今回は状況説明です。
思うようにポンポン進められない…笑
俺が---恐らくは由比ヶ浜と一色も---唖然としている中、俺の姿をした雪ノ下雪乃は、「そいつ」に問いかけた。
「…貴方が普通ではなく、私たちの知る平塚先生ではない、というのは分かりました。この奇怪な現象に関係がある事も。それで。貴方は「何者」で、なにをしに来たのかしら?」
[…久しぶりの質問ですねえ…どうでもいいけど…そうですねえ…何者…と言われれば…<ふうせんかずら>というのが、僕の名前的なものでありますけど…
なにをしに来たのかっていうのは…さっき言いましたよね?いや、言ってなかったかな…?面倒臭いな…]
<ふうせんかずら>と名乗る「それ」は、聞き捨てならない事を口にした。
「久しぶり…ということは、『これ』以外にもこんな事があったのね?」
[あー…余計なことを言ってしまった…まあその話はどうでもいいので忘れてください…
それで、用件に入ってもいいですか?ていうか入らせてください。そして帰らせてください]
「まだ話は…!」
問い詰めようとする男[雪ノ下]を手で制止し、俺は<ふうせんかずら>に問いかけた。
「用件…というのは、俺たちの現状についての説明、という事でいいのか?」
[はあ…まあ。……でも、皆さんが期待している説明ではないかもしれませんがねぇ…期待に応える意味もないし…
では…早速…ええと…とりあえずこれから当分の間…皆さん4人の中で…時々アトランダムに『人格』が入れ替わります…あと、「誰と誰が入れ替わるか」「いつ入れ替わるか」それから、「入れ替わる時間」も全部含めてアトランダムです…はい]
それを聞いて、ずっと無言だった由比ヶ浜が口を開いた。
「じゃ、じゃあ…一生入れ替わった姿のままっていうことはない…んだよね?」
[はあ…それはありません…あまり面白くならなそうですし…こっちにも事情があるもので…あれ?これ説明する必要あったかな…?いや、無かったか…しまった、無駄なことをしてしまった…]
よかった、このまま一生雪ノ下の体で生きていかなきゃならない…なんて事はないらしい。つーかその説明する気無かったのかよ。
いや、でも「当分の間」とは言ってたか…
心なしか目の前の俺[雪ノ下]もホッとしているように見える。
しかし「目の前の俺」って意味わかんねえな…今はどうでもいいか。
さっきの「久しぶり」ってのも気になるが、とりあえず一番気になることを聞いておこう。
「それで、この現象はいつ終わるんだ?」
[ええと…適当な感じで入れ替わってもらって、『ああ、そこそこ面白かったなあ』、ってなれば、その時点で終わりますから…
そんなに長い期間ではないですよ。皆さんの「長い」の定義がどんなものか知らないし、知るつもりもありませんけど…]
「そこそこ面白いって…」
意味がわからん。こいつの主観でって事なんだろうが…
ん?主観?
「それはつまり、お前は俺らを見ている…って事か?」
俺の発言に女性陣は凍りついた。そりゃーそうだよな…
相手がなんであれ、常に見られているってのは気分のいいことじゃない。
[そうですね…僕は皆さんを観察してます…ああ、四六時中皆さんのプライバシーを覗いているわけではないのでご安心を…特定の条件の時にしか見れませんし…まあこっちも見たくはないですから…面倒臭いし…]
常に見られるわけじゃないのか。他の奴らも少し安心したみたいだ。
[とにかく、皆さんはあまり気にしないで、普通に生活しててください。気にしても無駄ですし。『なるもんは仕方ないかあ』位に思っておけばいいんじゃないですかね…。
それから、『入れ替わり』がどういう原理で成り立っているかとかそういうのも、考えないほうがいいですよ…どうせ皆さんじゃ分かりやしませんし。皆さんがやるべき主題はそこじゃあないんですよ…
そんな暇があるなら、自分自身についてでも考えていてください。その方が早く『入れ替わり』も終わりますからねぇ…]
…つまり、現状をあるがまま受け入れろって事なのか?こんな異常な状況を。
[後は…そうですねぇ…ああそうだ、皆さんの間で『人格入れ替わり』が起きている事は、余り周りに言わない方がいいですよ…
僕がどうとかってのじゃなくて、言うとみなさんがややこしい事になるって…いくらなんでも分かりますよねえ…?
まあ、僕の中では勝手に分かったことにしておきます…]
[それでは…頑張ってください…心の上っ面の所でほんのちょっとだけ、応援しています…]
言いたいことだけ言って、<ふうせんかずら>は振り返って部室を出て行こうとする。
その時、比企谷[雪ノ下]が<ふうせんかずら>の肩を掴んだ。
「待ちなさい…!私はまだ納得していな…」
瞬間。
比企谷[雪ノ下]の体が宙に舞った。
その体はそのまま俺の方に飛んできて、俺は下敷きにされる。
悲鳴が上がる。
背中に鈍い痛みが走り、比企谷[雪ノ下]は咳き込む。
そんな俺たちに由比ヶ浜と一色が駆け寄ってきた。
「ゆきのん!ヒッキー!」
「先輩!雪ノ下先輩!」
まるでなにもなかったかのように、<ふうせんかずら>は言葉を紡ぐ。
「こんな事はしたくないんですけどねえ…本当なんですよ?面倒臭いですし…でも、こうでもしないと帰らせてもらえそうにありませんでしたからねえ…」
圧倒的だ。
奉仕部の中では一番身体能力が高いであろう俺の体に、武術の心得がある雪ノ下が入っているのだ。
それが簡単にあしらわられてしまった。
だめだ、今ここにいる人間では、こいつを止められない---!!
その時一瞬、意識が揺らいだ。
<ふうせんかずら>はつまらなそうにこっちを一瞥した後、部室を出て行こうと背を向けた。
「最後に…一つだけ答えていけ」
[…なんでしょう?]
「お前に…<ふうせんかずら>にもう一度会うチャンスはあるのか?」
[…その質問も久しぶりですねえ…そうですねぇ…
『これ』が終わる頃に、もう一度会えますかねえ…
保証はしませんけど…]
なら反撃もほぼ不可能、か…
[それでは…もういいですかね…?よくなくても帰りますけど…
それでは…ご武運を…]
そんな言葉を残し、不条理を一方的に押し付けてきた<ふうせんかずら>は、今度こそ部屋から出て行った。
…そして今更ながら、自分と雪ノ下の体が元に戻っている事に気がついた。