It's impossible to love and be wise.   作:蒼鋼

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/魔法のアイコトバ

 

「それで、達也。僕らの目的地は?」

「図書館二階のターミナルだ。連中の目的は、魔法大学のアーカイブに侵入して極秘データを奪取することだろう」

「はぁ? 反魔法勢力のくせに最新魔法のデータが欲しい?」

 

 達也・衛兵・幹比古・レオの四人は小走りで図書館に向かう。先頭の幹比古が巨大な鋼剣(鋼成系咒式製)で敵や弾丸を高速斬撃で斬り払い、最後尾のレオが斬り漏れを撃ち抜いていき、弾切れになったら落ちてる敵の銃に交換する。

 

「便利だな、咒式ってのは。生体強化系だったか? で、自分の体重以上の物も余裕で振り回せるんだから」

「便利そうに見えるけど、結構大変なんだよ」

 

 無系統の障壁術式を展開しつつ関心する衛兵に、幹比古が苦笑で答える。

 

霊子(プシオン)の生成速度は個人差があるけど、速い人でも高位の咒式を併用できる咒式士は僅か。それに、細胞の代謝の一環で供給されるせいで、大量の細胞用の燃料(食物)を摂取しなきゃならないんだから」

 

 咒式は量子定数hに強引な干渉をしているため、注いだ咒力(霊子)を使い果たしたら即座に終了する。咒式を展開し続ける限り咒力を消費するわけだが、そこは《魔法》と同じだろう。

 

「レオ!」

 

 彼らがそんな雑談をしていると、本棟の方からエリカの声がした。

 彼女も周囲の敵を把握しているようで、自己加速術式を併用した緩急のついたランで上手く弾丸や飛槍を躱している。

 

「お待たせー、って。ありゃりゃ、達也クンたちも合流してたんだ」

 

 はい、CAD。

 サンキュ、やっと前出れるぜ。

 はぁ? アンタって考えなしに突撃するタイプじゃないの?

 オメェな、俺を何だと思ってんだ!?

 何よ。

 

「おい幹比古」

「ちょっと、ミキ」

「「何で笑ってんだよ」」

 

 苦笑する幹比古に文句を言ったと思ったら、「合わせるな」「いやソッチこそ」と再び口論を始めた。

 

「そんな楽しそうなエリカを見るのは、久々だなー。って思ってさ」

 

 誰に聞かれても面倒になりそうなので、本当に小さくだけ呟いた。

 

 

「「あ…あ…」」

 

 そんな彼らのやり取りを見る余裕もなく、達也と衛兵がとある一点を凝視して固まっている。

 

「達也? 衛兵? どうしたのさ」

 

 それに気づいた幹比古が、彼らを横から覗く。いつもの冷静さからは予想できない、盛大に冷や汗をかいて焦っている表情だった。

 

「幹比古、迂回するぞ。とにかく()()()()()()()()!」

 

 二人の視線の先では、ペタリと座り込んでしまったほのかを守るように、彼女の前に晶が立っていた。

 二人の背後では雫が先頭で鷹が最後尾になり、一般女子生徒を講堂へ連れて行っている。

 

「…了解」

 

 幹比古も、晶の尋常ならざる状態を見てすぐ了解した。

 レオとエリカも、前髪越しに青白く光る晶の()()を見てすぐ納得するとともに、あれはヤバイと背筋が冷えた。

 

 

 講堂の後ろの方の席で討論会を聴講していたほのかと雫の二人だったが、屋外から銃撃音が聞こえてすぐに窓際に近づいた。

 

「晶が言ってた通りだね。サブマシンガン、かな」

「ごめん雫。私、銃の種類ってよく分からない」

 

 血統(エレメント)の面目躍如と言ったところか、CADなしで光波の屈曲による望遠術式を展開する。

 講堂を中心に学内を調べるが、やはり幾人かは校舎にいる。晶をはじめとした戦闘職種がいない以上はここで大人しくしているべきなのだろうが、一度見てしまった以上は見なかったことには出来なかった。

 

「雫」

「何人?」

 

 横から表情を伺っているだけで察したらしい。察しが良すぎて困る友人に内心で感謝をしておく。

 

「まず五人かな。裏口から出れば、無人の場所を通れる……と、思う」

「分かった。ナビゲート任せるよ」

 

 言うや否や、頭を下げたまま音が出ないように意識して歩き始める雫。彼女に続いて、ほのかも身を低くして裏口のほうへと向かう。

 他の生徒に気づかれないまま裏口へと到着し、二人で頷いてほのかがドアを開ける。

 裏口近くはまだ戦火に巻き込まれておらず、確かにこのまま一気に校舎まで行けそうだ。

 

「行こう」

「うん!」

 

 勇気を振り絞って駆け出す二人。幸運なことに誰にも気づかれず校舎へと辿り着いた二人は、ほのかの望遠術式で校舎内の敵の位置を確認しつつ逃げ遅れた生徒たちの元へ駆け付ける。

