It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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/疲弊、喧嘩、心配

 

「ヨッ、達也! 晶! なんか久しぶりって感じだな」

 

 部活の新入生勧誘期間が終わった翌日。教室に入ったレオが、二人に声をかけた。

 

「やぁ、レオ」

「おはよう」

 

 二人も挨拶を返すが、どことなく心ここにあらずといった様子でキーボードの上で指を走らせる。

 

「にしてもスゲェな、二人とも。学校中で噂になってるじゃんか」

「嗚呼、勘弁してくれ……」

 

 達也が完全に指の動きを止めて、天を仰いだ。どうやら、原因はソレらしい。

 

「知ってるか、レオ? これでも達也は、高校生活の三年間を平穏無事に過ごしたかったんだ」

「えー!? 達也クンが!? 無理無理!」

 

 ヒョコっと現れたエリカが、全力で否定した。

 

「エリカ……?」

 

 ジト目になる達也に、エリカが「だってさ~」と言葉を続ける。

 

「並み居る一科の剛の者を快刀乱麻した謎の二科生」

「奴には、魔法を封じる異能がある」

「「って噂、知らないわけ」」

「ないでしょ?」

「ないよな?」

 

 「ちょっと、カブせないでよ」「オメェこそ」「はぁ?」「アァ?」エリカとレオが睨み合う中、達也は机に頭を突っ伏した。

 晶はチラリと達也たちの方を見たが、すぐに視線を画面に戻して風紀委員での報告書作りを再開した。

 

 

「あのリストバンド……。もしかしなくても、か」

 

 胸ポケットに忍ばせたwi-fiルーターに繋いで、机の据え置き端末から外部ネットワークに繋いでいる晶。

 よく利用しているアングラサイトの一画にあったページ。そこに載っている赤と青と白のトリコロールリストバンドの写真は、先日の勧誘期間で晶を襲撃した生徒たちが身に着けていたものと同じだった。

 確認したいものを確認し終えた晶は、画面の中に小さく展開していたページを閉じ、アクセス履歴をかき消してルーターとの接続を切断した。

 そして再び、風紀委員の報告書作りにのみ集中し始めた。

 

 

 午前の授業も終わり、昼休み。

 幹比古や釼閣など、達也の席から遠い面子も集まってお昼に行こうかという話とともに雑談しいていた。晶だけは、換気のために教室後ろの窓を開けていた。

 

「晶~、居る~?♪」

 

 そこへ、随分とノリノリな様子で扉を開けた少女。勿論、ほのかだ。 

 一人分にしてはやけに大きな弁当袋を提げた少女の声に、呼ばれた本人である晶は片手を挙げて答える。

 

「ああ、居るよ」

 

 達也たちも廊下に出て、それなりの人数で廊下を渡っていく。

 

「なぁ、場所どうするよ? この人数じゃ、食堂のテーブルにゃ収まらないぜ?」

「そうだな。ここに真由美と深雪と衛兵、それにタカと雫が合流するからな。十三人か、確かに大所帯だな」

 

 先頭のレオの疑問に達也が状況を整理する。すると、ヒョコッとエリカが顔を覗かせた。

 

「あっ、それじゃ屋上行こーよ、屋上! もしくは裏庭!」

「いいな、それ。ただ屋上は確か、申請出さないと使えないんじゃなかったか?」

 

 ガイダンスでの記憶を振り返った晶の言葉に、しかしエリカは「チッチッチ」と人差し指を振る。

 

「申請が必要なのは、屋上の長テーブルだけなんだよ。それ以外の場所で車座とかなら、申請は必要ないんだって~」

 

 得意気に語るエリカ。美月と幹比古は知らなかったのか関心したような表情になっている。釼閣はどうでもよさげに「ふわぁあ。そんなモンなんか」とだけ呟いた。

 A組の教室へと向かおうとした一行だったが、その方向から真由美と深雪、衛兵の三人がやって来た。

 

「あれ? 深雪、雫とタカ君は? 一緒じゃなかったの?」

 

 晶の腕にひっついているほのかがキョトンとした表情で尋ねると、深雪は困ったような表情をして、真由美も苦笑いを浮かべる。

 

