勝ち目は無い。 いくら本国の役人に金を掴ませようと、それを軽く覆す性能差。 仮に各国が各企業が連携して阻んでも、何処かが抜け駆けすればあっと言う間に一人勝ちさせてしまう。

 

国が抜け駆けすれば、他国もその性能に対抗するために同じ物か同性能の物を調達せねばならず。 企業が抜け駆けすれば、トンでも性能を生み出す技術力に触れる機会を与えて大きく差を付けられる。

 

「61式や他のもライセンス生産を頼みたいんですけど… もしライセンス生産してくれるなら、出た利益をその企業に投資する事も考えているんですけど… 後は代理店として此方で生産した分の販売なんかも頼みたいんですけど~ 難しいかもしれませんね~」

 

その呟きに室内の空気は固まった。

 

多くの企業人が上がりそうになる右手を振るえながら左手で抑えて耐えた。

 

シンジが提出した資料には陸海空の兵器群が名を連ね、軍需産業や兵器開発関連の軍人達は獲物を見据えるようにシンジを見つめながら周りを牽制する。

 

 

 

 

シンジは悪寒に震えた。

 

 

「海上艦も造られるのですね」

 

そんな中、悠陽の鈴のような声が室内に静かに響き渡り、悪寒に身悶えするシンジは気分が少しだけ楽になったような気がした。

 

「はい殿下。 琵琶湖は運河拡張工事のお陰で大型艦が停泊でき、川を下れば海にも出れるのでドックの建設も計画に含まれております。 完成しましたら日本とアメリカの艦艇の補修にも使うことが出来ますので…」

 

「なるほど…」

 

左手の人差し指を頬に、中指を口元に当てながら黙考する悠陽を見たシンジは、この世界には絵になる人が多いものだと埒もない事を考える。

 

「建造予定のヒマラヤ級は戦艦クラスの砲を搭載し、戦術機の搭載を可能にすべくコロニーの方で設計データを改修中です。 U型、M型の潜水艦も、A6イントルーダーと海神の搭載を前提に設計データを改修しております。 これらが両国のお力に少しでもなれれば幸いです」

 

シンジの控えめなセールストークに悠陽は少しだけ苦笑を漏らした。

 

 

「MSが資料に載っていないようだが、生産の予定はないのかね?」

 

掛けていた読書用の眼鏡を外しながら榊は尋ねる。

 

「ええ、今のところはまだ未定ですね。 これは日本に拠点設置を決めた理由の一つですが、61式やMSを朝鮮半島の戦線に投入して実戦データを取りたいのです。 そこで得たデータを基にしてMSを本格生産したいと思います。 勿論、61式や他の兵器もデータを基に改良すべき点は改修して行こうと思います」

 

 

「何故、朝鮮半島の戦線に?」

 

アメリカ陸軍の高官が立派な口髭を揺らして威圧的に尋ねる。

 

「それは現在の人類側の最前線の内で、気候的にも地形的にも安定しているからです。 ロシ…ソビエト方面の戦線は極寒の、中東は砂と熱帯の、欧州は海峡を挟んでの地形。

 

 朝鮮半島は比較的気候が安定しており、前線は半島北部で押さえれておりますので後方に少しばかり余裕が有り日本に近く、地形にしてもBETAの進攻ルートが限定されていて守りやすく、多少の山岳地帯の多さもMSの試験運用に適しているかと判断しました。

 

MSは戦術機に比べ即時広域展開能力が劣るので能動的な攻勢行動に不安が残ります。 今のMSの性能では守勢行動をメインに使われた方がお役に立てるかと…」

 

「…“今”は、かね?」

 

ニヤリと笑い見透かすような視線を向けるエデンに、やはり敵わないな…と苦笑するシンジ。

 

一見すると惜しみなく技術と情報を公開しているようだが、それは“まだ”先が有るからだ。

 

その余裕がシンジに今の行動をさせる決め手であった。

 

 

 

 

