「今日もいい天気だなぁ……」
霊夢と共に博麗神社に移り住んでもう一年……つまり季節が一巡した。
やっと一年……もう一年……と考えるか……それは横においておこう。そもそも妖怪の縫螺にとって一日も一年も十年も体感的に差はないのだ。取り合えず縫螺は桜が舞い散るようになって眼を細めながら洗濯物を干していた。いやぁ……男の一人暮らしなら多少溜まってから纏めてやっちまうけど子供の教育によくないと藍に言われてしまったので毎日洗うようにしている……
さて、一年である。皆さん……霊夢は今日も元気です。歩けるようになりました……そして一番は、喋れるようになりました。もうね、可愛いったらなんのって奴ですよ。「おとーしゃ、おとーしゃ」って呼ぶんですよ……もう頬が緩みまくるって奴ですよ……
「おどぉおおおおおおじゃあああああああああああああ!」
ほら……こんなに一生懸命に俺をよ……えぇ!?
「霊夢ぅうううううううううう!」
縫螺は洗濯物を放り捨て鳴き声をあげる方向へ走る……そしてそこには……
「なぁんでお前さんそこに上ってるんだ?ん?」
木の上に上がったはいいものの降りれなくなって泣きじゃくる霊夢がいたのだった……
「んで?どうやって上がったんだ?霊夢や」
と、降ろしながら縫螺は聞く……
この木には子供が昇れるような引っ掛かりはない……どうやって上がったのか分からず聞くと縫螺にだっこされてさっきまで泣いていたのが嘘みたいに笑う霊夢が……
「うん、みててね?おとーしゃん」
そういった霊夢は地面に降りると……
「ほぇ?」
縫螺が眼を丸くする……そりゃそうだ。何せ縫螺の目の前に霊夢の顔があったのだ……そう……霊夢が……
「お前能力にも目覚めたのか……」
【程度の能力】……所謂異能と呼ばれるその能力だが多種多様にあり縫螺も紫も藍も橙も持っている力だ。それに霊夢も目覚めたとは……いや、博麗の巫女になった以上何れは【博麗の巫女としての能力】……つまりは霊能力を覚えていくのだがそれとは別に目覚めたらしい……そもそも生まれたばかりのうちに霊力が体から漏れていたくらいだ。この程度で驚いてたら仕方ないのかもしれないな。とは言え、
「いやぁ!凄いなぁ!名付けるなら【空を飛ぶ程度の能力】ってところか?」
と、縫螺は興奮ぎみであった。娘がすごけりゃ何だって良い。そんな思いだ。
「よぅっし!どうだ?散歩でも行くか」
「行く!」
そう言って縫螺と霊夢はご機嫌で散歩に出掛けた……因みにその後……
「あの男は……何をしているんだ……」
様子見に来た藍が明らかに洗濯の途中と思われる状況で消えている縫螺に額をヒクヒクさせたのだった……
「うわぁ~」
そんな藍の怒りも知らず縫螺と霊夢は人里から少し外れた場所にある広場みたくなっている所にいた。
何せ霊夢は博麗の巫女で縫螺は妖怪だ。子供たちが多く使う人里の広場では少しばかり浮く……なので人里の人間はまず来ない場所を遊び場に使うようにしている……いやね、本当は霊夢には同世代の友達を作って欲しいんだよ……だが明らかに親の方が畏まるのだ。まぁ将来的に妖怪や異変を祓う存在である博麗の巫女になるのだからある意味遠い世界の存在である人間がいたらそりゃね……それにいくら妖怪と人間の間が親密になったとはいえすべてが受け入れられてるわけじゃないし霊夢のことは霊夢としてみてくれた方が縫螺としてはいいと思っている。勝手かもしれないが……霊夢は一人の女の子の部分も持ってほしい……そう思えば霊夢を博麗の巫女と言う色眼鏡ではみてほしくない……そういう意味で友達が必要なのだ。人間は孤独に耐えられない。妖怪の自分ではダメなんだ。人間の……同じ時間を生きられる存在がな……
(中々それが難しいんだよなぁ……)
はぁ……っとため息を一つしながら縫螺は空を見上げた……
そんな縫螺の悩みを知らずに霊夢は飛んでいる蝶々を追いかける……だがまだ拙い歩き……追い付くはずもない。だが霊夢は諦めずに追いかける……大人の目で見れば大したことじゃなくとも子供にして見れば大冒険のような気持ちだ……すると、
「お?」
蝶々から視線を離し地面に咲く花に眼を動かした……子供ゆえに興味が向くものはコロコロ変わる。しゃがみこみジィッとその花を見る……何て花だろう……気になるが花の名を霊夢の知識では無論出せるわけがない……となれば父だ。
