pixivに投稿したものをまとめたものです。艦娘として戦うことにしか興味がなく、「戦いしか知らない」磯風と、同じく「戦いしか知らない」司令との結婚話と後日談です。

艦娘、特に磯風についての独自設定が含まれますので、苦手な方はご注意ください。

直接的なものではありませんが、途中一部性行為をにおわせる表現があります。あらかじめご了承ください。



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磯風求婚

「磯風求婚」 

 

 

 

どうした、司令。この磯風(いそかぜ)に何の用だ。なに、その箱を渡すというのか。中身は、ふむ、…指輪か。 

 

ああ、わたしはこの贈り物の意味するものがわからないような愚かな女ではない。 

 

わかっているさ、これが単なる「練度の向上を祝しての勲章」ではない、ということも。 

 

よく磨かれた白金(プラチナ)の輪に、夕陽のように輝く黄玉(トパーズ)、わたしの誕生石か。…これは求婚のための指輪だろう。 

 

 

聞きたいことがある。なぜこの磯風に求婚しようというのだ? 

 

なに、逆に聞かせてほしい?逆質問か。まあ、いいだろう。なんだ、言ってみろ。ふむ、なぜそう問うのだ、というのか。 

 

理由は簡単だ。…わたしが「戦いしか知らない女」だからだ。 

 

司令、君には既にわかっていることだろうが、改めて話しておこう。 

わたしは深海棲艦の攻撃で物心つく前に両親を亡くし、身寄りもなく施設で孤独に生きていた。 

 

10歳になる頃だったか、わたしに艤装への適性があるとわかり、大本営に引き取られて「艦娘」になった。 

 

断る理由など無かった。深海棲艦には憎悪しかなかったからだ。そいつらを好きに殺せるのだからな。 

 

わたしの艤装への適性は群を抜いていたことから、あれは「MI作戦」があった頃だったか、当時最新鋭だった「磯風」の艤装を与えられ、この鎮守府にやってきた。 

以来6年間、16の歳になるまで、わたしは司令のもとで、ただ戦果を挙げることのみに明け暮れた。 

 

守るべき家族もなく、友人もない、深海棲艦への憎悪、そこに強力な艤装を扱えるというのだから、戦いに価値を見出だし、それを唯一の生き甲斐として、没頭するというのは当然の結果だったわけだ。 

 

それゆえ、戦うことに関しては誰にも負けない艦娘になったと言える。…「戦うことに関しては」な。 

 

 

結婚するというのであれば、司令の身の回りの世話をして、司令の心に安らぎを与えなければならないだろう。 

 

だがこの磯風、戦いばかりに明け暮れたゆえ、身の回りのことなどかえりみることはなかった。掃除もまともにできず、服も自分で洗えず、米もろくに炊けない、そんな女が、司令の世話などできるだろうか。 

 

それだけじゃない、司令の心を満足に癒す自信もない。孤独な生い立ちで心が歪んでしまった上、このように戦いにしか興味のない女、気の利いた言葉をかけて励ましたり、楽しいものを見て共感したり、そういうことは出来やしないことだ。 

 

それにわたしは男である君にとって魅力ある身体でもない。痩せぎすで胸乳(むなち)は小さく、尻も腿も細くたよりない。愛宕(あたご)や大和(やまと)のように抱いて安心させるなど、できないだろう。 

 

 

以上でいいだろうか。…わたしはこんな女だ。 

長くなってしまったが、改めてわたしに求婚する理由を聞こう。ここまで聞いても、司令にとって結婚して満足できる、そんな女だと思えるのか? 

 

なに、「…俺も戦いしか知らない男だからだ」、というのか。それはどういう意味だ。 

 

ふむ、司令はこの国を守ること、それが子供の頃からの夢だったというのか。昔ならともかく、20××年代の今の世にはなんとも珍しい男だな。 

 

そこに深海棲艦が現れて国土を荒らし、艦娘だけが立ち向かえた。そこで艦娘を率いて国を守ろうと思い、「提督」になった、のだな。 

 

戦果をあげるために10数年間、寝食も惜しむほど、生活の全てを深海棲艦との戦いに捧げ、戦力を揃えるために、全国を駆け回った、か。どおりで、司令が休んでいるところを見たことがないわけだ。 

 

なに、「磯風、そのためにお前を欲しがったんだ」、だと。 

お前の適性を聞いて最強の艦娘になると思ったから、どんな手を使ってでも自分の所属にしたかった、か。初めて聞いたことだな。そんなにわたしを買ってくれていたのか。 

 

 

…司令、君も戦いにしか興味のないことはわかった。それがどうして、わたしに求婚する理由となるのか、聞かせてもらいたいのだが。 

 

ん?お前が戦いにしか興味のないこと、それは十分わかっていること、むしろ、そんな磯風だからこそ俺に寄り添ってほしいんだ、だと?どうしてだ? 

