somethingをつかめ! 作:とまってみえる
「今日の練習は守備練を中心としたものだ!今回は貞島、お前も混ざれ!」
『!?』
監督のそんな言葉に先輩後輩に問わずざわつく。今までは速くても三年生の卒業から本格的にやり始めるものを一年生が二、三年生との練習に混ざるなど前代未聞のことであった。
「全員さっさと守備位置につけー!!」
『はいっ!』
ざわつく部員たちよりも監督は大きな声をあげ、全員が自分の持つ守備につき、一年生達も球ひろいのために場所を移動した。本広も適当な守備につこうとしたとき監督に一声かけられ止められる。
「貞島、お前は投手と捕手以外ならどこでも出来ると、入部時に言っていたな」
「はい!」
「お前にはショートをやってもらう。いいか?」
「大丈夫です。一応メインポジションですから」
直ぐにショートの位置へ走り守備につく。全員が自分の配置についたことを確認し、守備練習が始まった。先ずはファースト、セカンド、ショート、サード、外野といった順に個別に少し速い打球が飛ぶ。だが、これを軽くざばけねばこの高校のベンチにも居座ることはできない。本広もまずはこれを軽くこなす。
次に外野手中心となったシートノックが行われた。その中身は中継や連係プレー、ケースノック等々。とにかく試合を行う上での基本の基本といった内容だ。しかし今度の打球にはバリエーションが大きく異なり外野手には少しやりづらさが出始めるがレギュラー陣は当たり前のように捕球する。内野の本広にはまだそれほど厳しいものではない。
だが、今度は内野を中心としたノックが始まる。ランナーありをケースとしたものであり、実際には透明ランナーで行うため、これも基本を固め実戦へと徐々に慣れてさせてくことが目的だ。まずはファーストから始まるが、最初のためかファーストベースを踏んでからのセカンド送球しそ、ショートがセカンドベースに入るといった簡単なものだ。もちろん全員が楽々こなしていき、二週、三週するごとに打球は速くなる。四週目には逸らしてしまうものが出始めた。それはレギュラー陣も例外ではなかった。
「(四週目は少し速いな...インパクト部分をよく見ないとミスっちまうかも)」
自身の番が来るまで他の守備に目をつけているとセカンドを守る飯占の番が来ていた。いつも暴力的で高圧的なキャプテンにいい印象を抱いていなかったが彼の守備は上手い部類に入るもので打球をなかなか逸らさないため、捕球技術は確かなものだ。守りの方もまるで熟練者のようなもので、守備範囲は決して広いわけでもないがけちつけるほど狭いわけでもなかった。野球選手としてはかなり野球に打ち込んでる様は見てとれたため、印象は変わらないが前よりは断然に印象がよくなった。
ショートを守るレギュラーの一人基宗典弘、一学年先輩のプレーにも目を見張るものがあった。肩良し、守備よしと欠点という欠点はなかった。しかし、このプレーを見てある自信を得ることになった。
ショートは最後の選手のノックが終わりいよいよ本広の番が来た。全員が全員本広へと視線を向ける。監督が直々にあげた選手の実力をみなが知ろうとしていた。注目の的となった本広だが、集中を切らしてはいない。むしろこういう時にさらに集中するタイプなのだ。まずは第一球、ショート正面付近へと飛ぶが打球は速いが、上手くグローブに収めセカンドベースを踏みファーストへ送球する。二球目はショートの通常守備位置より少し離れたとこへと打球は行くが、本広の移動が早かったため正面でキャッチし、落ち着いてファーストへと送球する。
次はセンター方向への難しいものだったが飛び付き、倒れたままファーストへと送球するがボールは反れることなく、構えられたミットを動かすことなく収まった。立ち上がると同時にボテボテのゴロがショート前進守備の当たりに転がる。想定内野安打を受けることもあり、エラー、またはヒット判定されたものはその回数×5のグラウンドを走らされる。急いでしかし正確にボールの位置まで間に合いボールを手に取る。だが、この時点ではとてもではないが内野安打判定されるものだと誰もが思ったが、ファーストミットへとボールが収まると誰もその思いは失くした。グローブに収まったボールは器用に本広の利き手の右手に移されその後の送球は凄まじいものだほぼ反動をつけずに投げたにも関わらず、投手の投げる豪速球のような速さであった。内野安打判定もなくノックは続けられた。
「今日の練習はこれまでだ!各自解散!」
