It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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/拳と釼

 

 司甲との対談から数日後、達也と晶のペアで放課後の巡回をしている時だった。

 

『司波、蓬山! 大至急、放送室に集合!』

 

 二人のインカムに、摩利から連絡が入った。理由を聞いたり考えるより先に走り出す二人。駆け抜けていく廊下に、大音量の放送が流れた。

 

『皆さん! 私たちは、一科生と二科生の格差を是正すべく立ち上がった有志組織です!』

「……司先輩の組織ですかね」

「恐らく、というかほぼ間違いなくそうだろうな。ほのか達のマークから外させている間に準備を進めたんだろう」

 

 かなりのスピードで走っていたため、途中で何人かの生徒に驚かれたものの、数分で放送室に到着した。

 放送室前には既に真由美と摩利と克人の三巨頭が揃っている。また、他の生徒会役員や風紀委員、桐谷や衛兵たち部活連のメンバーも来ていた。

 

「状況は……。籠城ですか」

「ああ、そうだ。どうやって鍵を持ち出したかは知らんが、とにかく放送室を占拠、認可の出ていない放送を勝手に流している」

 

 手元のメモ帳に目を落としながら、克人が二人に説明する。

 籠城なら、基本的には交渉か突入のどちらかになるだろう。

 

「俺としては、彼らとの交渉ないし取引に応じてもいいと思っt――」

『思っている。なんて言わないよね、克人?』

 

 インカムから、いつもより低い最愛の声が聴こえた。低さだけでなく威圧感も込められているその声に、通信が聴こえていた誰もが黙した。

 

「……」

『無言ってことは、肯定ってワケね。ま、いいけどさ』

 

 いいけどさ。と言う割には、克人の制服の心臓に当たる部分が赤い光で照らされる。

 光源は周囲に見当たらないが、この場の誰もが最愛の仕業だと分かっているが故に何も言い出さない。声にこそ出さないが、似たような状況の晶は少し同情した。

 

「でも、確かに一理あるのよね」

 

 沈黙した克人の代わりに真由美が話を続ける。

 

「生徒会長としては、彼らの言い分を聞いてみたいのよね。納得できる話なり要求なりだったら、一考の価値はあるものね」

「だが、籠城されていては交渉のしようが、っていうか相手に話しかけることが出来ないんじゃないか?」

 

 そのための対策会議で、ここに集まったんだろ? と、摩利が克人と真由美に問いかけるが、摩利は自分で言った内容に自分で違和感を抱いた。

 

「おい、十文字。そういえば最愛はどこに居る? 通信で話すってことは、この近くには配置していないってことだろ?」

「……」

 

 やはり無言の克人はしかし、視線で『大きな声を出すな』と語っている。そして手元で指と腕を動かしていく。

 ハンドサインだ。

 

《ブ・シ・ツ・ (空白)・オ・ク・ジョ・ウ》

 

 摩利、達也と晶の三人はハンドサインの内容を理解して頷く。ブ・シ・ツ=部室。オ・ク・ジョ・ウ=屋上。つまり、部室棟の屋上ということだ。

 その遣り取りの傍らで、達也が通信端末を取り出して誰かに連絡し始めた。

 

「もしもし、壬生先輩ですか? ええ、はい。司波です」

 

 達也の口から発せられた意外すぎる人物の名前に、三巨頭がギョッとする。

 

「今どちらに居ますか? 放送室ですか。また無茶なことを……。いえ、馬鹿にしている訳ではありません」

 

 無茶と無謀は違うと軽く説明してから達也は、放送室内部の様子をさり気なく探っていく。

 

「成程。先輩方の要求はある程度理解できましたが、このまま籠城を続けていても七草会長たちとは対談すら出来ないと思いますが。……七草会長の意向ですか? 生徒との対談なら断ることはないと思いますよ。いえ、訂正です。今確認取れました」

 

 達也の目の前で真由美が頷き、対話の意志アリを示す。

 

「もう一つ、要求ですか? はい、はい。対話は後日に日を改めて、講堂で一般生徒も聴講できるようにしたい、ということでいいんですね?」

 

 要求に間違いが無い事を確認した達也が、真由美にアイコンタクトを送る。こちらの要求も呑む意志を示した。

 

「はい、確認取れました。ええ、では壬生先輩の身柄を保証しますから鍵を開けていただけますか? はい、ありがとうございます。それでは」

 

 晶が「うーわー……」と言いたげな表情をしている中、達也は通話を切った。

 真由美も達也の言いたいことを理解しているのか、ニッコリと笑みを浮かべてCADを構える。晶も溜息を吐きながら、ガントレットタイプのCADをスタンバイさせる。

 

