somethingをつかめ! 作:とまってみえる
「お、これが女子寮なのか?...あ、女子生徒がいる。涙がでますよホント」
女子寮をついに見つけたため心踊る本広だが、そういうわけにはいかなくなってしまう事態に陥る。
「ふむ...男子生徒か」
「?!」
気づいたときにはすでに遅し。いつのまにやら白い制服を着ている女子生徒がいた。白い制服は監督生と言われ学校の風紀を正すための一種の風紀員のため、先程出会った大江と違い上手いこと場を切り抜けるのは難しい。
「君は一年生...野球部の貞島本広だな」
言葉がつまる。話したことのない、ましてや顔も会わせたことのない一人の女子に自分の正体が看破されている。野球をしてきて、こいつは凄いなどと思ったことはあるものの、野球以外の部分での凄みを感じたことは一切なかった。
「(何で僕の名前を...はっ!まさかこいつ僕に気があるんじゃ)」
「そう驚くこともない。私は神条紫杏、監督生としてこの学校の全校生徒の名前は目に通してある。そして私はいささか記憶には自信があってね」
「結構すごいことをさらっと言いますね...それじゃ僕はこの辺で」
「まあ、待て。はるばる女子生徒エリアまで侵入してきたんだ。せっかくだから茶の一杯ぐらい馳走しようじゃないか」
「じゃお言葉に甘え...」
と少し間を開けるが突発的に本広は発言する。
「れるかー!そう言って反省室送りにするつもりだろ!こっちも悪いことしたのはわかってんだよ!てか何か後ろにもいるし...」
「ほお...そこまで自分の過ちを分かってるなら黙って付いてきたらどうだ?まあ、まずは紹介しよう。君の後ろにいるのは浜野朱里だ」
「よろしく~」
「やっぱり、連れてく気まんまんじゃないか人を用意するなんて」
「どちらにしろ、規則を破った君が悪いことには変わらないぞ」
そう、この学校は規則を何よりも優先しなければならないのだ。規則違反者には当然然るべき指導というものがついてくる。本広はほぼ詰みの状態だ。立ち入り禁止の森をほっつき歩きさらには、女子寮にまで侵入してきたという有り様。逃げ道はない。
「神条さんにそんな権限はあるのか!?」
「私はさっきも言ったように監督生だ。規則違反者を反省室へ送るのなど数ある仕事の一つだ」
「神条さんが監督生っていうなら映画の一つや二つ作ってみろよ」
「それはただの監督だ」
と少しボケながら逃げる準備をしていると後ろにいた浜野に感づかれてしまったのか、腕を汲み取られてしまう。
「は~い。つかまえた」
「げっ」
成す統べなく捕まった本広は渋々反省室へと向かうことになる。しかし、念願の女子生徒達の生活する区域を通るということもあり、かなり気楽な状態だった。
「やっぱり女子がいるだけで違うなあ。男女を分け隔てた奴等はホモかレズだろうなぁ」
「なにバカなことを言ってるんだ君は」
「いや、男子高や女子高は数あれど男女共学で別々に生活してるって珍しいだろ?」
「それがこの学校の特性だ」
「もういいどすえ...」
真面目な人物は好きなので自分の仕事をちゃんとこなすという点では神条にそれほど悪い思いはなかったが、大江のような少し軽い性分にもなってくれまいかと本広は思っていれば、かなり年増の女の先生に見つかる。
「おや?神条さん、その男子生徒は?」
「はい、規則を破って禁止区域の森を抜けてきた男子生徒です。今、反省室まで護送しています」
「お茶もちゃんとくれよ」
「なに、反省室についたらいくらでもおごってやるよ」
「貞島、お前は確かに勉強もできるしスポーツもできる。ここまでならどれほど優秀な生徒に見えるか...まさかお前が女子寮にまで侵入するとは先生はがっかりだよ」
「ええ...先生、だって女の子ですよ?こんなむさ苦しい男どもと毎日一緒にいるより、女の子といたいに決まってるじゃないですか」
「それだ!お前のそういうところが悪いんだ!今の環境に文句ばっかりいって、その良さを知ろうともしてないだろ!だいたいなあ...」
反省室では大河内の怒鳴り声に、本広の屁理屈が交互に飛びまっていた。終わりのみえない指導はいつに終わるのだろうか...
