ハイスクールD×D~黒き主とその執事~   作:メロン

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第1話

静かな寝室に規則正しい寝息が微かに響く。

寝息の主は『シエル・ファントムハイヴ』、魔王から伯爵の位を授かり、冥界に自らの領地を構える貴族である。天使の様な寝顔をしているが、その実、彼は悪魔だ。

かつては人間だったが、女悪魔、『ハンナ・アナフェローズ』との契約により魂を悪魔へと変質させた。

彼の肉体は13歳のままだが魂の年齢はゆうに20を超えている。

 

 

静寂を破るように「コン、コン」とノックをする音が響く。

すると一人の美青年が入室する。

彼はファントムハイヴ家の執事長、『セバスチャン・ミカエリス』。シエル・ファントムハイヴに仕える忠実な執事である。

 

「坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ」

 

主であるシエルに声をかけつつ窓のカーテンを開ける。

窓の外には紫色の空が広がっている。

ここは冥界、悪魔や堕天使達の根城である。

 

「……もう朝か」

 

シエルが意識を覚醒させる。

 

「冥界の朝は未だに慣れないな……」

 

寝惚け眼を擦りつつ上体を起こす。

その間、セバスチャンは主のためにモーニングティーの用意をする。

形だけではない、本物の紅茶をだ。

 

「この世界にお慣れになれませんか?」

 

セバスチャンはそう問いつつ自らの主にモーニングティーを手渡す。

今日の茶葉はダージリンだ。あの独特の渋みが目覚めの一杯に相応しい。

 

「ああ、日光がないと朝がきた気がしない」

 

そうぼやきつつシエルは紅茶を一口飲む。

シエルは特段日の光を浴びるのが好きなわけではないがさすがに何年も浴びないと少しは応えるようだ。

 

「私の知る冥界より遥かに過ごし易いのですが……」

 

苦笑いしつつセバスチャンはシエルに冥界の新聞を渡す。

シエルは軽く目を通したがすぐにベッドの脇に放り投げる。今日の記事はお気に召さなかったらしい。

 その様子を受け、セバスチャンは先に今日の予定を伝えることにした。

 

「本日のご予定は、朝食後に午後2時までグレモリー邸にてグレモリー夫人とダンスレッスン。午後4時よりサイラオーグ・バアル様と製菓部門の新商品の打ち合わせ。夕食後は女性誌のインタビューとなっております」

 

シエルは玩具・製菓メーカーファントム社の社長である。領主と企業の社長を兼任しているため、ほかの貴族より毎日が過密スケジュールとなっている。

ここ冥界は娯楽が少ない。

そこに目をつけたシエルはグレモリー公爵から資本金を借り、かつて経営していたファントム社を立ち上げた。手始めに売り出したファントム社を代表するキャラクター、『ビターラビット』の商品が女性や子供を中心に大ヒット。

社会現象を巻き起こし、その功績から貴族の末席へと加わった。

 

「ダンスレッスンか……」

 

シエルは憎々しげに呟く。

 

「義母様が直々にご指導なさるのにお嫌ですか?」

「当たり前だ。まさか悪魔になってまでダンスがまとわりつくとはな」

 

シエルはダンスを最も苦手としている。人間だった頃はセバスチャンに千鳥足の円舞曲などと揶揄されたこともある。

近々若手悪魔の披露会があり、当然ダンスをすることになるのでダンスレッスンの時間を多めにとるようにしているが一向に上達する気配がない。

 

「こちらの悪魔はとても人間らしいですから」

「違いない」

 

そう言うとシエルは残りの紅茶を一気に呷り、ティーカップをセバスチャンに渡す。

セバスチャンはティーカップをワゴンに置くとシエルの着替えに取り掛かる。

主の着替えを手伝うのもまた執事の仕事である。

 

「まあ、紅茶を楽しめる分、あちらの世界にいるよりはマシかもしれないな」

「私もこちらに来て初めて食事の良さを理解しました。あの時坊ちゃんがお怒りなさったのも今では理解できます」

 

セバスチャンが同意する。

彼らは数年前、並行世界からこの世界へとやってきた。

彼らの世界の悪魔は人間の食べ物の味など分からない。

分かるのは魂の良し悪しだけだ。

元の世界にいた時は悪魔と化したシエルも味の判別が出来なくなったため、形だけの食事となっていた。

しかしこの、世界に来てからは二人の悪魔としての性質が変化し、味がわかるようになった。

 

 

最後にシエルの右眼に眼帯を付け、着替えを終える。

シエルはベッドから立ち上がり朝食を摂るために食堂へ向かった。

 

 

廊下の角に差し掛かったところでこの屋敷唯一のメイドに出会う。

 

「おっはよーございまーす、坊ちゃん!」

 

数年前に拾った猫又の黒歌だ。

自らの主を殺し、逃走中だったところを偶然居合わせたセバスチャンが確保。裁判にかけられたが情状酌量の余地ありとして保護観察処分となった。

確保したのがセバスチャンだということもあり、保護観察官としてシエルが任命された。体よく押し付けられたシエルは真面目にこなすのも馬鹿らしかったのでファントムハイヴ家付きのメイドとし、セバスチャンに全て丸投げした。

 

「お前は毎朝毎朝……よくも元気でいられるものだ」

 

あまりのテンションの高さにシエルはげんなりした。

黒歌は基本的に無愛想なシエルとは対極の位置にいる。物静かに過ごしたいシエルにとっては黒歌は障害以外の何物でもない。

魔王からの命令でなければすぐにでも放り出す気でいる

 

「坊ちゃんは元気なさすぎにゃ。……はは〜ん。分かっちゃった〜」

 

