腐乱死体を捜す『奴隷』の【僕】と、その『主人』である【屍さん】の、腐りきった世界を紡ぐ。

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推理小説が書けたら楽しいだろうなあ。


それでも僕は推理小説が書きたい

 僕は誰かに手を繋がれている。誰だっけ? 知りたいけど知っている。だから知らなくていい。

 そのまま引っ張られて河川敷まで来る。指、指を指している。その先を見ると──。

「うわぁ!!」

 1999年9月9日、あの日あの時、僕は腐乱死体というものを初めて見た。

 オオカミの姿になれる、所謂オオカミ男に近い俺は、屍さんの『奴隷』だった。

 屍さん自身はそう思ってるけど、僕は別段、自由意志で屍さんについて行ってる。

 僕の腐乱死体フェチのキッカケを作ったのも屍さんなら、僕の腐りかけた心を救ってくれたのも屍さんだ。

 つい一昨日見た腐乱死体で、朝からせっせと発電機を回す。オオカミのそれは結構長いので、早めに起きるのが習慣になっている。

『ヨミ、ヨミ、ヨミ』

 ガラケーの着信音が鳴る。女の腐乱死体が、僕の名前を呼んでいる。腐乱死体に出会った衝撃で、幻聴が聞こえて来た──という設定で、自前で作ったものだ。

 朝も5:30手前、こんな朝から掛けて来るのは、十中十九、屍さんしかいない。

 またこの部屋に盗聴器を付けたのだろうか。……まあ、数年もこの時間帯に起きてるから、付けなくても当たるか。僕は気にせず水音を立てる。

「うっ、ふぅ……」

『カシャッ』

 突然のシャッター音に、身体がビクリと跳ね、トイレシートからはみ出してしまった。完全に油断していた。

「いい絵が撮れたわ、バッチリよ、ヨミヨミ」

「いい年して何やってるんですか」

 あと数センチズレたら、布団からはみ出していた。……畳にぶち撒けるのは考えたくない。

「ちょっと、やめてください。彼女が居るんですから」

 ここぞとばかりにウェットティッシュを取り出し、未だ震える僕の象徴を拭く。

「あら、その姿はまだ、彼女に見せていないわよね。──どうせ見せるつもりもないんでしょう?」

「だ……から……ってえ」

 次の射出を促すように、僕の象徴は正反対に向けられる。

「ほら、また新しい腐乱死体」

 写真を見せられて、腐乱死体の匂いが付いたハンカチを鼻先に当てがわれる。

 美しい腐り方を見せられて、抵抗する気も失せる。鼻腔が広がり、全神経がそこに集中する。

 そうして20分、ようやく最後の快感が訪れる。

 どっと脱力して、後始末は屍さんに任せる。自分の汚れた部分を繊細に拭き取り、背中を撫でてくれる。

「なんでいつも僕の事ばかり……」

 その後の言葉は決まっていた。決まりに決まり過ぎて陳腐化している。

「なんでって、あなたの綺麗な腐乱死体が見たいからよ」



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