ロンデニオン行政府内にある会議室で俺は険悪な雰囲気に挟まれていた…
そう。 挟まれていたのだ…
円卓に座った俺の右側には、蒲田外交官を始めとした日本帝国外交団がずらり。
俺の左側にはウィルソン外交官を始めとしたアメリカ合衆国外交団がずらり。
お集まりの皆さんは表面上は笑顔を取り繕っているが、発せられるプレッシャーが酷いことになっており、その内の半分は俺に来ているので正直この場から逃げ出したい…
乾いた喉を潤そうと目の前にある冷めた緑茶に手を伸ばそうとするが…
「フジエダ准将。 我がアメリカ合衆国はロンデニオンを高く買っております。 貴方が望むのであれば合衆国は最大限の援助をする準備があります。 …合衆国の友人として我々の手を取って頂けませんかな?」
「藤枝准将。 畏れ多きも皇帝陛下と煌武院 悠陽殿下より、“よしなに”との御言葉を賜わっております。 何卒、善き御返答を…」
…お茶すら飲まして貰えない。
まぁ事の始まりは昨夜の事だ。 国連会議の場でロンデニオンの事をアメリカ、日本の共同発表という事で公表したらしいのだが、その場でアメリカがオルタネイティブ5。 所謂、第5計画の採決をしちゃって、オマケにロンデニオンと日本帝国に相談無くロンデニオンコロニーが第5計画の拠点として機能する予定だとか言っちゃったらしいんだな、これが。
当然、国連会議は紛糾して大騒ぎの大混乱、それに乗じて採択を取って第5計画を正式に認めさせたのだからやり手だよね~。
俺の知ってる第5計画は予備の名前が付いてた筈なのに、正式に認められた理由はロンデニオンの存在だろう。
とある地上の情報筋に依ると、第4と第5に距離を置いて静観していた自称・中立派の一部が、表向きはロンデニオンコロニーを作り出したと言うアメリカの技術力に第5計画の成功率の高さを見て靡いたのが原因らしい。
正式に認められた第5計画は、当初は予備案として採決を取り、アメリカが予算や資源を殆ど独自に用意する予定だったのが、第4計画と同じ位に他国への協力要請優先権を持っちゃって国連予算を崩壊と、各国の財政もえらい事になる危機に…
只でさえ人類のお財布の危機なのに、どっちも自分の方が正しいと信じてるから全力で各国のお財布を絞りそうで…
いや、するな。きっと… うん。
メタ情報でそこまで搾り取らなくても、どっちも4年後には達成出来るのは知ってる身としては止めたい。
そんな状況でアメリカは事後承諾とはなるが、ロンデニオンに正式な協力要請を。日本帝国はロンデニオンが第5計画に協力しなければアメリカの国際信用はがた落ちになり、もしかしたら計画撤廃となる糸口になるやも? いや、いっそのこと第4計画にロンデニオンを参加させちゃえ! 第5に取られたら状況がどこまで悪くなるか分かったもんじゃない! でっ、第4への協力要請と第5への協力拒否要請を出してきた。
…どちらかに肩入れし過ぎると、相手への競争意識が暴走して両計画が各国の資源や資金を調達すると、前線で戦う兵隊さん達にも影響を及ぼして前線崩壊したら手の打ちようがない…
伏せていたカードを捲るか…
「あのですね…」
「何かなフジエダ准将!?」
「何ですかな藤枝准将!?」
食いつきが凄いです。
「あ~、そのですね? 取り敢えずお二人とも落ち着いて私の話を聞いてほしいんですが… ロンデニオンとしては第5計画の移民船建造に協力するのは吝かではないんですが…」
その言葉に喜色満面の笑みを浮かべるアメリカの外交団。 反対にこの世の終わりのような絶望した表情の日本帝国外交団 。
「但し、条件が有ります。 移民船の建造の為に港の使用許可と関係者のコロニー滞在、…工業地区の工場の一部も貸し出して物質の方もささやかですが提供しましょう…」
「おお! ありがとうございます!」
「代わりに第5計画の第4計画への出来る限りの協力を要請します」
「は…?」
「…へっ?」
笑顔が固まるウィルソン外交官と、失意に肩を落としていた蒲田外交官が、まの抜けた声を出す。
「具体的には、資金や資源…第4に必要であろうG元素や技術データの提供を融通してあげて欲しいのです」
「…」 「…」
「ロンデニオンが移民船の建造拠点になれば、かなりの資金や資源が浮きますよね? ああそうだ!ついでに移民船の資材やら人員を宇宙(そら)に上げるのに、ウチのHLVロケットを使われては? そろそろ地球に定期便でも出そうかと考えていたもので… いや~行きは61式や食料なんかを積んで帰りはどうしようかと思ってたんですが丁度よかった! これでまた予算の節約になりますね!?」
「せっ節約にはなりますが…」
「ふっ藤枝准将…?」
「あっ! 勿論、ロンデニオンは第4計画へも出来うる限りの協力をさせて頂きます。 見返りは第4の第5への技術協力で…。 第4には優秀な博士が居られると聞いておりますから、移民船建造にプラスになるでしょう」