貰った力がギレンの野望と自分のガノタ知識を基にしたものならば、最低でも宇宙世紀0105年までの兵器と技術がやがては得られる。

 

今見せた技術と兵器は宇宙世紀0079年、それも半ばの技術だ。

 

これが宇宙世紀0087年程になると飛躍的に技術力が高まり、MSも第二世代へと移ることになる。

 

運動性は勿論の事、耐久性や整備性が飛躍的に高まるムーバブルフレーム。 全天周囲モニターとリニアーシートの導入により一般兵士にも扱いやすくなり本領を発揮するマグネットコーティング技術。 エネルギーPAC技術導入によるビーム兵器の性能向上。 強度等を上げながらも軽量で、大量生産が可能となったガンダリウム合金Γ(ガンマ)。 ガンダリウム合金Γの精製技術を基にして精製されるチタン合金セラミック複合材ですらガンダリウム合金に近い耐久値を叩き出す。

 

これらの技術により作られた第二世代MSは、現在ロンデニオンが保有するガンダムを含む第一世代MSを歯牙にも掛けないほどの性能を誇る。

 

 

 

 

こちらの世界に来て半年近く。

 

シンジはこれから如何すべきなのかを考え続けた。

 

そして出した結論は、宇宙世紀0079年から0083年までの技術は段階的に惜しみなく地球側に提供し、それ以降の第二世代MS等の技術から制限を掛けて情勢を見極めて提供する。

 

実はファクトリーで現在生産可能な技術は既に0079年代の技術を網羅しようとしている。

 

高まった技術レベルは7。

 

 

 

これに連邦脅威の生産力が加わると、フルラインで61式を生産すれば一日に150両。 一ヶ月で最大4500両オーバーを生産できるようになる。

 

因みにシンジが居た地球のリアルチート大国・アメリカ合衆国全軍が保有するエイブラムス戦車の総数はおよそ6000両… ロンデニオンコロニーで仮にフルラインで61式を全力生産すると……

 

地球連邦の物量の凄まじさの一端を垣間見た気分のシンジであった。

 

 

これに加えて地上拠点の生産力が加われば…

 

これだけの物量である。 如何に地球の企業や経済を圧迫させずにロンデニオンの兵器と技術を根付かせるかに頭を悩ますシンジ。 ついでに言えば、作り置きしてある兵器や資材にが溜まりコロニー港を圧迫し始めていた。

 

その答えの一端が朝鮮半島への兵器試験の名を借りた参戦であった。

 

 

彼が狙うは中国を始めとする大東亜連合軍。

 

 

「はい。 “今”はまだ、です大統領。 それと試験の一端として日米の名義で大東亜連合に61式戦車の供与をお願いしたいのです。

 

 そして今回のお披露目で一緒に降りてきた61式戦車兵の方々を、このまま試験部隊の先遣として準備が整い次第に日米の名前で半島へ送り出していただき、これを61式戦車教導部隊として大東亜連合戦車兵の教導に当てます。 

財政難に因り兵器不足の連合に恩を売りながらも、61式の実戦データが多く手に入る… 帝国と合衆国に損は無い提案だと思いますが検討いただけませんか? 

 

無論、61式は此方が無償で用意致しますし、連合に好評であれば再び日米の名義で“追加の提供”の用意があります。 日米の方でも61式が必要であれば、評価試験用に用意も致します」

 

「…なるほどな。 その件は合衆国と帝国で…よろしいですかなジェネラル悠陽?」

 

「…分かりました。 拠点設営の件と合わせて両国で検討いたしましょう」

 

 

エデンと悠陽の言葉に、とりあえず検討して貰えるという事で一息つくシンジ。 そして事の成り行きを見守っていた榊も同じく人知れずに一息吐いた。

 

 

榊は考える…

 

 

 

琵琶湖への拠点設営。

 

この一事が認められた場合の帝国へ齎す益は計り知れない…

 