 

…なるほど、戦いに身を捧げるものの気持ちは、同じ戦いに殉じる者にしかわかってもらえない、と…。身の回りのことなどできなくたって、喜ばせたり心を満足させられなくたってそんなことは関係ない、気持ちをわかってくれる、それだけでいい、か…。 

 

…ふふ、司令、君は面白い男だな。こんな「戦争馬鹿」の女に、好きこのんで求婚するとはな。 

 

そうか、戦いに明け暮れる者の気持ちは同じ者にしかわからない、か。 

…それはわたしにとっても同じかもな。みんな他に楽しみや守るものを持って戦っていて、誰一人わたしの心を理解してはもらえなかったからな。「戦いのみに」身を捧げる者の気持ちなど…。 

 

 

そろそろ返事をしよう。…司令、この磯風、求婚を承諾しよう。この指輪、是非受け取ろう。 

 

まあ、奇妙な関係かもしれぬけどな。わたしと司令は、互いに愛し合って結婚を決めたというような関係ではなく、互いにただひとつ共感しあえるところがあったからこうして結ばれるのだからな。「戦いに身を捧げた」、その一点だけに、だ。 

 

まあ、いい。戦闘にのみ生きるもの同士、わたしたちにしか味わえない孤独、辛さ、分かち合おうじゃないか。それが、わたしたちの「愛の形」にでもなるのだろう。 

 

指輪、付けてみようか。…ふむ、これが似合っているかどうか、戦いしか知らないわたしにはよくわからない、というのが本音だ。 

 

だが、わたしと司令が、「同志たりえる証」だと考えるのであれば、悪くないのかもな…。 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

…今日は、司令がこの指輪を渡した日だったな。ああ、潮風にさらされて色褪せてしまったが、それはずっと肌身離さずつけていたからだ、わたしのこの細い薬指に。

 

もう三年ばかり経つのか。…この磯風と司令が結ばれてから。

 

 

振り返ると、戦いに明け暮れた結婚生活だったな。朝早くから夜遅くまで、司令とともに作戦を練り、演習をこなし、戦場に出る、そればかりだった。

 

司令、君が求婚してきたときに言ったとおり、わたしは普通の妻が為すべきことはたいしてできなかったと思うぞ。

 

話の内容は深海棲艦との戦いのことばかりで、気の利いたことも励ましの言葉も言えた記憶などないし、家事もまるっきしできなかったからな。

 

ああ、周りから見たら奇妙な結婚生活に思えたことだろう。ほとんどこの鎮守府本部に詰めていて、そこで最低限身体を洗い、食事は片手間に食える戦闘糧食ばかりで、眠りにつくのも仮眠室。どこかに出かけることもなく、用意されていたわたしたちの部屋に帰ることさえ、ろくになかったものだ。

 

 

ただ、司令が望んだとおり、「戦いに身を捧げるものの気持ちをわかってくれ」ということ、それはできたと思っているぞ。

 

もっといい作戦にしろという意見は出したが、決めた作戦がうまくいかなくとも不満を述べたことはないし、司令が戦いのことばかり考えること、それを咎めようとも思わなかった。

 

それは司令、君も同じだったかもしれぬな。わたしが大事な作戦で失敗しようとも何一つ叱責されなかったし、妻らしいことを何一つできないことを咎めたりしなかっただろう。

 

…わたしも司令も「戦いに人生をかけている」、それを分かりあえていたからだろう。全てを捧げて為すことに、それが上手くいかずとも文句を言えようものか、という認識だったからだ。

 

「戦いしか知らないものの気持ちを理解してくれた」こと、それがうれしかったし、わたしの心の支えとなったとも思っている。

 

この磯風がこんなことを言う柄でもないが、「ともに戦う仲間ができた」、わたしと司令は「同志」、「運命共同体」、そう考えているほどだからな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

だが司令、じつはそれだけでは…ないのだ。もうひとつ、君に対して思っていることがある…。

 

「…!……!」

 

…ああ、話の途中ですまないが、ちょっと待っていてほしい。

 

 