唖然とする二人の外交官だが、やがてウィルソン外交官が肩を震わせて、蒲田外交官は信じられないといった表情で各々の感情を示し出す。
「フジエダ准将… 貴方はからかっておられるのですかな…?」
地の底から響くようなウィルソン外交官の声。
怖くて震えそうです。
「アメリカ合衆国は貴方に最大限の敬意を払ってきたつもりです。それに対する答えがこれとは… これはあまりにもナンセンスだ!!」
「どの辺りがナンセンスだと言うのですウィルソン外交官?」
「全てだ! 全てに決まっている!! 第4計画と第5計画は相反するモノだ! それを互いに協力しろですと!? これ以上のナンセンスがありますか!? 人類の為には第5計画こそが唯一の…!」
「希望? 別に良いじゃないですか、希望が2つ在っても? 余裕が有れば2つ同時でも私は良いと思いますよ? その余裕を作るために、ロンデニオンは協力を申し入れるんですし…」
「たとえ第4計画が成功して情報を得ても人類が地球上で勝利する保証が何処にあるというのです!? そんな不確かなモノに人類に残された僅かな力を注ぐよりも、確実に人類という種を残すための第5計画こそが正しい道だとは思わないのですか!?」
「それは第5計画も同じでしょう? 探査機が発見した移住可能な星が本物だとしても、そこまで行けるのか? そこで人類は生活出来るのか? BETAがその星に来ないのか? 不安要素だらけで保証なんて無い。 だったら…!」
「2つ同時に仲良く進めると? 今の人類にそんな余裕は…!? 失礼だが、それをどうにかする程の力がロンデニオンに有るとは思えない。 ロンデニオンの技術力が高いのは認めましょう。 しかし、たかだか一コロニーだ。 我が国がその気に為れば…」
脅しが入ってきたか。 蒲田外交官は黙って成り行きを見ているし、会議室のドアの向こうでは2つ集団が緊迫と困惑が内混ぜになった感情で室内の様子を伺っている。
片方は強行手段としてウィルソン外交官が用意したアメリカ軍人さんの集いで、もう片方はその抑えを目的に蒲田外交官が呼んだ帝国軍人さん達だろう。
今までコロニーで仲良くやってきた人達が、こうも対立する様を見ると悲しくなる。
「…最後の言葉は聞かなかった事にしておきますね?」
「我々は本気です!」
「やりたいなら、やってもいいですけど… まあ、確かに大国であるアメリカ合衆国を動かすのに“今”のロンデニオンは影響力が小さいのかもしれません。
ですから、手の内を一枚お見せしましょう」
「何を今さら! あなた方の艦に搭載されている荷電粒子砲なら我が国でも研究が進んで…」
「核、融合、炉」
印象付ける為に言葉を句切りながら話す。
アメリカと日本帝国はロンデニオンの技術力を低く見積もったんだろうが、どっこい地道にコツコツと活動し技術を段階的に提供しようとした方策が今この時に吉になった!
いきなり安定した性能の核融合炉を持ってます!ではなく。技術公表出来る下地を作って、段階的に発表と提供し、なるべく穏便にしようとしてたので、教えてない、もしくは正確に伝えてないモノや技術がわんさかある。
何せ宇宙世紀のトンでも技術なので、いっぺんに全部公表したら世界が大混乱! 問い合わせや対応に俺が対処出来ないと思っての行動がこうして…裏目に出た?
提供しても大丈夫か確認しながらの一歩一歩活動が相手に低く見られる原因になったか…
開けっ広げに見えて締めるとこは締めたつもりだったんだが… いや、なんかおかしい。 何かが引っ掛かる… でも今は、
「核融合炉!」
大事な事なので二回言います。
「っ…!?」
「…ふっ藤枝准将。 かっ確認しますが、貴方は…ロンデニオンは核融合を…」
「持ってます。 作れます。 現物はコロニーの発電施設とマゼラン、サラミスの機関に使われています」
「バカな!? フジエダ准将、君はコロニーと戦艦の動力源は原子炉だと言ったではないか!?」
「あ~すいません。 嘘です。 折りを見て真実を話そうと思ったのですが… このような形で話す事になったのは本当に遺憾です」
「くっ、ならばなおの事!」
「やめた方が良いと思いますよ? 何かあったらコロニーのメインコンピューターが情報も現物も全部消去するように、上からプログラムされてるみたいですから」
これは前にメインコンピューターを調べたところ、ZEPHYRに教えてもらった事だ。
上(神様)がどういうつもりでプログラムしたかは分からないが…
「話し合いをしましょうよ~。 ねっ? 私は両国とも友好的にやって行きたいんですから…取り敢えずこのままじゃ話が進まないから、選手交代でお願いします。今から一時間後に大統領閣下と煌武院殿下のホットライン回線へハッキン… げふんげふん。 …連絡しますので、平和的な話し合いに応じて下さる意志がおありなら出て頂きたいです。 両者共にお出にならないなら、今後一切両計画に関わりませんから… いっそ、ご迷惑なら月の陰にでも隠れますからとお伝え下さい。 それじゃ~」
