It's impossible to love and be wise. 作:蒼鋼
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晶と釼閣の二人が暴れ始めるより少し前。
二人に遭遇した部隊の倍以上の人数、およそ7、80人程度の不審者たちが一高裏手の山中を走っていた。
二人に宛てがわれた部隊は、哀れただの囮に過ぎなかった。一高でも指折りの実力者と称して間違いない彼らを校舎の外に
そんな訳で木々を目隠しに一高に接近した男たちは、それぞれ所定の目標施設へと狙いをつけ始めた。
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そして、狼煙たる
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「…と、思うジャン?」
屋上で待機していた最愛が、待ってましたとばかりに、空中をくるくると回っている発煙筒を《ソーラー・レイ》で撃ち抜いた。
克人から専守防衛を言い渡されていたために
『収束』系統単一魔法《ソーラー・レイ》。
原理は単純、周辺空間の光波分布密度を管状に収束させただけだ。
だが、効果は絶大。収束させる光波の密度を高めれば高めるほど、トータルのエネルギー量も増幅される。
それは丁度、砂漠で大量の鏡の反射光を用いて光を一点に収束させローストチキンを作ることと同じ原理と考えてもいい。おまけにこちらは、イデア上で形成する
光を用いているだけに天候や場所、時間帯によって威力が増減されるが、今回のように快晴の屋外では条件はほぼ最高と言って差し支えない。
もっとも、ここまで威力を高められるのは一重に、最愛が
「さぁて。狩りの時間だよ、タカ君」
先天性の光波との親和性のために、光の屈折術式を同時展開して複数の場所を同時に視認できる彼女に用意された、ワンサイド・ゲームの幕が上がる。
『はいっ!』
鷹も負けじと、《ニトロ・バレット》のループ・キャストで視界に捉えた敵を狙撃していく。だが、最愛と違って直線の弾道しか描けない鷹は狙撃地点の見当をつけられてしまった。
そして、敵さんはかなり過激なお返しをしたのだった。
「……えちょ、嘘だろぉぉぉぉぉぉ!?」
鷹の視線の先、草の茂みに隠れていた男が肩に担いだ
それは、ポッカリと円形の口が開いていて、装甲貫徹型の小型ミサイルを射出することで戦車やら戦闘機なんかの装甲の内側から爆破する仕組みの──。
まぁ、分かりやすく言えばRPG。ロケットランチャーの一種だった。
「高校生相手に何てモン出してやがんだよ!」
ごもっともな叫びを上げつつ、《ニトロ・バレット》を放つ。
それまでは対人用に断面が大きな円の打撃系形状の弾丸にしていたが、それを断面が点と見紛うばかりの極細形状の弾丸の術式に選択し直し、男が引き金を絞った瞬間に合わせて、反射的に発動させた。
空中で生成・加速された弾丸はRPGの弾頭を貫通して信管を作動、誤爆させた。
やってくるであろう爆風を警戒して、屋上の縁から遠ざかる鷹。そんな彼の死角になっている真後ろと左後方から、常人では到底出しえない速度で男二人が接近する。
「…は?」
接近するにつれ強くなる殺気を感じ取った鷹は、振り向くより先に自己加速術式を起動。左前方・右方・再び左前方とジグザグの機動で逃げる。
方向転換に乗じてターンし、男たちの得物を確認する。
後ろから迫っていた方は2mはあろうかという大斧を担ぎ、もう一人は鷹の肩幅くらいはあろうかという大剣を構えている。
「なんっっで、そんな
止まってたらカモられるだけなので、屋上を走り回りながら《ニトロ・バレット》で応射していく。刃で軽々とあしらわれるが、何とか最初に居た場所とは丁度対角の位置まで逃げてきた。
