「うーん……」
「そうそう、その調子よ」
日光が厳しくなってきた今日この頃……霊夢(七歳)が気むずかしそうな顔をしていると光が手に点る……それを見た紫は拍手していた。
さて、アリスに魔理沙の魔法の修行を頼んでから更に季節が一巡した。今ではもう霊夢も紫の指導のもと巫女としての修行を行っている。
それを遠くに見ながら縫螺は煙管をプカプカしていた。頑張れ霊夢……
などと心のなかで応援していると霊夢に座禅を組ませ紫だけこっちにやって来る。
「どうだ?」
「才能は中々ね。あの年であそこまで行ければ対したものよ」
そう言いつつ紫は縫螺の隣に座ってきた。
「アレなら近いうちスペルカード出せるようになるでしょうね」
「魔理沙ちゃんもそんな感じらしいぞ」
スペルカード……それは幻想郷の住人となった者の力が結晶化し、一枚のカードとなったものだ。
想いや覚悟……もしくは力そのもの……それが一枚の力となり技へと昇華されたものだ。
それぞれ力は十人十色……しかしどれもその持ち主の力を現している。程度の能力を持つものならば誰もが持っているものである。しかしこれは力そのものであると同時に想いの発露である。
肉体は勿論のこと強い心がなければ強いスペルカードは生まれないし子供ではまず発現することはない。その点霊夢や魔理沙は今まで幼かった。しかし少しずつではあるものの精神的な成長だって肉体と共にしていく。
しかしこれは外の世界では生まれないらしい。管理者である紫もよくわからないらしいが幻想郷の空気と言うか力がその者に作用し生まれるのがスペルカードだと言う見解を示している。
まぁざっくりといえばそれぞれが持つ必殺技の力を込められたカードだと思えばいい。
だがなぜだか……縫螺はスペルカードがない。生まれない。異能さえあれば弱い強いはあれど大体はスペルカードが発現するのにたいし縫螺は一枚も無いのだ。これは紫もわからないらしい。幻想郷に嫌われたかな?何て考えていたときである。
「どーもー!」
『ん?』
突然の突風に縫螺と紫は咄嗟に目を細めた。見てみればそこには一人の少女がいた。短くした黒い髪に烏帽子を乗せた端から見てもずば抜けた美少女……と呼んで差し支えない目鼻立ち……加えて何処か悪戯っ子的な雰囲気は他者を思わず油断させるなにかがある……
「幻想郷の伝統文屋、真実はいつでも一つ!清く正しく真っ当にがモットーの……射命丸 文です!」
そう言ってカメラとか言う河童が作った撮影機を構える少女……いや、射命丸 文は縫螺たちに挨拶した。いや、知ってるけどね?
「いや今さらそんな挨拶要らんだろ……と言うか突っ込んでも良いか?」
と、聞く縫螺に文は首をかしげつつ、どうぞ?と促す。それを見てから縫螺は口を開いた。
「お前の瓦版……どこを見ても清くも正しくもないし真っ当でもねぇだろうが」
と、言うと文は知らん顔を返した。
彼女は【文々。新聞】という胡散臭い情報が乗った瓦版を発行しており、もちろん妖怪である。種族の名は烏天狗と呼ばれる天狗の一種なのだがそれは横においておこう。これがまた嘘八百と言うか真実を捏造しすぎな新聞なのだ。
「いやぁ、真実を面白く伝えるには多少の脚色は致し方なしっていうやつですよ」
「色つけすぎて真実が消えちまってるのはどうかと思うけどね」
と言う紫に縫螺は頷く。
「んなことやってると天魔に怒られんぞ……」
「あやや!それはイヤですねぇ」
天魔とは天狗の……引いては天狗が支配する妖怪の山の長である。縫螺とは旧知の間柄でそれ経由で縫螺には何人かの天狗の知り合いがいる。文もその一人だ。ほかにも何人か知っておるがそれは今は良いことである。
「そういや天魔は元気か?」
そう聞くと文は肩を竦めながら苦笑いした。