「さて、皆さん。突撃準備しますよ」

『……は?』

 

 パンパンと柏手を打つ達也に、数名を除いたほぼ全員がポカンと呆けた。

 

「いやいや、司波。今しがた君が彼らの身柄を保証したじゃないか」

「自分が保証したのは壬生先輩のみの身柄の保証です。それ以外の侵入者に関しては何も言った覚えがありません」

(((うわぁ……)))

 

 ヒデェ、と思いつつもいそいそと準備を始めていく。

 

 

 三巨頭を擁している時点で突入作戦が失敗するはずもなく。予定調和的に壬生以外を拘束して騒動を治めた。

 制圧側の人員の内、達也と衛兵と晶の三人だけはさりげない動作で、制圧された生徒たち全員が赤と青と白のトリコロールリストバンドを着けていることを確認した。

 

 

 意見交換会までの段取りは恙なく進み、授業一つを潰して開くことになった。

 真由美を通じて、克人と摩利には既にエガリテの話は通してある。講堂の内といわず外といわずに風紀委員・生徒会・部活連の中の腕利きを配置している。

 最愛と鷹の二人はそれぞれ校舎屋上と部活棟屋上、一高周辺の建造物の中で最も高さのあるポジションを抑えている。勿論ライフル型CADを携行して、起きてほしくない襲撃に備えている。

 

『こちら渡辺。講堂内部、異常なし。屋外はどうだ?』

『光火射。スモークガラスのバンが五台、学校からは少し離れた場所に停車。団体のお客様御一行、ご案な~い』

 

 最愛の言葉を聞いていた、無線の向こうの戦闘要員たちが緊張の糸を張り直す。陣頭指揮を買って出た克人が指示を出し、屋外巡回をしていた晶とそのバディが無音の足音で歩いていく。

 

『ふぁ~あ。ったく、面倒だ……』

『すまんな、宇練。風紀委員でも部活連でも無いお前に出張ってもらって』

『構わねぇですよ。ふぁ~、(ツエ)ェ奴がいるといいんだけどよ……』

「いやホント、マジでなんで釼閣呼んだんスか?」

 

 スコープ無しで索敵する鷹が通信機のマイクに向かって呟く。

 克人や真由美たちは無言の沈黙を貫くが、晶だけはクローズド回線で答える。

 

『(釼は剣のケン聖だ。それは自他ともに認める事実であって、好戦派であることも自他ともに認める事実だ)』

『(晶と並べて、暴走を抑えるってことか?)』

『(勝手に動かれるよりは、把握しやすくていいんだろう)』

 

 

「ふぁぁあ。本当、どうして俺なんだ?」

 

 腰に日本刀(打刀)を帯刀した釼閣が、隣を歩く晶に問いかける。

 

「実際、チャカで武装した素人程度の制圧だったら、晶一人で充分だろうよ」

「それもそうだけどな。だが、拳と剣、一高に入学した『双聖』が二人とも前線で暴れている。そう思わせたいんじゃないか?」

 

 晶の考察を聞いて、釼閣はニィヤリと口の両端を上に吊り上げる。

 肘置き代わりにしていた刀の柄から肘を離し、手を鞘に添えて親指で刀の鍔を押し上げる。

 

「なぁるほど。そうかいそうかい。んじゃ、せいぜい派手に暴れてやんねぇとなぁ」

「……程々にしてくれよ」

 

 牛歩というわけではなかったが、それでもやや遅めに歩いていた二人が、サブマシンガンや軽機関銃といった時代遅れ感が否めない武器で武装した集団と鉢合わせした。

 

「右半分」

「左半分」

 

 晶と釼閣の二人が、同時に宣言して同時に踏み込む。

 宣言した通り、晶が右側の集団へ、釼閣が左側の集団へ接近した。

 

「「迎撃!」」

 

 両方の集団の部隊長と思しき男たちの号令が下り、集団が陣形を形成して照準もデタラメなままに連射する。

 たとえ照準がデタラメであろうと、それが三、四十人以上の隊列での斉射ともなればもはや弾丸の壁となる。

 道路の横幅全体に広がっての斉射も相まって、どこへどう移動しようとも銃弾に襲い掛かられる。

 だが、『双聖』にとってはこの程度、些細な問題以下であった。

 

 

「――”零閃不選刀(ゼロセンカタナヲエラバズ)”」

 

 釼閣が一言だけ呟く。

 刹那、その場に居た全員の視界から釼閣の姿が『消えた』。

 目の前で突撃(自殺行為)をしていたはずのガキを突然見失ったため、愚かにも襲撃者たちは一瞬だけ銃撃の手を止めてしまった。

 

