木の葉を照らす朝日   作:燐黒龍

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第10話 抵抗

三代目火影は変わり果てた里の中心で忍たちの指揮を取っていた。

 

数刻ほど前、妻であるビワコが息を切らして自分の書斎に飛び込んできた。

彼女は少々乱暴なところもあるものの、基本的に部屋に入る前のノックなどは欠かさない。それさえもせずに飛び込んできた、それだけで幾つも死線をくぐり抜けてきた三代目火影はクシナの出産が失敗したことを悟った。

 

 

ビワコの言っていた面の男。

情報規制、結界の術式に至るまで侵入者が出る可能性はほぼゼロにしたはず。

内部からの侵略もないだろう。出産の準備には三代目である自分自身も四代目も参加した。ほころびを見逃すはずなどない。

 

と、いうことは。木の葉の最高機密である結界を突破し、二代目以上と言われる四代目も凌ぐほどの時空感忍術を使い、九尾の封印が弱まるタイミングも知っていたということは。

 

 

「うちは……マダラなのか?」

 

 

60年を生きた自分が物心ついた頃から伝説と伝えられていた忍の1人、うちはマダラ。

その人物と対等に戦ったもう1つの伝説としては、三代目の師である初代火影がいる。

初代火影は三代目が出会った中でも最強の忍だ。今でこそ自分自身はプロフェッサーと呼ばれ、里の秘伝忍術すべてを扱えるがゆえに歴代最強と呼ばれているが、初代には遠く及ばない。初代、二代目、四代目、そして自分自身……すべてを知っている自分だからこそわかる。歴代最強は初代火影千手柱間だ。あの領域はもはや忍というより神に近い。その初代と対等に渡り合ったうちはマダラ、彼ならば歴史の常識、人の常識を超えて生きている可能性は十分にありえる。

 

 

「三代目!」

 

部下の自分を呼ぶ声によって思考から現実へと戻された。

 

「アサヒ様が……!」

 

目の前の部下は四代目直属の暗部の1人である。その彼が声色を変えて九尾を指さした。

 

「なに!?」

 

指さされた方向。巨大な狐の鋭い指先。そこに壊れた玩具のように赤い髪をした少年が貫かれ、振り回されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い、痛い、痛い

 

なんでこんなに痛いの?

 

誰だっけ。俺をこんなふうににしたのは。

 

そうだ、あのクソギツネだ。図体でかいくせにバカみたいに暴れやがって。

 

なんであんなのと戦ってんだ俺。あいつが出てこなけりゃ父さんと母さんと夕食を食べてる時間だってのに。

 

ああ、そうだ、あいつと戦わなきゃ父さんが死んじゃうんだ。俺のたった1人の父さん。死んじゃうなんて嫌だ。自分が死ぬよりも嫌だ。

 

だから、あのクソギツネを、殺さなければ。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三代目は、目の前の光景が信じられなかった。先刻まで自分でさえ動きを止められる気がしなかった化物が動きを止めたからである。

いや、動きを止めたのではなく、止められた。それも若干6歳の子どもによって。爪の先にいる少年、正確には爪に貫かれている少年から伸びるチャクラの鎖に九尾は捕らえられていた。

 

今だ。今しかない。そう直感し三代目は指を噛み、印を結んだ。

 

━━━━口寄せの術!

 

「なんだ、猿飛。ありゃ九尾か……また面倒なところに呼び出してくれたな」

 

「そう言うな。お前の力が必要なのじゃ。とりあえず九尾が動きを止めている今のうちに里の外へ押し出したい。金剛如意を頼む」

 

「わかった━━━━変化!」

 

そう言うと老猿は伝説上の武器である如意棒に変化した。

 

「伸びよ!!!」

 

三代目が如意棒を持って叫ぶと同時、如意棒は1キロメートル以上の長さに伸び、九尾の腹を貫くが如く勢いで里の外へと押し出した。

 