黒歌がニヤリと笑う。

こんな笑い方をする時はシエルにとって大抵よくない時だ。

 

「何がだ」

「ズバリ! 今日はダンスレッスンの日!」

 

ズババ〜ンと効果音が付きそうな勢いでシエルに指を突きつける。

図星を突かれシエルは「ぐっ……」と言葉に詰まる。

 

「ダンスなんてこう、ちょちょ〜とステップ踏むだけなのに」

 

そう言うと黒歌はセバスチャンの手を取り円舞曲を踊り出す。

突然の事にもファントムハイヴ家の完璧な執事は取り乱す事なくしっかり合わせる。

2人の舞いは芸術といっていいほどだ。

その姿を見てシエルは顔を曇らす。

 

「人間、得手不得手の1つや2つはある……」

「坊ちゃんは悪魔にゃ」

「うるさい! セバスチャン、早く朝食の支度をしろ!」

 

シエルの堪忍袋の緒もとうとう切れた。

怒声をあげ、ズンズンと食堂へ1人で進んでいく。

黒歌に弄られシエルがキレる。これがここ最近の館内の恒例行事になっている。

 

「今のは少々度が過ぎますよ、黒歌」

「にゃはは〜失敗失敗」

 

セバスチャンに窘められるもまったく懲りた様子を見せずに舌を出す黒歌。

 

「と・こ・ろ・で〜おはようのキスは?」

 

そう言うと黒歌はセバスチャンに向かって唇を突き出す。

 

「私、そういうことに興味ありませんので」

 

セバスチャンは清々しい程の笑顔でそう告げると食堂へと向かう。

 

「む〜、だったらこうにゃ!」

 

叫んだかと思うと黒歌は猫に化けてセバスチャンに飛びかかる。

するとセバスチャンはいきなり反転、大事そうに黒歌を抱き抱える。

 

「ああ、この艶のある黒い毛並み、気品のある顔、これ程までの美人に出会ったことがありません。あなたに出会うことが私が生まれた理由だったのでしょう」

 

頬擦りまで始めた。

セバスチャンは他人に興味がない。

シエルに仕えているのもあくまで契約のせいであり忠誠心は一切ない。

しかしこと猫科の動物に関しては別である。

 

「そ、そんなに褒められると照れるにゃあ〜」

「いっそこのまま猫のままでいてくれませんか?」

 

その言葉に黒歌はカチンときたのかセバスチャンの手を噛み、腕の中から抜け出す。

すぐに人型へ戻ると私怒ってますとアピールし始める。

 

「それじゃ私が猫以外価値がないみたいじゃない!」

「そう言っているのですが」

 

何を当たり前のことをといった風にとぼけた顔でセバスチャンが返答する。

 

「お、乙女心をなんだと」

「セバスチャン、早くしろ!」

 

反論しようとしたところ、シエルの怒声にかき消される。

 

「坊ちゃんがお怒りなので失礼します」

 

黒歌は言い合いすらも楽しんでいる節がある。

いちいち口論するよりも逃げるのが一番効果的なのをセバスチャンは理解しているのだ。

 

「話は終わってな〜い!」

 

黒歌の叫び声が廊下に虚しく響き渡った。

 

 

食堂内ではかちゃかちゃとナイフとフォークの音だけが響く。

 

「まったく、なんなんだアイツは」

「言われたことをしっかりこなせる分バルド達よりはいくらかマシです」

 

人間だったころ、元いた世界では3人の使用人を雇っていた。

やり過ぎる料理人とド近眼のメイド、そして仕事をまともにこなせない庭師。

セバスチャンの言う通り性格さえ除けば仕事ができる黒歌のほうがマシだろう。

 

 

2人で黒歌についてあれこれ言っていたら急にノックの音がした。

3人しかいない屋敷でノックする者など一人しかいない。

 

「……入れ」

 

黒歌は扉を開けると一礼してから入室する。

シエルは下らないことだったら許さんと視線で告げる。

が、黒歌は普段の雰囲気は潜め、いつになく真剣な表情をしている。

 

「大公アガレス様よりお手紙が」

 

そう言うとシエルに手紙を手渡す。

別に彼女はシエルを敬っていないわけではない。

結果論とはいえ、自分を地獄から引き揚げてくれたことには感謝しているし、今のメイドの待遇にも満足している。いつでも妹である白音に会えるし給料も悪くない。文句を挙げるとすれば思い人が振り向いてくれないことぐらいだ。

 

「セバスチャン、読め」

 

受け取った手紙をセバスチャンへと手渡す。

 

「駒王町にはぐれ悪魔が逃げ込んだようです。その討伐をなさるようにと」

「今日の予定は全てキャンセルだ。駒王町に向かうぞ」

「承知しました。黒歌、列車の手配を」

「了解にゃ!」

 

黒歌が敬礼し、外へと駆け出す。

妹に会う機会ができたことが余程嬉しいらしい。

その様子にシエルは溜息を吐く。

 

「リアス様にご連絡は?」

 

セバスチャンが尋ねた。

シエルは世話になったグレモリー家に色々と便宜を図っている。

人間界で学びたいというグレモリー家の息女のために自らの領地に学園を建て、通わせているのもそうだ。

ついでに駒王町の代理統治を押し付けた。

だが、はぐれ狩りのような大事にはシエル自らがでるようにしている。

 

 

「任せる」

 

シエルが立ち上がるのに合わせてセバスチャンがシエルの椅子を引く。

 

「狩りの時間だ。行くぞ、セバスチャン」

「御意(イエス)、ご主人様(マイロード)」

 

セバスチャンは恭しく礼をした。

 

 

 

 

 

 

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