It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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連投二日目!


/それは、初出勤の日に

 

 模擬戦の翌日。摩利によって風紀委員の執務室へ案内された達也と晶は、思わず顔を顰めた。

 散乱した書類、空の弁当箱、更には薄く埃を被ってしまったCAD。まるで男子体育会系の部室のような惨状だった。

 

「ああ、コレは酷いな。達也」

「ええ。CADまで放置というのは見過ごせません。晶さん」

「「片づけよう」」

「いいですよね、委員長?」

「あ、ああ」

 

 言うが早いか、達也がパソコンを起動させている間に晶が床に散らばった書類を拾い集める。達也も、起動させたパソコンを高速タイピングでデータ整理していく。

 晶が書類を年代と内容別に分類し終えると、ほぼ同時に達也もデータの整理を終わらせた。

 新品の袋に空の容器を突っ込んでいった二人の通った後には、CADのみが落ちていた。

 

「さて、最後はCADだな。できれば、衛兵がいてくれた方がありがたいんだが……」

「それは無理でしょう。アイツは今、深雪とO☆HA☆NA☆SHI☆中ですから」

「そうだったな。達也のキラーパスをもろに受け止めてたからな、中条先輩の為にって律儀に持ってきたんだろ?」

「ええ。それから、断じてキラーパスではありません」

「そこは譲らないな、達也も。まぁ、そうだな。それなら、俺がやればいい話か。衛兵ほど突出してないんだがな」

 

 綺麗にした長机にCADを一つずつ丁寧に並べていく達也。その間に晶が、書類整理の際に物色しておいた棚から工具を持ってきていた。

 

「ちょっと待て。まさか、ここでCADの整備をするつもりか?」

「「やはり問題ですか?」」

 

 見るからにウキウキした表情の達也と口元を楽しそうに緩めている晶が同時に振り返り、摩利が逆に気圧されてしまった。

 

「いや、問題とかそういうわけではなくてな。二人とも、整備の技術を持っているのか?」

 

 摩利の純粋な疑問に、まず晶が口を開いた。

 

「自分のスキルは半端ですが、達也はソフト面に関して言えば既に一流、いえ超一流ですね。何せ、日常的にCADソフトのメンテナンスをしてますよ。それどころかアップグレードまで」

「それを言ったら晶さんは、突出こそしていないですが、一人でソフトとハードの両方を整備しているじゃないですか」

「それはそうだが、俺は広く浅くだからな。どう足掻いても、ハード特化の衛兵とソフト特化の達也には敵わないさ」

「……取り敢えず、二人がCADの扱いに長けていることはよくわかった。整備に関しては一任する」

 

 摩利の太っ腹な発言に、二人は意外そうな顔をした。並べられたCADの中には、そこそこ値の張りそうなものもあるからだ。

 

「その言葉はありがたいですが、一部は高級品も混ざってますよ?」

「構わないよ。委員は常時CADの着装を許されるから、自分のCADを使うんでね。先達の残したCADを使う者は一人もいないさ」

「良かったな、達也」

 

 摩利の言葉を聞いた晶が、達也の肩に手を置いた。

 

「お前、そのエキスパートモデル見た瞬間からウズウズしてたじゃないか。衛兵に一度だけ借りてから、ずっと使いたがっていただろ?」

「やはり晶さんには見透かされていましたか……」

 

 そう言って達也は、布で軽く拭いただけで光沢を取り戻したブレスレット型のCADを手に取った。その手つきは、自分のCADを扱う時以上に繊細かつ慎重な指運びをしている。

 

「晶さん。この二つは今日、家に持ち帰って整備してきますので、他のCADを頼みます」

「わかった」

 

 達也が、二つあったブレスレット型の両方を別の机に移動させる。その間に晶は一つ目の整備に取り掛かったが、最初に写真を撮っていた。

 彼の行動が解せなかった摩利は、晶に質問した。

 

「ム? 蓬山、なぜ最初に写真を撮る必要があるんだ?」

「どの順番で解体していったか、正確に記録するためですよ。初めて解体する(バラす)物だと、逆順で組み上げる時に間違えやすいので」

「成程な」

 