政治的にもロンデニオンと近くなるのは言うに及ばず、その技術が身近になり。 拠点設営の為に米国から投資される巨額の資金と、生じる大量の雇用による経済効果は先行きが暗い日本経済には良いニュースと言えよう。 さらに完成後に琵琶湖拠点内で日本人の雇用者が出来れば、経済的にも技術的にも有難い。 更にそこから生産される物資の優先提供も…

 

しかもこれだけでも日本にとっては有益な事だが、経済面や技術面以外の益を齎す。

 

軍事、防衛面での間接的強化。

 

ロンデニオンの拠点が日本に出来れば、そこから得られる利益と投資した分を回収するためにアメリカは日本の防衛を無視できなくなる。

 

流石に在日米軍の増強までは期待できないかもしれないが、おいそれと引き上げさせ難くなる。

 

本土防衛に戦力的不安の残る帝国としては有難い状況だ。

 

更にはもう一つの提案事項、朝鮮半島への試験部隊派遣と大東亜連合への兵器供与も或いは…

 

 

 

榊は下座で愛想笑いを浮かべる若者を見極めるように見つめた。

 

彼の心中にある言葉は一つ

 

“なぜ?”

 

実際に榊の疑問はもっともだった。 ロンデニオンとしても拠点設営には土地さえ借りられれば、後は自前で全てをこなす事が出来るので、設営の為のアメリカからの融資も帝国からの雇用も本来は必要が無い。 無いが、帝国とアメリカを拠点設営に噛ませる事により、両国間の交流をより深めて貰い此方側に引きずり込もうとようという魂胆だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一声欲しい所だな」

 

「…いけずぅ。 …はあ。 皆さん、モニターをご覧ください」

 

榊の考えを他所にエデンは融資と引き換えにロンデニオン技術の更なる開示を求め、情けない声を出しながらもシンジはそれに答えるべく今回の切り札を切る。

 

 

 

セイバーフィッシュ。

 

それは地球連邦軍がジオン独立戦争初期に配備していた制式戦闘機である。

 

装備の換装により大気圏内外を問わずに活動でき、戦争初期の連邦軍を支えた兵器。

 

 

会議室の巨大モニターには、大気圏内を飛行するセイバーフィッシュが上空から観測する映像が映し出されていた。

 

画面の端には飛行ルートを示したマップと機体情報も映し出されている。

 

 

「御覧の映像は昨日、日本帝国と帝国経由で大東亜連合に許可を頂き日本海経由で朝鮮半島北部へとセイバーフィッシュ… この飛行機の名前ですが、それを遠隔操作により無人で飛ばした映像です」

 

 

別段になんの変哲もない飛行映像に首を捻る参列者一同。

 

確かに珍しい形をした戦闘機ではあるが、光線種が制空権を握る御時世では戦闘機に需要はない。

 

このまま半島へと近づけば光線種に捕捉され撃墜されるだけだと誰もが思った。

 

期待する笑みを浮かべたエデン大統領以外は…

 

 

数分後、参列者の想像通りにセイバーフィッシュは回避行動も取らずに黒煙を上げながら墜落して空中で爆散する。

 

意味が分からず疑問符を浮かべる一同。 しかし一部の人間は何かしらの違和感を映像から覚える。

 

 

「説明してもらえるかな准将?」

 

エデンは笑みを浮かべたまま、なにやら楽しげにシンジへと回答を即す。

 

「はい、大統領。 え~、この映像はある素材のテストの為に行った実験映像です。 セイバーフィッシュ自体の性能も中々なのですが、本題はこの機体の装甲に使われている素材にあります」

 

シンジは手元の端末を操作すると映像を切り替えてグラフと数値を示した映像をモニターに映し出す。

 

「臨界半透体。 特定のエネルギーレベル以下の光を反射して許容範囲以上になると透明状態になり、またはこの逆の状態にもなる素材です。 波長やエネルギーレベルも自在に調節することもできます。 今回、セイバーフィッシュの装甲に対光線種使用の臨界半透体多層化コーティングを施して実験した結果、映像では分かり難いですが重光線級複数体のレーザー照射に23秒間耐える事が確認されました」