霊夢にとって父はなんでもできるしなんでも知ってる……そんな存在であった。無論実際は違うがこの年代の子供にとって親とはそんなものだろう。そう思い顔をあげると、
『っ!』
目の前にあった存在に驚き眼を見開く……相手も同様だった。
肩まで届くようなふわふわと緩くウェーブの掛かった金髪……ぱっちりした瞳……黒い子供用の服……見ただけで良い布を使っていた。きっと家は中々の家柄なのだろう……無論霊夢にはわからないが……
「おまぁえは……だぁれなんらじぇ?」
何処か舌ったらずの声だった……それに霊夢はコテンっと首をかしげる。
「れーむ……はくれーれーむ」
「まりしゃだじぇ……」
「まりしゃ?」
「ちーがーう!まーりーしゃ!」
縫螺をその光景を遠くで見ながら恐らくあの金髪の子は自分の名前をしっかり言ってるつもりなんだろう。だが霊夢は間違って聞こえてるし呂律も上手くない。
「あの子は魔理沙と名乗ってるつもりなんですよ」
「ん?」
縫螺は振り替える……そこには仕立ての良い布をあしらった和服に身を包む男だった……
「たしか霧雨店の店主……」
縫螺は何となく覚えていた。彼は霧雨店と言う大手道具屋の店主で人里でも有名だ。縫螺も何度か購入したことがある。何せ大概揃ってるし……
「ええ、しかし……あの子が次代の巫女ですかな」
「ええ、なぁに……高々十年ちょっともすれば立派になりますよ」
縫螺がそういうと霧雨店の店主は苦笑いを浮かべた。
「あなたのような妖怪ならばそうでしょうがね……私たち人間に十年ちょっとは大分大きいですよ」
「あぁ、すまんすまん」
縫螺は軽く会釈すると霧雨の店主は隣に座ってきた。すると向こうでは……
「きれーなおはなだね」
「うん」
花を見ながら二人はいつのまにか打ち解けていた……子供は仲良くなるのが速い……すると、
「あ、これもきれいだじぇ」
そう言って魔理沙は手を開くと「うーん」と唸った……
「あぁ!」
霧雨の店主が声を出したが遅い……次の瞬間なんと魔理沙の手からポンっと星屑のようなものが飛んだのだ。
「へ?」
これには縫螺がビックリした……とうの霊夢は……
「スゴイスゴイもっと!」
そう言ってせがんで魔理沙は次々星屑を出す……まぁ子供の力なので瞬きほどの一瞬で霧散するほどの弱い星屑なのだが……
「あれほど言っておいたと言うのに……」
肩を落とす霧雨の店主……それに縫螺は苦笑いをする。
「子供には幾ら言っても聞かないときありますからね……」
と、縫螺が言うと霧雨の店主は頷く。そして縫螺は聞いた、
「生まれつきですか?」
「はい、生れつき魔理沙には魔力があったのです……成長すれば魔法を使えるようになるでしょう」
「異能としてはポピュラーなものだな」
魔力……そして魔法……程度の能力としては実際そんなに珍しいものではない。実際縫螺の知り合いに一人魔女がいるくらいだ。だがあの年齢で魔力のコントロールがある程度できるとは……
「ええ、対した才能でしょう……ですが私はあのような才能はないほうが良かった……」
「でしょうな……普通の人間の親なら……」
程度の能力を持つものは人外と戦える……だがそれはその分危険が多いと言うことだ。そして本人が望まずとも人外が程度の能力を持つ人間を狙うことも少なくない。ただ単に戦いたいだけのものや人を食う妖怪の中には程度の能力を持っていた方がうまいと言うやつもいる……本人が望まずとも危険がやって来るのだ……
「とは言え捨てろといって捨てられる才能でもありませんしねぇ……」
「だよなぁ……」
霧雨の店主と縫螺は大きなため息をついた。
「もう少し大きくなったら魔法の修行をさせるべきなのでしょうか?」
「その方がいいと思いますよ。異能は持ってるだけで狙われますからね……娘さんの安全を考えたらちゃんとさせるべきじゃないか?」
やはりそうですよね……と霧雨の店主は大きなため息をついた……
「魔理沙には普通の幸せが来るとあの子が生まれた時に思ったんですがね……」
「でしょうな……」
霧雨の店主の言葉に縫螺は頷く。
「普通の女の子として普通の成長をして普通の恋をして普通に結婚して普通に子供生んで普通に年をとる……そう思ってましたよ」
縫螺は黙って聞いていた……
能力とはその普通を奪うものでもある。人間に限った場合だが……それでも親からすれば普通の生活を営んで欲しかった……そう願うことは何らおかしいことではないはずだ。
「お陰であの子は友達は周りから距離をおかれている。子供は純粋無垢といいますがそれは違う……子供だからこそ異分子を弾こうとするのです」
