……ついでに後半に追加で話を挿入しておきました。
「……」
目が覚めるとそこは見覚えのあるアジトの天井だった。
その天井をぼんやりと見つめ……身体に走る鋭い痛みに顔を僅かにしかめる。
(そうだ……私は……)
――負けたんだ。
包帯のまかれた右腕を見て、アカメの脳裏にネージュとの一戦がフラッシュバックする。
「目が覚めたみたいだな」
「ボス……」
ベッドの脇の椅子に座る眼帯と義手の麗人の姿を見て、アカメは反射的に身体を起こそうとするが、そんなアカメをナイトレイドを率いるリーダーであるナジェンダは片手をあげて止める。
「無理をするな。傷はまだ癒えてはいない」
アカメを再びベッドに寝かせたナジェンダは口を開く。
「私は……いったい……どのくらい……」
「三日だ。全身切り刻まれていたが、かろうじて急所は外されていたから助かったといったところか」
ナジェンダは険しい顔でアカメに答える。
「おおよその話はレオーネとシェーレから聞いている……が、あいつらの話はあくまで一部の話だ。意識を取り戻したばかりで悪いが、話してもらうぞ。――何が起こったのかをな」
「うん」
頷いたアカメはナジェンダに全てを話した。
アリア一家暗殺任務のこと。
その任務中に一人の少年に割り込まれたこと。
その少年が途中で信号弾を放ち――そして、白コートの女性が乱入してきたことを。
「アイツは
「そうか……」
アカメはこの道のプロと言える。
このナイトレイドの誰よりも過酷な立場に身を置き、幾重もの修羅場を潜り抜いてきた。
故にその実力が折り紙付きであるということはもはや言うまでもないことであるし、それ以上にアカメの第六感とでもいうべき直感――感じ取る能力はもはや獣の域に達しているのだ。
(戦いにおいて、殺意と言うものはどんなに気配を隠すのが上手い暗殺者でも滲み出てしまうものだ……)
それはたとえどんなに修練を積もうとも、決して0に抑えられるモノではない。
そしてアカメは敏感にそれを察することができる。
だから殺意を感じられない相手にアカメは戸惑いを抱いたのだ。
(そんなことがあり得るのか? いや、もしも――)
――
ナジェンダの脳裏に過ぎるはかつて自分がまだ帝国の将軍だった時代に、一度だけ、ブドーの練兵場で見た自分と同年代の少女の姿。
エスデスと並び帝国最強と称されるブドーに鍛え上げられた近衛兵は、その一人一人が有象無象の一般兵とは一線を画す圧倒的な実力を持つ。ナジェンダ自身、ブドーの近衛兵と一対一で殺り合うのは、勝てるか否かを別問題として、遠慮したいところなのだ。
そんなブドーの近衛兵達を少女は拳で、一方的に叩きのめしていた。
その動きはまさに機械の如く正確にして苛烈、全くの容赦がなかった。
しかし何よりナジェンダが恐れを抱いたのはそんな近衛兵を倒す少女の表情だ。
(あの時のアイツの顔には全くの感情がなかった。あれだけの激しい戦闘に、殺意も気迫も怒りも何も抱いていなかった)
――アイツにとって、戦いとは単なる『作業』に過ぎないのですよ。いや、そもそも目の前の戦いを戦いと認知してすらいないのかもしれません。
練兵場のその光景を見ていたナジェンダにかけられたオネストの言葉。
そう、あの少女はオネストの――
「ナジェンダさん!」
そんなナジェンダの思考が中断されたのはその時だった。
「どうした、ラバック」
部屋に慌てた様子で入ってきたラバックをナジェンダは横目で見やる。
「侵入者だ! 俺の『糸』に反応があった!」
「人数と場所は?」
「俺の結界の反応からすると、おそらく八人! 全員、アジト付近まで侵入しています!」
この山奥に隠されたナイトレイドの前線基地を発見するとは――
「――手強いな。おそらく帝国に雇われた異民族の傭兵だろう」
仕方ない、とナジェンダはため息を吐く。帝国にこのアジトの場所を特定されたらいろいろと面倒なことになる。
「緊急出動だ。全員生かして帰すな」
「了解! ――あ。アカメは休んでおけよ! 病み上がりにはまだ実戦はキツイだろうからな!」
ラバックに声をかけられ、再び体を起こそうとしていたアカメはピタっと体を止める。
「ラバックの言う通りだ。ここは他の奴らに任せて休んでおけ」
「でも」
「でもじゃない。お前の身体の傷はまだ癒着すらしていないんだ……下手に身体を動かしたら、また出血するぞ」
これは命令だと言い残し、ひとまずナジェンダはアカメの部屋を後にする。
「……」
