It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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/イマジネーション・スケッチ

 

 MMA部に休みの旨を伝えに行った晶は、その足でカフェテリアに向かって甲と合流した。

 お互いにコーヒーを一口二口飲んで、甲が口を開いた。

 

「今日は済まないね、わざわざ部活を休ませてしまうことになって」

「お気遣いなく。それで、本日は一体どのようなご用件でしょうか」

「そうだね。じゃ、手始めに君の彼女の視線を外させてもらえないかな?」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、晶に頼む。晶は晶で、なんのことだという表情を浮かべる。

 

「はて、なんのことでしょう? 光井は今は部活中で、カフェテリア(こんな場所)に居るとは思えないのですが」

「そうかな。君にちょっかいを出してから、ずっと視線がうるさく纏わりついているんだよ。ちょっと前に三人分くらいに増えたのかな?」

「やはり心当たりがありませんね。自分の知人で、三年生の先輩をコソコソ嗅ぎ回れる三人組という存在は」

 

 顎に指を添えて、少し思案の様子を見せる晶。甲は視線を下げ、「そう来るか」とだけ呟いて、眼鏡のフレームを親指お人差し指で押し上げる。

 

「では、風紀委員に対しての正式な相談という形でタレコミをしようか」

「そして、視線の主が一科生であり処罰が軽い場合、司先輩が被害者として詳細を公表。一科生と二科生に対する格差が明確に存在すると称して喧伝、より多くの生徒を『あなたの』陣営に取り込もうという狙いでしょうかね」

 

 甲の一言から、彼の狙いを読んで返しの言葉を突きつける。

 数瞬だけ驚いたように瞬きする甲だが、すぐに貼り付けたような薄い笑みに戻る。

 

「やはり君は、体術に優れているだけでなく頭のキレもいいんだね。君にも僕たちの活動に参加してくれると嬉しいんだけどね」

「『それは無い』という調査結果が出たからこそ、方針を変更したのでしょう? 取り込まず、動きを封じ込める方針に」

「なぜ、そう思うんだい? 僕が君に釘を刺して、何かこちらの利益になることがあるかい?」

「そうですね。例えば……」

 

 晶が、紙コップの中のコーヒーを飲んで思案する。

 半分程度飲んだところで、テーブルに戻す。

 

「さっきの三人組、とか?」

「なるほど。君経由で少女三人組の視線が消えてくれるなら、確かに助かるね」

「こちらとしても『攻性魔法の流れ弾を死角から撃ち込まれる』なんて事故は未然に防ぎたいですね。調べてみましょうか」

「ぜひお願いするよ」

「小うるさい蝿が飛び回っていると、悪戯の仕込みが大変でしょう」

「……」

 

 柔和な笑みで頼む甲。

 晶も、目線は見えないが口元には笑みを浮かべている。

 

「さて、そんな殺伐な話は置いておいて。どうだろう、僕たちの活動をよく理解してくれているなら、参加はしないまでも協力はしてくれないだろうか」

「残念ながら。自分が所属しているMMA部では、一科と二科の間で差別的な扱いをされている訳でもありませんし」

「MMA部だと、純粋な魔法力だけで格が決まる訳ではないらしいからね。では、授業はどうだろうか? 現状に不満を持ったことは無いかい?」

「授業の不満、と言われましても……。何分、まだ日が浅いですから」

「それもそうだね。ではまた今度、この学校での授業にも慣れたころに話をしたいんだが、いいかい?」

「自分の都合が合えば、いつでも」

「そうか。それじゃ、また」

「ええ。また」

 

 残っているコーヒーを飲み干して、甲が席を立った。五分ほどノンビリしてから、晶も席を立った。

 

 

 カフェテリアを出た後、甲は屋上へ来ていた。放課後は部活に勤しむ生徒が多く、甲ともう一人の男子生徒を除けば人は皆無だった。

 

