It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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/風紀執行

 

「克人ぉ~!」

 

 部活連執行室に入った最愛が、いきなり克人に飛びついた。

 彼女の後ろからついて来ていた鷹と衛兵が、突然の彼女の行動にしばらく呆ける。しかし、室内にいた面々は微動だにせず黙々と作業をこなしている。

 

「最愛、仕事中だ。離れろ」

「え~、なんで~? いいじゃんいいじゃん」

「良くない」

「ぶ~、克人のケチ」

 

 言い合っている間も、克人の背中から抱き着いた最愛が離れる様子は見せない。

 

「なぁ衛兵。これ、どうなってんの?」

「スマン、俺にもわからん」

 

 執行室には初めて訪れた鷹はおろか、最愛とは初対面の衛兵さえ初めての景色だった。

 

「で、最愛。今日はどういう要件なんだ?」

 

 部活連会頭の威厳を保たんと、努めて冷静に対処する克人に最愛が頬を膨らませる。

 

「なんだいなんだい、冷たいなぁ。用事が無ければ、来ちゃダメなのかい?」

「いや、そういう訳ではない。しかし、お前が活動時間中にここを訪ねる時は、案件の持ち込みが多いだろ」

「あれ、そうだったかい?」

「まあいい」

 

 作業の手を止めることなく話を続ける克人を見て、鷹と衛兵の二人も気にしないようにしようと判断した。

 それから二人は直立不動でいたが、ふと鷹の存在に気づいた克人が顔を上げる。

 

「最愛、外島。そこの少年は?」

「んー? 私の交代要員さ」

 

 まるで、犬か猫のように頬を擦り合わせる最愛が世間話のように言う。

 「軽っ」と思った鷹と衛兵はしかし、口に出すような無粋な真似は決してしない。

 

「そうか。名前は?」

「は、はいっ。1-C、飛矢鷹です!」

「ふむ、飛矢……。ああ、最愛(お前)と七草が入学早々に弟子にしたという男か」

「そうだよ、彼の視力も中々のモノさ。もっとも、私ほどではないだろうけどね」

「当然だ。お前以上の視力を持つ人間など、殆どいないだろう」

「……もう、克人ってば。いきなり褒められたら、私でも流石に恥ずかしいんだが」

 

 花も恥じらう乙女とばかりに頬を紅に染める最愛。二人の会話で再び置き去りにされた鷹に気づいた克人が咳払いをして、再び向き直る。

 

「飛矢。最愛から職務内容は聞いているな」

「はい」

「なら、今日からでも入れるな?」

「引継ぎさえ行っていただければ」

「な、条件は満たしているだろ。いいよな、これで私はお役御免だよな?」

 

 克人の前に立つのが初めてということもあって、鷹は緊張している。しかし、克人の前に立つことに慣れた衛兵の目には、最愛が全力で尻尾を振っているように見えた。

 

「……飛矢、風紀委員入りに異議はないか?」

「ありません。選ばれたなら、全力で務めさせていただきます」

「よし、わかった。風紀委員の部活連推薦枠の人員を変更しよう」

 

 最愛や七草の判断を信じているのか、克人は自分で試すようなこともせず了承した。

 

「皆も、それでいいな」

「問題ありません、会頭」

 

 克人の問いかけに、桐原が代表して答え、部活連の面々は皆一様に頷いた。

 

「では、飛矢鷹。お前を、部活連枠で風紀委員に推薦する。引継ぎや職務内容の確認は明日以k――」

「お話し中にスミマセン、会頭。少し失礼します」

 

 克人の話を遮って、衛兵が部屋を出る。

 

「あ、おい衛兵!? どうしたんだよ一体。すみません会頭、すぐ戻ります!」

 

 鷹の呼び止めも聞かずに走っていく衛兵を、鷹も追いかけるようにして走っていった。

 二人を視線で追った後、克人から離れずに外へ視線を向けた最愛が何かを見つけたように目を細める。

 

「……ふぅん。外島くんは一体、どうやって気づいたのかなぁ」

 

 

「……んで、俺と衛兵が現場に駆け付けたって感じさ」

 

 話し終えた鷹が、再びカップに口を付けた。

 

「ソーラー・レイ、光火射さんにそんな一面があったなんて……」

 

