夜神月「デアスノテ。直訳で分からない」   作:ルシエド

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訴訟も辞さない(迫真)

 ガチャリ、とLの新たな拠点のドアが内側から開かれる。

 内側から開いたのは死神・レム。

 外から入って来るは新世界の神・夜神月。

 ミサのことを引き合いに出されたレムは、こうして月にいいように使われていた。

 Lの新たな拠点の弱点……『壁をすり抜けられる死神には無力』という点を突くために。

 

「いいぞ、夜神月」

 

「いいぞ?」

 

「……どうぞ、お入りください」

 

 月は腕時計に仕込んだ六法全書を取り出し、振り下ろす。

 

「ご苦労。お前はもう用済みだ」

 

「ひでぶっ」

 

 そしていいように使っていたレムの頭蓋骨を陥没させた。

 死神に通常の武器は通用しない。ならば六法全書の一撃も通用しないのか?

 否。断じて否だ。

 本来の法の裁きは物理攻撃ではない。目には見えない罪を裁く、目には見えない鉄槌だ。

 なればこそ、レムの死は当然と言えよう。

 

(夜神月……

 神を顎で使い、神を殴り殺すとは……神を超えている……)

 

 レムは死して砂になる。その砂を踏み越え、月はLの拠点へと踏み込んだ。

 二階から十九階までのフロアを通る時間も余分だ、と考え、月は一階から二十階まで一歩で移動する。途中にあるセキュリティは無視し、この施設を掌握しているワタリを探し始めた。

 そしてワタリを発見し、その背後からノータイムで六法全書を振り下ろす……が。

 六法全書はワタリの体をすり抜ける。

 

「残像でございます」

 

「その僕も残像だ」

 

「!?」

 

 ワタリは残像を残して移動、六法全書の攻撃をかわして月のうなじに手刀を突き刺した。

 だが、誰が予想できようか。六法全書を振り下ろした月が残像であり、その月に攻撃を仕掛けたワタリの脳天に、既に六法全書が振り下ろされていたなどと。

 頭脳戦は月の勝利。ワタリの頭蓋骨は、無残に陥没していた。

 

「不覚……! 残像に、残像、とは……!」

 

「二手三手先を考える頭脳が足りなかったな」

 

 月は隣の部屋にLの気を感じ、部屋から部屋へと空間跳躍。

 六法全書のケースを鞘に、六法全書を刀に見立てた抜刀術にてLの頭蓋骨を陥没させる。

 その技量はまさしく神業。反撃を許さぬ先の先の完成形。

 宮本武蔵の剣技を彷彿とさせるほどの、美しき一撃であった。

 

(……夜神月……)

 

 竜崎は声を上げる間もなく倒れ、死にゆく身で自分を殺した下手人の顔を見る。

 そこには、とてつもなく悪い顔をした月が、Lをバカにする気持ちを目に浮かべながら――m9――笑っていた。

 

(! やはり……私は……間違ってなかった……が……ま…………………………松田の馬鹿……)

 

 かくして、宿命の対決における勝者と敗者は決定される。

 

(これで邪魔者は全て消えた……来る! 新世界!)

 

 月は異常を察知した父達が駆けつけてくる足音を聞きながら、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、一週間ののちに『私が死んだら夜神月がキラです』というLの遺言が公開された。

 

 死者の遺言は全てにおいて優先される。

 

 夜神月の緊急逮捕が行われ、彼はキラの正体として裁判所に立たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺言状は絶対である。

 それは探偵が一番良く知っていることだ。遺書がちゃんと残されてれば、起きなかった遺産目当ての殺人事件がいくつあったことか。

 遺書イズ大正義。遺書と逮捕状は同義と言ってなんら差し支えない。

 逮捕時に月がキラであるという証拠は特になかったが、逮捕後に彼からデスノートなどの証拠品が押収されたことで、月は死刑コース一直線だった。

 

「クックック、ブザマだなライト」

 