「おい、貞島聞いたぜ、お前女子寮にたどり着いたんだってな!」
官取は反省室から帰ってきた本広に興奮ぎみに声をかける。未だかつて誰もたどり着いたことのない女子生徒のエリアに先月に入学したばかりの一年坊主に見つけられたのだ。だから、官取がこのような状態なのは本広を除いて異様には思わなかった。
「うおおお、親切高一年の大英雄でやんすううう!」
「その冒険のこと詳しく教えてくれよ!」
と一年生達にもみくちゃにされながらも決して悪い気はしなかった。なお、女子寮の居場所は教えずじまいだったもよう。
今日とて先輩たちの雑務を行うだけで、しっかりとした練習をさせない状況にさすがに煮えを切らした荷田は言う。
「いつもいつも先輩達の手伝いだけでおいら達は蚊帳の外でやんすよ。おいらは野球の練習がしたいでやんす」
「荷田くんどうした?いつもの君なら『一年生だから仕方ないでやんす』って言ってたじゃないか」
「や、やめてくれでやんす。それに、おいらだって少しばかり名のある野球少年でやんすよ...貞島くんに至っては全国にだって行ってたでやんすし」
「こんな球ひろいや洗濯ばっかりじゃ何したってうまくならないでやんすよ」
「ほほう、それは大層な自信だな」
「か、監督...」
どこからかともなく現れた監督に心臓の鼓動が早まるが、決して叱らるために監督は現れたわけではなかった。
「いい機会だ。一年生全員集合しろ!」
大砲並みの怒声がグラウンド内に響く。そんな集合をかけられた一年生は全員が走って監督のもとにまで集まる。
「競争して他人に勝つよりも世界に一つだけの自分になる...こんな言葉を聞いたことがあるかお前ら?いいか、俺からしてみればこんな言葉は愚劣な負け犬の戯れ言に過ぎん!」
「世間がその価値を認めなきゃ、てめえら自身が知っている他人との違いなんてなーんの価値もないんだよ。だから勝つしかないんだよ!他人に認めてもらうには数ある競争に勝ちその価値を認めさせろ!」
いつものように厳しい監督。しかしその厳しさは練習中とはまるで違う厳しさだ。プロスポーツ全般において競争というものは絶えない世界だ。実力がなければベンチにもなれず、実力がなければ二軍レベルのレギュラーにもなれない。そんな世界でも競争しあってる中、何千という高校も甲子園を目指し高校同士が競争しあっている。だが高校内ではどうだろうか、もちろんレギュラー争いという競争が今このときも激しく行われている。
「今日の監督は熱いでやんすがなんだか難しくてよくわからないでやんす」
小声で呟く荷田。しかし、これは大きなチャンスが巡ってきたのではと思う本広。
「何ボケッとした顔してんだお前ら。結論から言うとだな、真面目に野球に対してやる気があるやつは俺や先輩にその気を見せてろ。そういうやつは一年だろうが練習にもレギュラーにも混ぜてやる!」
「(先輩には見せられないわけなんだが)」
監督のその一言で周りがざわつき始めた。当然だ、全員が全員レギュラーを目指しているなか、誰もが冷静に今の状況を見ることはできない。
「そ、それはホントでやんすか!」
「当たり前だ...俺は試合に勝ちたい、勝つためには優秀な兵がいくらでも欲しいんだよ!...よーし話のついでだ、ちょっとテストしてやる。貞島、まずはお前からだ!」
「(!?)...わかりました!」