 

(大丈夫ですか! 怪我はありますか)

 

 大声で叫んでは襲撃者に気づかれるだろうから、なるべく小声で呼びかける。声をかけられた少女は恐怖で震えているが、ほのかの声かけに気づいて首を横に振る。

 

(ここは危険です。会長たちが講堂を拠点にしています、そちらへ避難しましょう)

 

 少女は震える体で、しかしハッキリと縦に頷いて立ち上がる。

 他にも似たように孤立していた女子生徒たちを見つけ、総じて五人の女子生徒を連れて雫たちが入ってきた非常口まで戻ってきた。

 

「どう?」

「今はマズいかな。銃で武装してる三人組が近くにいる。多分、あと三十秒で行ける」

 

 ほのかの言葉を聞いて呼吸を殺す雫だが、その三十秒がとてつもなく待ち遠しかった。同時に、自分はなんとか恐怖を抑えられているからいいが、独りで戦場に取り残されていた彼女たちはそれ以上の怖さを感じているだろうと気づいた。

 

「「大丈夫。私たちみんな、『ぜったい大丈夫』だよ」」

 

 同時に言ったあたり、ほのかも同じこと考えてたんだろうなと思う雫。なんだかそのことが面白くて、二人で向かい合って笑う。

 

「どう、ヒック、して。そ、ヒック、言える、の……?」

 

 泣きながらもどうにかその問いかけをした女子生徒に、ほのかが苦笑い気味に答える。

 

「昔、私のせいで大怪我を負った男の子が居てね。その人、怪我を負った直後で痛いだろうに、泣きじゃくる私の手を取って言ってくれたんだ」

 

――『大丈夫、ぜったい大丈夫だ。こんなことで死なないし、ほのかを嫌いになったりなんかしない』――

 

 戦場の只中だというのに、ほのかは意識を過去に飛ばして記憶を懐かしんでいる。

 

「おかげで今では、私にとって一番の魔法の言葉。どんなに怖くても、辛くても、悲しくても。『ぜったい大丈夫』って言ってれば、本当に大丈夫になっちゃうんだ」

「信、頼。して、る、んだ、ね。その男の子のこと」

「うん」

「ほのか。そろそろ行けそう?」

 

 女子生徒たちも、ほのかと話すことで平静さを取り戻し始めた。時計で三十秒を見ていた雫は、丁度話が切れたところで声をかける。

 

「……うん、この距離なら大丈夫。よっぽどの事がなかったら気づかれない」

「分かった。行こう」

 

 行ける? という雫の言葉に、女子生徒たちは力弱く、だがハッキリと頷いて答えた。

 

「怖い。けど、私も、頑張って、みるよ。『ぜったい大丈夫』だもんね」

「…! うん!」

 

 はにかんだ笑みで答えた女子生徒に、ほのかは満面の笑みで答える。

 

 

 非常口から講堂の裏口までは、20mあるかないか程度の距離だ。なるべく音を立てないようにしても、十秒あれば辿り着く距離だった。

 だが、神様とやらが本当に存在するのなら、雫はブン殴ってやりたくなった。

 

「キャッ!」

 

 裏口まであともう少しといったタイミングで、殿(しんがり)である雫の前で一人の女子生徒が大きめの石に躓いてしまった。

 

「ッ、誰だ!」

 

 転ぶ時のズサッという音に気づいた男たちが戻ってきて、銃口を雫たちに向けながら叫ぶ。

 転んだ少女を抱き起しながら、「ああ、終わったな」と思う雫だったが、二人の前に一人の少女が手を広げて立ちはだかる。一瞬誰だか分からなかったが、見上げれば髪と後ろ姿で分かった。

 

「何してるの、ほのか」

「どうして、そんなに平然と撃てるんですか!」

 

 突然のほのかの叫びに、男たちよりも雫の方が強く驚く。幼馴染として友達付き合いをしてきてこの方、内向的で気弱なほのかが怒ることはおろか大声を出すことなど片手で数える回数もあろうかというほどだ。

 どちらかと言えば、近所の犬に吠えられてビビるタイプだ。その彼女が毅然と自分の意見を言うことも珍しい。

 

「魔法師だからとか、自分たちとは違うからって、そんな理由で撃って、人を殺していいって言うんですか!? そんな、それじゃ――」

 

 きっと、この襲撃の可能性を、自分から危険に飛び込むことになると晶から聞かされていた時から思っていたのだろう。

 魔法師と非魔法師との待遇に対する差別撤廃を掲げる組織。だが、差別撤廃と叫びながら大の大人が人殺しの兵器と殺意を携えて高校生を殺す。

 それでは――。

 

「――差別を増長しているのは、貴方達のほうじゃないですか!」

「ッ!? このっ、小娘がァァ!」

 

