It's impossible to love and be wise. 作:蒼鋼
キャラ崩壊も同様にお願いします……
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HRも終わり、予定されていた通りに11時までEからH組は各自自由に、AからD組は教員引率で校内の見学をすることとなった。
エリカの提案もあり、達也たちは達也・レオ・エリカ・幹比古・美月・晶・釼閣の七人で巡ることにした。
「さて。あらかた巡ったと思うが、皆は他に行きたい所はあるか?」
なぜか先頭になった達也が後ろの六人に聞く。
「アタシはもう十分かな」
「わ、私もです」
エリカが最初に答え、続いて美月が答えた。
「それにしても、達也の解説は凄かったな。なんせ、俺が専門分野以外の話を理解できたんだからな」
レオが達也の肩に肘を置きつつ賞賛する。
「そうか? 俺はただ、合格後に送付された入学案内に載ってた資料を話しただけだぞ」
「いや、あの資料に載っていない話も十分聞けたよ」
「ああ。かったるい先公の話の万倍は聞く価値があったな」
幹比古と釼閣も賞賛し、晶も首肯する。
「そ、そうか。ありがとう」
『そりゃコッチの台詞だ』
六人全員の視線に耐えかねた達也が頬をかきつつ礼を言うと、達也以外の六人が異口同音でツッコミ返しをした。思わず顔を見合わせると、エリカが最初に吹き出し、次第に全員が笑い声を上げた。
「はー、面白い。まさか全員で同じツッコミになるとは思わなかったな」
「全くだよ。僕と釼閣とエリカとレオはともかく、柴田さんは意外だったし、何か新鮮に感じられたな」
「あれ、俺は?」
「晶さんは何というかその、
「し、仕事人か」
「ち、ちょっとストップ美月。お腹痛い」
どうやらツボに入ったらしく、エリカがお腹を抱えて笑っている。
「折角だし、もう少しだけ残ってくれないか? 紹介したい人たちがいる」
もうすぐ11時になろうとしていたが、六人は問題ないと快くOKした。早速連絡を取ろうと達也が端末を取り出すと、丁度そのタイミングで達也の端末に電話が掛かった。
達也が迷惑がると予想したレオたちに反して、達也の表情は明るかった。
「もしもし。ああ、凄くいいタイミングだ。……な、失礼じゃないか? まぁ、冗談だが」
頬を緩める達也の背後で、エリカを筆頭としたプチ井戸端会議が始まった。
「ちょっと。今日の数時間だけしか見てないけど、達也くんがあそこまで表情筋を動かしたのって、今が初めてじゃない?」
「ああ。説明の時に混ぜるジョークじゃピクリともしなかった癖に、別人じゃねえかってくらいに表情豊かだぞ」
「もしかして、彼女さんでしょうか?」
美月の一言にレオとエリカが「……かもしれない」と小さく呟く。
「──ああ。それじゃ、実技棟の入り口にいるよ。また後で」
通話を終わらせたらしい達也が六人に振り返ると、レオとエリカがニヤケ顔で、幹比古と美月が興味アリといった表情をしていた。
「達也くんや、今の電話の相手は誰かな?」
「それは、本人と合流してから話す」
エリカのストレートな質問を、達也は通話前と変わらぬ無表情で受け流す。
「うわぉ、凄い豹変っぷり」
エリカもそれ以上は追求せず、六人は先を歩き始めた達也に付いて行く。
†
一行が実技棟の入り口に着くと、それから五分もしない内に一人の少女が小走りでやってきた。
「お待たせ~」
ボリュームのある黒髪を纏めることなく背中に流している小柄な少女は、彼ら全員にとって記憶に新しい人物だった。
「うっ」
エリカが体を強張らせながら身構えるが、彼女以外の
「思ってたより早く着いたんだな」
達也が以外そうな声を出しつつ少女に、真由美に缶コーヒーを手渡す。
達也とほぼ同時にいなくなっていた晶も一緒に自販機へ行っていたらしく、エリカたち五人に缶を手渡していく。
「た、達也。その、どうして生徒会長がここに?」
意外にも一番早く口を開いたのは幹比古で、それに答えようとした達也を遮るように真由美が先に答えた。
「入学おめでとう、皆さん。そして改めて初めまして。現生徒会長の七草真由美よ。それとも……遠くない将来の『司波真由美』です、って言った方がいいかしら?」
達也の腕に自分の腕を絡めつつ胸を押し当て、ウィンクをする真由美。
事情を知っていた晶と入学式での一件があったエリカ以外の四人は、全員が「えっ……?」という声とともにポカーンと口を半開きにしたまま数秒間呆けていた。あの釼閣さえどこかに気怠げさを忘れてしまっていた。
「フフッ、言っちゃった♪」