 摩利が納得している間にも晶は、机の上に敷いた紙の上に部品を並べていく。

 手慣れていることは事実のようで、十分足らずで完全分解から完全組上まで戻してみせた。

 

「お見事。素晴らしい技能だな、何をしているのかはサッパリだったが」

「そ、そうですか……」

 

 身も蓋もない言い方に思わず返す言葉を見失った晶だった。仕方ないのでその話を置いておくことにした彼は、組み上げたCADのボタンを操作し、魔法の発動直前(所謂『待機状態』)まで持って行き、収束させたサイオンを発散させて発動を中止した。

 

「達也、どういう風に『視える』?」

 

 唐突に尋ねられた達也が、再び待機状態に移行させた晶の右手を数秒間だけ凝視した。

 

「ほとんど問題ありませんね。ただ、幾らか古いせいでしょう、最新の機種に比べてソフトの処理速度が遅く感じられます」

「ちょちょちょ、ちょっと待て、司波くん。君はまさか、待機状態の魔法はおろか、サイオンの流れを見れるのか?」

「解析は得意なので」

(それが答えになっているのか?)

 

 思わず疑問を口に出したくなった摩利だったが、しかし口を噤むことにした。

 

 他ならぬ真由美(悪友)の選んだ男とその友人なのだ。その程度のビックリ技術(スキル)があっても不思議ではない。

 否。

 

 面白くない。

 

 

 そう思ったからだ。

 

 

「ざっと、こんな感じか?」

 

 三、四十分ほどかけて他のCADの整備も終わらせた晶。すると、今度は達也がパソコンを立ち上げ、CADを接続した。

 

「今度は何を始めるんだい?」

 

 受験勉強用のノートを広げつつワクワクした様子の摩利が話しかける。達也は失礼と思いつつも、デスクトップの文字列から目を離さない。

 

「折角ですから、CADのソフト内にあるカス取りもしてしまおうと思いまして」

「ん? 私は技術方面は疎いが、プログラムにもカスは溜まるのか?」

 

 摩利が再び首を傾げる。達也は少し苦笑いしつつ答えた。

 

「失礼しました。委員長の考え方ですと、ニュアンスが微妙に違いますね。正確にはソフトの動作に不要なプログラムを取り除く作業です」

「ほーう。君たちは本当に器用なんだな」

 

 興味津々の摩利が達也の背後で作業を見ていると、風紀委員室のドアがスライドした。

 

「ただいま戻りました、姐さん」

「本日の巡回、異常なしです」

「ご苦労。それはそうと辰巳、”姐さん”呼びは止めろと何度も言っているだろう」

 

 辰巳と呼ばれた巨躯の男が、摩利が丸めた紙の束で(はた)かれる。

 二人は腕章を付けており、すぐに風紀委員だとわかった。

 その二人が、早速室内の見慣れない二人に気づいた。

 

「お、新人ですかい。って、蓬山ぁ!?」

「辰巳さん。声が大きいです、よ……? おお、蓬山くんじゃないか」

「どうも、お久しぶりです」

 

 十文字に勝るとも劣らない体格の辰巳鋼太郎が盛大な声で驚き、その横の優男風の沢木碧も懐かしさに頬を緩める。

 二人に会釈する晶を見て、摩利が晶を親指で指す。

 

「なんだ二人とも。コイツの知り合いか?」

「知り合いも知り合い、中学ん時の(マーシャル)(マジック)(アーツ)の大会で、よく上の方で当たったもんですよ」

「委員長も『拳のケン聖』はご存知でしょう?」

 

 沢木の発言に、摩利は記憶の端をなぞるように思い出す。

 

「確か……。同世代の中学生で、拳術と剣術の最高峰(ハイエンド)に立つ二人に付いた畏れ名だったか。それの拳の方がコイツなのか?」

「ええ。僕らも、何度となく手痛い負け方をしました」

「ほほう、私はそんな話は本人から聞いていないぞ?」

 

 好戦的な目で、摩利が晶を見る。一方の晶は素知らぬ顔で辰巳と沢木の方に行く。

 

「自分と達也は二科生ですが、風紀委員で肩を並べることになりました。よろしくお願いします」

「1-E、司波達也です。よろしくお願いします」

「応。よろしくな」

「よろしく、司波くん」

 