「――ガッ!」

「ゴバッ!」

「…あれ、なんで、逆さま……?」

 

 そして、その一瞬の間に部隊長とその横の二人が一刀両断されていた。三人の隣の男の耳元で「チャキン」という甲高い音がしたために視線を動かすと、そこには見失っていたハズのガキ(釼閣)が立っていた。

 親指で鞘に収まっている刀の鍔を軽く押し上げているため、抜刀居合の構えだとすぐに分かった。

 

「この、クソガk――」

(おせ)ぇんだよ。”裂風”抜刀」

 

 言葉と共に抜き放たれた刀はおろか、刀身の照り返しも抜刀から納刀までの動きの片鱗すら視認することも能わず斬り捨てられた。

 そして摩訶不思議なことに、10m近くある道路の片側二車線に伸びていた隊列の兵士十数名と、そのさらに後方の数本の木々さえもが、まるで刀身が伸びたかのように全く同じ軌道で一刀両断されていた。

 第一列を一瞬で全滅させられたことに呆然としている暇など当然なく、むしろ味方誤射(フレンドリィ・ファイア)を気にしなくてよくなった第二列の兵たちが斉射する。

 そんな猶予を釼閣が、《剣のケン聖》が、牙持たざる刃獣が与えるはずもなく。

 

「だから――」

 

「――(おせ) ぇ っ つ っ て ん だ ろ う が !!」

 

 言い切るよりも前に抜刀から納刀までが完了し、納刀の完了とほぼ同時に第二列の兵たちも一刀両断されていた。そして先ほどと同様、奥のコンクリ壁の内、斬撃軌道の延長線上にあった部分が綺麗に斬られていた。

 晶に視線を向けると、丁度彼も最後の一人を5mほど殴り飛ばし終えたところだった。

 

「なぁ、晶」

「冗談キツいぞ。理由もないのに戦うワケないだろ」

「俺が満足しきれてねぇ」

「理由になるわけないだろ」

 

 

 釼閣と逆の右方向に走り出した晶は、自信に対して斜め上方を進路とする加速魔法を発動する。

 それとタイミングを合わせて跳躍することで、跳躍のベクトルさえも強化した加速は弾丸の壁を余裕で晶に跳び越えさせた。

 だが、当然ながら男たちは銃口を晶に改めて向けなおす。それすらも織り込み済みの晶は、今度は斜め下に向けて加速術式を展開する。

 今の上昇分を加味してのベクトル操作によって、晶の体は彼がイメージした通りの進路を移動した。すなわち、部隊長への進路である。

 奇遇、ではなく必然のことながら二人は最初に指揮官の撃破から始めた。

 反魔法団体の過激派程度では仕方ないのだろうが、加速術式で空中から突然加速した晶の動きに対応しきれなかった部隊長は彼の接近を許し、あまつさえ頭部狙いの回し蹴りさえ許してしまった。

 加速の勢いを乗せた挙句、硬化魔法で鋼より堅固になった蹴り。すなわち、何の対策もしていない人間の頭蓋骨程度、粉砕してなお余りが出過ぎて困る一撃を。

 

「ガッ――」

 

 一撃で脳味噌をケチャップに変換された部隊長は、白目で口から泡を吹いて崩れ落ちる。

 晶はそんなことは気にも留めず、部隊長の立っていた場所の背後に回り込む。

 ついでで二列目の男一人を回し蹴りで横に蹴飛ばし、二列目の背後に回り込む。

 

「銃手の集団にとって、接近乱戦って嫌だよな」

 

 《連拳(アサルト・ナックル)》――加速魔法のループ・キャストによって、拳を前に突き出す瞬間のみ加速させてマシンガンさながらの拳の連撃を二列目の男どもに叩き込んでいく。

 

「敵に背後を取られると、同士討ちが怖くて銃を使えないもんな」

 

 腰のナイフを抜かせる暇さえ与えず、《連拳》による左ジャブだけでドンドン敵を沈めていく晶。

 そんなワンサイドゲームの最後。端の兵まで辿り着いた時に、ようやく右拳を放った。

 

「これはいわば、『拳のケン聖』からの餞別だ」

「ひ、ヒィッ! た、助k――」

「持 っ て い け !!」

 

 最小限の動きで最速を叩き出し、全身の筋肉の動きを連動させることで最大の威力を弾き出す。

 背後で「チャキン」という、刀が鞘に収まる時特有の甲高い音を聞きながら最後の一人を吹っ飛ばした。

 

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