It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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今日から三話だけ毎日連投します!
そしたら大学! 行きたくない! 書く暇無くなるゥゥゥ!
(T_T)


/隙を見せれば喰われる

 

 達也と晶が二年生を相手に大立ち回りを演じている間、鷹は図書館で読書に暮れていた。それも、この時代にあっては大変に珍しい紙の本だ。

 その為に達也と晶からのメールに気づいていなかったが、どうやらレオ達もまだ帰っていないようだったので合流することにした。

 一度本校舎に戻り事務室に預けていたCADを受け取った鷹が校舎の外に出ると、どうやら正門前で二組の団体が言い争いをしているようだった。

 

「オイ、ちょっと待てよ。まさか、まさかな……」

 

 二組の内の一組で先陣を切る少年に、鷹は物凄く見覚えがあった。

 明るさでいったら中間程度の茶髪で衛兵に負けず劣らずの高身長、何より外国人の雰囲気を漂わせている少年など、この一高でもそうそういないだろう。

 どうやら、少年──改めレオが言い争いをしているらしい。

 相手は誰だと思って視線を動かすと、鷹は更にゲンナリした。

 

「うへぇ、よりによって『アイツ』か。行きたくねぇ……」

 

 さてどうしたものか、と鷹が思案している間に事態が進行していた。

 男子生徒が懐からCADを取り出すと同時に魔法を行使しようとしていた。

 

「……んの馬鹿野郎!」

 

 咄嗟に眼鏡を外した鷹は鋭い双眸の瞳孔を更に絞って視覚を拡大させていく。

 一、二、三。狙いを定めた鷹は同時に、右手が独立した生物かのように内ポケットに仕舞ってあるCADの引き金を絞った。

 CADの照準補助装置に頼ることなく発動させた魔法は、まるで彼の目の前に存在する物体に行ったかのように正確に発動した。

 三個の石に対して発動した単一系加速術式はキチンと発動し、男子生徒の手首とエリカの警棒に当たった。

 だが鷹はその結果に満足せず、釼閣に躱されたことに戦慄した。

 

「オイオイ、嘘だろ……。こんだけの距離で知覚しやがったってのか?」

 

 だが、戦慄していられたのも束の間。すぐにコチラの存在に気づいた男子生徒にキツく睨まれた。

 

「うぇぇ。勘弁しろよ、森崎」

「オヤオヤ、言いたいことはそれだけかい?」

 

 後ろからいきなり声を、それも女子に声を掛けられて反射的に鷹が振り返った。

 彼の視線の先に立っていたのは、彼が一方的によく知っている少女だった。

 

「え、あ、ほ、本物だ……!」

「ん? 偽者でも出回っているのかい?」

 

 鷹の言葉に「訳がわからない」と言わんばかりに少女はピンクゴールドな眼鏡のフレームを押し上げる。

 そのレンズの奥では、爛々と燃える炎を想起させる真紅の目が鷹を観察していた。

 

「淡黄の髪、真紅の目。『レッド・アイ』、二年の光火射(ミツカイ)最愛(モア)さんですよね!」

「うん、そうだね。光火射は私だけど、私ってそんなに有名なのかい?」

「そりゃ勿論! 去年の九校戦での活躍、現地で見てました! 新人戦スピードシューティングでの『ソーラー・レイ』、凄かったです!」

 

 鷹のはしゃぎぶりは、真由美と初めて会った時よりも派手だったかもしれない。

 だが、そんな鷹を相手にしても最愛は極めて冷静に対応する。

 

「それは嬉しいが、さて。私は風紀委員なのでね。CADの不適正使用でしょっ引かせてもらうよ」

 

 なに、悪いようにはしないからさ。冷めた笑顔で言われた鷹は先ほどまでの興奮はどこへやらという状態で最愛に連行されていった。

 

 

「安心しなよ、別に取って食おうって訳じゃないからさ」

 

 最愛に連行された鷹は、無人の小さい部屋に連れられていた。

 『第四会議室』なるその部屋は席の数もそう多くはないが、現在部屋の中には鷹と最愛だけがいた。

 

「一応確認しておきたいんだけど、校舎入口から正門前まではおよそ80m以上はある。君は、その距離に対してCADの照準補助機能も使わずに、狙った石を正確に上向きに加速させたってことだよね?」

「は、はい……」

 

 別室へ移動してようやく自分が仕出かしたことを理解した鷹が項垂れる。それを見て、最愛は何かを確信したように頷く。

 

「いやいや、落ち込むことは無いんじゃないかい? 大した技術じゃないか、それだけの距離を目測でこなせるんだからさ」

「ですが、やっぱり校則違反は校則違反です。破った以上は処分されなければなりません」

「そうかい? それは困ったな」

 

 え? と鷹が顔を上げると、最愛が芝居がかった動作で指を額に添えていた。

 

「私はそろそろいい加減に部活連の方に移籍したいんだ。けど、その為には私の代わりになる人材を用意してからにしろと言って聞いてくれないんだよね」

 

 なんだか話の雲行きが読めた鷹はそのまま聞き手に徹していたかったが、最愛が目で「続きを促せ」と語っているので、仕方なく誘いに乗ることにした。そうしなくては、校則違反という最強のジョーカーを切られてしまうからだ。

 

「それは、誰に言われているんですか?」

「ん? 勿論、私の旦那にさ」

「……え、旦那?」

 