「真由美。初対面では刺激が強いんじゃないか?」
満更でもなさそうに、達也の声が若干甘くなっている。
晶も含めた全員が思ったが、それを口に出すことは出来なかった。二人と六人の間に越えてはならない壁を感じたからだ。
「達也。用件はバカップルぶりを見せつけるだけか?」
晶が咳払いをしつつ六人の一番前に踊り出る。視覚からの情報が遮断されたことで他の五人も落ち着きを取り戻す。
「いえ、それもありますが」
「あるのか」
「当たり前です。それと、深雪も紹介しておきたくて」
「……衛兵も、か? 止めておいた方がよくはないか。俺以外はお互いに初対面だぞ」
「あら、それなら私も初対面よ?」
「……七草先輩は色々と例g、んんっ。七草先輩は七草先輩ですから」
などと押し問答をしている内に、晶の奮戦虚しく深雪が真由美と同じ方向から歩いてきた。少し申し訳なさそうな顔なのは、A組の生徒が付いてきてしまったからか。
「お兄様、遅れてしまい申し訳ありません。それと、A組の人たちも来てしまいました」
「あっ、さっきの美少女!」
エリカが深雪を指差しながら少し大きな声を出す。
「おっ、さっき達也が言ってた妹か」
「そういえば、名字が同じだっけ」
レオの言葉で深雪の名字を思い出した幹比古が、達也と深雪の顔に視線を行ったり来たりさせる。
「あんまり似てない兄妹だな」
幹比古が言いにくそうにする横で、眠たそうな目の釼閣が気兼ねなくボヤく。
「よく言われる。だが、本当に兄妹だぞ。俺が四月で深雪が三月の生まれだ」
「へぇ。お袋さん、頑張ったな」
「そうだな」
レオが感心したように呟くと、達也が苦笑気味に答える。
そこで一区切り打つように達也が咳払いをして、深雪が達也と真由美の前に立つ。諦観の表情の晶が場所を譲り、深雪は五人にお辞儀をした。
「改めて、初めまして。司波深雪と申します。以後、お見知りおきを」
「宇練釼閣。こちらこそよろしく」
「西城レオンハルトだ。同じく、よろしくな」
「柴田美月です。こちらこそ、よろしくお願いします」
まるで示し合わせたように出席番号順に挨拶を返していく。
その様子を快く思わないのか、遠巻きに見ているA組の面々が顰め面で何かを言っている。しかしある程度の距離があるため、意味を持った言葉ではなくただのノイズとしてしか聞こえなかった。
少なくとも、美月には聞こえなかった。
「アイツら、言ってくれるわね」
「おう。言われっ放しってのは、ちと俺の性に合わねぇな」
「んな小言にイチイチ反応するなよ、怠い」
一方、エリカの目つきが鋭くなりレオがゴキゴキと指を鳴らす。だが、釼閣がそんな二人を面倒くさそうに窘める。
一科生の為に一瞬で険悪なムードになった一行だったが、それを覆したのも、また一科生だった。
「事前に聞いてはいたが、本当に大所帯になっているな」
「ヒュゥ、あれって七草会長じゃん。その隣はどちら様?」
達也から連絡を貰っていた衛兵が遅れて到着した。意気投合してそのまま行動を共にしていたようで、鷹も一緒にいた。
「衛兵!」
それまでは友達付き合いとしては十分な笑顔だった深雪が、満面の笑みで衛兵に駆け寄る。薄々と事態を察知したらしい鷹はそっと動いて幹比古たちの隣に移動した。
走った勢いそのままに衛兵の胸に飛び込んだ深雪。衛兵は衛兵で、左足を少し引いただけで他には体を動かすことなく深雪を受け止めた。
彼の厚い胸板に顔を埋めた深雪は、とても幸せそうな表情をしていた。
「……ところで、衛兵」
レオたちに再び衝撃が走ってから数秒後、深雪の纏う空気の体感温度が低下し始めた。それに伴い、深雪の笑みも冷たいものとなっていった。
「少々お話ししたいことがありますので、実技棟の裏へ参りましょう?」
「あ、ああ。わかった」
深雪に連れられ、衛兵は裏の林へ消えていった。
†
「えーと。とりあえず、初めまして」
衛兵が深雪に連れられて知り合いがいなくなった鷹は、まず初めに達也たち全員に向かって挨拶した。もとより気さくなレオを始めとして、その場にいた全員が彼を快く迎え入れた。
「それで達也は、何で正座させられてるんですか?」
先ほどまでのベタ甘から一転、人目も憚らず正座させられている達也を不思議に思ったレオが真由美に質問する。真由美の笑みもまた、深雪に負けず劣らず冷え込んでいた。桜吹雪に紛れ、忘れ雪が降りそうだ。
「フフッ。達也ったら、入学式のその日に女の子たちと仲良くなってるんだもの。それは一体、どういうことかなぁ? と思ってね」
(幹比古。あの人、本当に生徒会長なんだよな?)