 四人が挨拶を交わしたその時、風紀委員室の固定電話が鳴った。受話器を取った摩利が内容を聞き取りつつ、メモ用紙にペンを走らせる。

 

「さて、司波と蓬山。お前たち二人に早速仕事だ。正門前で揉めてる一科生と二科生の団体を沈めてきてくれ」

「わかりました」

「了解です。”姐さん”」

 

 蓬山がメモを受け取りながら答えると、摩利はやはり渋い表情になった。

 

「そらみろ辰巳。お前のせいで後輩に悪い習慣が定着したじゃないか」

 

 

「晶さん。俺、凄く嫌な予感がするんですが……」

「奇遇だな、達也。俺もだ」

 

 廊下を走りつつメモに目を通す二人。辰巳発案の『名刺代わり』ということで、二人には腕章だけが渡された。

 そんな二人はメモの内容を見て、何が起こっているのかがある程度予測できてしまった。

 

「きっと、深雪ちゃん関連なんだろうな」

「スミマセン。うちの妹が……」

「謝るようなことじゃないさ。大方、レオとエリカが売り言葉に買い言葉したってところなんじゃないか?」

「自分もそう思います」

 

 二人が立ち止まる。階段が近くにあるわけでもないが、窓に近づく。

 

「さて、行くか」

「はい」

 

 言うなり、二人は窓を開けて飛び降りた。三階から飛び出した二人は木の枝に衝撃を吸収させることで危なげなく着地して再び走り出した。

 

「----」

「~~~~!」

「----ぁと?」

 

 距離が詰まって会話も拾えるようになった段階で、彼らの視界には長身の外国人風の少年と明るい茶髪の少女が映った。

 

「予想通りだったな」

「ですね。深雪!」

「お兄様! それに、晶さんも」

 

 達也に呼ばれた深雪が即座に視線を移動させ、安心したように頬を緩めた。

 

「正門前での口論は止めてください」

 

 晶の凛とした声に一科生の視線が集まるが、肩口に花紋がないことを確認するや否や鼻で笑い飛ばした。

 

「ハンッ、雑草(ウィード)花冠(ブルーム)に口出しするな」

「一科だの二科だのを置いておいても、天下の往来を塞ぐことは先輩方の迷惑にもなるぞ」

 

 達也の言葉には一理あると思ったらしい。それを認めたくないように視線を泳がせる一科生の男子が、晶と達也の着けている腕章を見つけた。

 

「なっ、風紀委員だと!?」

「ハッタリだろ、どうせ! コスプレすんじゃねぇよ!」

 

 その後も一科生が騒ぐが、二人はエリカたちの前に立って微動だにしない。

 

「実力で僕らブルームに劣るウィード風情が、偉そうに指図していいと思っているのか?」

 

 完全に達也たちを馬鹿にした発言にレオが動きそうになるが、エリカと達也と晶で抑える。

 

「離せよ。俺だけならともかく、達也と晶まで馬鹿にされて黙ってられるかよ」

「落ち着け、レオ。それ以上はこっちも見過ごせなくなる。俺たちに同じクラスの生徒を連行させないでくれないか?」

「けど、そうは言ってもよ」

 

 晶の頼みでレオは一応は大人しくなったが、腸は煮えくり返ったままのようだ。

 そんな友人思いなレオをありがたく思いつつ、晶がA組の方を達也がE組の方を向く。

 

「俺たちは正真正銘の風紀委員だ。渡辺委員長に確認してもらって構わない」

「委員の立場として、これ以上の口論は見過ごせない。この場は下がってもらえないか」

「だから、偉そうに指図するなと――」

「どれほど違うというんですか!」

 

 各々が驚いて声のした方、幹比古さえ驚いて隣の美月に視線を向ける。

 

「し、柴田さん!?」

「私たちはまだ入学したてなんですよ、それなのに一科生と二科生にどれほどの違いがあるっていうんですか!」

 

 美月が勇気を出して放った言葉は、良くも悪くも状況を動かした。

 

「そうかそうか。実力差を思い知りたいわけか」

 

 そう言って、男子生徒が内ポケットに手を伸ばす。

 

「なら、見せてやるよ。一科と二科の決定的な違いを!」

 

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