有無を言わさず、ささっと退室。
あっ、兵士の皆さま御苦労様です。
「それで…私に話が回って来たのかね? 」
現アメリカ大統領、ジョージ・エデンは読んでいた本から顔を上げると、眼鏡をずらして報告に来た秘書官の顔を見詰めた。
「はい閣下。 40分後にはロンデニオンから連絡が入るかもしれません」
「かもとは?」
「ホットラインに侵入出来ればという事です閣下」
少しだけ笑みを見せた秘書官に釣られて大統領もまた苦笑する。
「外務省を始めとしたロンデニオン担当の者達が集まっており、至急閣下とお話したいと…」
「さてさて、どんな話をしたいのやら?」
本を閉じてテーブルに置いた大統領は席を立つと、脱いでいた上着を秘書官から受け取りロンデニオン担当者が集まる会議室へと向かった。
その途中…
「意外にあっさりと尻尾を出したものだ…」
「この話、どう思いますか榊?」
「話に応じる… いえ、受けるしかないかと思われます殿下」
場所は変わって京都府、御所内に在る征夷大将軍謁見の間。
上座に座するは征夷大将軍の位を賜ってまだ日が浅く、幼いと評して良いほどの年の紫髪の少女・煌武院 悠陽。 その傍らには緑の長い髪に眼鏡を掛けた赤い衣装の女性が控え、下座に跪くスーツ姿の壮年の男性は、日本帝国総理大臣 榊 是近。
「ロンデニオンの申し出を受ける… それで良いのですね?」
「殿下…。 それは皇帝陛下より全権を賜った殿下がお決めになる事。 言を臣下に聞かれましても、臣下に是非を問うてはなりませぬ」
「…そう、ですね…」
「…殿下、出過ぎた言葉を申した事お詫び申し上げます…。 されど殿下は日本帝国の執政全権を司るお方。 迷う姿を臣下に見せてはなりませぬ。 殿下が迷えば臣下が、民が、国が迷うのです。 自信をお持ち下され殿下。 貴女は帝国の代表者、紛う事なき征夷大将軍なのですから… その証拠にロンデニオンはアメリカのジョージ・エデン大統領を指名し、日本帝国からは殿下を指名してきました。 貴女こそが日本の代表者なのです、殿下のお気持ちのままにお決め下さい。 非才の身なれど我等臣下一同は殿下の御意思に従い、それに沿うように力を尽くす所存です」
未だ幼き主君に敬意をこめて深々と頭を垂れる榊。 しかしその心中は、娘と変わらぬ年の少女に日本の命運を背負わせなければならない事への苦悩で満ちていた。
「ありがとう、榊… 苦労を掛けますね…」
「身に余る御言葉です… 殿下、これより私の私見を述べさせて頂きますがあくまでも参考意見の1つです。 殿下ご自身がお考えなさり、お決めになられますように」
「くどいぞ、榊殿!」
「よいのです月詠。 榊、聞かせてください」
隣に控えていた女性、月詠の激昂を落ち着いた声で抑えて榊に話を即す悠陽。 月詠の悠陽に対する忠誠心を知っている榊は彼女に軽く一礼して話を続けた。
「日本帝国を始めとする第四計画派はその殆どが国土の大半を失った国々が、アメリカの推奨するG弾使用によるBETA殲滅に反対して集まっております。 対して第五計画派は国土の殆どを維持した比較的余裕のある国々…アメリカを支持する集まりとも言っていいでしょう。 ご存知の通りG弾は使用後の重力障害により植物すらも育たない不毛の土地と化します。 それゆえに国土奪還を夢見る国々は永久的に汚染されるG弾の使用には反対しておりましたが、第四計画派の主要国の内、EU、大東亜連合、ソビエト…国際社会では強い発言力を持っておりますが、国土と多くの国民、財産を失ったせいで国連の…アメリカの援助無しでは運営出来ないほどに疲弊しております。
残る第四計画派の主要国はカナダ、オーストラリア、そして我が国日本帝国。 しかし我が国も朝鮮半島の情勢如何ではBETAとの戦いの最前線になるやもしれません。 そうなれば国力が磨り減り、在日米軍をあてにする我が国も… そうなればもはや第四計画を進める事が困難になるでしょう。
事前に入手していた情報では、予備計画としてアメリカは採決するという話でしたが… 直前でロンデニオンの存在を利用して正式計画として提案し、混乱に乗じて認めさせました。
第5が予備計画であったなら、国連を通じての各国からの資金や資源提供に対し正式計画のこちらが優先権を持っておりましたが今となってはそれも失い、より発言権の強いアメリカの…第五計画への提供が優先されるでしょう。
しかし望みはあります。 ロンデニオンが出した第五計画協力への条件、第五計画の第四計画への協力要請。 これに望みを賭けるしかありません。 たとえロンデニオンの真意が不明で第四から第五への技術協力を提供しなくてはならなくとも、第四計画と日本帝国はこれに賭けるしかないでしょう…」