武器への変化は人間でも陽動としてよく行うが、武器自体の特性━━━つまり切れ味や硬さなど━━━を再現できる術者は多くない。ましてや伝説上の武器の性能をそのまま再現できる変化を使える者など、目の前の猿魔を含めこの世に数えるほどしかいないだろう。

 

 

「さて……ここからが正念場じゃな」

 

 

九尾は里から出した。しかしここからどうするか。九尾を殺すことは限りなく不可能に近い。犠牲も多く出るだろう。それに木ノ葉隠れ唯一の尾獣を失えば各国のパワーバランスが崩れる。九尾は絶対に人柱力、または一時的な封印によって管理下におかなければならない。

 

 

九尾は未だにチャクラの鎖によって捕らえられ、もがいている。

ここで三代目は小さな、しかし重大なある異変に気づいた。しかしその異変に気づくと同時、九尾を縛っていた鎖は引きちぎられ、爪に貫かれていた少年は蹴りあげられた小石のように吹き飛ばされた。

 

「三代目様!」

 

ここで先程まで里の中心部で九尾と戦っていた忍達が追いついてきた。三代目はその忍達に指示を出す。

 

「皆の者!九尾は大分弱っておる!大技で畳みかけるのじゃ!」

 

指示を出すと同時に熟練の忍達は自分の持つ最高火力の忍術の印を結び始めた、三代目は吹き飛ばされていった四代目の息子のことが気にかかるも、ここで仕留めるのが先決と判断し封印術の準備をし始めた。

 

 

瞬間、チャクラが舞い踊った。異質な黒と白のチャクラ。そのチャクラはある所まで浮遊すると、目の前の九尾の口元へと舞い戻り、凝縮されていった。

 

 

凝縮されるより数瞬早く、忍達の忍術が発動した。

 

劈く風

 

爬行する雷

 

侵食する炎

 

発動させた忍者達は、一瞬だが自分達の勝利、という言葉が脳裏をよぎった。

 

しかしその希望は九尾の口からチャクラの玉が射出された瞬間に脆く砕け散った。

 

 

「(俺達の忍術が……全て押し負けているのか!?)」

 

自分達の最強忍術が尽くなぎ払われる。この絶望感をなんと表現したらいいか。三代目を含め、忍達は高密度のチャクラが炸裂する光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか、間に合いましたね」

 

三代目が瞑っていた目を開けると、砂煙の中、目の前には「四代目火影」と銘打たれたマントを羽織った青年がいた。

 

「すまぬミナトよ……どうやら実戦のカンが鈍っていたようじゃ、危ないところだった」

 

「いえ、逆にこの程度の被害で済んでるのは奇跡的です。とりあえず今は目の前のアレを何とかしましょう」

 

 

この男は。と三代目は思った。

 

この男は、もう妻の命が助からないと知りながら、それでも里を守るために命を賭そうとしている。

 

この男を火影にしてよかった━━━━そう思った瞬間、三代目は叫んだ。

 

 

「ミナト!」

 

 

ミナトの死角にいつの間にか謎の男が立っていた。

 

 

「お前の相手はこっちだ」

 

そう男の低い声が響いた瞬間、目の前の空間が捻じ曲がった。

 

ミナトの身体がその空間の渦に飲み込まれる寸前、ミナトの身体は一瞬で消えた。

 

四代目得意の飛雷神の術だ。ならばと三代目は如意棒を振りかぶり、目の前の男へと振り下ろした。

 

「三代目火影……流石の判断の速さだ。しかし一手遅い」

 

そう男は言ったが、三代目は構わず如意棒を振り下ろす。しかし来るはずの手応えがなかった。

 

「火影2人の相手は流石にキツイからな、お前は俺のペットと戯れているといい」

 

そう言って仮面の男は後ろに飛んだ。男が地面に降り立つ前に空間は捻じ曲がり、仮面の男は空間の渦に飲まれるようにして消えた。




次はいつになることやら

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