『ありがとうごさいました!』
辛く厳しい練習も一先ず終了した。誰も言葉を発せずにいたが各々が自分の寮へと向かい、明日のための準備をする。それでも練習後とは言えないほどのピリピリとした空気が漂う。原因はもちろん荷田と話している人物だった。
「昨日はいろいろ大変だったでやんすねえ、貞島くん」
「ホントだよ...キャプテンはやっぱ実力を見せりゃわかってくれる人だったな。にしても北乃さんはなあ、頼むから死ぬか野球をやめるかどっちか選んで欲しい」
昨日の夜、いいとこなしであった北乃は貞島への嫉妬心からか、雑務という雑務をやらせていたが、そんな彼を止めたのがキャプテン飯占であった。下級生には厳しい態度で接していたが野球に対する情熱は人一倍なもので、かなりの実力者に対しては同じマウンドに立つものとして接することを心情にしている。それなりに世渡り上手でもあった、本広との交流の理由もあり、彼は北乃を止める。
学校の昼休みに入った頃、本広は屋上に置かれておるベンチに一人横になっていた。これといった疲れはないもののたまにはリラックスして気持ちを和らげて今日を望みたくもなるようだ。横になっていたものの同じ姿勢を取っているのはやはり辛くなったのか立ち上がり森を見つめた
「何となくあるものだったけど、よくみるとキレイだなぁ、ただたんに木を生やしてるわけじゃないのか。こりゃいいもんだ...ん?」
がさごそと草が揺れ動くのを本広は見過ごさなかった。その正体はどうやら人であることに間違いはないと思うものの影が濃いため誰なのかまでは識別出来なかった。
「なんかいるな、でもこの学校事態がおかしいしこんなことを気にしてるようじゃ生活していけよな!五時間目までまだ時間あるし体休めとこ」
次の日
「屋上最高だ!荷田くんもいないし一人でゆっくりできる...けど誰も屋上にいないってのは中々寂しい気もする...ん?」
がさごそと音をたて森を移動する人影が目に写る。たが今度は前よりもくっきりと見えた。
「制服的に女子だったな。森をほっつき歩くのは危ないはずなんだが...って最近女子寮に行ってないな。大江さんにもちゃんとお礼言いたいし明日辺りからちょっと言ってみるか~」
軽く問題発言するが、今までも全く反省の様子を見せていないため、彼が規則を破るのも時間の問題でもあるのだろうか。しかし今日は大人しく学校生活を送るのであった。
そして放課後、練習試合を来月に控えてることもあり、レギュラー陣の二三年生主体の紅白戦が行われていた。今回は練習に混ざれなかった本広は黙々と球ひろいをするがここでアクシデントが発生した。一人の先輩の放った大ファールはグラウンドの外である茂みへと消えていった。
「荷田くん、俺はあのボールを捕ってくるから」
「わかったでやんす。気をつけるでやんすよ?」
「わかってるって」
一人ボールを探しに茂みに入るものの植物が大きく育った場所で小さなボールを探しあてるのはなかなか難しい。サボり目的できたもののボールを持たずにのこのこ帰っていけば荷田に何言われるのかわかったものじゃないため必死になって探していた。すると
「いてて」
と女の子の声が聞こえてきた。ボールが当たってしまったのではと心配になり声のした方向へと出るとそこには緑髪が特徴的な女の子と遭遇することになる。
「あっ!」
声はさっき聞こえたものと一緒だったのもあり一声かける。
「なんかボールみたいなの君に当たらなかった?...ってその手に持ってるのはボールだね」
「え、ヤバ、いろいろとヤバイです」
「ちょっと落ち着け!硬球を投げようとするな!」
ボールを自分に向かって投げようとしていたため一喝すると緑髪の女の子は我に戻ったかのように行動が落ち着いていた。
「あ...えと、ごめんなさい」
「ああ、ごめん僕もちょっときつく言ったね。でも硬球ってホントに危ないから人に向かって投げんなよ?」
「はい、ごめんなさい...って君は誰ですか?」
「僕?えと貞島本広、まあその君の手にもつボールを探しててね。君は?」
「えと、申し遅れました。私は高科奈桜です。」
「高科さん、ね。とりあえず、ボールを返してもらっていい?」
「ああ、はい!」
とボールを直接手渡される。それだけの状況だったら一つのラブシーンにも見えたかもしれないが今回はそんな目で高科をみることをできなかった。硬球を至近距離でぶつけられそうになるのがどれほどの恐怖だったのだろうか。最悪野球人生どころか人生そのものが終わっていた可能性もあるのだ。ちゃんと謝られたのですっかりそんな思いはなくなったが。