「君の提案通りに蓬山君には釘を刺してみたけど、効果があると本当に思うかい?」

「いいんですよ、これで。アイツに刺した釘は貫通して、達也と七草会長の動きを封じられる。本当の狙いはこの二人です、達也が余計な動きをすれば、それを七草会長の指示だとでっち上げられる。否定も肯定もなしうる証拠がない以上、言った者勝ちだ」

「同じ理論で風紀委員のホープ(司波達也)を経由して風紀委員長も牽制し、三巨頭の内の二人を抑えこんだ。ということか」

「そうです。それに、あなたの部下や()()()に依頼すれば『直接』っていうのも、ワケないんでしょう?」

「……。本当に、そう思うかい?」

 

 甲の表情は笑みを浮かべたままだが、その目は「余計なことを言うな」と言わんばかりに鋭く睨んでいる。

 

「おっと、これは失礼。さて、取り敢えずこれで『作戦』までの時間は稼げるでしょう?」

「んんっ、そうだね。そして、君という存在自体が、僕たちが取り込むべき階層を見落としているということに気付かされた。これが大きい」

 

 自分の表情を自覚したのか、咳払いをしながら甲が目の印象を和らげる。それにしても、と甲は市街地の方を見ながら話しかける。

 

「君も凄いね、彼らと繋がっておきながら僕たちに接触しようだなんて」

 

 甲の言葉に、少年は口元に笑みを浮かべる。

 

()()()()。スパイってのは、こんなモンでしょ?」

「ああ、まったくだ。落ちこぼれ一科生(ヒドゥン・ジョーカー)

 

 

 その日の最終下校時間。達也たちはまた十三人で集まって帰路に着いていた。

 大人数で同じ卓を囲める、路地裏にある隠れ喫茶に入店した。

 

「それにしても、達也クンと晶クンの無双っぷりは本当に凄かったよね~」

 

 全員の注文が終わったところで、エリカが開口一番に出した話題は、やはりというべきか勧誘期間での風紀委員の活躍だった。

 

「エリカ、そこでナチュラルにタカを除け者にするの止めよっか」

「ああ、いや。気にしなくていいぜ、幹比古」

「そうそう。飛矢(コイツ)の仕事量なんて大したものじゃなかったから」

 

 鷹の横から発せられた雫の口撃に、鷹のコメカミの血管が少し浮き上がる。

 

「オウ、北山。テメェが言うことじゃねぇだろ、アァ?」

「アァン? 何、やろうっての?」

「「アァア?」」

 

 本日四度目の睨み合いが始まる。が、それを終わらせた人物は意外なことにほのかだった。

 

「あれ? そういえば、勧誘期間中って雫はどこにいたの? 『大したことなかった』なんて、まるで見てたような……」

「……、家に居た。出席取られなかったし」

(ブフゥッ!)

 

 そっぽを向きながら答える雫の横、鷹が吹き出して大笑いしそうになるのを堪えて口元を押さえている。

 その刹那、ゴッという鈍い音が響く。鷹の脇腹に雫が肘を沈めていた。

 

「イってぇな、アァ?」

「うるさいのよ、エェ?」

「「アァア?」」

 

 再び睨み合いに入る二人。

 

「……。それにしても、達也クンと晶クンの無双っぷりは本当に凄かったよね~」

 

 何も見ていないし、聞いていない。と体現するかのように、素晴らしい笑みを浮かべたエリカが話し出す。

 

「当たり前じゃない、エリカちゃん♪ 達也なんだから当然でしょ♪」

「当然じゃない、エリカ。お兄様と、その兄弟子である晶さんなのよ?」

「当然だよ、エリカ。だって晶だもん」

「そ、そだね~。アハハ、ハハ……」

 

 三者三様の返答に、エリカは若干だが乾いた笑みを浮かべる。

 

 

 彼女らの話を半ば聞き流しつつ、美月は鞄から取り出したスケッチブックに鉛筆を走らせている。更には、彼女のお冷のコップの横には何色もの色鉛筆が並べられている。

 興味を持った幹比古とほのかが左右から覗き込む。

 