 さも当然とばかりに言われた鷹だが、この学校に入ってまだ二日しか経過していないペーペーの新人である。

 そんな彼のフリーズに遅まきながら気づいた最愛が言葉を足していく。

 

「ああ、ゴメンゴメン。旦那って言ってもまだ挙式はしていないんだよね。せいぜい、両家の親が顔合わせをして結納を済ませていて、婚姻届を書き終わってるくらいだね」

「……それって、普通に夫婦じゃないですかヤダー」

「そうだよ。それなのに(かたく)なでさ、『大学を卒業するまで初夜は貰ってやれん』って言って聞かないんだ。まったく、乙女の純情を踏みにじらないでほしいよ」

 

 ま、それが彼のいい所でもあるから困るんだけどね。

 そう言って微笑む彼女は、それだけで一枚の絵になりそうだった。目の前でブラックコーヒーの苦さがわからなくなっている鷹さえいなければ。

 だが、鷹の災難はまだ終わらない。

 

「だからって我慢が出来る訳でもなくてね。半裸全裸薄着に加えてはだけ浴衣、実に多くの衣装で夜這いに昼這いに教室這いに奇襲に泣き落としと試したんだけど落城出来なかったんだよ。一番惜しかったのは泣き落としだったかな」

「ブゴフッ!」

 

 危うく吹き出しそうになるコーヒーを、鷹は何とか口の中で溜め切ってみせた。

 だが、その間も最愛の話は続く。

 

「精神的に落城させられないと判断してからは、暫くの間だけ色々なモノを試してもみたんだけどね。やっぱり媚薬とかに手を出すのは良くないと自分でも思ったわけだよ、うん」

「……英断だと、思います」

「そんな不毛な挑戦を続けていて気づいたんだ。いや、気づくまで遅すぎたね。『そうか、残業で夜の校舎に二人きりで残ればいいじゃないか!』ってさ」

「んんっ。今なんて?」

「もう、乙女に恥ずかしい台詞をリピートさせようと言うのかい? 君も大分いい性格しているじゃないか」

 

 自分は今、とんでもない人物に捕まっているのか。遅まきながらも気づき始めた鷹だが、彼に主導権など無かった。

 故に彼には、目の前の女性が話を軌道修正するまで待つしか出来なかった。

 

「もう君は分かっているとは思うけど。私の風紀委員としての役割は、とりあえずの所は監視するってだけさ。先天性でパッシブに発動してしまう、光波干渉魔法による視界拡大を用いて校内の全域を、ね」

「で、部活連に移籍するための後釜として、俺に目をつけた、と?」

「理解が早くて助かるよ。君も私と同じで視力が良すぎる人間みたいだからね、抑止力としは十分さ」

「そして、俺が絶対に断れない状況を作りたい時に、都合よく俺が失態(ポカ)をやらかしてくれた。と」

「その通り」

 

 最愛が眼鏡越しに薄く笑う。まるで、蛙を睨む蛇のようだ。

 

「そんなに頭の冴えもいいなら、私が何を盾にしてどんな要求するかも分かってるよねー?」

 

 優雅にコーヒーを飲んではいるが、最愛は目を鷹から決して離さない。

 数秒の逡巡の後、鷹は長く息を吐く。そして、息を吸うと共にコーヒーの残りを一息に飲み干す。

 

「……俺が風紀委員に加入する。代わりに、光火射先輩は今回の一件における俺の不当性を揉み消す」

「そして、めでたく私は部活連入りする。交渉成立だね」

 

 最愛から差し伸べられた手を、鷹は緩やかに握り返す。

 

「では改めて。二年、光火射最愛だ」

「1ーC、飛矢鷹です」

「飛矢……? ああ、キミがタカ君か」

 

 一瞬、最愛が訝しむような表情を見せた。しかし、そのすぐ後に得心の表情に変わる。

 今度は逆に、鷹がその変化を訝しんだ。

 

「フフ、そう怪しまないでくれ。君の噂は真由美さんから聞いていてね。成程、真由美さんが即決で弟子にしたくなる気持ちが分からないでもないな」

「真由美さん……? ああ、七草会長ですか。やっぱり、仲良いんですか?」

「そうだね。真由美さんも私も射撃系魔法の使い手だから、教わることも多いかな。そうだ、タカ君さえ良ければ私の弟子にもなってよ」

 

 まるで食事に誘うような気軽さで持ち掛けられ、鷹の目が思わず点になった。

 

「いや、あの。俺、会長に師事しいるんですが?」

「その辺の話は私から真由美さんにしておくよ」

「射撃系魔法だったら、『クイック・ドロウ』の森崎の方が一日の長があると思うんですけど」

「ああ、それは無いね。どうも私は、教員推薦枠の風紀委員とは反りが合わないことが多いみたいでさ」

「うへぇ。それじゃ、森崎は風紀委員の教員推薦枠なんですか?」

「そうだよ。頑張り給へ」

(よし、上手く話題を逸らせた)

 

 内心でガッツポーズをした鷹だったが、そうは問屋が卸さない。

 

「森崎くんの話はさて置いて。なってくれるよね、弟子にも?」

「……よろしくお願いします」

 

 果たして、切札(ジョーカー)をチラつかせる相手にどうやって反論できるだろうか。

反撃しようにも、彼の手札は弱すぎたのだった。

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