榊の言葉に幼い顔を俯かせて思案に耽る悠陽。 この小さく細い肩に並々ならぬ重責を乗せている事に歯噛みし、いたたまれない表情の榊と月詠。 そして二人のそんな表情には気づかずに顔を上げて悠陽は小さく可憐な唇を開いた。
「…それしかなさそうですね。 気になるのはやはりロンデニオンの真意とアメリカがロンデニオンの条件を飲むかどうか…」
「一時間前であれば、アメリカもそのような条件は飲まなかったでしょう。 しかし藤枝准将の発言、核融合炉保有をアメリカは無視できないでしょう。 真実で在るならば是が非でもそれを欲する筈です。 光学兵器とそれを搭載した宇宙戦艦、500万人が生活可能なスペースコロニー。 まだ何か有るとは思っておりましたが、よもや核融合炉とは驚きました。 その技術が世界に公表されれば確実に世界の流れが変わります。 仮にアメリカがこの提案を蹴ったとしても我が国がロンデニオンからの協力を得られれば、第四計画も巻き返せる可能性が出てきます。 ロンデニオンの真意に関しては我々も掴みかねておりますが、故に今回の会談で殿下ご自身の目で彼の者を御見極め下さいませ。 その結果に出された殿下の御意思に我等は従う所存です。 どうか殿下の御意思のままに…」
頭を垂れた榊の言葉に、幼き顔に決意を滲ませて悠陽はしっかりと頷いた。
二つの国の重要人物達が一時間という短い時間に追われ対策を練るなか提議人のシンジはと言うと、行政府をさっさと抜け出し最近運転を開始したコロニー外壁を走る高速電車に乗り込みファクトリーへと訪れていた。
外の事態など知った事かと整備に没頭する整備兵達に軽く挨拶をして、幾つものセキュリティーゲートを抜け辿り着いたのは天井までの高さが30m以上はありそうな巨大な空間だった。
コロニー外へ出るルートもあるこの空間の中央に歩み寄ったシンジは顔を上げて部屋の主へと挨拶をする。
「よっ! 調子はどう?」
『ノープロブレム。 …それより君は、もう少しその場当たり的対応はどうにかならないのかい? 見ていると危なっかしくてしょうがないよ』
シンジが顔を上げた先には一機の白いMSが片ひざを着いた姿勢で鎮座して黄色の双眼を点滅させて彼を見下ろしている。
「向いてないんだよ。 ゼファー(ZEPHYR)が代わってよ、君のほうが頭が良いんだからさ?」
『私が出て行けば余計に話が混乱する事になる。 不用意に私は出ない方がいい。 それにシンジがこのコロニーの管理者で代表者だ、私はただコロニーの維持管理をするだけのサポート役だ』
無数のケーブルに繋がれたゼファーと呼ばれる存在は、白を基調に青、赤で彩られたトリコロールカラーのRX78-2ガンダムによく似た姿ではあるが、細部に違いがあるのが見て取れる。
「ロンデニオン最強存在が何言ってんだか。 …けどいいよ、ゼファーを人同士のゴタゴタに巻き込みたくないから」
『…優しいな君は』
「優しいというのは男には褒め言葉にならないとAIに記憶しといて」
ゼファーはシンジの言葉にコクンと頭部を動かすと通信システムを立ち上げて、コロニーから衛星へ、衛星から地上へと深く潜り始める。
数多の厳重なプロテクトを破り、目的の場所に辿り着いてルートを繋ぎ何時でも相手にコールを送れる状態にする。
『何時でも通信を繋げられるよ』
「ありがとう。 相変わらず見事なお手並みで… ねぇゼファー、俺は… いや、何でもない」
『君は君の道を行けばいい。 我々に出来るのはそれだけ、あとは後世の話だ…』
言い淀むシンジに、機械音声で優しくゼファーはそう囁いた。
「ハローこんにちは。 お忙しい所を失礼いたします。 こちらはロンデニオン管理者のフジエダ准将であります。 アメリカ合衆国大統領ジョージ・エデン閣下と日本帝国の征夷大将軍 煌武院 悠陽殿下は居られますか? 居られませんでしたら後日、月の影から連絡し直します。 それではまた後日… えっ? 月の影からは通信が通らない?…」
「…待ちたまえ」
「お待ちゅっ!? …下さい…」
日本とアメリカのホットラインに本当に割り込んで来て、とても国家元首に話し掛ける態度ではない事にダブルショックを受けた二人だが、そこは流石は国を担う者。 直ぐに気を取り直して通話ボタンを押して、モニター付きの通信機を起動させた。
落ち着き払ったエデン大統領とは対象的に、征夷大将軍の悠陽は初めて自分に任された大任に勢い込んで、緊張と焦りで言葉を噛んでしまった。
モニターに真っ赤な顔を映す若干14才の悠陽を、敢えてスルーする事で大人の優しさを魅せるエデン大統領とシンジ。
悠陽側のモニターの向こうでは警護の月詠がオロオロと、モニターに映らないように同席した榊は居たたまれなくなっていた。
「…あぅ…」
かーわーいーいー!