(僕も同じ感想だよ、タカ)
遠巻きに見守っている鷹と幹比古が体を細かく震わせている。
「お二人とも、寒そうですが大丈夫ですか? もしかして、冷え性でしょうか」
天然なのか鈍感なのか、はたまた別の何かか。動じる様子のない美月が二人に声をかける。たったそれだけのことだが、二人は一気に自分たちの周囲の温度が上昇したように感じた。
「いや、もう大丈夫。ありがとう」
「柴田さんさえ嫌じゃなければ、しばらく近くに居てもいいかな?」
「ええ、構いませんよ?」
一方、エリカは自分に飛び火しないようにレオと釼閣の長身コンビの陰に隠れていた。
「さて達也。何か言いたいことはあるかな?」
その手に握られているCADにはすでに魔法が発動直前の状態で待機されている。まるで辞世の句を聞く執行官のように、真由美が達也にほんの少しの猶予を与えた。
「真由美、勘違いしていないか。俺は」
「俺は?」
「真由美以外の女に
至って大真面目に言った達也だが、彼の意志とは裏腹にレオとエリカ、釼閣、鷹の四人は彼らから顔を背けて口元を抑えていた。幹比古と美月は赤面して硬直しており、晶が唯一人だけ表情を変えていない。
「……達也ったら。仕方ないわね、今回だけだからね?」
頬を朱に染めた真由美は銃型CADの銃口の部分を上空に向けて待機させていた魔法を、固化ドライアイスの弾丸を発射した。
「今使ったのは『ドライ・ブリザード』ですよね?」
一連の工程を見ていた鷹が真由美に近づいて質問する。その様子は、答え合わせを求めている学生そのものだった。
「その通りよ。それじゃ、細かい解説もできるかしら?」
だから、先輩として真由美はプチ講義のつもりで続きを促した。
「はい。空気中の二酸化炭素を『収束』させ、『発散』で気体から固体に状態変化、固体への冷却過程で二酸化炭素から奪った熱エネルギーは『移動』で運動状態を書き換えて進行方向への運動エネルギーに、ですよね。ただ、以前と同じ発動時間なのに最後に『加速』の術式も追加さていませんでしたか?」
「満点の解答よ。よく加速まで気づいたわね」
「っし、ありがとうございます!」
嬉しさを全面に押し出して小さくガッツポーズする鷹。
「加速術式を加えると、以前なら発動まで三百ミリ秒の時間を余分に使っちゃってたからボツにしてたんだけどね」
CADを制服の内ポケットに仕舞い、正座を続けている達也に飛びついた真由美が不動の達也の頬をつつく。
「そこを、達也に協力してもらって起動時間を短縮したの。言わばこの魔法は『ドライ・ブリザード・Tカスタム』ね」
ウィンクまで決めた真由美が、面白いことを思いついたように握り拳を掌にぶつける。
「ところで飛矢君、得意魔法は?」
「一番得意なのは加速・加重です。ただ、結合・放射以外の系統魔法は特に苦手意識を感じていません」
「そう。丁度いいわ」
ビシ、と鷹を指差し真由美が宣言した。
「1年C組、飛矢鷹君。今日から君は私の弟子だ!」
「……へ?」
指名された本人が最も驚いていたことは言うまでもないだろう。
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