 意外な一面を知ったという風に、雫を始め殆どの面子が驚きの声を零す。

 そんな後輩たちの様子に、唯一の先輩である真由美がクスリと笑みを漏らす。

 

「最愛ちゃんのことなら、ある種の諦観を持って接した方がいいわよ」

「や、やっぱりですか……」

 

 真由美のアドバイスに軽く溜息をつく鷹は、それよりも自分をずっと見てきている少女の方が問題だった。

 

「で。北山はさっきからどうして、俺のことガン見してんの?」

「違う。見てるのは目だけ」

 

 鷹の質問に答えている間も、雫が鷹の金色の両目から視線を離さない。

 

「……すごく綺麗な金色。ずっと見てたい……」

「ちょっと、雫」

「それは止めた方がいい」

「おい、コイツ怖いんだが」

 

 幼馴染のほのかと晶が窘めようとしている間に、鷹が割と本気でビビる。

 

「聞いたかよ、衛兵? こいつ今、”俺の金目だけホルマリン漬けでコレクションしたい”って言いやがったぜ」

「……すごい、何でわかったの?」

 

 大きく目を開いて、ほのかが驚く。晶の口角も関心したような角度になる。

 周囲の達也たちは、むしろ鷹の言葉に驚いていた。

 

「タカ。今の言葉をどう聞いたら、そういう解釈になるんだ?」

「へ?」

 

 達也の指摘で数回瞬きした鷹は、「お前こそ何を言っている?」というような怪訝な表情をしていた。

 

「達也さん、タカ君の言う通りなんですよ。雫って口数は少ないんですけど、翻訳内容的には時たま過激なことを言い出すんですよ」

「……なんで翻訳できたんだ」

 

 ほのかの言葉を聞いた達也が、少しあり得ないものを見る目で鷹を見ていた。

 

「オイコラ、そんな目で俺を見るな」

 

 

 その翌日、達也・晶・鷹の三人は他の風紀委員と共に執務室に集合していた。

 

「さて、諸君。今年も面倒かつ厄介なバカ騒ぎの一週間がやってきた」

 

 執務室中央の長机に、辰巳や沢木も含めた面々――「風紀委員」の腕章を付けた男たちが座っている。

 彼らの正面、上座に立つ摩利が話し始める。

 

「今日から一週間、部活動の勧誘期間に入る。この期間は、実演のために一般生徒にもCADの使用が許可される」

 

 摩利の話を聞きながら、鷹が視線を自分の向かいに座っている生徒――森崎に向ける。

 それに気づいた様子の森崎が、一瞬だけ鷹と視線を交差させると、キッと鋭く睨みつけて、すぐに視線を摩利に戻した。

 

(なんだかなぁ)

 

 前途多難な予感がしたが、鷹もすぐに摩利の方に視線を戻した。

 

「例年、口論からヒートアップして魔法の撃ち合いになることがある。我々はその揉め事を迅速に対処しなければならない」

 

 そこで一度間を空け、摩利は達也たち一年生を見る。

 

「今年は運よく、卒業生分の補充が間に合った。それと、光火射が部活連に移籍をしたが、その分の補充も間に合った。一年、起立!」

 

 摩利の号令で、一年生の四人が一斉に起立する。

 

「1-A森崎、1-C飛矢、1-E司波、1-E蓬山、以上の四人だ。最愛の補完要員は飛矢だ」

「委員長、コイツら使えるんですか?」

 

 摩利による紹介の後、上級生の委員が質問をする。どうやら、新入りに対する通過儀礼のようなものらしい。他の委員も少なからず訝しむような視線を向ける。

 

「心配はいらない。森崎はクイック・ドロウの名門の出自だ。司波は服部との模擬戦で、蓬山は桐原との模擬戦で勝利しているし、飛矢は七草と光火射のお墨付きだ」

 

 摩利の言葉で、他の委員たちの視線も沈黙する。

 

「他に言いたいことがある者はいないな? なら、一年はこの場に残れ。他の者は巡回に行け」

 

 摩利の言葉で委員たちがスクッと立ち上がる。

 

「出動!」

 

 摩利の力強い言葉に、委員全員で敬礼をする。

 

 

 残った四人は、摩利から細かな説明と携帯カメラの使い方を説明されてから出動した。

 