「じゃ、僕はこれで。監督生に見つかんないようにするんだぞ?いろいろとめんどうなことになるからさ」
「もういやというほど味わってるのでもう慣れましたよ」
「そうなの?ははは、それはチャラいな~高科さん。じゃホントにこれで」
そう言うと本広は急いでグラウンドへと戻る高科の呼び掛けも聞こえたがそんな場合でもないため仕方なく無視してグラウンドへと戻った。グラウンドに戻ると荷田に遅いなどと言われるものの、ちゃんとボールをもってきたことでどうにかその場を収めることが出来た。
「さて森に来てみたはいいものの女子寮に向かおうかな...よし気合いを入れ直したし向かう...ん?」
いつもならば女子寮へと向かう本広だがあることに気づいた。屋上で見たもの同様に茂みをがさごそとする動き。それは間違いなく高科のものだということに気づいた。その予想通り、茂みからわき出てきたのは高科であった。
「高科さん、か。なかなか謎の人物だよな。人のことをあんま言えたもんじゃないが、堂々と森を歩き回るその姿勢には敬服するぜ。」
「...何やってんのか気になるしちょっとついてってみるか」
ストーカー紛れの行動をとるが、少なくとも今罪悪感はこれといっていいほど感じてはいない。そんな本広にどんな不幸が降りかかるとも知らずに。
「つけてはみたもののなんだここ、旧校舎か?」
高科の後をつけてみればもう使われてはいなさそうな建造物が建っており異様な雰囲気が漂っているが、こんな中を一人うろついていたと考えると彼女の度胸は凄まじいものだろう。さらには目の前の外へと繋がる扉の鍵を持っていたことを考えるとますます高科という人物の謎が深まる。
「今度待ち伏せしてみようかな。ちょっと気持ち悪いが、仕方ないね」
練習が休みという異例な平日が来たため、これ見よがしに屋上から高科を探してだす。
「さて、練習中にもうろうろしていたことを考えると、この辺りの時間帯にいるはず...お、いたいた。方角的にあの建物に向かったな。入り口の所で待ってみるか。出会った時の印象もたぶんあんまよくないはずだし、ちゃんと話してみんとな」
「長い、長すぎる...」
待ち伏せしてから小一時間ほどの時が過ぎた。あまりにも暇すぎたため、頭の中で音楽を流したり、BGMを流したりさらにはアーンなことまで考え始めていたがどれもこれも飽きてしまい、ひたすら待つことになっていた。勝手に待っているのにイライラし始めた本広だが、そんな風にしていれば扉が開く。中から出てきたのは高科である。
「えっ!?」
「ちょっと帰ってくるのが遅かったんじゃないか?一時間も待ってたぞ。」
「......」
「日が暮れてないとはいえ、かなりの時間だったんだ。かなり暇だった...って何とか言ってくれないか」
何の反応もしてくれない高科に自分一人だけながったらしく、しゃべっている自分に虚無感が沸き起こっていれば、高科は手にもつレジ袋のようなものを前にだす。
「え」
「この袋持っててくれませんか?」
「あ、いいよ...はい、これでいいの?」
「それで少し離れた所に立って」
いきなりなにかを始めようとしている彼女に不安を抱きつつも言うとおりに動く。するとパシャりとカメラ音がなる。いつの間にか持っていたカメラに写真を収められてしまったのだ。
「ちょ、なにしてくれてんだ...」
「証拠写真はバッチリ撮れました。これで貞島くんも共犯者ですよ」
目をキラリと光らせ計画通りに物事を進めた彼女は謎の達成感に包まれどや顔を本広にむけた。
「ちなみにあたしの写真はないから首謀者として扱われるかもですよ~」
「ええ...とりあえず、はいこれ」
高科より受け取ったものをそのまま返す本広。
「それでは......えと前にも言った通りあたしは高科奈桜。みんなからはナオって呼ばれてます」
「...」
「...もう、貞島くんだってもう一度紹介してもいいじゃないですかー。あたしはしたんですよ!」
「いゃ、もう何がなんだか...うんそうだな、僕も言うよ。君と会ったとき言ったように貞島本広、それが僕の名前だよ高科さん」
「はい!これで貞島くんもあたしと同じラインですね!絶対あなたのことは忘れません。じゃ、失礼しまっす!」
嵐のように去っていく彼女についていくことの出来ない本広は一人ポツンと立ち尽くすしかなかった...