「ここは……木の葉の里かえ?」
ビワコはあたりを見回しながら呟いた。だき抱えているのは先ほど生まれたばかりの赤子。他ならぬ四代目火影の息子である。
先ほど、突然現れた謎の男が目の前から消えたと思ったら一瞬で自分の周囲の景色が変わった。おそらく木の葉の里であるところを見ると、あの男にナルトと自分が攻撃されることを危惧したミナトが飛雷神の術でここまで飛ばしてくれたのであろう。
(それにしても……あの男……一体何者だえ?)
あの森には何人たりともたどり着けず、しかも出産場所の周りにはミナトの進言で感知結界を含めた三重の結界まで張り巡らせていたというのに、何の気配もなくあの場所まで侵入してきた。これは異常だ。そんなことはプロフェッサーと呼ばれる我が夫、三代目火影を持ってしても1時間はかかるであろう。
「とりあえず……この子を安全なところへ……」
そう言ってビワコは三代目火影邸へと歩き出した。いま思い当たる一番安全なところはあそこしかない。仮面の男の目的がクシナなのかナルトなのか、はたまた別の何かなのかわからない限り、今できることはこの赤子をできるだけ安全な場所につれていくことだけだ。
そうして歩き出した瞬間、目の前にミナトが現れた。
「ビワコさま!無事ですか!」
「ああ、オヌシのおかげでなんとかな……クシナはどうしたえ」
ビワコが問うと、ミナトの表情に陰がさした。
「申し訳ありません……攫われました」
「やはり敵の目的はクシナの中の九尾だったようじゃな。早急にチームを編成して取り返しにいかなければ」
「いえ、それは待ってください」
「なぜじゃ!?事は一刻を争う!もし九尾の封印が解けでもしたら……」
「クシナに言われたんです」
碧い目がまっすぐこちらを見据えながら言う。
「子どもたちをお願いって」
ビワコは何も言い返すことができなかった。こうなった男はもうどうやったって動かない。女の勘がそう告げていた。
「それにチームを派遣したところで瞬殺されるのが関の山でしょう。現に三代目火影の妻であり優れた忍である貴女が奴の時空間忍術についていくことさえできていなかった。あの男に対抗できるのは僕だけです」
ミナトの言うことは最もである。たしかにミナトがいなければ自分はあの場で死んでいた。この男は妻を攫われても冷静な状況分析ができる。これが彼を強者たらしめている理由の一つである。
「じゃあこの後はどうするつもりかえ?」
「とりあえず僕はナルトを僕の家まで運びます。あそこなら既に結界を張ってあるので一番安全でしょう。ビワコ様は早急に三代目にクシナのことを伝えてください。家の近くまでは僕が飛雷神で飛ばします」
「わかった。じゃあナルトは確かに引き渡す。あとは頼んだえ」
そう言って抱いていたナルトをミナトに預けた。先ほど生まれたばかりの赤子はこの非常事態にも関わらずすやすやと寝息を立てている。
「はい!ではビワコ様、飛ばします」
そう言ってミナトは手を触れると、ビワコの目の前の景色が一瞬で反転した。
「クソッ!なんだったんだアレ!」
俺は木の葉の里を三代目火影邸に向けて走っていた。なんか家を飛び出す時に見えない壁にぶつかったけど、手をかざして集中したらなんかすり抜けられた。なんだったんだ?
でもとりあえず父さんと母さんがいなくなった理由を知るためには、三代目の爺さんに聞くのが一番手っ取り早いと思ってその方向へ走っている。
そして突如
爆発音が響いた
「クソッ!今度はなん……だ……と……」
目の前には、一番恐れていたものがいた。
「九尾!?」
木の葉の家々を覆うほどの巨体、朱い毛並み、九本の尾を持つ狐。俺の目の前に伝説に語られる災厄の化身がいた。
九尾は身体を仰け反らせるように天を劈く咆哮を上げると、周りの家、道路、人、見境なく壊し始めた。
それを呆然と眺めていると、人々がこちらに向かって悲鳴を上げながら走ってきた。
「なんだ!?アレは!!?」
「とにかく逃げろ!」
「俺の家が!!!」
「待って!まだ家に赤ちゃんが!!!」
「もう助からない!家の下敷きになったんだ!戻ったら全員お陀仏だよ!!!」
混乱する者、恐怖に怯えて逃げ惑う者、置いてきてしまった家族のことを嘆く者、様々な者がいた。
その内に、九尾は里の中心部に向かって進み始めた。
(まずい……あっちにはイタチの家がある。でも俺にアレが止められるのか?いや無理だろ。だって父さんがナルトに命懸けで封印してやっと収まったようなやつだぞ!?他の忍たちも九尾制圧に動き出してる。大丈夫だ)
見ると、里指定のベストを着た中忍以上の忍たちが九尾の方向に向かっていくのが見えた。本来ならばアサヒも逃げなければマズイ。いつ九尾が心変わりしてこちらに来るともわからないのだから。
しかし、脚は動かなかった。恐怖に竦んだわけではない。でも、動かなかった。
「俺は命をかけてもコイツを守りたい」
目の奥に、イタチが優しく腕の中にいる赤子に微笑んでいる光景が浮かんできた。
なぜだろうか、その微笑みはひどく懐かしいように思えて、俺の心を揺さぶった。もう一度九尾を見ると目の奥がツーンとして、脚はいつの間にかあの化け物の方へと走り始めていた。
胸がキュウッと締め付けられるようだ。アレに勝てるか?いや無理だろうな。せめて少しでも時間を稼ぐんだ。クソが、こんなはずじゃなかったのにな。
九尾はその巨体ゆえか、歩み自体は速くなかったため、アサヒはすぐに足元へとたどり着いた。
「おい!クソギツネ!テメーの相手はこっちだ!」
声を張り上げる。しかし九尾は四方八方から攻撃してくる忍たちを薙ぎ払い、破壊の限りをつくすことしか考えていないようで、アサヒに気づくことはなかった。
クソ、これじゃあダメだ。九尾は忍たちの攻撃を嫌がってはいるけど全く効いてない。顔の周りを飛び回ってるハエをたたき落とすような感じだろうな。
奴をイタチの家に進ませないなら俺がすべきことは別の方向に奴の顔を向かせること。そのためには俺の今できる最大最高火力の術を奴の顔に横からぶち込むしかない。
「(迷ってる暇はない、やるしかないんだ!)」
━━━━風遁・風塵の術!
俺は九尾のちょうど斜め後ろから九尾の頬にあたるように術を放った。ドンという音がして、九尾がこちらを向いた。
マジか、全力の風遁で毛並みを荒らすことくらいしかできないのかよ。俺の風塵の術は大岩1個を1回で粉々にする威力だぞ?あの身体どうなってんだよ。
そんなことを考えていると、九尾がこちらに向かってきた。作戦は成功したはずなのに、俺はこの時ひどく後悔をした。
━━━━怖い、あんなの無理だ━━━━
九尾の殺気がこちらを向いた瞬間、それを悟ってしまった。抗いようのない大きな力。あんなの無理だ。もう逃げられない。どうしようどうしようどうしよう━━━━
思考が回る。回る回る回る。
しかしその思考は回るばかりで答えにたどり着くことは無かった。
九尾の爪がゆっくりと迫る。極限まで圧縮された時間の中で、アサヒは父親との会話、クシナとの日々の中にこの状況から逃げる方法を探していた。
これが走馬灯だと自覚したのは、九尾の爪が自分の腹を貫いていることに気づいた後だった。
文才ゼロ&めちゃくちゃ亀更新で申し訳ない。