…よいしょっ。ふふ、大丈夫、泣くことはない。この磯風の腕の中にいるのだ。たとえ今はか弱い命でも、立派になるまで、「護り抜いて」…みせるさ。

 

 

…他に夫婦らしいことは何一つできていないのに、愛を交わし、赤子が生まれる、それだけはできたとは予想だにしなかったことだな。

戦いのことばかり考え時間を惜しむがために、結婚式すら挙げていないほどだというのに。

 

わたしと司令、義務的なものではなく、お互い好きこのんで身体を重ねあっていたものだな。

 

思い出すのは恥ずかしいが、わたしの華奢でたよりない身体と司令の筋肉質な身体を抱き寄せあい、互いの体温と息づかい、心臓の鼓動を感じあう、気持ちよくさせるなどではなく、そういうことばかりしていた拙い「まぐわい」だった。

 

思えば、わたしも司令も、戦うことにしか価値を見いだせなかったわりには、戦場に死に場所を求めるようなことはしなかったものだったな。

 

わたしは生きて帰ること、司令は誰も死なせないこと、それが信念だった。まあ、戦い続けたいだけという、「戦争馬鹿」の極致であるだけかもしれぬがな。

 

ともあれ、お互い生きることに執着はあるわけだ。だからこそ、生まれたままの姿で、互いの体温を感じ、それを以て自分は生きているということを実感したくなったのだろう。この身体を抱いていて、楽しんでくれていたかはわからないが…。

 

 

この子が、わたしのお腹に宿ったと知ったとき、もう戦えなくなるのかと思ったのは確かだ。この「戦争馬鹿」が戦えないなど、存在意義が揺らぐことだからな。

 

それとこの身体で、赤子を生み育てられるのかという不安もあった。

あまつさえ、戦場で傷ついた身体、この細いお腹で大きくなるまで育てられるか、肉付きの悪い腰つきで無事に産み落とせるのか、膨らみの小さい胸乳で母乳(おもち)を出して育てられるのか、自信はなかった。

 

そもそも、司令に妻らしいことをしてやれてすらいないこの磯風が、母親となって赤子を育てられることなど出来やしないとも思ったものだ。

 

 

だが、…不思議なものだな。細かったお腹が膨らみ、赤子の胎動、鼓動が伝わるようになってくると、なぜだか「この子を護ってみせる」という感情が、日に日に増していったのだ…。

 

それまで、わたしは「誰かを護る」という感情を持つことがなかった。理由は簡単、護るべき相手が…いなかったからだ。

その相手が、しかもわたしの最も近いところに現れて、これまでおさえられていた感情が急に溢れ出したのだろう。

 

司令、じつのところわたしは、身籠ったら一年以上は戦えなくなるゆえ、君はわたしに赤子ができることを望んでいないと思っていた。そもそも、私生活に無頓着な男だから、果たして関心を示すのだろうかとも思っていた。

 

…実際にはたいそう喜んでいて、是非俺の子を産んでほしいとも言っていたな。あんなことを言われることなどなかったから、顔を赤くしたものだ。

 

 

身重の身体となり出撃できなくなったとはいえ、それでも戦いが一番だというのはお互い変わらなかったな。

 

司令は本部で艦娘に指示を出し、わたしはその横で司令を手伝う、いつもと同じだった。

 

じっとしているより司令とともに戦う方が、身体の調子が良かったものだ。ああ、戦いが「生き甲斐」だったわけだからな…。

この磯風は戦い無くしていられぬ女、だから戦いに関わっているときに、自分らしくいられたのだろう。

 

この子が、わたしのお腹から出てこようとする直前まで、それまでと同じように戦いに明け暮れる日々、それは変わらなかった。

まあ、この子が無事に育つよう、栄養のあるものをとり、疲れていたら無理はしないようにはしていたのだがな。

 

 

 

あれは戦艦棲姫(せんかんせいき)の砲撃をまともに受けるよりも痛かった。…お産の痛みというものは。

もともとお産に耐えられるかわからない身体、なかなか生まれてこられなくて時間も長引き、何度も気を失っていた。

 

それでも…この子を産み落とせたのは、死なせるわけにはいかない、生きてほしい、護りたい、…そう心から願ったからだった。

 

この磯風、涙を流したおぼえなど無かったものだ。体力を使いきり朦朧とした意識のなかで、この子の力強い産声を聞くまではな…。

 