赤い顔を俯かせて言葉を漏らす悠陽に、それを見た一同は心を一つにした。
余談だが、この映像をシンジと共に見ていたゼファーのAIに初めて可愛い、愛でるといった感情らしきものが芽生え、この時の映像を自身の記憶領域に永久保存したとか。
「……あ~、ごきげんようジェネラル悠陽、フジエダ准将。 こうやって話せる事を嬉しく思うよ」
「…ごきげんようエデン大統領、藤枝准将。 エデン大統領とは昨年の征夷大将軍任官の儀以来でしたか。 その節は御参列頂き有難うございました」
先程の事は無かった事にして話を進めたのは最年長者のエデン大統領。 悠陽も気を取り直して、先ずは当たり障りのない挨拶と会話から入る。
「ははっ、日本とアメリカは善き友人にして隣人。 その日本の代表者就任式なのですから参加するのは当然の事、願わくは両国の友好が末長く続いて欲しいものですなジェネラル悠陽?」
「はい。 本当に末長く善き関係が続く事を願います」
祖父と孫娘ほどの年の離れた二人の国家元首が表向きは笑顔で談笑しているのに、裏では緊張感漂う状況に参加するべきかどうかシンジは迷ったが、どう考えても土俵が違う気がしてそのまま自分の土俵に乗ったまま行動に出た。
「ご歓談中に失礼しますお二方。 早速ですが本題に入りたいのですが?」
シンジの言葉にモニターに映るエデンと悠陽の目が細くなる。
「わかった…ジェネラル悠陽?」
「私(わたくし)もよろしいです」
「では… お聞きお呼びでしょうがこの度の第五計画への協力の件は外交官殿に申し上げた通り、第五計画派の第四計画への協力が条件です。 なお第四計画派へも第五計画の移民船建造への技術協力をお願いしたいのですが…? もし、両計画派がこちらの提案を受け入れて下さるならこちらが保有している核融合炉、その関連技術を各国に提供する準備があります。 なお、こちらの提案が受け入れられなくとも、前もってお約束していた宇宙戦艦は核融合炉ごと提供いたしますので」
「ふむ、随分と自信が有るようだが我が国が核融合技術を解析できないという確信があるのかね?」
試すような表情でシンジに問うエデンは深い青の瞳を細めながら見詰めてくる。
対して問われたシンジは、エデン大統領のプレッシャーをどこ吹く風と開き直った表情で癖のある黒髪を撫で付けて気負う事無く答える。
「多分無理だと思います。 そちらには無い物理学で出来たシロモノですから… 出来るとしても基礎理論無しではどれ程の時間を費やすか… ばらすなら自己責任でどうぞ?」
「…止めておこう。 ものがものだけに危険すぎる。 しかし、仮に核融合炉保持が事実だとしても君の出した提案を通すのは難しいぞ?」
「難しいという事は不可能ではないのですね? エデン大統領、難しいのを承知でお願いしたいのです。 このまま両計画が意地を張り続ければ、計画成就の前に共倒れとも為りかねません。 それは不本意でしょう? 両計画が協力しあえば4年程で実行可能になるとこちらは予測しているのです。 ならば共倒れの危険を避ける為にも…」
「言いたい事は分かる。 しかし、軍のG弾推進派が強く反対するだろうね。 確かに核融合技術は魅力的だ。 移民派閥と民間企業はその技術を手に入れられるならばとりあえずは納得するかもしれんが、軍はG弾があればBETAに勝てると直ぐにでも撃ちたがっている…」
「軍は勝てると信じたがっているのでしょう? 妄信と言ってもいい。 ユーラシアでの人類の敗走と、カナダでの降下ユニット迎撃で頼みの核ミサイルを大量につぎ込んでようやく仕留めた事による核兵器への不信。 BETAの恐怖に耐えられないから直ぐにでも使って実証して安心したいのかな? BETAが見せた航空兵器への対応能力とてG弾には… とか?
アメリカ軍は優秀だ。 BETAの対応能力の脅威は十分に分かっている筈、だからこそBETAがアメリカ本土に辿り着く前にG弾の有効性に確証を得たい。 けど無効化されたら… 怖い、恐怖に耐えられない今直ぐに撃ちたい試したい。 G弾なら大丈夫、大丈夫な筈…
政府や企業も生産力の限界を超えて国民を飢えさせる前に早く決着を付けたい。 しかし大統領は勝てると思っておられるのですか? よしんば勝ったとして、その後の人類に平穏が訪れると? 違うでしょう、YF22がいい証拠だ」
「手厳しいな… G弾を使い地球上でBETAに勝っても、その後に来るのは平穏ではなく人類同士の汚染されていない土地を巡った戦いになる可能性は高い… そして地球上のBETAが居なくなっても、BETAは再び飛来する。 人と人、そして再び飛来したBETAとの三つ巴となった時にその先にあるのは…」
「そこまで分かっておられても止められないのですか、エデン大統領…」
「無理だな… 彼らにもプライドがあるし、BETAに対する恐怖もある。 ジェネラル悠陽、お若い貴女にはまだお分かりにならないだろうが、特にユーラシアに派遣されて戦った将官が多くG弾に傾倒している。 それほどなのだよ、BETAの脅威とは…」
もの憂う悠陽の目に映るエデン大統領の疲れきった表情は、未だ対峙した事のないBETAの凄まじさを幼い彼女に感じさせた。
「ようは軍部を黙らせるモノが有ればいいんですね?」
「並大抵のモノでは納得しないぞ、フジエダ准将」
「大統領も人が悪いですね? そうやって此方のカードを捲らせて行くんですから… まあ、別にいいんですけどね? ご期待に答えてカードをもう一枚見せましょう。 ゼファー、V作戦のファイルをお二方に送って。 それと稼動試験の映像も用意しといて?」