「飛矢君も先ほどまで一緒だったけれど、光火射先輩にお呼ばれされたのよ」

「深雪ちゃん、そこは遠慮なく『連行された』でいいわよ。十文字君が忙しくて昼食を一緒に出来ないと分かるや否や、タカ君をしょっ引いて昼特訓に行っちゃった」

『……あぁ、ご愁傷様……』

 

 質問したほのかを筆頭に、八人が同時に鷹へ(心の中で)掌を合わせた。

 

「そしたら、北山は『ソーラー・レイを独占できるチャンス、見逃す手はない』って言いながら付いて行ったな」

「フフッ、雫らしいね」

「そうだな。大方、『あわよくばご教授いただく』程度は狙ってるだろうな」

 

 衛兵の言葉に、雫の幼馴染であるほのかと晶は微笑を浮かべる。

 

 

「ックシュン」

 

 実技棟の地下に設けられたシューティング・レンジに立っている雫が、ひとつクシャミをする。後ろに立っている最愛が気づいて声をかける。

 

「おや、風邪かい?」

「イヤイヤ。コイツに限って風邪(ソレ)は無いですよ」

「ねぇ飛矢、それどういう意味? 絶対褒めてないっていうのは分かる」

「はぁ? そのまんまの意味(馬鹿は風邪ひかない)だっつーの」

「……ねぇ。毎回、狙って言ってるよね」

「狙えるほどの体積あんのかよ」

「狙えるほどの近眼補正あったんだ?」

「アァ?」

「アァ?」

 

 互いに一歩も譲らず、黒灰と黄金の瞳が一歩も引かず火花を散らす。

 これで、廊下での移動中含めて本日三度目の睨み合いに、さすがの最愛も少し辟易していたのか溜息をつく。

 

「そりゃ、君たち連行したの私だけどさ。よくもまぁ、そんなになれるね。まだ入学して、というか知り合ってから一か月も経ってないよね?」

「なんか北山(コイツ)とは」

「なんか飛矢(この男)とは」

「「致命的に合わないです」」

「んだよ、合わせんな」

「そっちがズラしなよ」

「アァ?」

「アァ?」

 

 今度は睨み合うことはせず、視線の先50mの標的に狙いを定めながら罵り合う二人。

 雫が初練習ということもあって、二人とも使用しているのはエアコック式(一射ごとにレバーを引いてBB弾を装填するタイプ)のエアガンだ。一応はSNR(スナイパーライフル)型で雫はスコープを装着させているが、鷹は裸眼で標的を見つめる。

 最愛も分かるが、()()()()()()()()()()でスコープを使うと、却って見づらい。というか見えない。

 喋りはまさしく不協和音な二人だが、射撃の時は最愛でさえ関心するほど同調同律した。鷹が引き金を絞る時は雫も引き金を絞っており、雫の弾丸が標的に着弾する(トキ)は鷹の弾丸も着弾し、何発撃っても二人の弾丸の位置はピタリと重なる。

 

「合わせないで」

「お前が合わせんな」

「何よ?」

「んだと?」

「やろうっての?」

「やんのか?」

「「アァ?」」

 

 ……撃ち終えた途端、コレである。最愛も呆れていた。

 

「本当は仲良いね、二人とも?」

「「うすら寒くなるような冗談を言わないでください」」

「ホラ。ね?」

 

 

 放課後になって、ようやく風紀委員の仕事から解放された晶は、入部した(マーシャル)(マジック)(アーツ)部の練習に参加すべく部活棟へと急いでいた。

 

「君が、一年の蓬山晶君だね?」

 

 しかし、そういう時に限って予期せぬ人物に絡まれるものである。声を頼りに振り返った先には、眼鏡の影響か理知さを感じさせて、それでいて文系というよりはある程度体を鍛えている印象のある男だった。

 声もパッと見も少し大人に感じるこの人は、恐らく三年だろう。その程度に見当をつけた晶は、返答が不自然にならないように遅すぎず早すぎないタイミングで返答する。

 

「ええ、そうですが……。すみません、見覚えはあるんですが『初めまして』ですよね?」

「おっと、そうだった。僕が一方的に知ってるだけだったね」

 

 晶の確認代わりの質問で、思い出したように苦笑する男。

 