初めて見たときは、ずぶ濡れで、しわくちゃで、でも胸元で抱くと、温かく、重く、確かな鼓動を感じて、まだへその緒で繋がっている感覚があって…、ああ、「この子を必ずや護りぬいてみせる」、その感情で胸がいっぱいだったさ…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

この子が生まれてからもうすぐ一月か。初めてこの腕に抱いた時よりも、ずいぶんと重くなったものだ。

 

生まれたばかりの頃はしわくちゃだったが、どこか…この磯風に似てきたとは思わないか。

色白で、つややかな黒髪に、切れ長で炎のように紅い目…。将来、わたしに似た女に育つのだろうか。ただ、正直な気持ち、性格までは似てほしくないのだがな…。

 

わたしは家事もろくにできないような女。むつき(おしめ)を替えることや、ミルクを作ることは、今でもうまくできないし、こうして腕の中に抱くことさえまだぎこちないほどだ。

 

だが、たとえ上手くいかなくても、不器用であっても、この子を護りぬいてみせよう、立派に育ててみせよう、…その思いは揺るぎない。

 

こうしてわたしの細い腕で抱きしめ安心して眠る姿、わたしの小さな胸乳から出る母乳をうまそうに飲む姿を見ていると、親の記憶がないわたしと同じようにはさせたくない、親の愛を受けて育ってほしい、…そう思うのだ。

 

母親はこんな「戦争馬鹿」だが、この子にまで、同じ人生を送らせたくないものだ。わたしが言っても説得力など微塵もあるまいが、…幸せに生きてほしい、ただそれだけを願っている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

…つい話が逸れてしまった。さきほどの続きに戻ろう。

 

この誰かを護りたいという感情、この子を身籠ってようやく芽生えたもので、こうして伝える機会もなかったのだが…、今告げよう。

 

なに、司令も言いたいことがある?いいだろう。一緒に言おうか。

 

 

「「司令(磯風)、わたし(俺)にとって、君(おまえ)も護るべき「家族」だ。決して、死なせはしないからな。」」

 

 

…司令にとっても同じ思いだったか。わたしも、この子も、ずっと生きていてほしい、と。誰も死なせまいとこの世界に入り、こうして戦いに生きてきた司令らしいな。

 

わたしも、司令を失いたくない。ともに戦いにしか居場所のないただ一人の同志だからだ。君を失ったら、…わたしの気持ちをわかってくれる人が、いないからだ。

 

だから、…一緒にいてほしい。この生活に一つの注文もつけなかったわたしの、ただ一つの、願いだ。

 

 

司令、もうひとつ聞きたいことがある。…わたしと結婚して、幸せだっただろうか?

 

そうか、「ともに戦ってくれて、気持ちを理解してくれて、護るべき家族となってくれた…。結婚して良かったと、俺は胸を張って言える。」か…。

 

ふふ…。この磯風もだ。上手く言えないから少し言葉を借りるが、ともに戦ってくれて、気持ちを理解してくれて…。

 

…拙いかもしれないが、ここからはわたしの言葉で言おう。

…誰かを護る、この感情を教えてくれたからだ。そして、護りぬきたい…家族も。戦いしか知らなかった孤独な女にこれだけのものを与えてくれた。この磯風も、…結婚して良かったと、胸を張って、…言えるぞ。

 

 

この磯風、戦うことに価値を見いだし戦い続ける、それはこれからも変わらないと思う。

 

だが、…護るべきもののために戦う。それがわたしが見つけた新たな価値観であり、生き甲斐だ。

 

ああ、一日でも早く戦場に復帰してみせよう。深海棲艦を倒して倒して…倒しまくり、司令と大事な我が娘に指一本触れさせぬためだ。そして、この子が立派に成長するさまをこの目に焼き付けるのだ。

 

こんなことを口にするなど、さきほど言ったような「戦争馬鹿」の極致なのかもしれぬがな。だが、「戦争馬鹿」のわたしにとっては、これしか考え付かんのだ。

 

「それが磯風らしい」だと?ははは…、そうかもしれぬ。戦いでしか自分を表現できない、ということなのだろうな。

 

 

薬指につけたこの色褪せた指輪、貰ったときは似合っているかわからないと言ったな。だが、今は思うのだ。

 

司令、この指輪、君とともに戦った証であり、ともに護りあおうという決意の証だ。よく…似合っていると思うぞ、この磯風に…。

 

 

 

(終わり)

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。
武闘派というイメージからこの磯風を描きましたが、いかがでしたか?
話を通じて、磯風の根底にある優しさ、弱さであったり、心の変化を感じとってくだされば幸いです。

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