ゼファーが予め整理し用意しておいたデータをエデンと悠陽の端末に送ると、内容を読んだ二人は驚愕した。
「V作戦… ロンデニオンが密かに進めていた計画の一つです」
「…フジエダ准将。 私が言うのもなんだが、君の方が人が悪いと思うのだが?」
「ロンデニオンは本当にこの計画を…?」
悠陽の言葉に答える為にシンジが「映像を」とゼファーに合図すると、モニター内にサブウィンドウが開き、ロンデニオンから送られた映像が流れ始める。
シミュレーター空間内で、キャタピラタンクに人型の上半身を付けた戦車モドキきが両肩に備え付けた長大なキャノン砲でBETA集団を砲撃するシーンや、赤い色のキャノン付きの戦術機が両肩のキャノンで突撃級の外殻を正面から粉砕しているシーンが流れ、三体目の機体が映し出され始める。
灰色と黒のツートンに所々に赤が入ったカラーリング。 V字型のブレードアンテナを額に付け、デュアルアイの瞳を持つ特徴的な顔の頭部を持った機体は、右手に持つライフルをBETAに向けるとピンク色の閃光を撃ち放ち、斜線上に密集して居たBETAを種類の区別無く焼き貫き1キロ以上に渡って撃ち抜いた。 しかもそれを短い間隔で連射し、次のシーンでは強固な前腕を持つ要撃級をその前腕ごとピンク色の光の剣で切り裂き、周囲に居た他の要撃級の鋭い追撃を驚くべき運動性能で避けつつ返す刀で切り捨てていく。
黒い機体が要撃級を切り捨てていく映像を、悠陽の傍らで見ていた月詠は戦慄を覚えた。 戦術機による格闘戦を好む帝国軍にあって、一際その傾向が強い斯衛(このえ)に属する彼女だからこそ黒い機体の驚くべき運動性と手にした光剣の威力の凄まじさが分かったのだ。
まず戦術機に比べて流麗さに欠ける無骨な姿に反して動きに淀みが無く、人体と同じように機体の各部がスムーズに動き行動と行動の間に隙が無い。
戦術機で同じ動きをトレースすれば行動と行動の間に隙ができ、動作が終了するまでに倍以上の時間が掛かってしまう。 いや、それどころか戦術機で再現出来るか分からないモーションまであの機体は易々とこなしている。
正に人の動きだ。 これに比べたら戦術機の動きなど操り人形のようなものだ。
次に要撃級の前腕を易々と切り裂いた光剣。 戦術機で同じことをやろうとすれば、切れ味の落ちていないスーパーカーボン製の長刀を用いて重心を乗せた渾身の一撃を与えねばならず、斯衛ならば両断は出来るであろうがどうしても次の行動に大きな隙を作ってしまう。
それなのに黒い機体は軽やかに光剣を振るだけで容易く両断し、その運動性と相まって隙の無い恐るべき格闘戦能力を披露している。
惜しむらくはこの映像がシミュレーターの仮想映像だという事だろう。 そう思った矢先に場面が替わり、星の海をバックに飛翔する黒い機体が…
「ご覧のとおり、実機も既に完成しております。 最初に出てきたタンクタイプの機体がRX75 ガンタンク。 こちらは既に整備班に一部資料をお渡ししておりますからご存知かもしれませんが、資料では伏せてあった動力源は核融合炉です。 主に長距離支援を目的とした機体で、戦車兵の方々にご意見を聞いて自走砲に近い運用法を検討しております。
次に出ていた両肩にキャノンが付いた赤い機体、RX77 ガンキャノン。 両肩の武装を240mmキャノンかスプレーミサイルランチャーに選択可能で、前線の近接支援を目的とした中距離支援機体です。 こちらはまだ具体的な運用法を検討中ですので衛士の方のご意見を聞きたいところです。
そして最後に出てきた機体… RX78-1 ガンダム。 現在の持てる技術を全て注ぎ込んだコスト度外視で白兵戦を主体に開発された機体で、高い運動性能とご覧のとおり戦艦に搭載されていたメガ粒子砲…、そちらでいう荷電粒子砲に近い物を戦術機サイズの機体に携行出来るようにしたビームライフルと、メガ粒子をフィールド固定した白兵戦用のビームサーベルを装備しております。
ビームライフルにビームサーベル、どちらも現在確認されているBETAの外殻を破壊できる威力を持っております。
ちなみに我々はこの機体群を戦術機ではなく、MS(モビルスーツ)と呼んでおります。 もちろんどの機体も核融合炉を搭載しております。
あとは… 映像には出ませんでしたが、これらのMSを運用する母艦としてペガサス級艦と合わせた開発計画が、V作戦の前半と言ったところでしょうか」
通信で繋がれた三つの異なる場所は異様な静けさに包まれていた…
ロンデニオンから明かされた情報に言葉を発する事が出来ずに、皆が一様に喉の渇きを覚えた。 エデン大統領もその一人で、襟元に指を入れて少し緩めていると目の前に水が入ったコップが差し出され、差し出した秘書官に「ありがとう」と礼を言ってそれを飲み干す事でようやく一息ついた。
この静けさを生み出した暴露人のシンジはというと何時の間にか用意した緑茶を湯飲みで啜りつつ、ポケットから煎餅を一枚取り出すと、手のひらの上で軽く叩いて割ると一欠けら口に放り込んでいる。
「…」
「なんですか、エデン大統領? お煎餅が欲しいんですか? クッキーのように甘くはないですよ? それでもいいのなら、今度お煎餅送りますね?」
「あの藤枝准将…」
「なんですか殿下? あっ、殿下もお煎餅が欲しいんですか? じゃあエデン大統領と一緒に送っておきますね?」
「あっ有難うございます… いえ、違うのです」