「クッソ、付き合いきれねぇ! って、ウォォォオオオォ!?」
先回りしていた大剣使いが横薙ぎに一閃、手摺りごと鷹をぶった切ろうとしていた。
間一髪、自己加速術式でアシストした跳躍による回避こそ間に合った鷹は、そのまま手摺りを飛び越えて空中に躍り出た。
術式も終了し、自由落下していく中で鷹は通信機に怒鳴り込む。
「こちら飛矢、部室棟屋上で
『前衛だと、屋上に!?』
驚いた様子の摩利に対して、鷹は苦笑いを浮かべる。
「いやぁ、実戦で相手にするのは久々でしたんで、完全に油断してましたよ! 奴ら――」
「--奴ら、『
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「龍理使い」。それは、《咒式》と呼ばれる古式魔法の使い手たちの総称として用いられる俗語だ。
《咒式》は現代魔法の観点からの分類では古式魔法とされているが、発動のプロセスなどはまるで別物である。
所謂《魔法》は
量子力学の大前提であるプランク定数hに干渉することで、素粒子レベルで物質を操作し物質の生成や分解を行う。《魔法》は物理的な作用が多いが、《咒式》は化学的な作用が多い。
そんな《咒式》使いがなぜ「龍理使い」と呼ばれるのかは、そもそもこの技術の根源は太古を生きた《龍族》たちにあるとされているからだ。
†
無線に一瞬気を取られた鷹が視線を中庭側へ向けると、三人の男が剣をコチラへ向けている。鍔元に宝珠が埋め込まれているから、あれは間違いなく《魔杖剣》の一種だ。
詠唱を終えたらしい三人が順次引き金を絞る。空中に紡がれた術式が作用していき、空中を合計18本の鋼槍が駆け抜ける。化学鋼成系第一階位《
打ち落とせないと分かりきっているため、鷹は自身に部室棟向きで自己加速術式を起動した。
タイミングを合わせて発動させたおかげで、ガラス窓と
せめて心の中でだけでも詫びつつ、頭上を駆け抜けていく槍のおかげでそんな罪悪感は吹き飛んだ。
「…クソッタレ!」
一休みしようとしたが、階段を下りてくる音が聞こえたために走り出す。こんな行き止まりの部室も、ながい一本道の廊下も、待ち伏せ確認済みの中庭も安全とは全く言えない。
『飛矢、今どこだ!? 講堂前に来れるか!?』
「なんっで、です……か?」
摩利の言葉で、脳が景色を逆再生させていく。
ハッキリ見ている余裕は無かったが、先ほど《矛槍射》を放ったのは黒服男だったか?
--No.
白を基調とした膝まである上着で、肩には花びらの刺繍の無い黒字があって……。
「へっへへ、マジッスか?」
『大マジだ!』
廊下を駆け抜けながら、鷹はチラと中庭を見る。
やはり、先ほどと変わらず
『司の奴め、よりによって二科生と一科生下層の『
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この一高は魔法の実力主義の風潮が基本だが、それとは少し異質な派閥もある。
《咒式》に優れている者は反比例的に《魔法》に劣る傾向がある。それは相対的に魔法の劣る二科生に限らず、一科生の中でも魔法実技で成績の低い者が該当する事も稀ではない。
そのため、咒式使いたちで自然と集まって幾つかのグループを形成していることは決して珍しくはない話だ。
加えて彼らには彼らの信じる理論、所謂《龍理》があり、彼らにとって無益な争いはしない。
……筈。なのだが。
†
「どうも、差別撤廃に賛同的なグループと消極的な立場を取るグループとがあったらしい。真由美が個人的に作っていた情報網は、その賛同的なグループが漏れていたそうだ」