 そう。たかが高校生を『得体の知れない魔法師(化物)だから』という理由で躊躇いなく殺す。これは、魔法が使えるか否かの点での差別の増長と言えるだろう。

 図星を突かれてカッとなった襲撃者たちは、三人とも照準をほのかに合わせた。

 三人分の殺意を一身に引き受けるほのかは膝を屈しそうになるが、負けるかと踏ん張って目を開く。心臓が早鐘を打ち呼吸も荒くなるが、それでも目を逸らすかと睨みつける。

 と。そんな緊張を叩き割るかのように、上方でガラスの割れる音がした。

 

「……飛矢?」

 

 思わず間の抜けた雰囲気の中、割れたガラスと共に落下する少年が誰なのか、すぐ分かった雫が呟く。

 自ら突っ込んでガラスを割ったのだろう、頭の上でクロスさせていた腕を戻して後ろに向き直る。そこでは、身の丈以上の大剣を担いだ男が窓縁を蹴って空中に飛び出した直後だった。

 

「へっへへ。ようやく捉えたぜ、空中じゃまともに動けねえよな?」

 

 不敵な笑みを浮かべた鷹は、手に握っているシルバー・ホーンから魔法を起動させる。鋭い弾丸タイプの『ニトロ・バレット』を大剣男の頭の周囲に十字に四発生成し即時発射させる。

 不可視の弾丸を大剣と空中での身のこなしだけでは躱しきれず、脳幹を二発の弾丸によって貫通された大剣男の四肢がダラリと垂れ下がった。

 ドスンと大剣男が地面に落下した後、「グエッ」と少々格好のつかない声とともに鷹が背中かから着地する。そして最後に、ガラスが地面に降って甲高い音が響いた。

 その間に鷹は、背中に加わった衝撃で全身を僅かに浮かせて手で押し出し、後方に一回転して足から着地した。よく見れば、どこかに捨ててきたのか眼鏡をかけていなかった。そのおかげで、近場であるほのかたちよ襲撃者たちもボヤけてよく見えていない。ついでに言えば、なぜか鷹を見てボーっとして頬が若干赤くなっている雫を誰も気づいていない。

 

「礼を言うぞ飛矢。お前のおかげで間に合った」

 

 そこへ、凛としたよく通る低い声。ほのかが今、と言うかいつでも一番聞きたい声が響く。

 三人まとめて回し蹴り一発で校舎の壁に叩きつけた晶は、一目散にほのかへ向かって走り、晶からともほのかからともなく抱きしめた。

 

「ごめん、ほのか。戻るのが遅くなった」

「……遅すぎだよぉ、バカァ。怖かったぁぁぁぁ……」

 

 今まで生きてきた中で一番の勇気を出した反動か、腰が抜けた様子のほのかが晶にもたれかかるように体重を傾ける。

 まだ一件落着ではないが、ウワンウワン泣き始めてしまったほのかの頭を優しく撫でる晶。

 

「ああ、そういえば。肝心なことをまだ言ってなかったよな」

「ヒック……。そうだっけ?」

「ああ、そうだよ。ほのか、俺はお前が――」

「居たぞ、コッチだ!」

 

 何か、とてもとても大事な(それこそ一生に関わりそうな)ことを言おうとした晶の言葉を、野太い大声が遮る。

 

「おい、シッカリしろ!」

「貴様、よくも仲間を!」

「三人まとめて蹴飛ばすなんざ、やっぱり魔法師は化け物だ! 生かしておくワケにはいかねぇよ!」

 

 どうやら、蹴飛ばされた三人の中の誰かが意識が残っていたようだ。無線で救援を呼んだのだろう。銃を持った男たちが十人以上の部隊でやって来た。

 

「……タカ」

「眼鏡無いせいでよく見えないけどよ、お前()から超全力で逃げたいから逃げていい?」

「むしろ急いで離れてくれ。理性を残すのが()()だ」

 

 

 もっぱら地声の低い晶だが、今は輪をかけて四音階くらい低くなっている。あと、よく見えないが右目あたりが髪の毛越しに光ってる気がして怖い。嘘偽りなく逃げたい。

 

「へっへへ、了解」

 

 それでも平静を装ってないと足が動かないだろうなと判断した鷹は、努めていつも通りの態度で接しようとする。

 

「おい、北山」

「しくじるんじゃないわよ?」

「俺を誰だと思ってんだよ」

「眼鏡無いせいで近くが見えない超弩級老眼野郎」

「テメェ、後でゼッテェ泣かす……!」

 

 どっちがどっちとか、どこへ行くとかの何の合図もなしだった。それでも二人は、雫が先頭でその次に転んでしまっていた女子生徒、殿は鷹でゴールは講堂の裏口という連携を確定させていた。

 

「……なぁ、北山」

「うるさいコッチ見るな老眼」

「おまっ、何回も老眼老眼言うんじゃねぇ!」

 

 鷹は殿として晶と襲撃者たちを見ているし、何より雫が先頭だから誰も彼女の表情を見れなかったが、基本的に無表情で口数も少ない北山雫という少女は今この瞬間においてだけ、明確に微笑んでいた。

 

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