「えっ? クッキーの方が良いですか? …冗談はさて置いて、なんでしょうか殿下?」
危うくシンジのペースに飲まれそうになった悠陽であったが、なんとか踏みとどまり会談を続ける。
「藤枝准将。 貴方の持つモノが素晴らしいのは分かります。 では、それらを提供した事に対して貴方は…ロンデニオンは何を望むのですか?」
「? …両計画が協力体制を取って頂く事ですが…? あとは核融合炉やMS等を世界に広める為の協力を…」
「そうではなく、もっと実質的な見返りです。 金銭や物資、人員を要求等…あなた方の益の事です」
「あ~なるほど…金銭や物資は今のところは不足してませんから、ほら自給自足出来ますし。 お金も滞在する人たちが落としていってくれる分で十分です、使い道もないですしね~。 人員は両国からお借りできますし、下手にロンデニオンに縛られると本国との軋轢が出るでしょうから現状で十分です」
「それだけですか? 地位は? 名誉は?」
「ロンデニオン管理者で三つの組織の准将でお腹一杯です」
シンジの言葉に納得出来ないのか、美しい愁眉を僅かに歪ませて悠陽は更に言い募る。
「それでは貴方は善意で行っていると!?」
「それも違います。 あ~あのですね? …ただBETAを放って置いたら大勢の人が亡くなるでしょ? そしたら隣に誰も居なくて寂しいと言うか… 何言ってるんでしょうね俺?」
語気が強くなった悠陽に、敬語も忘れて自分の言いたい事を表現しようとするが上手くいかず、頭を掻きながら「うんうん」唸るシンジ。
その二人の様子を呆れた顔で見ていたエデン大統領は何故か可笑しくなって笑い出してしまう。
「はははははっ、くくっ! しっ失礼。 フジエダ准将、君はウィルソン外交官が言った通り交渉甲斐の無い人物だ。 っくく、ジェネラル悠陽。 彼は我々政治家とは違う。 可能性は持っているかもしれないが良くも悪くも俗人なのだよ、それもとびきりの力と底の知れないバックを持った。 だからこそ彼は我々には理解し難い存在なのだよ。 なんで彼を交渉役として任命したのか彼の上司に聞いてみたいものだ」
「そこに丁度居たからでしょうね~ 俗人ですから政治交渉とか苦手なんですよ。 だからこそ、地球を二分する計画のそれぞれの筆頭たる両国に協力して欲しいですし、その為には両国には協力体制を取って頂きたいんですよBETAを倒すために。 BETAと戦う理由は、戦うしか道がない訳で… 自分が死ぬのは嫌ですが周りの人が死んでいって寂しくなるのも同じくらいに嫌なんですよ。 金銭なんかを求めないのは、今のところ必要としてないだけで必要になったらコロニーで作った物を売ろうかなんて考えてますのでその時はよろしくお願いします。 これでは駄目でしょうか殿下…?」
「…理解…出来かねます…」
どこか寂しげな笑みを浮かべるシンジの瞳に、空虚さを感じる悠陽。 何故かそれが自分に重なってしまい、幼き頃に離れてしまった大切な妹の事を思い出してしまう。
(冥夜…)
生き別れの妹を思い瞳を翳らせる悠陽… そこへ…
(いつか会える時が来ますよ…)
「えっ…?」
耳にではなく頭に響いたような声に俯き勝ちだった顔を上げると、モニターには先程までの笑みの代わりに労わるような穏やかな笑みを湛えたシンジの姿が目に入った。
「どうかなさいましたか、殿下?」
「っ! なっ何でもありません! …我が帝国はロンデニオンの申し出を受けようと思います。 宜しいか、藤枝准将?」(悪い感じはしない… 寧ろ安心を感じるのはなぜ?)
「有難うございます殿下。 …アメリカはどうなされますか?」
話を振られたエデン大統領は笑みを納めると、余裕のある表情を見せながら口を開く。
「そうだな… 個人的には受け入れてもいいと私は思っている。 ロンデニオンが保有するモノは確かに魅力的だし、それを餌にすれば多くの支持を受けられるだろう。 しかし、軍を早急に納得させるには後一押し欲しいところだな」
「…それでは一ヶ月後に61式やMS等のお披露目はいかがでしょうか? 場所は日本の…富士の演習場で」
「なるほどな。 実機を見せ付けつつ、日本帝国のお膝元でやることで日本の一人勝ちに対する不安を煽るか… お願いできますかな、ジェネラル悠陽?」
シンジとエデン大統領に見つめられた少女は、決意を宿した瞳で強く確りと頷き返した。
それを確認すると、次にエデンはシンジへと目線を向け…
「准将、一つ聞きたいのだが… もし我々が断ったら宣言通りに隠れるつもりだったのかね?」
「一先ず身を隠して様子を見るつもりでした」
「ふむ… では我々がロンデニオンを制圧しようとしたら?」
「エデン大統領、それは…」
エデンの問い掛けに思わず悠陽も口を挟む。 ロンデニオンの制圧… それは日本帝国内でも出た意見だ。 しかし、それを悠陽を始めとする要人達が否定する。
悠陽と少数の良識者達は人としての良心から、政治家や軍人達は制圧はともかくその後の維持が不可能であろうとの現実的な問題からロンデニオン制圧を反対した。
いつ帝国本土にBETAの魔の手が迫るか分からない状況で、はるか宇宙の空に浮かぶロンデニオンコロニーにまで手を伸ばす為の余力が無かったからだ。
だからこそ友好関係を築き、技術面を始めとした助力を請う。 それが日本帝国の外交方針だった。
しかしアメリカは違う。
各地に兵を派遣してはいるが、未だに無傷で広大な国土を持つアメリカならば制圧とその後の維持も可能な国力を持つ。
