It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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重陽の節句で終わるのデス!


/再会と談話

 

 A組の生徒が制服の内ポケットからCADを取り出す。拳銃型CADの銃口に当たる部分を達也たちに向け、不敵な笑みとともに引き金状のスイッチを絞った。

 だが、魔法を発動させようとして意識を正面に戻すと、視界を塞ぐように二本の指が目の前まで迫っていた。

 

「私的な魔法の使用は固く禁じられているぞ」

「なっ、バカな!? 魔法の発動より速く動いたというのか!?」

「たかだか五歩程度の距離だ、そう驚くことでもないだろう」

 

 キッパリと言い切る達也。その背後では晶が右手で釼閣の右手を、竹刀袋の中から顔を覗かせる刀の柄を握っている右手を抑えつける。

 

「言ったよな、俺。入学初日に出来た友人をしょっ引きたくは無いんだが?」

「あ~……。悪ぃ、条件反射だ」

 

 鋭かった眼光が鈍くなり、釼閣が柄まで再び袋を被せて袋の口を紐で縛った。

 

「ま、そんなトコだと思ったけどな。最後列からエリカたちの前に飛び出すまで、ほとんど思考がないって動きしてたよ」

「あー、なんだ。スマン」

「ソレで済ませたいよ、俺も。達也! お前の所見はどうだ?」

 

 晶に声をかけられた達也は、視線を件の生徒から外さずに返答する。

 

「厳重注意処分として、この場にいる全員の生徒証を記録。程度が妥当ではないかと」

「そうだな。注意項目は『正門付近での集団口論』といった所か」

「はい。ただし、委員長への報告書にのみ『両陣営、魔法の私的利用に至りそうな剣幕だった』と記しておきましょう」

「グッ……」

 

 やらかしてしまった立場なだけに、A組の生徒たちも強く言えない。

 どちらかと言うとE組の方がリアクションは明るく、「え~、美月は無罪放免でいいじゃ~ん」や「幹比古だってただの巻き添えじゃねぇかよ」と情状酌量を求める声が上がる。

 だが、二人共その声には首を横に振る。

 

「「いや、情状酌量は充分にしているから」」

「美月は本人が意図的に行ったでは無いにしても、魔法発動の直接的な原因だと、客観的には判断できるからな」

「この場にいる以上、A組の側も全員対象にされているんだ。幹比古が殆ど何もしていないからって、身内贔屓は出来ない」

 

 どちらかと言うとA組に納得させるように淡々と話す二人に、A組の生徒もE組の生徒も納得して学生証を取り出す。

 それを達也がE組、晶がA組の分担でメモに記していく。

 

「はい、君たちで最後かな。北山雫さんに光井、ほの…か……?」

 

 サラサラと淀みなく流れていた、晶の指先のペンが動きを止めた。

 

「……ほのかと雫、なのか?」

 

 驚いて顔を上げた晶の前に立つ、二人の少女。最後に会ってからかなり時間が経っているが、記憶の中の二人をそのまま成長させたような容姿だった。

 

「久しぶり。正直、今の時代に手紙っていうのは、どうかと思う」

「晶、なんだよね……?」

 

 無表情なままで挨拶をした雫の隣では、ほのかがうっすらと涙を浮かべている。

 

「ああ。久しヴッ!?」

 

 再会の挨拶をしようとした晶に、ほのかが飛びかかる形で抱きついた。バランスを崩しかけた晶だったが、足を前後に伸ばして踏ん張る。

 

「馬鹿! 馬鹿バカばか、ばかぁ……! ずっと心配だったんだよぉ……」

「ああ、ゴメンな」

「本当だよぉ、バカぁ……」

 

 真横の雫が「やっとか」と、達也が「やれやれ」と言わんばかりに溜息を吐いているが、それ以外の生徒たちはA組もE組も皆ポカンとしている。釼閣はふわぁと欠伸をしながら「ま、おめでてぇこった」と呟いた。

 

「……ハッ。おっ、お前、今すぐ光井さんから離れ……!?」

 

 A組の一人が瞬きして再起動を完了させ晶に食ってかかろうとした。しかし、晶と視線が正確に重なった訳でもないのに、気配だけでギロリと睨まれ黙ってしまった。

 

「静かに、してくれないか?」

 

 ゆっくりと、圧をこめられて発された言葉にA組の生徒たちは首を横に振れなかった。

 

 

「悪いな、みっともないとこ見せた」

「すっ、スミマセンでした!」

 