「まったくだ。僕は目撃証言も、状況証拠も、物的証拠も一つも残してないというのにね」

 

 月は簀巻にされて裁判所の一室に放り込まれ、自分を嘲笑するリュークを見上げるように睨んでいた。こいつも面白かったがここまでだな、とリュークは自分のノートを取り出す。

 

「流石のお前もチェックメイトか。

 なら俺が俺のノートにお前の名前を書いて……」

 

「何を勘違いしてるんだリューク? 僕のターンはここからだよ」

 

「ほう? だが逮捕されて裁判にかけられてるお前に何ができるんだ?」

 

 だが、自分のノートを警察に確保され、自分がキラであるという証拠をあらかた固められたこの状況で、夜神月はニヤリと笑った。

 その笑みに何かを感じ、リュークはノートに月の名を書く作業を止める。

 

「僕はデスノートのルールを知った後、悪の排除を続けようと考えた……

 それは自分には警察が動いても戦えるというひとつの自信があったからだしね」

 

「ひとつの自信……?」

 

「まあ、見てるといいさ」

 

 月は簀巻きにされた状態で呼ばれ、足首だけを動かしてささささっと裁判の場に向かった。

 

 

 

 

 

 夜神月の秘策。

 その名を『刑法第39条』と言う。

 

「夜神月。発言をどうぞ」

 

「僕はデスノートのせいで当時心神喪失状態にありました」

 

「な、なんだってー!?」

 

 刑法第39条・心神喪失者の行為は、罰しない。

 つまり、"人を操作し記憶を奪うデスノートの悪影響によって夜神月は正気ではなかった"という主張のゴリ押しである。

 

「デスノートの所有と放棄で記憶障害が起こることは、検察側により立証されています」

 

「マジかよデスノート最低だな」

「夜神月もまた、デスノートに踊らされていただけの被害者だったのか……」

「俺、渋井丸拓男。略してシブタク。へへ……付き合ってよおねーさん」

「デスノートが悪いんやな……悲劇やな……」

 

「弁護側の我々としては、当時被告人が正常な精神状態であったとは言いがたいと主張します」

 

「魅上検事、弁護側の主張は真実なのでしょうか?」

 

「はい。デスノートには、人間の精神を正常でなくする作用があることは事実です」

 

 当時月が正気であったという証拠はない。だが当時正気でなかったという証拠もない。

 普通ならば通らない主張だろう。

 普通なら。

 

「夜神月には当時正常な判断力がなかったのです。

 デスノートには人間の精神に悪影響を与える可能性が示唆されています」

 

「むぅ……これは無罪もありえますね」

 

 だが今日この裁判所には、"夜神月の味方ばかり"が集まっていた。

 

(検事は僕の手の者・魅上照。

 当然弁護士は僕の味方。これで負けろという方が無茶な話だ)

 

 検事の席では魅上が親指を立てている。

 弁護士の席では雇った弁護士が親指を立てている。

 裁判長の席では札束を握った裁判長が親指を立てている。

 傍聴席では月に丸め込まれて月の無実を信じている松田も親指を立てていた。

 

(加え、ミサを使えば、裁判長も弁護士もデスノートで好きなように操れる。

 無罪判決を取ることなんて、ケツの毛を毟るよりもはるかにたやすいことだ)

 

 六法全書に刑法39条。

 彼の武器は一貫して(ルール)であった。

 だがここまで有利な状況があるならば、自分を守るための嘘のルールを作る必要すらない。

 

「では、判決! 無罪!

 閉廷! 解散! 帰宅!」

 

 夜神月は『ルールという存在を最大限に活用する』点において、まさしく神の域に居る。

 

(デスノートは―――責任能力があったという事実ですら、殺せる! これが神の力だ!)

 

 キラが法となる暗黒の時代へ、世界は向かいつつあった。

 

 

 




次で最終回です

次回、「夜神月死す」。デュエルスタンバイ!

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