「わぁっ、美月ってばすごい!」

「さすが柴田さん、やっぱり上手だね」

「い、いえ。それほどでも……」

 

 美月の絵は、円卓の騎士のオマージュ風であった。実際は長方形であるテーブルを敢えて円形に歪め、制服は制服のままであるが、美月の考える彼らのイメージカラーに変えられている。また絵の中の彼らには、これまた美月の印象だろう、各々が武器を傍らに立てかけている。

 

「釼閣とエリカが刀で、レオは肉厚な大剣か」

「外島君は双盾で飛矢君は狙撃用ライフル、七草会長がハンドガンで達也君がサブマシンガン、か。何か分かるな~」

「北山さんも狙撃ライフルなんだね。なんか、意外だな」

「深雪が杖っていうのも良いよね。で、晶の爪付き籠手もいいとして、私が鎖?」

「えっ、その……。何だかそんなイメージが……。ごめんなさい、私の先入観です」

「へっ!? あ、違う違う、違うよ! ゴメン責めてるワケじゃなくて! ええと、ええと……!」

 

 ウウゥ、と釈明の言葉が上手く出てこないほのか。すると、その横で三人の遣り取りを見ていた晶が助け舟を出した。

 

「いいじゃないか、鎖。振り回すだけで十分な威力だ、それに持ち手の長さを調節しただけで射程が自在に変化する。服の下に巻き付けておけば帷子にもなる。攻撃も防御も拘束も熟せる万能武装じゃないか」

「拘束。それってつまり、束縛? フフ、晶を、フフフ……♪」

(あ、墓穴掘ったかな……)

 

 恍惚の表情を浮かべ始めたほのかを見た晶は、やってしまったという感想しかなかった。

 そんな中、幹比古が絵に対して少し疑問を抱いた。

 

「そういえば、この絵には僕と柴田さんは入ってないんだね」

「え? えーと……」

 

 一瞬驚いたような表情を浮かべた美月がキャンパスを見る。自分でも気づいていなかったようで、「本当です。全然気づきませんでした……」と小さく呟く。

 

「単に描く順番ってだけじゃないかな? ほら、美月の主観の情景描写だし。奥の飛矢君と雫たちから描いていったら私たち三人が必然と最後になるし、これから描く所だったんだよ」

「それもそうだね」

 

 ほのかの説明で納得した幹比古がジュースを飲み始める。が、グラスを傾けている幹比古の耳と言わず頬が赤くなっていく。美月が真剣な表情で彼を見つめているからだ。

 

「……。え、えーと、柴田さん?」

「………(ジーッ」

 

 時折視線を下に落としては鉛筆を走らせているから、何はなくとも幹比古のデッサンを取っているのだろう。しかし……。

 

(は、恥ずかしい……!)

 

 周囲が妙に静かになっている気がして、美月が視線を下した隙に目だけで達也たちを見遣る。刹那、幹比古は片目だけ目を剥くという器用な芸当をすることになった。

 達也・真由美ペアは当然としても、衛兵・深雪ペアもレオもエリカも、というか釼閣と雫以外の全員が口元をニヤつかせていた。

 分かってますよ、この後の展開頼みますよ! と言わんばかりの連中の視線など、この際見なかったことにしようと決意した幹比古は、真剣な面持ちでデッサンを続けている美月の邪魔にならないように、今修行している古式魔法の復習など関係ない事を考えることにした。

 

(でも。デッサンとっくに終わって、本描きと着色してる最中だったよな……)

 

 

 

(やっぱり、僕と柴田さんはいない絵だったんじゃないかなぁ)

 

 

(なぜ吉田君と私だけ描き忘れていたんでしょう……?)

 

 デッサンを終わらせ、色鉛筆を手に取り始めた美月は、黙々と描画を進めながらも考えていた。

 

(前々から思っていましたが。吉田君のオーラは()()()()()()()し――)

 

 

 

 

 

(やはり、()()()()()()()()の方なんでしょうか………………)

 

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