「はぁ、やりにくいな……」

 

 森崎だけ早々に離脱し、三人で廊下を歩いている時に鷹が深い溜息をこぼした。

 

「森崎はタカにあまり良い感情を持っていないみたいだな」

「それを言ったら達也、お前もだろ。CAD二つ付けてるからって、結構な言い方されてたじゃないか」

「晶の言う通りだぜ。いいよな、達也はそんぐらいのことで」

 

 若干羨ましげに達也を見る鷹。両手首に、衛兵とともに整備したブレスレット型CADを装着した達也が、半ば躊躇いつつ尋ねる。

 

「二科生の俺ならともかく、一科のタカに対してどうして敵対視しているんだ?」

「それなんだけどさぁ……。中学の時の射撃系魔法競技大会で試合したことがあるんだけどな」

「その時に、ウッカリ勝ってしまったとかか?」

「それなら良かったんだけどよ。ウッカリ森崎の的まで全部撃ち抜いちまったんだよ、それで反則点ゴッソリ引かれて俺の負け」

「「ああ、それは……」」

 

 予想していなかった原因で、二人は二の句を継げなかった。

 勝負に負けたのならまだしも、試合に負けて勝負で勝った、それも『勝たせてもらった』では自負心の強い森崎が憤慨を引きずるのも納得できる。

 

「それ以来、顔合わせる度に突っかかってくるんだよな」

「ドンマイ、鷹……。さて、昔話はここまで」

 

 屋上に続く階段に差し掛かったところで、晶が話を畳んだ。

 達也と鷹の二人も、晶の言葉で気を引き締める。

 

「それじゃ、俺と達也は他の委員と同様に校内の巡回。タカは光火射さんの役割を引き継いで、屋上から巡回の支援だな」

「はい」

「ヘッヘヘ、了解」

 

 鷹が二人と別れ、校舎入口で達也と晶も別行動に入った。

 

 

 基本的に開放されている屋上は、昼休みなどには生徒がいたりすることもあるが、勧誘期間の今は人はほとんどいなかった。

 

「さぁて、と」

 

 テラス近くに立って眼鏡を外した鷹の瞳孔が絞られていく。

 視線を右に左にと動かしていくが、ある一点で止まった。

 

「こちら屋上、飛矢。球技系部活の区画で、女子生徒が囲まれてます。過度な勧誘と判断してよいかと」

『司波、了解。現場に急行します』

「次。実技棟近辺で生徒が一人、ツナギ野郎に引っ張られてますね。狭い路地ですから、囲い込みの可能性アリかと」

『辰巳了解。すぐに向かおう』

『こちら沢木。飛矢君、屋内の様子も見てくれるかい?』

「うぇっ、屋内ですか!?」

 

 沢木の無茶なオーダーに呻きつつ、どうにかして確認できないかと方法を考える。

 

『やっぱり難しいかな? 光火射は光波を捻じ曲げて目の近くに映し出すという荒業を使っていたからね。僕たちも頼りすぎていたんだろうな』

(光波を曲げる、反射を人為的に作ってた? ……あっ)

 

 沢木の言葉で何かを閃いた鷹が、校舎の壁を凝視する。

 

「本校舎二階、廊下の一部を塞ぐようにして勧誘しています。装いからして、料理部だと思われます」

『森崎了解、現場に向かいます』

『……驚いたな。一体どうやったんだい?』

 

 驚いた声の沢木が鷹に質問してきた。

 

「ヘッヘヘ、窓ガラスの反射ですよ。使える範囲が限られますから、巡回の委員で定期的に室内巡回をしてもらった方が確かなんですけどね」

 

 沢木にタネ明かしをしてから数分後、無線で連絡が入った。

 

『こちら司波。体育館にて魔法の不適正使用を確認、使用者を確保しました。応援と担架を回してもらえますか?』

『蓬山了解。すぐ体育館に移動します』

『こちら辰巳。担架は俺が持って行こう、それまで現場で抑えててくれ』

『司波了解』

 

 どうやら体育館で乱闘騒ぎがあったらしい、と軽く聞き流した鷹だったが、ふと気づく。

 

「……三人抜けたら、巡回の穴ヤバくね?」

 

 俯瞰者()の仕事が一気に増えた瞬間だった。

 

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