 

 

最初、居合わせた一同はシンジが何を言っているのか分からなかった。

 

一同は発せられた言葉を噛み砕き、時間を掛けて飲み込むとその言葉の意味を理解して驚愕した。

 

「バカな!! たかだか戦闘機の装甲で、重光線級複数体のレーザー照射をそれほどの時間を耐えるなど有り得ない!!」

 

海軍に属する帝国軍人の一人が椅子を蹴りながら勢いよく立ち上がると大声で否定する。

 

周りの人間も声にこそ出さないものの同意見であった。

 

地球上の兵器群で最高の装甲厚を誇る戦艦にレーザー蒸留幕を施しても重光線級の単照射10数秒で蒸発してしまう。

 

それが装甲の薄い戦闘機が複数照射に20秒以上耐え切るなどと信じられない一同であった。

 

そんな一同に苦笑を浮かべながらも「事実です」と答えて端末を操作して実験データの詳細をモニターへと表示するシンジ。

 

一同は食い入るようにモニターを見つめる。

 

臨界半透体とはガンダムファンの間ではあまり知られていないが、宇宙世紀世界の中ではポピュラーな素材の一つである。

 

簡単に言ってしまえばレーザー光線の反射、透過をコントロールする素材で宇宙世紀の通信技術の一つであるレーザー通信にもこの素材が使われている。

 

また、兵器の対レーザー防御策として臨界半透体を多層コーティングする事により宇宙世紀ではレーザー兵器はほぼ無効化されており、替わりにレーザー以上の高熱を簡易に発する事が出来るメガ粒子兵器(推定温度10数万度)が重視されていた。

 

しかし、それほどの対レーザー性能を持ってしてもレーザー種の高出力レーザーを完全に防ぎきる事は出来ないのは、流石はBETAといったところだろう。

 

 

因みにジオン独立戦争後半で地球連邦軍が開発した対ビームコーティングの基礎技術の一つでもある。

 

核融合炉の素材にも使われている4000度の高温に曝されても形状変化を起こさないガンダリウム合金に臨界半透体と、この世界の戦術機にも使われている光学兵器の攻撃により蒸発して気化する事により熱を奪い、又は拡散させて防御する蒸散塗膜(但し宇宙世紀の

蒸散塗膜は超高温のメガ粒子兵器を基準にしているのでより熱吸収、拡散効率が高い)を多層コーティングした物を対ビームコーティングと言う。

 

 

 

 

 

「今回の提案を受け入れていただければ、これを始めとした幾つかの素材の現物に更に詳細なデータと生成、加工方法を全世界に先駆けて日米両国に公開、提供いたします。 なお、この素材は既存のレーザー蒸留膜との併用も可能で、ロンデニオンではこの素材と開発中の技術を組み合わせた対レーザー新技術も開発中です。 あっ。言い忘れておりましたが、臨界半透体とその他の技術や素材の提供は、独占を防ぐ為にロンデニオンが特許を出願して受理された後にフリーライセンスとさせて頂きますのであしからず。近日提供予定の技術や素材に関しましては資料の一番最後に簡潔ではありますが提示させていただいております」

 

 

その言葉に居合わせた一堂は資料を一番最後のページまで一気に捲くって其処に書かれている名前に急ぎ目を通した。

現在の地球の対レーザー防御技術では小型種のレーザー級の単照射でも数秒で戦術機の装甲材は蒸発してしまう。 この破格の可能性を秘めた未知の素材を始めに、チタンセラミック複合材にイオネスコ型核融合炉、フィールドモーター理論、ミノフスキークラフト技術に61式にも使われている超鋼スチール材に高出力大容量バッテリー等々…

 