 晶とほのかが横に並んで、深雪と達也たちE組に深く頭を下げた。晶の言葉のあと、他のA組の生徒はいつの間にかいなくなっていた。

 

「あー、イヤ、気にしなくていいぜ」

「そうですね、達也さんたちはアレ以上ですから」

「晶がそんなに泣かせるって、一体何をしたのさ。ああいや、やっぱ今のナシで!」

 

 幹比古がしまったという表情で手を前に突き出す。晶も、口元に自嘲めいた笑みを浮かべる。

 

「そうだな。俺がドジ踏んだってだけの話だから、出来れば封印してしまいたい」

「違うっ、あれは私が──」

「いや、俺が──」

「私も悪いから、三人とも悪かったんだよ。きっと」

 

 あわや口論になりそうだったが、雫の仲裁の言葉で晶とほのかは視線を重ねて「それもそうか」と納得する。

 

「深雪!」

「衛兵!」

「あれ、もう皆して大集合ってやつ?」

「あ、タカクンだー」

 

 衛兵と鷹が額に少し汗を浮かべながら走ってきた。

 

「深雪、大丈……夫、そうだな」

「はい。お兄様と晶さんが風紀委員として場を収めてくださいました」

「そうだったのか。達也、晶さん。深雪が世話になりました」

 

 軽く上がった息を整えるより前に、衛兵が二人に礼を言って頭を下げる。

 

「そんな大したことでもないから、顔を上げろって」

「それにしても、衛兵クンってばお姫様のピンチなのに駆けつけるまで遅かったよねー? どーしたのかなー?」

「お前、ホントに性格悪いよな」

 

 レオが呆れる傍ら、エリカがニヤニヤしながら質問する。対して衛兵は苦い顔をしていた。

 

「部活連の執務室から遠すぎるんだよ」

「本当にな。加速術式でも使えたら、話は別だってのによ」

 

 鷹がまだ荒い呼吸の状態で零す愚痴を聞いていた晶が鷹に質問した。

 

「その言いぶりからして、タカと衛兵は二人とも執行室に居たのか?」

「ああ、そうだぜ。つっても、俺は部活連には入らねぇよ」

「はぁ? だったら、なんで部活連トコに居たんだ?」

 

 要領を得ないとばかりにレオが続けざまに質問する。だが、鷹が答える前に衛兵と鷹の端末に着信が入った。

 

「スマン、ちょっと抜けるぞ」

「ワリ、俺もだ」

 

 一、二分で通話は終わったが、振り返った二人は少々バツが悪そうな表情だった。

 

「ヘッヘヘ、呼び出し喰らっちまった」

「という訳だから、すぐに戻らないといけない。スマンな」

「そうか。そんじゃ、タカにはまた今度答えてもらうぜ?」

「いいけど。つっても多分すぐ終わるし、ちょっと待っててくれるんなら帰りにどっか寄ろうぜ?」

「お、いいねー。アタシ賛成ー」

「俺は暇だし、構わねぇぞ」

「僕も賛成だよ」

 

 鷹の提案に全員が賛成し、達也と晶も一度風紀委員の執務室に戻ってから合流する運びになった。

 この後、どこから聞きつけたのか真由美も参加することになり、総勢十三名の大所帯が一高を後にした。

 

 

「えぇ!? 達也って、生徒会長や妹さんのCADまで調整しているのかい?」

「ああ。俺がソフト面で、衛兵がハード面を整備しているな」

「その通りよ、吉田君。おかげで毎日最高潮なんだから」

 

 駅前の通りを歩いていた時の雑談で、幹比古が驚いて大きな声を出してしまった。だがそれは無理もない話で、イチ高校生がCADの整備をしているなど普通はあり得ないことだ。

 それは他の面々も同感で、レオやエリカも驚いていた。

 

「すげぇや、二人とも。俺もマメにメンテはしてるけど、やっぱり本格的な整備は外注しちまうな」

「ねぇねぇ達也くん、それならアタシのCADも見てよ」

「それは勘弁。言ったろ、ハードは衛兵の担当だ。あ、でも、晶さんなら出来るんじゃないですか?」

 

 達也の言葉に一同が集団後方を歩く晶の方を向く。ちなみに晶の腕にほのかが自分の腕を絡めて歩いているのだが、達也・幹比古・レオ・鷹・衛兵・釼閣と男子のほぼ全員が高身長なために、彼ら以外の一般通行人からは見えない。

 一応言うと、達也と真由美、衛兵と深雪に関してはもう、他人の視線などお構いなしだ。

 