霧雨の店主が言うには一度自分の力を見せたことがあるらしい……その後の展開はご想像にお任せしよう。だがその理由を魔理沙には理解できなかった。
「自分の使う力が周りとは違うと言うのを理解させるには幼すぎる……だから何度言ってもああやって魔法を見せてしまうんでしょう……本人にとってごく自然的な力であってしまうから……」
まぁ我ながら娘に甘いのでキツく叱れないのも理由のひとつかもしれません……と店主は言った。
「特にあの子を生んで直ぐに妻が亡くなり可愛がりすぎてますしね……」
「それは……きっと奥さんが怒るでしょうね……草葉の陰で」
縫螺はそう言うと店主は苦笑いした……
「それでも果てしなく甘やかしてしまうんですよねぇ……父親失格です」
「俺も霊夢には自分で言うのもなんですが甘いですからね……」
娘には甘い父親同士と言うこともあり二人はすっかり意気投合していた。
「ですが魔法なんて私は教えられません魔導書といっても知識もないのに与えられませんしね……」
「知り合いに魔女がいますから時が来たら魔法の先生やれないか聞いてみますよ」
「ほほう、魔女ですか……さすが妖怪ですな。交友範囲が大きい」
「あんたも顔くらいなら見たことあると思うぞ?時々人里で買い物してるし」
「へ?」
店主は一瞬思案すると……
「あぁ~、あの子ですか」
「あの子って多分あんたより長生きしているけどな」
と、店主も合点がいったらしい。とは言えだ、不老である魔女なので店主より年上だろう……と、未だに人間臭い魔女を思い浮かべながら縫螺はいる。
「意外な知り合いですな」
「色々あってね。つい最近だけどな、知り合ったのは」
まぁ向こうはこっちに恨み骨髄ってやつだろうけど……
「まぁ、未来の事はその時に考えましょう……今は子供たちの今の時を見守るのが私たちの仕事です」
「違いない」
そう言って縫螺と店主は一緒に蝶々を追いかける二人を見る……そして、
「やっぱり霊夢は可愛いなぁ」
「やっぱり魔理沙は可愛いなぁ」
『…………ん?』
二人は互いの顔を見た……
「あはははすいません。なんか変なことが聞こえましてね」
「それは奇遇ですな、私もです」
そう言って二人は同時に口を開いた……
『やっぱり(霊夢)(魔理沙)は可愛いなぁ』
次の瞬間二人の間に微妙な空気が流れた……
「もしや縫螺殿……長く粋すぎて耄碌されたのですかな?」
「やだねぇ人間は……ここまで目が悪いとは……」
バチバチと縫螺と店主の間に火花が散る……そして、
『てめぇ眼が腐ってんじゃねぇのか!?あぁ!?』
二人は互いに胸ぐらを掴みにらみ会う……
「どこをどう見たって霊夢の方がかわいいに決まってんだろうがボケがぁ!」
「やっぱ眼が腐ってんぞあんた!どう見たって魔理沙には負けとるわ!」
ギギギと睨み合う二人……すると、
「何をしている……縫螺ぁ……」
『え?』
二人が声の方を見ると……そこにいたのは九尾の狐の化身……そう!八雲 藍である。
「貴様……洗濯を途中で放り捨てていったかと思えば……しかもここでどっちがかわいいか等と言うアホみたいな喧嘩を……」
『アホじゃないわい!』
と二人が叫んだが藍の一睨みで黙った……そして、
「そもそもお前ら……橙が一番かわいいに決まってるだろうが!」
『……………………はぁ!?』
二人は唖然とした……因みに橙は霊夢たちの方に行っていた……
「あの猫耳……甘えっこでそれでいて気分や……まさしく猫!可愛さ1000%だ!」
「何を言うか!あの舌ったらずさに加え綺麗な金髪……マシュマロのように白く柔らかい肌!将来傾国美女になるには間違いないね!」
「甘いわ!あのパッチリとした目、宝石のように日の光を反射する黒い髪……決め細やかな肌!何処をとっても超一級品!全てを兼ね揃えたパーフェクト美少女であり楊貴妃裸足で逃げ出す美女になるのは霊夢だ!」
ゴゴゴゴゴゴと三人のオーラがぶつかり合う……そして、
「幻想郷の管理者の式神の力見せてくれるわ!」
「見せてみろや狐鍋にしたるわ!」
「人間なめんな妖怪がぁ!」
と、三人揃って大乱闘…… あっちを殴りこっちを叩き……揃いも揃って大暴れ……それを尻目に、
「私ね、橙って言うの。宜しくね、魔理沙」
「よろしくだじぇ」
「わーい!橙お姉ちゃんだぁ!」
と、喧嘩のある意味原因の三人は仲良くなっていたのは内緒の話だ。