この瞬間、一同の意思は半ば固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わりシンジが次の予定があるとホテルを後にすると、会議参加者達は一斉に慌しくなる。 悠陽とエデンは政府要人、軍責任者らと拠点設営と半島への試験部隊派遣などを検討する為に別室に移ると、残った者たちは自分の所属する組織へと連絡を取り始める。

 

「今から社に戻る! 役員を直ぐに集めておけ!」

 

「中将閣下は今どちらに? 急ぎ連絡を取りたい」

 

「フジエダ准将の情報を至急集めろ! そうだ最優先だ!!」

 

「キンバリー氏に連絡を取れ、良い投資が有ると…」

 

人目も耳も憚らずに、この世界では高価で希少な携帯電話を用いて連絡を取る人々。

 

世界が少しだけ動き出そうとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許可が降りるといいな~」

 

黒塗りの高級車に乗ったシンジは、柔らかなシート上で背伸びをして骨を鳴らしながらそう呟いた。

 

そんなシンジを護衛するノイマン中尉は胡散臭げに彼を見ている。

 

この何処にでも居そうで冴えない表情が妙に似合う男が、アメリカと日本の要人を集める程の影響力を持っている事実に狐に化かされているのではないかと真剣に考える始末である。

 

「どったの? …そんな目で見ても私にそのケは無いので諦めてくれ」

 

「黙ってください、ジャップ」

 

「差別発言イクナイ!」

 

ノイマンの視線に気づき、妙なしなを作ってシンジが彼をからかうが素っ気無い差別発言で返される。

 

階級が下の者に差別発言されても愉快そうに笑いながら返すプライドの欠片も無い気安い男にノイマンは軽い頭痛を覚えた。

 

 

 

 

二人を乗せた車が次に向かったのは大学だった。

 

特徴的な赤い門の横を通り過ぎ、来客用の通用門を潜って車が入ると、建物の入り口で佇むスーツ姿に帽子を深く被った男が待っていた。

 

先に車を降りて周囲を探るノイマンはスーツの男に気づき、不審を感じたのか腰に付けた拳銃へと手を伸ばす…

 

 

「お待たせしたみたいで、すみません鎧衣さん」

 

「いえいえ、私も先ほど来たばかりなんですよ藤枝准将」

 

いつの間に車を降りたのかシンジがノイマンの隣に来て、スーツの男に声を掛ける。 

 

スーツ姿の男、鎧衣 左近はダンディズム漂う笑顔で掌を開いて両手を肩の高さにまで上げながら視線をシンジからノイマンへと移す。

 

その動きにとりあえず警戒を解いたのか拳銃へと伸ばしかけた手を戻すノイマンを見て鎧衣は視線をシンジへと戻した。

 

「ふむ、なかなかに優秀な護衛を付けておられますな准将?」

 

「お蔭様で安心して外を出歩けます… 時々差別発言が飛び出しますが、仕事はきちんとやってくれますから」

 

「はっはっはっ。 その程度で命が助かるなら安いものでしょう。 私なんて口どころか銃弾が飛び出してくる時もあるのですから」

 

「まったく安いものです」

 

二人の発言に先ほどの二倍の痛みを頭に感じたノイマンは、こめかみを押さえながら溜め息を零した。

 

そんな事を気に掛けるでもなく二人は連れ立って歩き出し、ノイマンはその後に続いて歩く。

 

 

「鎧衣さんも大変ですね~ 本業だけじゃなくて今回のお誘いメッセージを届ける為にお披露目会に足を運んだり、今日は案内役まで引き受けるなんて」

 

「それほどでも。 今回も個人的興味をそそられたので、むしろ楽しんでいますよ准将? ふふっ、何せ規格外の二人が会うのですから、これはもう何か起こるに違いないと…」

 

にこやかにいけしゃーしゃーとのたまう鎧衣に、シンジは肩を竦めて苦笑を見せる。

 

大学内だというのに国連軍の制服を着た兵士により厳重な警備が敷かれた廊下を進む三人。 途中で三回ほどのセキュリティーチェックを受け、ノイマンが拳銃を警備兵に取り上げられようとして少々揉めながらも目的の場所へと漸く辿り着いた。