――そう。アカメの傷は癒着すらしてないのだ。あの任務から三日もの時間が過ぎ去ったというのにもかかわらず。
(アカメの全身に刻まれたあの切り傷は波打つ刃――フランベルジュのような刃で斬りつけられた時にできる特有の傷だ)
『死よりも苦痛を与える剣』と称される剣フランベルジュ。その刃は波打つような形状を取っており、『切り裂く』というよりは『引き裂く』ことに重点を置いた刃だ。
フランベルジュによって傷つけられた肉は治癒しづらく、衛生管理がきちんとできていなければ傷口から感染症にかかり、死亡するケースもある。
幸い、感染症にかかる前にアジトでしっかりと止血、消毒が行えたため、安静にしていれば時期に回復、戦列に復帰することもできるであろうが、あくまでもそれは安静にしていればの話なのである。
アカメの命を絶つことは叶わなかったユキの刃であるが、時間が経過した今も尚、呪いのようにアカメを苦しめていたのだ。
(ネージュ……)
あのオネストとは似ても似つかない、雪のような白の髪を持つ少女の名前。
底の見えない実力を持つ、あの大臣の娘――。
「お前なのか……」
ナジェンダのその問いかけは、誰の耳にも届くことなく宙に溶けて消えていく。
ナジェンダの耳に侵入者の殲滅完了の知らせが入ったのは、それから間もなくしてのことだった。
「……」
すでに自分たちが、その
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白き
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オネストよりナイトレイド殲滅の任務を与えられたユキは即座に二つの作戦を組み立てていた。
一つ目が信号弾を用いた『
これは帝国の財力にモノを言わせ、かき集めた大量の信号弾を、ナイトレイドの
無論、この罠には被害者が信号弾を発射する前にナイトレイドに殺されてしまうかもしれないという欠点が存在していたのだが、あくまでナイトレイド殲滅しか命じられていないユキからしてみれば、たった一人や二人の被害者の命などはどうでもよく、
事実、信号弾が発射したのは、昼間、
そしてナイトレイドのアカメと交戦したタツミからも、それといって特に新しい情報を得られる訳でもなく……運に頼る部分が多かったこの作戦の滑り出しとしては微妙な滑り出しと言えるであろう。
しかしながら作戦開始の初日にして一定の効果が望めたので、今後もこの作戦は続けていくことにユキは決める。信号弾によって援軍が駆けつけるという事実を植え付けさせ、ナイトレイドを牽制する目的もあった。
そしてこの待ち受ける罠に対して、二つ目が『
これはナイトレイドのアジトを見つけ出し、こちらから攻め入って殲滅する――言うなれば能動的な作戦であり、この作戦の肝は如何にナイトレイドのアジトを発見できるかということ。
しかしながらアジトの捜索自体は、ユキが帝国に帰還する前からも繰り返し、行われてきていることだ。
しかし捜索隊との連絡が途絶えたり、捜索隊の力量不足で見つけられなかったり、とナイトレイドのアジト捜索は困難を極めているのが現状だった。
その話をオネストから聞いたユキはひとまずオネストとは別の捜索隊を送り込むことを決めた。
とは言っても、ネージュが雇った捜索隊の者たちはナイトレイドのアジト捜索のために雇った訳ではない。オネストが予め送り込んでいる捜索隊をさらに監視するために雇い入れたのだ。
そしてこれこそがユキがナイトレイドに向けて仕込んだもう一つの罠だった。
「報告です。帝国の捜索隊の死亡が確認できました」
「場所は?」
アジトを発見できない――それはただ単に捜索を任された者の力量不足と言うほかないが、捜索途中で
無論、捜索中に危険種に襲われたり、不意の事故で亡くなっているということも十分考えられる。
だが仮に万が一、捜索隊の者がナイトレイドのアジトを発見していて。
その度に消されているのだとしたら、いったいどうなるのであろうか?
「はっ。この帝都より北に10キロメートル地点の山中にてございます。遠いので確証は持てませんが、アジトらしき建物の存在も確認できました」
「そう」
まさかナイトレイドも思うまい。アジトを捜索する者たちをさらに監視する者たちがいたということなど。
(捜索隊の反応が消失した地点……それこそがナイトレイドのアジトが存在する地点)
――間違いない。
ユキは駆け出す。その白き髪を靡かせて。
二度目となるナイトレイドとの邂逅まで、残る時間はあと僅か――。