緊迫した雰囲気になるかと思われたが、当事者のシンジはそんなものに構う事無くのたまう。
「コロニーを放棄して逃げます」
彼の言葉に唖然とする二人。 仮にもコロニーを持つ勢力の代表者とは思えない言葉だったからだ。
「…? お二方とも幾つか勘違いしてませんか? 私達はBETAと戦いに来たわけであって、人類と戦いに来た訳ではありません。 コロニーを放棄してアメリカが制圧しても多かれ少なかれ地球の役に立つ訳ですし、それならそれで構わないんですよ。 コロニーに居るのは私とハロ達だけですし、地球は助力無しで自力の戦いを望むのであれば、その意思を尊重して以後、私たちはこの場を去って手を出さずに見守る事にします。 地球への対応は私に全て任されておりますので、これがロンデニオンの総意になりますね」
「…そうなると我々は僅かなテクノロジーを得てそれ以上のモノを得る機会を失う、か。 しかしその物言いだと戦おうと思えば戦えるとも聞こえるが?」
鋭い目をしたエデンの言葉に苦笑するシンジ。 対照的な二人の視線が交差して一時の静寂を作る。
「…その気は無いですよ」
「なぜ戦わない? 国土を戦わずして手放して臆病者の誹りを受けてもいいのかね?」
「だから勘違いしてますって、今のロンデニオンは地球の勢力圏に間借りしている租借地の浮きドックみたいなもんですよ。 コロニーだって上から支給されて自由にして良いって言われていますが、私のポケットには大きすぎます。 移住を受け入れているのだって、私一人の玩具にするよりも地球の人に住んで貰った方が後々の為に良いと思ったからです。 何れはロンデニオンを起点に、この世界の人間がコロニーを作れるようになればコロニー移住という選択肢が人類に出来る可能性も… そちら流に言えば、第六計画と言った所でしょうか?」
「第六計画ですか…?」
我に返った悠陽が彼の言葉に、第六計画という言葉に反応して口を挟む。
悠陽に尋ねられ、第六計画と口の中で転がしながら何故か妙に心へと響く言葉に「それもありかも?」と呟く。
「言葉のあやですよ殿下。 ロンデニオンだけでは出来ませんし…」
そう言いながらもこの世界がコロニー建設に沸くのを想像し、少しだけこの世界に来て初めて楽しいと思うシンジであった。
「…という訳で一ヵ月後には皆さんに地球に一緒に降りてもらいます」
ロンデニオン行政府内の会議室に集められた戦艦のクルーと戦車兵、整備兵達は、「何が、という訳なんだ?」と内心思いつつも黙ってシンジの言葉に耳を傾けた。
「簡単に言えばお披露目会です。 ロンデニオンで3ヶ月間培ったモノを保護しゃ…じゃなかった。 上層部の方々に見て貰いましょう。 場所は日本帝国の富士演習場になると思います」
「准将。宜しいでしょうか?」
シンジの言葉に疑問を持ったイーストウッド艦長が挙手で発言を求める。
「どうぞ」
「ありがとうございます。 お披露目と申されましたが、我々は宇宙戦艦のクルーですから地上で出来ることは無いと思われますが?」
日米のクルー達は同じ疑問を持って二人のやり取りを見守っている。 その視線に答えてシンジは自分の席に備えられた端末を操作すると、背後の巨大ディスプレイを起動させてある画像を映し出した。
室内に居た一部の整備兵を除く者たちは、それが何なのか分からずに首を傾げた。 映し出されたそれは強いて言えば木馬とも言えない形をしている。
前部に突出した二本の前足のようなもの、中央に聳える馬の頭部のような建造物にその横に広がる翼のようなバインダー。 後部にも突き出した二本の後ろ足のようなものがあり、そこに目を留めたイーストウッド艦長は確信が持てないながらも言葉を発した。
「…後ろに付いたものがエンジンブロックなら… 准将、もしかしてこれは宇宙船ですか?」
言っては見たものの、イーストウッド艦長は「まさかな…」と思っていた。 しかし、そう考えると中央に聳える物が艦橋に見え、前足の部分が甲板にバインダーが放熱板と見えなくもない。
「正解です」
あっさりと肯定されてイーストウッド艦長は当惑した。 自分で言っておいてなんだが、とても艦船とは思えない形をしていたからだ。
そんな彼を無視してシンジは話を続ける。
「ペガサス級 強襲揚陸艦一番艦 ペガサス。 機動兵器・MSの運用を重視して開発された艦(フネ)です。機動兵器射出用のカタパルトデッキを二基装備して、強力な52cm砲とメガ粒子連装砲2基の主砲に多数の機銃やランチャーを装備した強力な打撃力に、単独での大気圏離脱と突入が可能なエンジン出力。 さらにミノフスキークラフトシステムによる大気圏内での浮遊航行を可能にした新型艦です」
告げられた話の内容に室内は騒然となり、次々に質問が飛び交う。
MSとは? メガ粒子砲とは? 本当に単独での大気圏離脱と突入が可能なのか? 大気圏内での浮遊を可能にしたミノフスキークラフトシステムとは?
これらの質問にシンジは出来る限り丁寧に答えていき、先に情報開示されて既にMSやペガサスの整備に携わっていた一部の整備兵も質問のフォローに廻り、ようやく場が収まったのを見計らいシンジは改めて宣言する。
「我々はクルーの操艦するペガサスにて地球に降り、今まで培ってきたものを見せつけてやりましょう! 61式担当の皆さん、期待してます!」
「聞いておきますが准将? 我々がMSってえのの晴れ舞台を食っちまっても怒らないで下さいよ?」
シンジの言葉に不適に不敬に笑って見せる宇喜多に「期待してます!」と力強く返すシンジであった。