 

 

目的の人物が居る部屋の手前の部屋でデスクトップパソコンを操作して仕事をしていた秘書官らしき女性、ショートカットのブロンドに北欧出身者の特徴である雪のように白い肌とスレンダーな体を国連軍の制服に身を包んだ中尉に名前と来訪目的を鎧衣が告げる。

 

国連軍中尉はシンジへと視線を向けると一度席を立ち、綺麗な敬礼をしてみせる。 シンジがそれにへにゃっと敬礼して答礼すると、なにやら納得いかないような顔をして「ただ今お取次ぎいたします」とインターフォンへと手を伸ばした。

 

シンジはニコニコとしながら国連軍中尉がインターフォンで直属の上司である女史に連絡を取る様を眺めていた。

 

シンジは彼女がまだ名乗っていないが彼女の名前を知っている。 奥の部屋に居る彼女の上司の名前もどんな人物なのかも知っている。

 

 

「…はい。 はい、分かりました。 お通しします。 …どうぞ鎧衣課長、藤枝准将閣下お入り下さい。 護衛の方はこちらでお待ち下さい」

 

「ありがとう、ビアティフ中尉。 准将?」

 

「ええ。 ありがとうビアティフ中尉。 ノイマン中尉、お行儀良く待っててね?」

 

「いえ閣下」

 

「とっとと行って来い」

 

入室の許可が降り、ひらひらと手を振るシンジの言葉に返したノイマンの言葉を聞いてビアティフ中尉がぎょっとした顔を見せる。

 

シンジは美人はどんな顔してても美人だね~等と考えつつ、「あいあい」とノイマンに返しながら奥の部屋へと入る鎧衣の後に続いた。

 

 

後に残されたのは二人。

 

ビアティフはノイマンに、キツイ視線を向けている。

 

「…何だよ?」

 

「いえ別に…」

 

視線を逸らして素っ気無くノイマンに言葉を返してビアティフは給湯室へと向かった。

 

その後姿を見送るとノイマンは舌打ちをしながら乱暴に室内に備え付けられたソファーへと腰を下ろした。

 

 

 

「失礼しますよ香月博士?」

 

「あら? あんたが正面から来るなんて珍しいわね」

 

機材に囲まれた室内の主が美しい顔を皮肉で歪ませて笑いながら客人を迎える。

 

国連軍制服の上に白衣を羽織り20台前半に見えるが垣間見える女性の艶は年以上に魅力的で、長く綺麗な髪を掻き揚げると視線を鎧衣からシンジへと移す。

 

「そちらがロンデニオンコロニー管理官、藤枝 慎治技術准将閣下ね? お初にお目に掛かります閣下。 ご存知でしょうが、私(わたくし)は オルタネイティブ4の総責任者をしております香月 夕呼と申します。 どうぞお見知りおきを… 先日のお披露目は私も拝見させて頂きましたわ。 ロンデニオンの技術は素晴らしいですわね」

 

鎧衣に見せたのは違うにこやかな… 妖美な笑みを浮かべながらシンジを見据える香月 夕呼に見とれてシンジは一瞬反応が遅れる。

 

「…あっ、すみません。 シンジ・フジエダ技術准将です。 はじめまして、どうぞよろしく」

 

夕呼が敬礼をしないので、それに合わせてペコリと頭を下げて右手を差し出すシンジ。

 

その行動に一瞬動きが止まった夕呼であったが、直ぐに差し出された手を取り優しく握った。 シンジは女性の柔らかな感触を感じながら力を込めすぎないようその手を握り返す。

 

「ふふっ、こちらの方こそよろしくお願いいたしますわ閣下」

 

「閣下は止めて頂けませんか香月博士?」

 

そう返しながらも、男なら誰しもが引き込まれそうな夕呼の笑みに肌寒いものを感じるシンジであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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