「おい待て達也、お前は俺にもキラーパスを回すのか」

「晶って、CADの調整できるの?」

 

 意外そうにしたほのかが問いかけると、晶は首肯で返した。

 

「それなりには出来るけど、エリカのは御免蒙るよ。そんな複雑なの、補強ぐらいしか出来ないさ。無難に衛兵に任せる」

「へー。二人とも、コレがCADだってよく分かったね」

 

 関心したような台詞とともに、縮めたままの警棒をエリカが指の上で踊らせる。

 倒れそうで倒れない絶妙なバランスを取っている警棒を、衛兵が興味深げに眺める。

 

「ほぉ、刻印仕様の起動式か。面白いな、それ。収束系統の刻印ってことは、硬化魔法か?」

「ウッソ!? 衛兵クンに見せたの今がお初だよね、初見で見抜いちゃったワケ!?」

「当然じゃない、エリカ。衛兵だったらその程度、お茶の子さいさいよ」

「マジ!?」

 

 目を大きく開いてぎょっとするエリカの横で、レオが訝しげな表情を浮かべる。

 それに気づいた晶がレオに話しかけた。

 

「レオ、どうかしたのか?」

「まぁな。俺の一応の得意魔法も硬化なんだけどよ、術式を表面に刻印しただけじゃ、相手の得物との衝突とかで擦れて剥がれちまうんじゃねぇの? それに、刻印式なんて効率悪い方法だと、警棒(ソイツ)使ってる間ずっと魔法を発動してたら、すぐにサイオン切れしちまうんじゃねぇの?」

「お、流石は得意分野。バカなのに頑張って頭使ったわねー」

「一言余計なんだよ、お前は!」

 

 レオの反論をしれっとスルーしたエリカが自慢気に解説を始める。

 

「フフン、惜しい。九十点ってトコね。この術式は刻印自体も硬化の対象に入るように組まれてんのよ。それに、衝突の一瞬だけ発動させればいいからサイオンの消費も少ないのよん」

「ふわぁぁあ、原理で言やぁ”兜割り”と同じ要領だな」

 

 最後尾の釼閣が補足を入れるが、その言葉に一同は唖然とした。

 

「いやいや、チョット待て。”兜割り”ってのは剣術の奥儀とかに分類される芸当じゃないのか?」

「へ?」

「は?」

「「あんなモン普通」」

「よ」

「だろ」

「……いや、普通じゃないからな!?」

 

 エリカと釼閣の同時口撃に、鷹はあろうことかツッコミまでに数瞬ほどフリーズしてしまった。

 

 

 そんなこんなで雑談していた一行は感じのいい喫茶店に入り、各々ドリンクを注文して雑談を再開した。

 

「そういやよ、タカは何で衛兵と一緒に居たんだ?」

「……ああ、そのことね」

 

 ふと会話が途切れた時に、思い出したようにレオが発した質問。それを聞いた鷹が遠い目をしつつ、トラジャコーヒーに口をつけた。

 

「出来れば話したくない、んだけどさぁ……。ヘッヘヘ、話さないとだよなぁ」

 

 いつになく元気のない声の鷹が、衛兵の方に視線を向ける。ブラジルコーヒーを啜っていた衛兵が一つ頷いたのを確認した鷹は、「よっし」と小さく気合いを入れた。

 

「まず、俺が”ソーラー・レイ”の光火射さんにも師事することになったってトコからだよな」

「”も”? それじゃ、会長に師事したっていうのは飛矢のことだったの?」

 

 新顔と言えないこともない雫が気になった部分を抜き出して、校内に流れている噂と繋げて質問した。

 

「おう」

「”エルフィンスナイパー”と”ソーラー・レイ”の二人に師事できたんだ……。羨ましい」

「ヘッヘヘ。まぁな」

「……ムカつく笑い方」

 

 雫の眉が少しハの字に吊り上がった、ように鷹には見えた。

 

「んで、師事することにはなったんだけどよ……。信じられなかったぜ、まさか……」

 

 よほど言いにくいのか、再びカップに手を伸ばした。

 

「まさか、光火射さんがよく口にしてる『旦那』が、『十文字会頭』のことだったなんて、さ……」

『……え、旦那? え、十文字会頭?』

 

 事情を知っていた真由美と衛兵はそれぞれブルーマウンテンとブラジルコーヒーを味わっていたが、それ以外の全員が目を(しばた)いて数秒間ほど呆けていた。

 

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