いつもと変わらない夜であった。そこにはもう出産間近でお腹を大きくした母がソファーに座っていた。父はいつも通り自室にこもって仕事をしていた。
「ねえ、いつ生まれるの?」
母に聞いた。純粋な疑問であった。胸の奥に引っかかる九尾のことはあるものの、純粋にいつ生まれるのかが気になったのだ。
「そうねぇ、もう明日にも生まれてもおかしくないかもね」
母は落ち着いた口調でお腹をさすりながら言った。たまに出る妙な語尾はない。
「そんな呑気で大丈夫なの?そろそろ入院とかしなくちゃ……」
出産のことについてはよく知らない。だがもう見るからに生まれそうだ。いつ産気づいてもおかしくないんじゃないかと心配になる。
「大丈夫よ、いざとなったらミナトの術もあるしね」
確かにその通りだ。飛雷神の術なら母に衝撃をあたえることなく移動できる。全くよくできた術だ。
俺はそっかと言って父の持つ時空間忍術の本でも探そうと目を本棚に向けた瞬間、爆発音のような、しかしそれにしては小さい音が母のいた方向から聞こえた。
「は?」
俺が目線を元に戻すと、そこにいたはずの母はおらず、ただ分身系の術が溶けた時特有の煙がただよっていた。
俺は一瞬呆けた後、父さんの部屋に向かって走った。
「父さん!」
半ば蹴り破る勢いでドアを開けた。しかしそこには父はおらず、作業中の書類がいくらか散らばっているだけだった。
なんだ?どういうことだ?わけがわからない。なぜ2人とも消えた?
「パニクるな、俺。こういう時こそ冷静に。今わかってる情報を整理して組み立てろ」
俺は深呼吸した。これはイタチから学んだことだ。俺は完全に予想外のことが起こるとパニクってしまうことが多いらしい。
「『落ち着くためのトリガーを作った方がいい』か。全く……役に立つことを教えてくれる」
俺はそのまま今わかる事実を頭の中で整理しはじめた。
「うああああああああーーーーーーーッッッッ!!!!!!痛いってばねーーーーーー!!!!!!」
ここは火の国でもたどり着くことのできる者はほとんどいない場所、入り組んだ森の中にある洞窟である。この森には昔九尾が暴れたという言い伝えがあり、森には今でも九尾のチャクラのうねりがある。だから感知タイプの忍であろうともそのチャクラに集中を乱され、たどり着くことができない。唯一最高機密としてこの森の地図を持つ火影とその従者のみが迷わずにここまで来ることが出来るのだ。
そんな人の気配も動物の気配もない森に、女性とは思えないほど大きな、女性の悲鳴が響き渡った。
「そんなに騒ぐなえ!アサヒの時に経験してるじゃろ!」
三代目火影の妻、ビワコが厳しい言葉を投げかけながらもクシナを励ます。
「でも〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!ガマンしろっていう方がムリだってばね〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」
泣きそうな声でクシナは答える。そしてそんな中、四代目火影であり、クシナの夫であるミナトは周囲を警戒しながらソワソワしていた。
「ミナトもなにをやっておるのかえ!もうすぐに生まれるからさっさと九尾封印の準備をせんか!」
そう言うとミナトはハッとしたように我に返り、封印の術式が浮かび上がったクシナの腹に手をかざした。
「クシナ、もう少しだ。もう頭ほとんど出てるから。頑張って」
周りの警戒は解かないが、優しい声で励ました。
「前よりは狼狽えてないみたいじゃな。ほら!もう生まれるえ!お湯を持ってこい!」
そして助手として控えていた暗部のタジがお湯を持ってきた瞬間、元気な産声が響き渡った。
「生まれた……!」
その声は誰のものだったか。ただ、終わったという安堵から自然に漏れた声であった。
「さあ、クシナ、封印にとりかかるよ」
封印を早く済ませなければ。そう思っていた。
しかし悲鳴は突然に響き渡った。
「くっ!」
ビワコが毛布にくるまれたナルトを抱きながら足でブレーキをかけるようにこちらに滑ってきた。
「誰だ!」
ミナトはビワコの飛んできた方向に叫んだ。その奥から人影は足音を立てながら近づいてくる。
「流石は三代目火影の妻といったところか……完全に不意を突いたと思ったのだがな」
その声の主は奇妙な渦巻き模様の面を付けた男だった。
「ビワコさま。アイツはどこから?」
「わからぬ……気配もなく突然に現れた。相当の使い手であることは確かだえ。アチシも警戒していなかったら今頃あそこで倒れているタジと同じようにやられていたところだえ」
「警戒だと?俺が来ることがわかっていたのか?」
若干。ほんの少しであるが男の声に強張りが生まれた。ただそこで隙を見せないあたり、相手の力量の高さがうかがえる。
「さあな。アチシの隣にいる四代目火影にでも聞いたらどうだえ。アチシはこやつが明らかに何かに備えていたようだから警戒していただけのこと」
若干の沈黙。その後に仮面の男は言葉を発した。
「まあそんなことはどうでもいい。ここに来た目的を果たさせてもらおう」
そう言うと男の仮面の穴から渦が発生し、忽然とその場から姿を消した。
(これは……時空間忍術!)
ミナトが敵の術を理解したとほぼ同時に、ビワコの背後の空間が歪んだ。
「そうはさせないよ!」
ナルトを抱えたビワコの身体に手を触れ、ナルトごと木の葉隠れの里まで飛雷神の術で飛ばした。しかし空間が歪んだ場所に仮面の男は現れない。
(狙いはクシナか!)
そして男がクシナの隣に現れた一瞬後に、ミナトもクシナの封印式に組み込んだ術式へと飛んだ。
「流石は四代目火影。オレのスピードについてこれるのか。だが……」
ミナトがクナイで男へと切りかかり、その切っ先は男の身体を捉えた。
はずだった。
「一手遅い」
ミナトの攻撃はミナトの身体ごと男をすり抜けた。
(……すり抜けただと!?)
想定外の出来事に少しだけバランスを崩す。
「九尾は預からせてもらおう」
仮面の男はクシナに手を触れ、直後、また男とクシナの周りの空間が歪んだ。
「くっ!待て!」
「ミナト━━━━子どもたちを、お願」
妻の言葉は途中で途切れた。
「クソッ!」
「四代目火影……お前は何も守れずに終わる……これから起こること全てを指をくわえて見ていろ」
男はそう言うと、時空間忍術によってその場から姿を消した。
(くっ……一番恐れていたことが起こってしまった……クシナの術式に飛ぼうとしても飛べない。おそらくあの男の時空間内にいるからか)
相手の時空間内にいる以上、すぐにクシナを救い出すことは不可能である。時空間とは無数にあるので、その中から特定の空間を探し出すことなど広大な砂漠から金1粒探し出すようなものだ。
しかし言葉は途切れてしまったものの、妻の願いは確かに聞こえた。
━━━━子どもたちをお願い━━━━
もしこれで子どもたちに何かあれば、妻が帰ってきた時に顔向けができない。おそらく一生許してくれないだろう。クシナはそういう
そうなればまずしなければならないのは先ほど木の葉へ飛ばしたビワコとナルトの安全の確認と、アサヒを探し出し安全な場所に移すことである。
ミナトはそう決めて、飛雷神の術でその場から姿を消した。
文字数少なくて申し訳ありません。キリがよかったのでとりあえずここまでです。
戦闘描写は初めて書いたのですがちゃんと書けてるのかな……
もっと読んだだけでその場面が想起できるような表現力がほしいです。
ヒロインの構想は立ちましたが、登場はもう少し先ですね。