「改めて、初めまして。三年、剣道部主将の(ツカサ)(キノエ)だ」

「一年、蓬山です。……スミマセン。あの時、剣道部側の扱いを雑にしてしまっていたようです」

 

 甲の自己紹介でようやく思い出した晶は、彼と握手すると同時に謝辞を述べる。

 しかし、甲は「謝るようなことではないよ」と朗らかに笑う。部活勧誘期間での一件の当事者である甲は、当時剣道部側の対処は達也が主に担当していたことを覚えていたからだ。

 

「そう言っていただけると助かります」

「そうかい? それじゃ早速本題だけど。この後、カフェテリアで少し、どうかな?」

「勿論。……と言いたいのですが」

 

 少し申し訳なさそうな声音で、腕時計に視線を落とす晶。

 今頃はアップも終えて、そろそろミット打ちか申し合わせを始めているだろう。

 

「出来れば、五分ほどお時間を戴けますか? 部活に休みの連絡をしてきますので」

「いやいや。部活を優先するべきだろう、僕の用件なら日を改めるさ」

「どうぞお構いなく」

 

 それじゃ、五分後に。晶はそう言うだけ言ったら、部活棟へと走り去った。

 こうなってしまうと、最初に提案した側としては「やっぱり日を改めて」という主張を通しにくい。若干の申し訳なさを感じつつも、甲は一人カフェテリアへと向かった。

 

 

ピルルル…ピルルル……

 

 胸元の携帯端末が着信を知らせる。廊下の端で立ち止まった晶は、着信元の名前を見るや構わず通話モードをONにした。

 

「ほのか、どうした? ソッチも部活中じゃないのか?」

『どうしたじゃないよ!! どうして、よりによってあの人と!?』

 

 耳元に端末を宛がうや否や、スピーカーからほのかの叫びにも近い怒声が放たれた。思わず首を竦める晶だが、ほのかの周りの部員たちも驚いてるだろうなと考える程度には余裕を残している。

 

虎穴(情報元)に入らざれば虎子(正しい情報)を得ず。だろ?」

『けど、だからって!』

 

 晶は「なぜそれを」とも「いつ知った」とも、そんな馬鹿なことは聞かない。彼女は『光』のエレメント(属性血統)ゆえに、先天性で光波への適正に恵まれている。最愛と同じように光波収束系で望遠魔法を使えば、晶の動きをチェックするくらい造作もない。

 それに、晶のことのみなら、読唇術も訳ないのだろう。

 そして、彼女は見ていた。あの部活勧誘期間中のある日、晶に攻性魔法を仕掛けた人物達を……。

 

『よりによって、晶を直接狙った人となんて……!』

 

 もう一人の顔は判明しなかったが、甲は数日前に晶絡みで近くに居た顔だ。記憶には引っかかっていたし、だからこそ、学校のHP(ホームページ)の部活紹介から正体を割り出せていた。

 勿論このことは晶にも話したし、達也・真由美・衛兵・深雪・八雲には朝稽古で伝えた。だというのに、この“暴挙”である。

 

『私、心配だよ……!』

「大丈夫、俺なら大丈夫だ。まだ勧誘の“か”の字も出てない」

『三十分後には“う”の字まで出るに決まってるよ!』

「奇遇だな。俺もそう思ってた」

 

 笑って答えると『バカ!』と再び怒鳴られてしまった。

 

「本当に大丈夫だって。それともほのかは、俺がそんな思想に傾くと、本気で思ってるのか?」

『……ズルイよ、そんな言い方』

 

 信頼されているかを試されるような言い方をされて、どうしてほのかが抵抗できようか。

 

「それと。今日は探偵業は休業するんだぞ」

『え? ……うん、わかった』

「他の二人にも言っておいてくれ。多分、もうバレてる」

『う~……。上手く行ってると思ってたのに……』

 

 向こうから通話を切ったが、その後もブツブツ言ってそうだったので「今日も一緒に帰ろう」とメールすると「約束だからね!?」と三秒後に返信が来た。恐るべし。

 

「さて。歩きながらでも考えるか」

 

 どうやれば、俺が“甲さんがエガリテのメンバーだと知っている”と悟らせないで済むか。

 

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