バッターボックスに入る直前二度三度と軽くスイングし、スイングの空の切る音を確かめバッターボックスへと向かう。ピッチャーマウンドでは先輩の投手がロジンバッグを握り手の滑りを少しでも減らそうとしていた。テストは10球もらい、できるだけいい内容にしろとのこと。つまり10球でヒットをどれだけ打てるのかを見るらしい。だが、これは明らかに打者が不利なものだ。ストライクをとられれば一球無駄にしたということになる。
「(普通に一打席勝負でいいじゃねーか)やるしかないけど」
バッターボックスに立つと全員が静かに見守る。貞島を知っているものからすれば、彼がどんな内容になるのかが知りたくて仕方のないものもいれば、競争相手の一人としてできるだけ悪い成績になるように願うものもいた。あらゆる思いが渦巻くなか、レギュラーへの道を第一歩静かに迎える。
「お願いします!」
本広はピッチャーへと大きな声で言い、バットを構えるとピッチャーはゆっくりとセットポジションをとり投球モーションに入った。そしてピッチャーは振りかぶった。
ボールの配球はどうやら少し甘く入った内角で攻めできた。しかし、回転不足なのかボールの縫い目がストレート回転に見えたため本広は逆らわずにフルスイングでボールを引っ張る。ボールのタイミングをどんぴしゃに合わせたのは誰の目にも明白であり金属バットの快音が鳴り響いた。結果はホームラン、監督は黙々とスコアをつけ、一年生全員が驚愕を浮かべた。
本広のバッティングフォームは足を高くあげ投手側へとスライドさせてく、いわゆる振り子打法だ。みなが驚いたのはそのスイングスピード、普通学生は変則的な打撃フォームは矯正される、というよりも変なフォームで打つことができないのが大体の常識だ。しかし、そのフォームを補うためのスイングスピードに高く浮かした反動でさらにパワーがつく。ホームランの飛距離はとてつもないものだった。グラウンドの柵を越えたもので、誰もが驚く。
ピッチャーも少し動揺するもテストだと割りきり二球目を続けて投げる。ストライクゾーンよりわずか高めのストレートになったが本広は構わずタイミングを合わせて打つ。
打った打球は二遊間を難なく抜けた。打球は決して遅くはなく、シフトでもひかれてなければアウトにするのは難しい当たりだ。監督はヒットと判断する。
三球目も真っ直ぐだと思ったが、リリースポイントに入り放られた球は少し遅く、ボールの回転がカーブ系と分かり待ち、曲がり終えるまでひきつけ外角へと入ったボールを広角へと打つ。少し高い弾道は惜しくもホームランにはならなかったもののフェンス直撃で二塁打判定となった。
その後、残りの七球を打ち終えヘルメットをはずし一礼してバッターボックスから離れた。
「(こいつは...)よし次は荷田!」
かくして、本日の練習は終了各々が精一杯のアピールをあげ監督はスコアに目を通す。
「散々な奴が多かったが、貞島本広...あいつは甲子園優勝のキーマンになる存在かもしれん。一度守備練習でどれほど守れるか明日確かめる必要があるな」
立ち上がりその場を後にする監督本広のスコアは
単打2
二塁打4
三塁打1
本塁打3
四球4
とだけ殴り書きされていた。
「今回は貞島くん大活躍だっでやんすね」
と少し皮肉ぎみに本広へと言う
「そういう荷田くんも四安打してるじゃないか。ポジションがキャッチャーってのを考慮すると僕は凄いとおもうだけど」
「あんたがそんなこと言ったってバカにしてるとしか思えないでやんすよー!大体今日は打撃だけでやんすし全打席うてたほうがいいに決まってるでやんすよ」
「わかったわかった...ただこれが吉とでるか凶どでるか」
「吉に決まってるでやんすよ、何いってるでやんすか」
「まぁ、今日は先輩達が外で合同練習しててよかったぜ」