「元気も元気と言うか元気すぎて私より長生きしそうですよ。あ、今日博麗神社に行く旨を伝えたら偶には顔を出せとのことですよ」
「そうだなぁ……今度顔出すかぁ……」
文の連絡に縫螺は笑う。そういえば最近天魔に会っていない……あいつに会うにも悪くないだろう。旧交を暖めるのも良い。
「で?一体何のようだ?いきなり現れてさ。それだけのために来た訳じゃないだろう」
文にそう問うと、ニカリと笑みを浮かべた。
「そりゃもちろんですよ。今代の博麗の巫女を取材にね」
そう言ってメモ帳とカメラを構える文……縫螺はそれを見て苦笑いを浮かべた。
「残念だが修行中でな。それが終わるまで待っていてくれ」
まぁそれくらいの取材なら良いかと縫螺はお茶を持ってくるために立ち上がる。文も特に不満を漏らすことはなく恭しくお茶を貰うために神社横にある住居の縁側に座った。
「もうすっかり父親の顔ですねぇ」
「そうね」
文の言葉に紫は苦笑いした。それを聞いた縫螺も首をかしげる。
「そうか?」
「えぇ、私は父親の顔を知りませんしね。縫螺さんみたいな人だったら良かったんですけど……まぁ、お母さんに私を産ませて自分はどっかに消えてるんだからろくな男じゃなかったんでしょう。お母さんも男を見る目がありませんでしたね」
「そうかもな」
縫螺はお茶を出すと文は口をつける。紫の分もあげると紫は口を開いた。
「お茶菓子は?」
「うちにそんな高級品はない」
年間を通して人目につきにくいと言う立地条件としては宜しくないためか参拝客が殆ど来なくて基本的に閑古鳥がなく博麗神社に金は殆ど無い。なのでお茶は出せてもお茶菓子は無いのだ。
「俺は飲まず食わずだって平気だけど霊夢には栄養あるもん食わせてやりたいしなぁ……」
「そもそも人間にとっての食事って私たち必要ありませんしね」
と文は言う。
彼女の言う通りで妖怪はそもそも食事を必要としないことが多い。人間の恐れや恐怖によって生まれたのが根元である妖怪は人を襲い喰らうこともあるがあれは別に存在意義みたいなもので無理して人間を食わなくてもこの幻想郷に限れば死ぬことはなく元々縫螺や紫……あとは文みたいなタイプの妖怪は人間を食うことはしないため結果的に食事はしなくても死ぬことはない。
ただうまいものを食えば幸せな気持ちになれるし酒を飲めば陽気になる。といった感じに縫螺たちにとって食事とはどちらかと言うと娯楽的なものなのだ。
そもそも紫は良くわからないので別にしておくのだが縫螺や文はわりかし人間好き側の妖怪である……
「それにしても暑くなってきましたねぇ」
「まぁ、俺たち妖怪は平気だけど霊夢が倒れないようにしとかないとな」
「それにしても霊夢ずいぶん集中してるわねぇ……」
と、紫が言うので縫螺も見る。確かにさっきから微動だにしない……
「そりゃそうですよ~」
と文はカラカラ笑いながら言う。
「霊夢ちゃん寝てますよ」
『…………え?』
縫螺と紫は二人は文の言葉に一瞬固まり霊夢を凝視する……すると……
「スー……ピー……」
鼻提灯を膨らませかわいい寝息をたてていたのだ。
「こらぁ!霊夢!座禅中に寝るんじゃなぁい!」
勢い良くお茶を飲み干し立ち上がった紫は起こすためズカズカと霊夢が座禅を組んでいる場所に向かって歩き出した。
「霊夢ちゃんはきっと大物になると思いますよ……」
「ま、まあな……」
縫螺と文はそんな会話を交わすと苦笑いをする。
「あの子が博麗の巫女として動くようになる頃には……どんな巫女になってるんでしょうね」
「頑張って曲がって育たんようにするさね」
と、縫螺が言うと文は流石お父さん!っと言ってからかってきたのだった……
次回から本編に入ります。まずは紅魔郷編ですね。