飛矢以外のほぼ全員の風紀委員をかき集めて、摩利と真由美と克人の三巨頭さえ前線に出て戦線が展開されている。
講堂内で行動を起こそうとした生徒は全員捕縛できたが、外で襲撃者たちに混ざって活動を開始した生徒まで手が回らなかった。
鷹と無線で話している摩利の目の前の壁にも、《
「飛矢。可能な限り、逃げ残っている生徒を見かけたら講堂へ避難するよう呼び掛けてくれ」
『りょ、了解ですぅォォ!?』
「飛矢!? 死ぬんじゃないぞ!! いいか、委員長命令だからな!」
『了解ィィィ!』
槍の駆け抜ける音を残し、無線が閉じられる。気にはなるが、一か月経つか経たないかではあれど
✝
「さて、どうしたものか」
呟く達也の横で、黒服どもの攻撃を衛兵が軽く受け流している。彼一人を5人で包囲しているが、普段の稽古より動きの悪い敵に衛兵が後れを取るはずもない。
「達也、お前の悩みを当ててみようか?」
「真由美や深雪ならともかく、衛兵にはまだ当てられないんじゃないか?」
「言ってくれるね。
若干悪い笑みを浮かべた衛兵が、達也を肘で小突く。そんな暢気な会話をしている間に、達也が手早く周囲の敵を片づけていた。
「ホラ見ろ。まだまだだな」
「ムッ。そこじゃ無かったのか」
「ああ」
そう言って達也は、懐から
「《分解》を使うか使わないか、そこで悩んでいた」
「なんだ、そんなことか」
「『そんなこと』で片づけていい問題じゃないぞ。これは、俺が三年間の高校生活を平穏無事に過ごせるかどうk――」
「真由美さんと将来を誓った時点で諦めろ」
「……」
思わず黙ってしまった達也。それを傍目で見て笑う衛兵。
そんな彼らの背後から、両手にナイフを持った男が襲い掛かろうとしていた。
「伏せろ達也、衛兵!」
その声を聞くや否や、迎撃態勢に入っていた達也と衛兵は左右に転がった。
奇襲が空振りに終わったナイフ男は声のした方を無効としたが、それより先にその方向から来た殺気に両手を構えた。
どうやら男は機短剣士(化学鋼成系で体内の一部を金属置換した咒式士)のようだ。着地と同時に足元の石床が沈み、構えた両腕に殺到する銃弾が甲高い金属音に弾かれるだけでビクともしない。
「達也!」
「もう少し悩ませてほしいんだがな…」
二つ三つくらいを同時に諦めたような表情の達也が、シルバー・ホーンのトリガーを絞る。選択された『分解』の魔法が、ナイフ男の脳幹を直線状に分解する。
ナイフ男は何が起きたのかを理解する間も無く、手元から零れ落ちるナイフと共に膝をついた。
「驚いたな。まさかお前が銃を担いで助太刀するなんて」
「そうかぁ? 俺ァ確かに硬化魔法くらいしか得意なの無ェけどよ」
やや不服そうな表情でレオが、アサルトライフルの銃口を撫でる。
「爺ちゃんと親父に仕込まれたおかげで、俺も拾ったライフルでそれなりに戦うくらいは出来るんだぜ?」
「…それがなぜ、山岳警備隊志願になるんだ? 警察官ってことだろ?」
「ま、その話は追々にな」
「ああ良かった。達也も衛兵もちゃんと首と胴体が繋がってるね」
上から飛び降りてきたのは、意外にも幹比古だった。どこから出したのか、身の丈以上の大剣を携えているが。
「幹比古。その剣、どうしたんだ?」
「なに、僕も『龍理使い』だっていうだけの話さ。もっとも、吉田家は咒式と魔法の両方を駆使するけど」
「なるほどな」
難点は、燃費が非常に悪くなることかな。と苦笑いしつつ式札を投げる幹比古。
様子を伺っていた三人にむかって飛んで行った式札は、『放出』系の雷撃魔法となって直撃した。苦悶の声をあげる間もなく倒れる。
「さてと。行くか」
「「「おう」」」
✝
………。
……。
…。
出来れば、この三年間は眠らせたままでいたかったのですが…。
起きてしまいましたか。
血は争えませんね。”
†